Tuesday, May 20, 2025

注目のPG作品

Eleanor Marx Aveling, (nickname Tussy) daughter of Karl Marx in 1913


Eleanor Marx(1855ー1898)

エリノア・マルクスはいわずとしれたマルクスの末娘。フェミニズム運動、社会主義運動で知られているが、小さい時から文学好きで、翻訳を何点か出している。今回プロジェクト・グーテンバーク入りしたのはフローベールの「マダム・ボヴァリ」で、エリノアがこの作品の最初の英訳者になるのだそうだ。すんなりよくわかる文章になっていて、彼女がすぐれた翻訳者であることがわかる。最近わたしは「作者」という概念が気にかかり出し、「ボヴァリ夫人はわたしだ」と言ったフローベールに注目し、なんだかんだと考えている。それはともかく、エリノア・マルクスは演劇にも興味があり、イプセンの「人民の敵」とか「海から来た婦人」などを翻訳し、「人形の家」(これはエリノアは翻訳していない)の朗読会をバーナード・ショーなどとともに開催してもいる。愛する人に裏切られ自殺した哀れな女性は、イギリス文学にも小さな、しかし大切な足跡を残していたのである。




Alfred Kubin(1877ー1959)

画家でいて作家(詩人)でもある、という人がいる。ウィリアム・ブレイクとかダンテ・ガブリエル・ロセッティとかデントン・ウェルチとかいくらでもいるが、アルフレート・クービンも両方の分野に秀でた人である。オーストリア・ハンガリー帝国のボヘミアに生まれ、十代で風景写真家アロイス・ビアの弟子になったが、あまり学ぶところはなかったという。精神が繊弱だったのだろうか、十九才のときに母親の墓の前で自殺をはかり、翌年軍隊に入ったが一年余りでノイローゼのため除隊している。二十一才から私立アカデミーで絵を習いはじめ、マックス・クリンガーの銅版画に出会い、おなじような作品の作成のためにおのれの人生を捧げようと決意する。その後、彼は象徴主義や表現主義の代表的な画家と見なされるまでになる。

今回、プロジェクト・グーテンバーク入りした作品 Die Andere Seite はカフカを思わせるような暗い雰囲気の不条理小説で、カルト小説と言っていい人気を誇る。五十年以上前のものだが、日本語訳も出ているので、図書館にあれば手に取ってみてほしい。この本には面白い逸話もある。本の挿絵はグスタフ・マイリンクの「ゴーレム」に使われるはずだったのだが、作品の完成が遅れたため、クービンが挿絵に会わせて独自の小説をかいてしまった。それが本作だというのである。

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

  エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリ...