Thursday, July 23, 2026

短篇読解(1)

はじめに

これから三カ月くらい Emile C. Tepperman のパルプ短篇 No Living Witness 「証人はもういない」の読解を十回にわけて連載する。Emile C. Tepperman (1899–1951) は「自殺部隊」や「探偵エド・レイス」などのシリーズを書いたアメリカの作家で1930年代40年代に活躍した。俗語は登場するが読みやすい文章を書き、しかも内容がアクションの連続であるため、英語の文法を修得し本格的に本を読みはじめた人にはわかりやすくていいだろう。訳文は文を小さく意味の単位で区切り、単位ごとに日本語訳をつけることにした。英語を頭からすらすら読もうと思うなら、こうした情報処理になれる必要がある。文の構造が複雑な場合は〔註〕でさらに説明を加えた。このブログでは「英語読解のヒント」で文法や文型についてずっと連載しているが、実際に本を読みはじめると文法講座を読んだだけでは太刀打ちできない困難にぶつかる。そこを突き抜ける一助になればとこんな企画を考えた。

NO LIVING WITNESS, by Emile C. Tepperman

Originally published in Secret Agent X, June 1934.

(1)

 Cronin jabbed his automatic in the man’s stomach. The street, close to the water front, was dimly lit, deserted at night. Cronin’s thick upper lip curled back mercilessly from discolored teeth.
 “Stand still, guy. Don’t raise your hands—just keep ‘em where they are. Only don’t make no funny moves, see?” He accompanied the admonition with a jab of the gun.
 The victim was short, lean, and hard-featured. He evidently knew all about what a Colt can do to your insides if it’s fired with the muzzle against your stomach. For he stopped perfectly still.
 “If this is a holdup, you can have my dough. There’s a ten-dollar bill in my pants pocket.”
 “That’s all I need,” said Cronin. “Turn around.”
 The other turned, very carefully.

意味と解説

Cronin / jabbed / his automatic / in the man’s stomach.
クローニンは / ぐいと突きつけた / 自動ピストルを / その男の腹に

〔註〕物語の冒頭でいきなり「その男(the man)」という表現が使われているが、これは一気に読者を物語に引き込むための常套手段である。

The street, / close to the water front, / was dimly lit, / deserted at night.
通りは / 埠頭にほど近い / 薄暗く照らされていた / 夜は人気がなかった

〔註〕The street が主語。この主語は close to the water front という形容詞句で修飾されている。この通りは埠頭にほど近いのだなと思いつつ、The street を受ける動詞があらわれるまで心の緊張を解いてはならない。動詞はもちろん was (dimly lit)。最後の deserted at night は分詞構文でこれも the street を修飾している。

Cronin’s thick upper lip / curled back / mercilessly / from discolored teeth.
クローニンの厚い上唇は / まくれあがった / 無慈悲に / 変色した歯から

〔註〕curled back from discolored teeth は唇がまくれあがって変色した(黄ばんだ)歯がのぞいた、という意味。

“Stand still, / guy.
動くんじゃないぞ / てめえ

〔註〕still は「じっとして」の意。guy は「おまえ」と呼びかけている。「みんな」と大勢に呼びかけるときは Guys! となる。

Don’t raise your hands—
手を挙げるな

just keep ‘em / where they are.
ただそのままにしておけ / いまあるところに

〔註〕‘em は them (=your hands) のこと。「just + 命令形」の just には命令に強勢ないし切迫した語調を附加することが多い。

Only don’t make no funny moves, / see?”
ただ妙な動きはするな / いいな?

〔註〕funny moves は「おかしな動き」。この文は文法的には Don't make any funny moves at all となるべきだが、さらに否定語(no)をつけ加えることで「絶対にするなよ」という強い語気を表現している。二重否定によって肯定の意味になることもあれば、このように強い否定をあらわすこともある。ただしこのような二重否定は教養のない人によって用いられる傾向がある。see? は do you understand? あるいは get it? の意。

He / accompanied / the admonition / with a jab of the gun.
彼は / 添えた / 忠告に / 拳銃の一突きを

〔註〕accompany A with B で「AにBを添える」。話し手は警告しながら拳銃をぐいと相手の腹に押しつけたのだ。admonition は「妙な動きはするな」という警告のこと。

The victim was / short, / lean, / and hard-featured.
犠牲者は / 背が低く / 痩せていて / 厳しい顔立ちをしていた

〔註〕hard-featured の hard は stern とか harsh の意。sharp-featured は「鋭い顔つきの」、grim-featured は「こわい顔つきの」、regular-featured は「ととのった顔立ちの」。

He / evidently / knew all / about what a Colt can do / to your insides / if it’s fired / with the muzzle against your stomach.
彼は / 明らかに / すべて知っていた(よく理解していた) / コルト銃がなにをできるかについて / 人の内臓に対して / もしも発射されたなら / 銃口を腹に向けた状態で

〔註〕insides と複数形で「内臓」の意。with は付帯状況を示す。この文章はもってまわった言い回しを使っているが、こういう書き方がかえって読者に無惨な状況を想像させる。パルプ小説ではよく使われるレトリック。

For / he stopped / perfectly still.
というのも~からである / 動きを止めた / 完璧にじっと(ぴたりと)

〔註〕For は理由を説明する接続詞。

“If this is a holdup, / you can have my dough.
もしもこれがホールドアップなら / 金はやるぜ

〔註〕dough は「金」をあらわすスラング。

There’s a ten dollar bill / in my pants pocket.”
十ドル札がある / ズボンのポケットに

〔註〕bill はこの場合「紙幣」の意。アメリカ英語では pants は 「ズボン」をあらわすが、イギリス英語では下着の意味になる。イギリス英語で「ズボンのポケットに」は in my trouser pocket。

“That’s all I need,” / said Cronin.
それだけあれば十分だ / とクローニンは言った

〔註〕That's all I need はここでは That's sufficient の意。

“Turn around.”
うしろを向け

The other turned, / very carefully.
相手は向きを変えた / 非常に慎重に

〔註〕作者は very carefully の前にコンマを置いて間を強制しているがこの「遅れ」はホールドアップにあっている男の動きのぎこちない、ゆっくりした動きを文章上に再現しようとするものであり、同時に very carefully の持つ意味合いに注意を向けさせる効果がある。

文法の復習 付帯状況を示す with

付帯状況を示す with には次の三つのパターンがある。

  1. with + (代)名詞 + 分詞
  2. with + (代)名詞 + 形容詞
  3. with + (代)名詞 + 副詞句

1 分詞(-ing あるいは -ed)を伴う形

The train pulled away, with smoke pouring from its chimney.
その列車は煙突から煙を吐きながら遠ざかっていった。
He sat on the porch, with his eyes closed.
彼は眼を閉じてポーチに座っていた。

2 形容詞を伴う形

Don't talk with your mouth full.
食べながらしゃべってはいけません。
She stood in the rain, with her coat soaking wet.
彼女はコートをずぶ濡れにして雨の中に立っていた。

3 副詞句(前置詞句を含む)を伴う形

He slept with the lights on.
彼は明かりをつけたまま寝た。
She walked into the room with a book in her hand.
彼女は本を持って部屋に入っていった。

短篇読解(1)

はじめに これから三カ月くらい Emile C. Tepperman のパルプ短篇 No Living Witness 「証人はもういない」の読解を十回にわけて連載する。Emile C. Tepperman (1899–1951) は「自殺部隊」や「探偵エド・レ...