この物語は一つの物語が三方向から描かれる。まず第一の方向。チャンス・モロイはニューヨークでは名を知られたビジネスマンだが、この物語ではなぜかウォルター・ランドと偽名を使っている。しかも部下二人を使ってジャネット・ロードという二十五歳の美しい女を偵察させ、彼女をつけてニューヨーク発アルバカーキ行きAEA 第十四便に乗り込む。モロイは彼女の父ロード議員に恨みがあるらしく、その復讐に娘に対してなにかをやらかそうとしているらしい。いったいそれはどんな復讐なのか。
第二の方向は殺し屋どもの視点から展開される。まずニューヨークのとあるホテルの一室に男の死体が転がっている。そして殺し屋がその一室でなにか作業をしている。殺された男はジャネット・ロードと一緒に第十四便に乗るはずだった彼女のいとこだ。なぜ彼が殺されたのかはすぐには読者にはわからないように書かれている。その部屋にさらに二人目の殺し屋が到着し、さらに三人目の殺し屋が電話をかけてくる。AEA 第十四便にジャネット・ロードとチャンス・モロイが乗ろうとしているという内容だ。いったい殺し屋たちはチャンス・モロイやジャネット・ロードとどう関わっているのか。
そして第三の方向は、第十四便の美しいキャビン・アテンダントと操縦士たち三人の物語だ。キャビン・アテンダントは結婚しているのだが夫とは別居状態で、その美しさ故に操縦士二人を虜にし、どっちと一緒になろうかと、いわば彼らを天秤にかけている状態。彼女はチャンス・モロイと過去に関係があったりもする。そして彼女はこの十四便の勤務において過去の恋人と、別居中の夫に相まみえることになる。
第一と第二の方向は、いろいろと謎を含み、しかも刺激的な描写がつづく。第三の方向は、この物語の人間関係の複雑さを示し、サスペンスだけでなく人間ドラマとしても楽しめそうだという期待を抱かせる。三方向から紹介された登場人物たちは、第十四便に集合し、そのなかで謎はすこしずつ解き明かされ、かつそれまで積み上げられてきた緊張がついに爆発する。
レスター・デントは「ブロンズの男」シリーズで知られているが、わたしはあまり好きではない。文章やプロットが雑で、登場人物もあまりにステレオタイプすぎるからだ。しかし本作に限っては語り方に工夫が凝らされていて、物語に厚みがあり、楽しく読むことが出来た。謎めいた物語が徐々にその背景をあきらかにするという書き方もいい。汽車の中、あるいは飛行機の中でサスペンスにあふれた事件が展開するという物語が好きな人なら夢中になって読めるだろう。