映画「ガス燈」は有名なのだが、どういうわけか原作の日本語訳は出ていないようだ。そこで出したのが今回の作品である。タイトルは原作のまま「エンジェル通り」にし、アマゾンの作品紹介の中で「ガス燈」の元になった作品であることを言及した。バーグマンの「ガス燈」を見ていても、この作品は十分に楽しめるだろう。原作と映画では描き方がずいぶん違うからだ。原作のほうでは、霧の濃いある晩の数時間の中に、すべてが凝縮されて描かれている。アンソニー・シェーファーとかJ.B.プリーストレーの実験的なミステリ劇が好きな人ならきっと気に入ると思う。
ジュリアン・マクラーレン・ロス「四十年代回想録」
ジュリアン・マクラーレン=ロス(1912-1964)はボヘミアン的な生活を送っていたことで有名な、ロンドン生まれの小説家、脚本家である。ボヘミアンというのは、まあ、まともな社会生活に適合できないはみ出し者、くらいの意味である。ロンドンでもパリでもそうだが、芸術家でボヘミアンという...
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ウィリアム・スローン(William Sloane)は1906年に生まれ、74年に亡くなるまで編集者として活躍したが、実は30年代に二冊だけ小説も書いている。これが非常に出来のよい作品で、なぜ日本語の訳が出ていないのか、不思議なくらいである。 一冊は37年に出た「夜を歩いて」...
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アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。 最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。 わたしは学術論文でもないかぎり、...
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「ミセス・バルフェイムは殺人の決心をした」という一文で本作ははじまる。 ミセス・バルフェイムは当時で云う「新しい女」の一人である。家に閉じこもる古いタイプの女性ではなく、男性顔負けの知的な会話もすれば、地域の社交をリードしもする。 彼女の良人デイブは考え方がやや古い政治家...
