Monday, November 29, 2021

関口存男「趣味のドイツ語」

Was ist das Leben?

          --Pascal--

Man denke sich1 eine Anzahl2 von Menschen in Ketten3, alle zum Tode verurteilt, wovon4 täglich einige vor den Augen der andern hingerichtet5 werden, während6 die Uebrigbleibenden7 ihr eigen8 Schicksal in dem9 ihres Gleichen10 sehen11 und einander mit Schmerz und Hoffnung anblickend12 erwarten13, daß sie selber14 an die Reihe15 kommen: das ist das Abbild16 der Lage17 des Menschen.

:【解説】 これは例の有名な仏蘭西の思想家パスカル(Blaise Pascal, 1623-1692) のことばの独訳です。ほとんど常識のようになっている名句ですから、多少むつかしくはありますが、暗記するまで研究して頂くのもけだし徒爾ではなかろうと存じます。時々こういう風に偉人の名句をテキストに用い、ドイツ語の研究と同時に、西洋人の間で通念となっている古典的な観念の主なるものを吸収して行こうではありませんか。
【1】Man denke sich (人は自分に考えて見よ):「試みに脳裡で想像して見給え」の意(英:Just imagine; Just picture to yourself)。denk-e の -e の語尾は接続法(第一式)の語尾で、「考えよ!」という意味になります。sich は三格の方の sich です。「想像する」、「脳裡に描く」の意味の動詞の主なものは次の三箇ですが、いずれも三格の sich と四格の目的語を要求します:
 1. sich etwas denken.
 2. sich etwas vorstellen.
 3. sich etwas ausmalen.
【2】eine Anzahl von: 「或る数の云々」で、英の a number of に当ります。a large number of ならば eine große Anzahl von です。「数」という number に相当するのは Zahl なのですが、こういう時には必ず Anzahl という特殊な形を用います。
身に纏う(tragen)意味の際には、衣服・帽子・靴、その他何でも in で表現。【3】in Ketten: die Kette (鎖)、――in Ketten というと、なにか「鎖の中」にゴッソリ這入っているような感じを与えますが、「鎖を身に纏うて」、「鎖につながれて」ということをそう云うのです。制服を着た学生(Ein Student in Uniform)、私服の警官(Ein Polizist in Zivil)、燕尾服の紳士(Ein Herr im Frack)、海水着の婦人(Eine Dame im Badeanzug)等はいずれも服だから in が当然ですが、「シルクハットをかぶりフロックコートを着て」(in Zylinder und Gehrock)、「スリッパーを穿いて」(in Pantoffeln)、「何もかぶらずに」(in bloßen Haar)、「長いあご髭を生やして」(in langem Vollbart)、「白いエプロンをかけて」(in weißer Schürze)、その他、装身具は大抵 in という前置詞と共に用いるのが英独の習慣です。「白衣の婦人」なら:英:a lady in white; 独:eine Dame in Weiß; 仏:une dame en blanc。「シルクハットをかぶった紳士」:英:a gentleman in a top hat; 独:ein Herr im Zylinderhut; 仏:un monsieur en chapeau haut de forme
【4】wovon: von denen (英:of which; of whom)。仏:dont; desquels) 【5】hingerichtet: 「死刑執行する」という hinrichten の過去分詞。
【6】während: 英:while、「そうすると一方では」、「そうしていると他方では」です。これは元来は「……する間に」の意です。während die Uebrigbleibenden......erwarten (生き残った者共が……待っている間に)とつづく。
【7】übrig bleiben (後に残る)の名詞化。
【8】eigen (英:own):この eigen には -es という中性四格の語尾が省略されています。(即ち ihr eigenes Schicksal が完全形)中性名詞の前では、形容詞の一格または四格の -es 語尾は省かれることが多いので、省くと調子が文語調になるのです。殊に eig-en とか ruh-ig とか selt-sam とか云った、語尾つきの形容詞はそうです:ruhig Blut (平静、沈着)、seltsam Ding (不思議な事)。
【9】dem は冠詞ではありません。「……のそれ」(demjenigen)という意の指示代名詞ですから、従って「デーム」と長綴に発音します。云うまでもなく in dem は in dem Schicksal の意。
【10】ihres Gleichen: これは ihresgleichen とも書き、「彼等の同類共」の意で、茲では二格です。この語の格変化は:  一格:ihresgleichen
 二格:ihresgleichen
 三格:ihresgleichen
 四格:Ihresgleichen
と、各格とも同形ですが、二格だけは、ihres という形が男性または中性の二格のようですから、それを特に目立たせて、いかにも二格らしい感じを与えるために ihres Gleichen と書くことがあるのです。――その他 meinesgleichen (私の同類)、deinesgleichen (汝の仲間)など、物主代名詞の数だけ種類があります。
「云々の中に云々を観る」という語法と、此の in の意味形態に就て。【11】ihr eigen Schicksal in dem ihres Gleichen sehen: 此の「彼らの同類の運命の中に彼ら自身の運命を視る」という言い廻しによく注目しましょう。これは換言すれば「かれら仲間の運命は、それが直ちに以て彼等自身の運命であると観ずる」ことです。此の in の用法をハッキリつかむために、もっと簡単な文例を選びましょう。たとえば「此の男は油断のならぬ奴だ」(Dieser Mensch ist ein gefährlicher Bruder)という短文を取って、同じ趣旨のことを云いかえて見ましょう。Bruder は面白く云ったので、なんなら Feind (敵)と云いましょう。まず、sehen、erblicken などで云うと、In diesem Menschen sehe ich einen gefährlichen Feind または In diesem Menschen erblicke ich einen gefährlichen Feind (私は此の男を油断のならぬ奴だと思っている)と云えます。また finden を用いて in diesem Menschen fand ich einen gefährlichen Feind (私は此の男が油断のならぬ男であることを発見した)と云えます。erwachsen (台頭する)を用いると、In diesem Menschen erwuchs mir ein gefährlicher Feind (此の男のうちに私には一人の危険なる敵が台頭した――此の男は私にとって段々と危険な敵になってきた)また verlieren (失う)を用いて In diesem Menschen verlor ich einen gefährlichen Feind (此の人間が死んだので、私にとっては一人の危険な敵が姿を消したわけだ)などと云えます。その他、In dir verehre ich einen zweiten Vater (汝の中に余は第二の父を崇拝する:余は汝を目して第二の父と為す者なり);Gott hat mir in dir einen zweiten Vater geschenkt (神は汝を第二の父として余に与えた);Du hast in mir das weibliche Geschlecht geschändet (あなたは私という者のうちに女性というものをお辱しめなすったのです)――此の最後の文例は、日本のある作家の文を逆に独文にしたのですが、英独語の影響のために、日本の文士までがこういうヨーロッパ文法を用いて、ちょっと日本娘の云いそうもないような事を言わせる所を以て見ても、此の in は最もハッキリした欧語文法の一つであることがわかりましょう。――序でながら、此の in は、或時には an とも云います:An ihm (または In ihm)besitze ich einen zweiten Vater.――これは一般欧語で、英語でも in です:he has found a very brave champion in you [Thackeray: Vanity Fair, 23](あいつも、おまえさんのようなしっかりした代弁者が出来て仕合せなことさ)。
【12】anblicken: sehen や blicken や gucken や starren (凝視する)などに an- という前綴がつくと英の lock atgaze at 等で、つまり相手の顔を見る意になります。
【13】erwarten は「期して待つ」こと。(erwarten の代りに warten を用いると darauf warten となります)。
【14】selber の代りに ihrerseits (こんどは彼等自身が)ともいう。
【15】Reihe, f. (順番、英の turn):「順番が私に廻って来る」は、Die Reihe kommt an mich とも Ich komme an die Reihe とも云います。英語の It is my turn to die (こんどは私の死ぬ番だ)、It is for me to die (こんどは私が死ぬ番だ)などは Nun ist es an mir, zu sterben; Das Sterben ist an mir と云います。
【16】das Abbild: これは ab- というのが「写し取る」の意の前綴、Abbild は「生き写し」、すなわち、まるで鏡にでも映したような、実物さながらの模写、という意。
【17】die Lage: 「局面」、「羽目」、「境地」、「立場」むつかしい語では Situation ともいう。――「人間の立場」とは、蜉蝣のごとき人間として生れてきた我々の立場ということ。

意訳:試みに、茲に多数の人間が鎖につながれ、その凡てが死刑に宣告された者ばかりで、それらのうち毎日幾人かが他の者の眼前で処刑されて行く一方、生残った方の連中は、仲間の此の運命がまた直ちに以て彼等自身の運命なることを想い、悲観楽観相半ばする面持ちを以て互いに顔を見合わせつつ、やがて彼等自身に番が廻って来るのを待っているところを想像せよ:これぞ即ち人生五十年なるもの偽らざる姿である。

独逸語大講座(20)

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