言語学者のソシュール、経済学者のマルクス。わたしはどちらも大好きだ。なぜならソシュールはいつも言語に対して驚き、マルクスは貨幣の謎に魅了されていたから。彼らが残した書き物(ソシュールの場合は彼の学生が書き残した講義録)を読むとそれがよくわかる。
ソシュールは変化する言語のとらえどころのなさについて「人間が使うものなのに、人間とは違うべつの生き物みたいだ」と云っていた。彼はそのことをいろいろな箇所で、言葉遣いを変えながら繰り返し述べている。そしてその不可解な言語について思考するなかで、決定的に重要な認識をわれわれにもたらしてくれたのである。
彼は年老いてから頭がおかしくなり、アナグラムにこり出したなどと考えられているけれど、わたしは断然違うと考える。彼はあいかわらず言語の不可解さに取り憑かれていた。だから奇怪な研究にのめり込んだのだ。
マルクスは経済の仕組みを理解し尽くした地点から「資本論」を書いているわけではない。どんなに考えても謎だから書いたのだ。
「一つの商品は、見たばかりでは自明的な平凡な物であるように見える。これを分析してみると、商品はきわめて気むずかしい物であって、形而上学的小理屈と神学的偏屈にみちたものであることがわかる」
「商品世界のの中における貨幣の存在は、動物世界の中でライオンやトラやウサギやその他全ての現実の動物たちと相並んで「動物」なるものが闊歩しているように奇妙なものだ」
ところが後代の研究者たちはなぜかソシュールやマルクスの大本にある驚きを消し去ってしまおうとする。わたしはそれが不満でならない。言語も貨幣も文学作品も、こんなに不可解なものはないだろうに。
Friday, March 13, 2020
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