ガーディアン紙が Top Novels of the 1930s という記事を出していたので興味深くそのリストを見た。この記事を書いたアレック・マーシュ氏は次の十作を30年代の代表作としている。
1 「午後の人々」アンソニー・パウエル
2 「ビルマの日々」ジョージ・オーウェル
3 「心の死」エリザベス・ボーエン
4 「レベッカ」ダフネ・ドゥ・モーリエ
5 「よしきた、ジーヴス」P. G. ウッドハウス
6 「追われる男」ジェフリー・ハウスホールド
7 「スタンブール特急」グレアム・グリーン
8 「夜はやさし」F. スコット・フィッツジェラルド
9 「牧師館殺人事件」アガサ・クリスティ
10 「卑しい肉体」イーヴリン・ウォー
ここに挙げられた作品にはすべて邦訳が存在すると思う。いずれも面白いこと請け合いである。とくに四作(4,6,7,9)含まれたミステリ、サスペンス小説はおすすめだ。黄金期と呼ばれる時代に書かれた作品だからどれも読み応え満点である。私は列車の中で事件が起きるというプロットにとりわけ愛着があるので、この中では「スタンブール特急」がいちばん好きだ。いちばん訳してみたいのは「レベッカ」。あのメロドラマの秘密めいた書き方にはぞくぞくさせられる。エリザベス・ボーエンはあまり知る人がいないかも知れないが、「心の死」は戦争が始まる前の緊張した雰囲気を伝えていて、深い感銘を与える。このリストでは唯一のアメリカ人作家としてフィッツジェラルドの名が挙げられている。フィッツジェラルドといえば「偉大なるギャツビー」だが、本人は「夜はやさし」のほうが優れていると考えていた。イーヴリン・ウォーはペンギン叢書でずいぶん読んだ記憶がある。戦争三部作も悪くはなかったけれど、あの頃はわたしも若かったので「卑しい肉体」の映画的な書き方のほうが好きだった。
30年代というのは二つの世界大戦にはさまれた時期、ジャンル小説だけでなく普通の小説も書き方が現代的になった時期である。いま読んでもあまり古さを感じることはないはずだ。このリストはたまには昔の作品を読んでみようかという方にはいい道案内役になると思う。