Tuesday, December 20, 2022

ヴェラ・ケルゼイ「殺人は小さな声で」

アメリカのクレイトンという学園町でとある夫婦者の死亡事故が起きる。エルウェイという名のホテル主任が妻とともに死んでいるのがある年の一月に発見されるのだ。その原因はガス中毒。単なる事故のように見えるが、これがいろいろとあやしい。

まず彼らが実際に死んだのは十日以上も前のことだ。夫も妻も他人との交際が絶無といってよく、異変に気がつく者がまったくなかったのである。夫が勤めていたホテルにも彼の個人データがないことがわかり、警察も唖然とする。

第二に夫が主任を務めるホテルが、死亡するほんの数日前に焼失している。しかもその一年前にも同じ系列のホテルが、まったく同じような原因で焼失している。じつはそれを怪しんだ保険会社が調査員を派遣していたくらいなのだ。

第三に、ガス事故は犬が吠えたてるので発覚したとされるが、通報を受けた警察がパトロールした際には、そのような吠え声は聞こえなかった。事故が起きたと思われるその当日の日、現場付近をたまたま通りかかった主人公ダン・カンバーランドは、犬の吠え声が聞こえるという女性にうながされて耳をすませたのだが、やはり犬の声など聞こえなかった。犬は本当に異臭に気づいて吠えたのか。そもそもその犬は実際にいたのか。犬の吠え声が聞こえるといった女性は、事件となにか関係があるのか。

死因審問では事故死の判断が下されたが、その直後に事件は急展開し、第二、第三の殺人が起きる。

主人公のダンはこの町で新聞を発行しているカンバーランドの息子である。年は三十代で、第二次大戦をバルカンで通信員として過ごした。行動力があり、親父が新聞社の社主ということもあって警察とも親しい。彼が中心となって事件の捜査が進んでいく。

物語の前半はエルウェイ夫婦の中毒死、および審問の様子が細かく描かれるが、後半になると物語のピッチが上がって読者を釘付けにする。事件の鍵を握る女性バーバラの振る舞いが少々不自然な印象を与えるが(いや、この小説に登場する女性はみなあまりにもメロドラマチックな振る舞いをするのだが)、最後にその理由が判明する。

この小説はいわゆるパズルものではない。探偵役のダンが事件関係者と強い関わりを持っていることからもそれはわかる。典型的なパズルものにおいて探偵は事件から微妙に距離を取っているものなのだ。

作者のヴェラ・ケルゼイはカナダ生まれのジャーナリストで、ダンと同じように通信員をしていたようだ。中国に渡ってその旅行記を書いたり、アメリカの雑誌にフリーランスとして記事を寄稿したり、ミステリーも数冊書いていた。参考までタイトルをいくつかあげておく。


The Owl Sang Three Times (1941)


Satan Has Six Fingers (1943)


The Bride Dined Alone (1943)


Fear Came First (1945)


Whisper Murder! (1946) 本作

独逸語大講座(20)

Als die Sonne aufging, wachten die drei Schläfer auf. Sofort sahen sie, wie 1 schön die Gestalt war. Jeder von ihnen verliebte sich in 2 d...