Keine Arbeit
FRAU GUTMANN: Guten Tag, Herr Schwarz! Schon wieder1 im Fenster? Ist heute Sonntag?
HERR SCHWARZ: Ach, liebe Frau Gutmann, für mich ist jeder Tag ein Sonntag, denn ich habe keine Arbeit, wissen Sie2.
FRAU G.: Was, Sie haben keine Arbeit, Herr Schwarz? Da3 muß ich Sie doch4 beneiden.
HERR S.: Ich bin nicht zu beneiden5, Frau Gutmann. Ich habe keine Arbeit, aber dafür6 habe ich auch nichts zu beißen7.
FRAU G.: Das ist aber schrecklich8! Nichts zu beißen! Wie können Sie da bloß9 aushalten10?
HERR S.: Ich kann es nicht aushalten, Frau Gutmann; ich will es auch gar nicht: ich muß es ja nur.
註:【1】schon wieder: また候、またしても。
【2】wissen Sie: 「……ですよ」と云って、相手の知らないことを教えてやるときに用いる句(英の you know、仏の vous savez も然り)。
【3】Da: 「そうすると」、「そうだとすると」、「そういうわけだとすると」。
【4】doch = ja.
【5】Ich bin nicht zu beneiden: zu beneiden の二語で beneidenswert (羨やむべき、羨やましい)と同意。
【6】dafür: 「その代り」。
【7】ich habe nichts zu beißen = Ich habe nichts zu essen. ――beißen は「噛む」(英:bite)ですが、此の熟語では、essen という代りに、面白く beißen を用います。けだし、あごの活潑な動きを連想せしめて面白いからでしょう。
【8】schrecklich: 英:horrible。ちょうど日本語の「大変」にあたる。
【9】bloß = nur. 「不審る」意味の疑問文には nur、bloß を助辞として入れます。――Was kann er nur wollen? (あいつはいったい何の用事なんだろう?)Wo mag er nur immer herumtreiben? (あいつはいったいショッチウ何処をホツつき歩いているんだろう?)Wie kannst du bloß so argwöhnisch sein? (君はまたどうしてそう気が廻るんだろう?)Woran mag es nur bloß liegen? (これはまたいったいどうした訳なんだろう?)――たいてい können、mögen を助動詞として用いることが如上の文例から帰結されるでしょう。
【10】aushalten = ertragen (辛抱する、我慢する、耐える)、また ausstehen ともいう。
FRAU G.: Aber wie können Sie nur11 immer so im Fenster12 liegen13, da14 Sie doch keine Arbeit haben?
HERR S.: Nun15, ich liege ja gerade deshalb16 im Fenster, weil ich keine Arbeit habe.
FRAU G.: Sie müssen aber etwas tun, um zu einer Arbeit zu kommen17. Sie müssen zu Ihren Freunden gehen!
HERR S.: Freunde habe ich keine18, Frau Gutmann. Nun, was würden19 Sie also20 an meiner Stelle21 anfangen22?
FRAU G.: Ich würde irgend etwas tun, aber nicht müßig23 im Fenster liegen! Ich würde losheulen24! Ich würde telephonieren, Briefe schreiben, ganz gleich25 an26 wen!
註:【11】nur: 註9 の nur。
【12】im Fenster: 「窓べに」という時は am Fenster ですが、すっかり窓枠の中にはいっている際には im と云います。同じく、in der Tür stehen というと、扉の閾の上に立って、扉の「わく」の中に居ることを意味します。
【13】liegen: これは「横たわる」ですが、別に臥しているわけでなくても、とにかく、のんびりと坐り込んでいることを liegen というので、sitzen と意味は同じですが、のらくらしているという意味を含むところが特徴です。たとえば、「かれは一日珈琲店にゴロゴロしている」は Er liegt tagsüber in den Kaffeehäusern (herum) といいます。
【14】da......doch......: 「……であるに拘らず」、「……であるくせに」。
【15】nun は、人に返事をするときの無意味な間投詞です。英語では、弱い時は well、強い時は why ですが、ドイツ語では弱い時は nun、強い時は ach、あるいは矢張り nun です。
【16】gerade deshalb: 「正にそのために」、「……さればこそ」(次の weil を受ける)。
【17】zu......kommen: は「云々を手に入れる」(即ち……bekommen)の意。zu Geld kommen なら「金を手に入れる」。
【18】Freunde habe ich keine: 英でも friends have I none と云います。Ich habe keine Freunde の Freunde を特に先に置いたのです。
【19】würden Sie: 英の would you です。ある仮想の場合を考えて、「どうなさるでしょうか」という「でしょう」に当るのが würden です。
【20】also: 「では」、「それでは」、「然らば」。
【21】an meiner Stelle: 「私の地位に於て」、即ち「わたしの立場にあるとしたら」。
【22】anfangen: beginnen とも云いますが、つまり「おっぱじめる」こと、或いは tun、machen と同じと云っても好いでしょう。
【23】müßig: 「ぶらぶらと」、「無為に」。(die Muße は「閑暇」のこと)。
【24】losheulen: los は「勢よくはじめる」(英の start)という意味の前綴。heulen は泣く(weinen)。
【25】ganz gleich: 英の no matter と同じで「……の如何を問わず」、「……の差別なく」、「……の容謝なく」、「……嫌わず」(仏は n'importe)――たとえば「何処だろうと」なら ganz gleich wo、「方法の如何を問わず」なら ganz gleich wie、「相手きらわず」なら ganz gleich mit wem など。
【26】an: 「……に宛てて」という前置詞。
HERR S.: Das alles habe ich ja schon getan27, Frau Gutmann. Ich habe ja schon hundertmal losgeheult; ich habe ja schon hundertmal telephoniert; ich habe ja schon hundert- und tausendmal Briefe geschrieben, ganz gleich an wen!
FRAU G.: Und keiner hat Ihnen helfen können28?
HERR S.: Und keiner hat mir helfen können.
FRAU G.: Und da liegen Sie im Fenster und wärmen29 sich in der Sonne30?
HERR S.: Und da liege ich im Fenster und wärme mich in der Sonne, ja.
FRAU G.: So31, jetzt muß ich aber nach Haus: auf Wiedersehen, Herr Schwarz!
HERR S.: Auf Wiedersehen, Frau Gutmann!
註:【27】getan: tun の過去分詞。
【28】hat......können: 「できた」können の現在完了です。こういう時には、過去分詞は gekonnt ではなく können という形を用います。他の助動詞も大体同じ:Ich habe helfen müssen (私は助けねばならなかった)、Er hat kommen wollen (かれは来ようと欲した)、Sie hätten hingehen sollen (あなたは本当は行く可きだった)など。
【29】wärmen: 温める。
【30】in der Sonne という時の Sonne は、もちろん太陽そのものではなく、「日なた」、「陽光」のこと。
【31】So! ――ドイツ人は、「さてと!」と云って、自分で自分の気持に終止符を打って、気分を一新せんとするときに、So! という癖があります。ちょうど日本語の「さてと!」です。「長居客膝を叩いてさてと云い」という川柳があります。「さてと!」というから、いよいよ腰を上げるのかと思ったら飛んだあて違い、それからまた一時間ばかりねばり込むというわけ……
意訳:グートマン夫人:シュヴァルツさん、こんにちは! また窓にのっかっていらっしゃるの? 今日は日曜ですか?
シュヴァルツ君:いや、奥さん、僕は毎日日曜みたいなものですよ。実は仕事にあぶれちゃったものですからね。
グ夫人:あら仕事がないんですって? マア、うらやましいわ。
シ君:別にうらやましくもありませんよ奥さん。仕事はないんだけど、その代り、食うものもないんですよ。
グ夫人:それはまた大変じゃありませんか! 食べるものが無いなんて! よくマア辛抱ができたものですね。
シ君:辛抱が「できる」わけじゃありません。また別に辛抱しようとも思っちゃいませんがね。辛抱しなくちゃならないだけの話ですよ。
グ夫人:でも、仕事も無いのに、よくマアそうして暢びりと窓なんかに腰かけていられますね。
シ君:だって、仕事が無い「から」こうして窓にとぐろを巻いてるわけなんですよ。
グ夫人:だって、なんとかして仕事をめっけなくちゃ駄目でしょう? お知り合いの方のところへでも出掛けてごらんになっては?
シ君:お知り合いなんてものは無いんですよ、奥さん。では奥さん、あなたなら斯ういう時どうなさいます?
グ夫人:わたしなら、なんとかするわ。ぼんやりと窓に腰かけてなんかいないわ。わたしなら、ワッと泣き出しちゃウわ! わたしなら、ジャンジャン電話を掛けちゃうわ、手紙を書いちゃうわ、相手かまわず!
シ君:そりゃモウみんな一応やっちゃったんですよ。ワッと泣き出すのも百遍やりました。電話も百遍かけました。手紙も百通はおろか千通書きました、相手かまわず!
グ夫人:それに、誰も助け手がないの?
シ君:それに、誰も助け手がないんです。
グ夫人:だもんで、そうして窓に腰かけて日向ボッコしてらッしゃるの?
シ君:えゝ、だもんで斯うして窓に腰かけて日向ボッコしてるんです。
グ夫人:さて、モウそろそろ帰らないと。じゃシュヴァルツさん、さようなら!
シ君:じゃ奥さんさようなら!