Wednesday, January 29, 2025

エドナ・シェリー「バックファイア」

 


エドナ・シェリーは1885年オハイオ州に生まれ、スターテン・アイランドのカレッジで英文学を教えたのち、文筆業に転じた。もっぱらパルプ雑誌に短編やらキワモノ的な小説を書いていた。彼女が書いた最初のミステリは48年の「突然の恐怖」で、これはジョーン・クロフォード主演で映画化された。しかしわたしが見るところ、彼女は文章が凡庸で、物語も人物造形も定型化していて、あまり面白い作家ではない。

56年の「バックファイア」もその弊を免れていない。貧しい家に生まれたチャールズという男が、金と地位を求めて必死に働き、のしあがるが、妻に浮気相手ができ、さらに離婚の危機にさらされる。妻はその土地の実力者の娘で、彼女と別れるとなれば、社会的地位を極めようとする彼の目論見にはきびしい痛手となる。そこで自分の出世に響かないような形で、妻を殺害することを考える。その殺人は完全犯罪でなければならない。

物語の後半では、妻の浮気相手だったアダムが事件を知り、犯人はチャールズにちがいないと、警察の友人の助けを借りて、彼の鉄壁のアリバイを崩そうとする。

最初の数章ですぐわかるのだが、この作品は登場人物がみな一面的で、プロットのために機械的に動いている感じがする。人間的な複雑さとか、心理のあやはまるでない。文章も決まり文句が多用され、俗っぽい。「赤い色が彼女の白い肌をゆっくりと登っていった。アダムの脈搏は120まであがった」などという文章が臆面もなく書きつけられるのだから、正直、いやになる。

しかし後半のアリバイ崩しに入ると、チャールズが考えるところの完全犯罪が、いかなる盲点を持っているかが次第にあきらかになり、それなりに面白くなる。チャールズは出世欲に取り憑かれた、ひたすらエゴイスチックな男だが、後半の中心人物であるアダムは売れない劇作家であるせいか、人間味があり、すくなくともチャールズほど平板でもなければ、不自然さも感じさせない。

後半は確かに楽しめたから、出来が悪いとは言わないが、総合的には標準をちょっと下回る作品。

(表紙を見たらわかるように Detective Book Club の三冊合本版で読んだ)

エドナ・シェリー「バックファイア」

  エドナ・シェリーは1885年オハイオ州に生まれ、スターテン・アイランドのカレッジで英文学を教えたのち、文筆業に転じた。もっぱらパルプ雑誌に短編やらキワモノ的な小説を書いていた。彼女が書いた最初のミステリは48年の「突然の恐怖」で、これはジョーン・クロフォード主演で映画化された...