Monday, January 23, 2023

ロベルト・プファーラー「インターパッシヴィティー」

哲学で大切なのは、新しい概念を学ぶことである。今まで知らなかった新しい概念、それはあなたの思考に新しい地平をもたらすものである。あるいはあなたが今まで抱いていた考えを覆すものである。もしもそういう起爆力のある概念を学ばなかったとしたら、今まであなたが抱いていた考えを補強するにすぎない考えしか与えられなかったとしたら、あなたは哲学を学ばなかったか、哲学が力を失ったか、どちらかである。


ロベルト・プファーラーはインターパッシヴィティーという概念をつくって世に広めたドイツの哲学者である。このブログで以前、谷崎潤一郎の「或る調書の一節」について書いたが、あの内容と大いに関係がある。すなわち信仰のような内的な心情が、じつは個人の外に、物質的な形として存在しているという事態をあらわす概念である。信仰については今あげたブログの記事で書いたから、別の例をあげよう。アメリカのコメディ番組には、登場人物たちがジョークをいうと観客の笑い声が聞こえてくるものがある。あれは視聴者の代わりにテレビが「楽しんでくれている」のだ。一日働いてぐったりしながらぼんやりそのコメディ番組を見、見終わったときにはなんだか楽しかったような気分を漠然と味わう。登場人物のジョークはたいてい古くさく、面白くもないのだが、笑い声のおかげで、なんだか自分が笑ったような気分になる。楽しさというのは個人の内面にある感情のようだが、ここではテレビがわたしの代わりに「楽しんでいる」のだ。テレビの享楽は、テレビがわたしの外にあるものであるにもかかわらず、わたしの享楽にもなっている。

あるいはトウィッチや YouTube のゲーム実況でもおなじことが起きている。実況者は視聴者の代わりにゲームを享受し、視聴者はそれを見て自分がゲームをし、楽しんだかのような気分になる。こういう奇妙な代理構造をプファーラーはインターパッシヴィティーと呼んでいる。

本書はこの概念に関してかかれたさまざまな論文を一つにまとめたものだ。いろいろな角度からこの概念に斬り込み、反覆される部分も多いけれど、何度も何度もこの概念に立ち向かうにつれ、しだいに理論が深まっていく様子がわかる本となっている。もしもこの概念に興味があるなら、第三章から読みはじめるのがいいだろう。インターパッシヴィティーの概要、その問題点が簡潔にまとめられている。アカデミックな書き物だからある程度はむずかしいのだが、知的なものに関心がある向きはぜひ一読してほしい。起爆力のある概念であり、われわれの日常的振る舞いに深い反省をもたらす考え方だから。

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