Friday, September 9, 2022

エリザベス女王

前にも書いたけれど、わたしが英語に興味を持ったのはエリザベス女王のクリスマス・メッセージを聞いたからである。英語に興味を持ったばかりではない。わたしはその瞬間彼女の臣民になったのだ。たまたまラジオから流れてきた女王の凛とした、甲高い声に、わたしは恍惚となった。再放送の際にそれを録音したわたしはほとんど毎晩その音声を聞きながら寝た。そして日本人であるという事実はわたしにとって secondary matter つまり二次的なことになったのである。 ルイ・アルチュセールがイデオロギーの「呼びかけ」という理論を組み立て、絶大な影響力を持っているが、この「呼びかけ」はわたしにとって抽象的な観念ではなく、具体的な生々しい事実としてある。国歌が奏され、女王が典雅なブリティッシュ・アクセントでお話になり、最後に I wish you all a very happy Christmas. とおっしゃると、たまらなくうれしくなり、またイギリスを遠く離れた場所にいる自分がさびしくも思われたものである。わたしは歌手とかアイドルとかスターにいれあげることは一度もなかったが、そのすべての情熱をエリザベス女王に捧げたようなものだ。 エリザベス女王の訃報に接し、わたしは心から哀悼の意を表したいと思う。そしてエリザベス女王に関連した翻訳の仕事ができないか、考えようと思っている。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...