クリントン-バデレイ(V. C. Clinton-Baddeley)の作品は読むのがはじめてだが、どうやらケンブリッジ大学のデイヴィー教授を主人公にしたミステリをいくつか出しているようだ。FANTASTIC FICTIONのサイトによるとそれらのタイトルは
Death's Bright Dart (1967)
My Foe Outstretch'd Beneath the Tree (1967)
Only a Matter of Time (1969)
No Case for the Police (1970) 本書
To Study a Long Silence (1972)
ということであるらしい。
さて本書の物語はデイヴィー教授の親友であるロバートが亡くなり、教授が未亡人に遺品整理を任されるところからはじまる。
教授は親友が残したメモとかノートを調べていくうち、奇妙な走り書きに出くわした。それによると、以前、近所に住むアダム・メリックという男が石切場で死ぬという事件が起きたのだが、ロバートはその事件に妻が関係しているのではないかと疑いを抱いていたようななのである。
走り書きを未亡人に見せると彼女はさっと青ざめ、しかしたんなる疑惑にすぎないとして教授にそのメモを破棄するように頼む。
しかしデイヴィー教授はなにかあると直感し、独自にアダム・メリックの死亡事件について調査をはじめる。すると意外にも事件の糸は彼がつとめるケンブリッジ大学にまで及んでいることがわかるのだ。
教授の捜査の過程で、ロバートとつながりのある人々の隠れた関係があぶりだされていくという、よくある話で、正直それほど面白いとは思わなかった。舞台は眠気の漂う田舎町だが、その背後でじつは秘密の活動が行われている。表面は昔とさほど変わらないようでも、その背後では古いものと新しいものが確執を繰り広げており、コミュニティーは確実に変化していっている。そうした認識を小説化したかったのだろうけど、事件の謎が、読み手の興味を引きつけるだけの魅力を持っておらず、正直なところ、退屈な印象を与える出来となっている。