Tuesday, October 29, 2024

シドニー・ホーラー作「夜のプリンセス」

 

シドニー・ホーラーというのは一九二十年代から四十年代にかけて大量のジャンル小説を書きまくった、それなりに人気のあった作家である。質的にはたいしたことはないけれど、大衆に人気のある作家というのはどの国にもたくさんいる。

「夜のプリンセス」はエルジーという美しい女性が主人公となる。彼女はもともとは大金持ちの娘だったのだが、父親が詐欺をはたらいてばれ、一気に破産。その結果、エルジーは婦人服店のモデルをやって糊口を凌いでいる。金持ちの顧客が来ると、その人に売りつけたいドレスを着て、店内でファッションショーのように歩いて見せるのである。

この美貌のエルジーをめぐって三人の男が動き出す。一人は大新聞社の若き社主フィリップだ。絶世の美女がモデルをしているという噂を聞きつけ、さっそく女友達を連れて彼女がいる店を訪れる。もう一人は国際的な犯罪者ズベーラである。彼はエルジーがとある王国の皇女に似ていることを利用し、悪事を働こうとする。そしてもう一人、ズベーラの不審な動きに気づいたスコットランドヤードの刑事ロマックス。彼は先ほどあげたフィリップの知り合いでもある。こうした人々がロンドンとパリを舞台に物語を織りなしていく。

登場人物は非常に多いが、物語じたいはわかりやすい。出て来る人々はみな定型的で、物語の展開も型にはまっているからである。比較的短い章立てで、次々と場面が変わり、物語自体の古さはともかくとして、まったく退屈はしない。なるほど一般受けしそうな小説だ。エンターテイメントの書き方をよく知っている作家だな、とちょっと感心する。しかし記憶に残るかというと、どうだろう。数カ月後にはすっかり忘れているかもしれない。

英語読解のヒント(142)

142. as good as 基本表現と解説 He is as good as dead. 「死んだも同然だ」 この as good as は「実質的に……も同然」の意味になる。 例文1 "Don't say you aren't c...