コーエンの書くものはどれも生気にあふれていて楽しい。彼は黒人を主人公にした作品で有名になったが、たしかにステレオタイプな人物設定ではあるものの、はじけるような明るさを持っている。ミステリも書いていて、なかなかの出来だ。読んで損はしない。
本書は三人の芸人の話である。エディという司会者、その友人で綽名こそタイニィ(Tiny)だが雲突くような大男のサクソフォン奏者、そしてリンダという南部の田舎出身の歌手。三人とも個性豊かな人間ですぐに読者は彼らに好感を持つだろう。エディは気さくで、貧乏だがいつも明るい。ただ女性の気持ちがさっぱりわかっていないという欠点がある。タイニィは図体がでかい割に、控え目な男なのだが、エディよりは人情に通じている。リンダは背が低いが愛らしく、その歌声はブロードウェイでちょっとしたセンセーションを巻き起こす。彼女はまだ若く、親は彼女がブロードウェイに行くのを反対するのだが、エディは彼女と「結婚」し、夫婦者として彼女をニューヨークに連れて行く。もっともこの「結婚」はあくまでビジネスのためのもので、エディはリンダとキスすらしない。一方リンダはエディに静かな愛の炎を燃やしている……。
物語の興味の焦点は二つある。一つは金の話だ。これはちょっとややこしい話なので、簡略化して説明する。エディは現在あまり売れない司会者なのだが、じつは幼少のとき彼の叔父がエディ名義で買った株があり、それがいまやとてつもない額になっていたのである。ところがエディはそのことを知らずにいた。そしてこの事実を偶然知ったノースという悪党が、エディに近づきその金をだまし取ろうとするのである。
もう一つの焦点は、エディとリンダの関係だ。すでに紹介したようにエディはリンダとの関係をあくまでビジネスとして割り切っている。しかしリンダは心密かにエディに愛情を持っている。この二人がどうなるのか。ブロードウェイのショービジネスを背景に金と愛の物語が展開されるというわけだ。
作者はおそらくブロードウェイの実態に相当通じているのだろう。ビジネス上のやりとりなどはなかなか真に迫っている。しかしショービジネスに愛と金の主題を結合させるというのは、あまりにも通俗的すぎるし、エンディングも「この手の物語ならこういう終わり方をするだろうな」という予想の範疇を超えるものではなかった。型にはまった作品である点は残念だったものの、コーエンらしい明るさはやはり気持ちがいい。米国的なユーモア、あるいはオプティミズムをよく体現した作者だと思う。