Saturday, August 1, 2020

パトリック・ハミルトン「エンジェル通り」発売

パトリック・ハミルトンの「エンジェル通り」は「ガス燈」というタイトルで二回も映画化され、とくにイングリッド・バーグマンが主演したほうはアカデミー賞を何部門か受賞して有名になった。そのおかげで、「ガス燈」gaslight という言葉から gaslighting という新語が造られた。これは(女性を)「狂気に追いやる」とか「精神的に苦しめる」といった事態を指す。現在でもよく使われる言葉である。

映画「ガス燈」は有名なのだが、どういうわけか原作の日本語訳は出ていないようだ。そこで出したのが今回の作品である。タイトルは原作のまま「エンジェル通り」にし、アマゾンの作品紹介の中で「ガス燈」の元になった作品であることを言及した。バーグマンの「ガス燈」を見ていても、この作品は十分に楽しめるだろう。原作と映画では描き方がずいぶん違うからだ。原作のほうでは、霧の濃いある晩の数時間の中に、すべてが凝縮されて描かれている。アンソニー・シェーファーとかJ.B.プリーストレーの実験的なミステリ劇が好きな人ならきっと気に入ると思う。


ジュリアン・マクラーレン・ロス「四十年代回想録」

ジュリアン・マクラーレン=ロス(1912-1964)はボヘミアン的な生活を送っていたことで有名な、ロンドン生まれの小説家、脚本家である。ボヘミアンというのは、まあ、まともな社会生活に適合できないはみ出し者、くらいの意味である。ロンドンでもパリでもそうだが、芸術家でボヘミアンという...