Thursday, October 21, 2021

関口存男「趣味のドイツ語」

Der Neandertaler

Der nachweisbar1 älteste Urmensch2 heißt nach3 seinem ersten Fundplatz im Neandertal4 bei5 Düsseldorf6 der Neandertaler. Er lebte schon vor vielen Zehntausenden7 von Jahren, als die Erdoberfläche8 zum Teil9 noch mit Eis bedeckt10 war.

逐語訳:Der nachweisbar 実証し得るかぎり älteste 最も古い Urmensch 原人は bei Düsseldorf デュッセルドルフ附近の im Neandertal ネアンデル谷における seinem ersten Fundplatz その最初の発見場所に nach 従って der Neandertaler ネアンデルタール人と heißt 呼ばれている。Er 彼は schon すでに vor vielen Zehntausenden von Jahren 年の数万以前(数万年以前)、die Erdoberfläche 地球の表面が zum Teil 部分的には noch まだ mit Eis 氷をもって bedeckt 掩われて war いた als 当時に lebte 生きていた。

nachweisen と aufweisen との使い分けは?【1】nachweisbar: nachweisen は「証拠として指摘する」(即ち証拠になるものを発見する)という、ちょっと厄介な動詞ですが、それに -bar または -lich がつくと、「証拠として指摘し得る」という形容詞になり、それを ältest 等の最高級の前に置くと、「証拠を指摘し得る限り」の意の副詞になります。同じような構造は、たとえば die denkbar vollkommenste Einrichtung (考え得る限り最も完全なる施設)といったような句にも見受けられます。――次に、論文調の文によく用いられる nachweisen と aufweisen とを、此の機にハッキリと覚えることにしましょう。たとえば、下山事件の現場で、レールの上手の方に、枕木(die Schwelle)の上に血痕(Blutspuren)が発見されました、こういう時は、同じ発見でも、「証拠」となる「指摘」的な発見ですから nachweisen が適当で Man wies Blutspuren auf den Schwellen nach (人は枕木上に血痕を発見指摘した)といいます。此の同じ文を、枕木を主体にしていうと、Die Schwellen wiesen Blutspuren auf (枕木は血痕を示した)と、aufweisen を用います。「示す」という aufweisen は、つまり発見されることです。違った例で云うと、「先生が私の作文を見て沢山の誤を指摘した(発見した)」ならば Der Lehrer wies in meinem Aufsatze eine Menge Fehler nach です。Aufsatz を主語にすると Ihr Aufsatz weist eine Menge Fehler auf (君の作文にはだいぶ誤が見受けられますね)ということになります。殊に科学者諸君には此の二つの動詞は重要です。
【2】Urmensch, m. (原人):Ur- という前綴は「原始的」、「最初の」等を意味します:Urwald (原始森)、Urzeit (原始時代)、Urform (最初の形)、Ursache (原因)、Ureinwohner (原住民)。
【3】nach: nach は「何々に従って」、「何々の通りに」という時に用います。殊に、此の場合のように、heißen、nennen 等、命名する意味の場合、名称の起源をのべる時には nach を用います(英語も after):Die Kometen werden nach ihren Entdeckern genannt (The comets are named after their discoverers)彗星はその発見者の名をとって命名される。
【4】Neandertal: Tal, n. (谷)という語が基礎になっているのでわかる通り、谷、盆地の名です。Tal は昔は Thal と書いたので、此の地名も学問書では多く Neanderthal という綴でのっています。
【5】bei: 地名と共に用いると「……附近」の意。Schlacht bei Mukden (奉天附近の会戦)など。
【6】dorf: Dorf (村)がついていますが、これは村ではなく、西独有数の大都会です。全ドイツの発電所とでもいうべき Ruhr 炭坑地区の中心地で、今後はまるでドイツ全体の経済首都のようなものでしょう。
【7】vor vielen Zehntausenden von Jahren: 数詞の用い方によく注目すること。百(hundert)と千(tausend)は、小文字のままで形容詞的にも用いますが、また大書して名詞(中性)としても用います(複数形は -e 語尾:die Hunderte、die Tausende)、万もこれに準じて das Zehntausend という名詞が用いられます。たとえば、「百人の人間」は、hundert Menschen ですが、「数百人の人間」という時には Hunderte von Menschen、einige Hunderte von Menschen、viele Hunderte von Menschen という方が普通です。Einige hundert Menschen と云ってもいいのですが、この方は往々にして「百人余の人間」という意味に用いることがあるので、「数百人」の意味の際には避けられる傾向があります。
【8】Erdoberfläche = die Oberfläche der Erde (地球の表面)
【9】zum Teil: 「部分的に」、すなわち「所々」、「所によっては」です。teilweise とも云います。
【10】bedecken (掩う):英語を知っている人は、英の bedeck が「飾る」で、独の bedecken は「掩う」――なにとなく似ていてまぎらわしい変な場合であることに気付くでしょう。

 Der Neandertaler wußte11 schon Werkzeuge12 herzustellen13. Er fand, daß ein spitzer14 Steinsplitter15 sich zum Schneiden16 eignete17, und verfertigte18 Fäustel19, Schaber20 und Kratzer21. Einem oberflächlichen22 Beobachter23 mögen24 diese primitiven25 Werkzeuge lächerlich einfach vorkommen26, für einen tiefer27 Denkenden stellen sie ein Problem dar28: wie ging denn nur29 der erste Mensch zu Werke30, um den harten Feuerstein so ganz ohne alle Werkzeuge zu bearbeiten31 und ihm die gewünschte Gestalt32 zu geben? Hierüber33 gibt es eine Menge34 Hypothesen35, aber eine restlos36 überzeugende37 Theorie steht noch dahin38.

逐語訳:Der Neandertaler ネアンデルタール人は schon すでに Werkzeuge 器具類を herzustellen 作ることを wußte 知っていた。Er かれは ein spitzer 尖んがった Stein- 石の splitter かけらが zum Schneiden [物を]切るのに sich eignete 適した(適する) daß ということを fand 発見した、und そして Fäustel 握りづちや、Schaber 削る器具や und Kratzer 引っ掻く器具を verfertigte 調製した。Einem oberflächlichen Beobachter 皮相な観察者には diese primitiven Werkzeuge これらの原始的な器具は lächerlich おかしいほど einfach 単純と vorkommen 思われる mögen かも知れないが、für einem tiefer Denkenden 更に一層深く物を考える者にとっては sie これらの器具は ein Problem 一つの問題を stellen dar 意味するのである。[即ち:] den harten Feuerstein 剛い燧石を so 斯くも ganz 全然 ohne alle Werkzeuge 一切の道具なしに zu bearbeiten 加工処理し und そして ihm その燧石に die gewünschte 望み通りの Gestalt 形を zu geben 与える um ためには、der erste Mensch 世界最初の人間は denn nur そもそも wie どういう具合に ging zu Werke 仕事をしたか? Hierüber 此の点に関しては eine Menge たくさんの Hypothesen 仮説が gibt es 存する、aber しかし、eine restlos 完全に überzeugende 承服せしめるような Theorie 説は noch まだ steht dahin 将来に属する。

wissen と zu + 不定法(大抵の場合ほとんど訳出の必要なし)【11】wußte......zu......: wissen (知る)を、zu を伴う不定形(此処では her-zu-stellen)と共に「云々する術を心得ている」、「云々できる」の意に用いることが非常に多いのに注目。此の場合は、「製作することを知っていた」とか「作る術を心得ていた」とか訳することが出来ますが、此の種の wissen の型は、一般的に云うと、ドイツ人は非常に屡々用い、いやしくも多少の技術または頭を必要とする場合にはすべて wissen zu の形をあてはめる結果、大抵の場合はほとんど können と同意、あるいは訳する立場から云うと全然何等の訳語もあてはめない方がよろしい事が多いのです。たとえば「諒とする」、「認める」、「有難く思う」、「多とする」ことを zu würdigen wissen とか zu schätzen wissen (評価することを知っている)と云いますが、Er wußte meine Mühe zu würdigen (かれは私の労を多とした)というのを「かれは私の労を評価することを知っていた」などと訳した日にはヘンなものでしょう。(ところがそんな翻訳が相当横行しています)――なほモウ一例:Ueberall wußte man von den Greueln der Rebellen zu erzählen 直訳すると「人は至る所叛徒の残虐について物語ることを知っていた」ですが、そんな日本語は、いわゆる翻訳家の頭の中に存在するだけで、日本中どこへ行ったってそんな妙な言葉を使っている所はありません。これはやはり「どこへ行っても叛徒の残虐行為の噂で持ち切りだった」とか何とか云うべきところでしょう。こういう wissen は分解して訳してはいけないのです。念の為め:例えば Goethe の散文などを読む人は、ほとんどマンネリズムのように繰り返される此の種の wissen を発見するでしょう。
【12】Werkzeug, n. (道具):英の tool に相当する語。das Zeug がすでに簡単な器具を意味するので、その合成語です。類例:Spielzeug, n. 玩具、Feuerzeug, n. ライター、Flugzeug, n. 飛行機、Schreibzeug, n. 文房具。
【13】herzustellen: zu を除いた herstellen が「製作する」(同意語:fabrizieren, verfertigen)。
【14】spitz は「とんがった」という形容詞。名詞は die Spitze (尖端)。spitzen (尖らす)という動詞もあります:Bleistift spitzen (鉛筆をとがらす)、Ohren spitzen (耳を聳てる)。
【15】Splitter, m. は「砕片」、すなわち zersplittern (砕け飛ぶ)した細片です。
【16】zum Schneiden: 「切るのに」、「切るために」、これは句でいうと um zu schneiden ですが、それを名詞形にすると zum Schneiden というのです。たとえば、「書くには紙が要る」は Um zu schreiben, braucht man Papier ですが、それは簡単にすると Zum Schreiben braucht man Papier です。また、「君の名は発音しにくいね」は Dein Name ist schwer auszusprechen とも Dein Name ist schwer zum Aussprechen とも云えます。
【17】sich eignen (zu): 「云々するに適する」という動詞。「……に適した」(英:fit)という形容詞は geeignet で、この方が普通で、平易な用語です。
【18】verfertigen: 「製作する」(前出 herstellen と同じ)で、fertig (出来上った)という形容詞から造った動詞。
【19】Fäustel, m. 握り槌(採鉱用ハンマー):博物館などによくある器具ですが、Faust, f. (拳、げんこ)から造られた語です。手で握って用いるからです。先年新聞(朝日、九月二十日)に出たところによると、桐生市の近郊でも石器が発見されたそうで、その中にも此の握り槌のことが見えています。こういう風に名詞または動詞の語幹に -el を附して、関係の「器具」を意味せしめた名詞が、若干あります。Ärmel, m. (袖)は Arm (腕)から作られ、Flügel (翼)は fliegen (飛ぶ)Flug (飛行)から造られ、Schlüssel, m. (鍵)は schließen (締める)、Schluß (閉鎖)と関係しています。此の「具」を意味する男性 -el 語尾は、現在ではもはや廃れて、新造を許さなくなっていますが、語学的見地からはまことに惜しいことです。日本語でも、「碍子}(Isolator)とか振子(Pendel)とか「扇子」(Fächer)とか云って、「子」(シ、コ、ス、と色々によむ)という字で器具を表わしますが、これも近頃は衰えて行くらしいので、私は遺憾に思っています。「ライター」を点子、あるいは「ともしこ」、「スイッチ」を「転子」あるいは……何と云いますかな? 「切りこ」か「向けこ」か何かそんな風な事を云う方が好いと思うのです。現在では -er が流行語尾です:der Bildwerfer (映写機)、der Schalter (スイッチ)、Bohrer (錐)、Empfänger (受信機)、Zeiger (指針)、Federhalter (ペン軸)、Hörer (電話の受話器)、Alkoholbrenner (アルコホルランプ)、Dosenöffner (鑵切り)、Hosenträger (ズボン釣り)など、これは無限。しかし -er 語尾は「行為する人間」にも用いるので、器具専門の語尾ではありません。たとえば der Flieger は、飛行機も意味すれば飛行士も意味します。これは明らかに欠点で、合理的にできている Esperanto には、ちゃんと器具、手段物を意味する -ilo という語尾が特に設けてあるのは非常に好い事だと思います:flug-i、飛ぶ、flugilo, 翼、distil-i、蒸留する、distililo 蒸留器、など。
器具を意味する -el 型の男性名詞:
der Hebel てこ
der Schlüssel 鍵
der Flügel 翼
der Würfel さいころ
der Aermel 袖
【20】Schaber, m.: schaben (けずる)から。-er の語尾については前項参照。
【21】Kratzer, m.: kratzen (搔く)から。原始人にとって一番必要だったのは、斃した獣の皮を剥いで、その肉を搔きおとして衣類を作ることだったのです。
【22】oberflächlich (皮相な、浅薄な):前出の Oberfläche (表面)と関係す。
【23】Beobachter: beobachten (観察する)はアクセントが -ob- の所にあります。アクセントを間ちがえて発音している人が多いようです。
【24】mögen: これは英の may と同じで、「……かも知れぬ」、「なるほど……かも知れぬ」という動詞。
【25】primitiv: 原始的な。-iv という語尾は必ずアクセントを持っています。それから、格語尾がつくと v は w の如く発音します。
【26】vorkommen (思われる) -scheinen。
【27】tiefer: tief の比較級、「一段と深く」、「更に深く」。
etwas darstellen. 何々「である」【28】darstellen: 此の語は、「表現する」、「描出する」の意味にも用いますが、此処はそれとは別途の、特殊な用法で、「……である」という意味にすぎません。すなわち、「これらの器具は一つの問題である」ということを Diese Werkzeuge sind ein Problem と云う代りに、色々な言い廻わしが用いられるのです。一番簡単なのは、bedeuten (意味する)を用いる言い廻わしで:Diese Werkzeuge bedeuten ein Problem. 次によく出てくる言い廻しは:Bei diesen Werkzeugen handelt es sich um ein Problem. それから次が repräsentieren、vorstellen、darstellen 等、とにかく「表わす」という意の動詞を用いる、即ち本文のような言い方です。たとえば「米人の意見によると、日本のインフレは一つの全然特殊な場合なのだそうな」ならば Die japanische Inflation soll nach Ansicht der Amerikaner einen ganz besonderen Fall vorstellen. ――本文について云えば、darstellen の代りに darbieten (提供する)を使うこともできます。
【29】denn nur: 「いったい」、「そもそも」(eigentlich または überhaupt に同じ)。
【30】zu Werke gehen: verfahren と同じで、斯う斯う云う「やり方をする」という熟語。
【31】bearbeiten: 加工する。加工処理する。
【32】Gestalt, f. = Form, f.
【33】Hierüber: darüber と殆んど同じ。dar- よりももっと鋭く或る論点を指すときには hier- を用います。
【34】eine Menge = eine Anzahl (数多の、たくさんの)。
【35】Hypothesen: die Hypothese は「仮説」、「仮定」、「*説」、「想像」、これはギリシャ語系の語で、純独逸語では Annahme と云います。希臘語で -sis という女性語尾のつく抽象名詞は、英語では、-sis のままの形を用い、独逸語では、独逸式の -se に変えます。-sis のまま用いることも無いではありませんが、それは何かよほど特殊な、むつかしい語に限ります。英:crisis (独:Krise、危機)、英:oasis (独:Oase、沙漠の緑地)、英:synthesis (独:Synthese、総合)、英:antithesis (独:Antithese 対照)。
【36】restlos: 残り隈なく、完全に。
【37】überzeugend: 人を承服せしめ、首肯せしめることを jemanden überzeugen (英:convince someone)というので、「納得の行くような」ということを überzeugen というのです。名詞に Ueberzeugung (確信、英:conviction)というのがあります。
【38】steht noch dahin: 直訳するとすれば「未だ猶お彼方に向って立っている」ですが、これは熟語で、「未だし」あるいは「将来に属する」、「未だ実現するに至らない」の意。

意訳:現在知れている世界最古の人類は、その最初の発掘地点がデュッセルドルフ市近郊ネアンデルタールであったところから、「ネアンデルタール人」と呼ばれている。生棲時は今を去る既に数万年の昔、地表がまだ所々氷に蔽われていた時代である。
 ネアンデルタール人は既に器具を作ることができた。即ち、先の尖がった石の砕片が物を切るに適することを知って、握り槌や、物を削るための石器や、物を掻き取るための石のへらなどを拵えたのである。これらの原始的な石器は、ちょっと見たところ、馬鹿馬鹿しく簡単な印象を与えるが、少し詳しく考えて行くと、そこにはいろいろと解けない謎が秘められていることがわかってくる。というのは、いったいどういう風にして此の堅牢な燧石を、全然何の道具も用いずに加工し、所望の形にしたかという点である。此の点に関しては、諸種の憶説はあるが、完全に承服せしめる底の説はなお今後の発表に待つの外はない。

独逸語大講座(20)

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