Monday, October 14, 2024

英語読解のヒント(140)

140. go so far as

基本表現と解説
  • I went so far as Shanghai. 「上海まで行った」
  • At last he went so far as to draw his sword. 「ついに佩剣を抜くにまでいたった」

go so far as は本来距離を表す表現だが、比喩的に転用されることもある。

例文1

Without going so far as to say that he carried himself as I had done at his age, there was at least similarity enough to make me feel in sympathy with him.

Arthur Conan Doyle, The Exploits of Brigadier Gerard

彼の振る舞いは、わたしが彼の年配のころとおなじであったとはいえないまでも、すくなくとも相通じるものがあると感じさせるには充分だった。

例文2

For months I could not rid myself of the phantasm of the cat; and, during this period, there came back into my spirit a half-sentiment that seemed, but was not, remorse. I went so far as to regret the loss of the animal....

Edgar Allan Poe, "The Black Cat"

何ヶ月ものあいだ、わたしは猫のまぼろしを振り払うことができなかった。しかもこの期間に、本当は後悔ではないのだけれど、後悔みたいな漠然とした感情がふたたび芽生えた。わたしは猫がいなくなったことを残念にさえ思った……。

例文3

But Columbus not only adhered to his theory, but went so far as to assert that by sailing due west from Europe you would, if you kept on sailing, bring up somewhere in eastern Asia.

Livingston Hopkins, Comic History of the United States

しかしコロンブスは自説に固執しただけではない。ヨーロッパから真西へ航海し、そのままどんどん進めば、東アジアのどこかに行き着くはずだとさえ主張したのである。

 ここでいう「自説」とは、地球は円いという考えのこと。おかげでコロンブスは変人扱いされた。

Friday, October 11, 2024

英語読解のヒント(139)

139. 仕草の表現

基本表現と解説
  • He clasped and unclasped his hands nervously. 「おどおどと手を握ったり開いたりした」
  • He entered softly with his finger on his lips. 「指を唇にあててそっと入った」
  • He rubbed his hands and chuckled with delight. 「喜んで揉み手をしたり笑ったりした」
  • He scratched his old head in utter perplexity. 「さっぱりわけがわからず頭をかいた」
  • The old lady shook her head with deep gravity. 「きわめて厳格に頭をふった」
  • He gave his huge shoulders an insolent shrug. 「大きな肩を傲然とすくめた」
  • The wretch stamped and swore with fierce rage. 「烈火の如くに怒って地団太踏んだり、悪口をいったりした」
  • The man threw up his hands in fervent prayer. 「双手を挙げて熱心に祈った」
  • Without answering, he tossed his proud head. 「返事をしないで傲然と頭をそびやかした」
  • The man raised his big eyes and winked at me. 「大きな眼を挙げて、わたしに目配せした」
  • He talked and whistled to himself carelessly. 「なにげなく独り言を言ったり、口笛を吹いたりした」
  • The lady wrung her hands in helpless despair. 「絶望いかんともしがたく手を握り絞った」

最後の wring one's hands は両手を合わせてひねったり、寒いときにする揉み手のような仕草。

例文1

She could say no more, but sat down, nervously twisting and untwisting her fingers.

Dinah Mulock Craik, John Halifax, Gentleman

彼女はそう言ったきり、指をからめたりほどいたりしながら座っていた。

例文2

"Still, the East End is a very important problem," remarked Sir Thomas, with a grave shake of his head.

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray

「それにしてもイースト・エンドは非常に重大な問題です」サー・トマスは重々しく頭を振りながら言った。

例文3

He prayed to his Father while he was upon the cross; he could not lift up his hands, but he could speak to God. He prayed for these wicked people, and said, Father, forgive them; for they know not what they do.

Mrs. Favell Lee Mortimer, The Peep of Day

十字架に磔にされているとき彼は神に祈りました。手を挙げることはできませんでしたが、神に語りかけることはできたのです。彼は悪しき人々のためにこう祈りました。父よ、彼らを赦して下さい。彼らは自分がなにをしているのか知らないのです。

Tuesday, October 8, 2024

英語読解のヒント(138)

138. no use

基本表現と解説
  • There is no use in debating.
  • There is no use debating.
  • It is no use debating.
  • It is no use to debate.
  • It is of no use to debate.

いずれも「議論しても意味がない」の意。no use は of no use の省略形になる。さらに議論する主体を示すため debating に所有格がつき It is no use your debating. となったり 、「for+人+不定詞」の形を使って It is no use for you to debate. などという場合もある。

例文1

 "You must wish to leave Lowood?"
 "No! why should I? I was sent to Lowood to get an education; and it would be of no use going away until I have attained that object."

Charlotte Bronte, Jane Eyre

 「ローウッドなんかにいたくないでしょう?」
 「そんなことないわ。教育を受けるためにローウッドに送られたんですもの。目的を達せずに帰っちゃうんじゃ、何のために来たのかわからない」

例文2

"There is no use in loving things if you have to be torn from them, is there?"

Lucy Maud Montgomery, Anne of Green Gables

「お別れしなくちゃならないようなものに愛着を感じたって意味がないわ」

例文3

"It's of no use to settle how you'll cook your bird till you've caught it."

George Manville Fenn, The Peril Finders

「鳥を捕まえる前に料理法を考えたって意味がないね」

Saturday, October 5, 2024

英語読解のヒント(137)

137. 前置詞 + the + 動名詞

基本表現と解説
  • You may have them for the asking. 「求めさえすれば得られる」

for the asking は for the act of asking ないし for the mere trouble of asking と理解する。ほかにも for the wishing とか with the wishing (望みさえすれば)などの形がある。

例文1

Go, if you like — there are plenty of house-keepers as good as you to be had for the asking.

Wilkie Collins, The Woman in White

行きたければ行くがいい。おまえくらいの女中は探しさえすればいくらでもいる。

例文2

The table appeared, and on the table was wine and savoury meats; whatever the soul desired was there with the wishing. The merchants sighed for envy.

R. Nisbet Bain, Russian Fairy Tales

テーブルがあらわれ、その上には葡萄酒や美味な肉があった。なんでも欲しいものが望みさえすれば出て来る。商人は羨ましがって溜息をついた。

例文3

It would be tedious if given in the beadle's words: occupying, as it did, some twenty minutes in the telling; but the sum and substance of it was, that Oliver was a foundling, born of low and vicious parents.

Charles Dickens, Oliver Twist

役人の云った通りに書いたら長々しくて退屈だろう。話し終わるのに二十分もかかったのだから。しかしその要点はオリバーが下賤で罪深い両親のあいだに生まれ、捨てられた子供だということである。

Wednesday, October 2, 2024

英語読解のヒント(136)

136. for one

基本表現と解説
  • I, for one, shall never do. 「わたしはけっしてしない」

「他人はともあれ、わたしは」という、主語の「わたし」を強調した表現。

例文1

At length they were gone, and I for one was thankful of it.

Henry Rider Haggard, Allan's Wife

とうとう彼らは行ってしまった。わたしとしてはありがたい気分だった。

例文2

"And yet there is much in what the Gascon says," said a swarthy fellow in a weather-stained doublet; "and I for one would rather prosper in Italy than starve in Spain."

Arthur Conan Doyle, The White Company

「しかしこのガスコーニュ人の言うことには一理も二理もあるぞ」と色の黒い、染みだらけの胴衣を着た男が言った。「おれとしちゃ、スペインで餓死するよりイタリアで景気のいい暮らしをしたいね」

例文3

No, the Modern Spirit is too earnestly intent upon solving the problems of existence to tolerate humour in its literature. Humour has served a certain purpose in its day, but that day is done, and I for one cannot pretend to regret its decay.

F. Anstey, The Travelling Companions

いいえ、現代の精神は存在の問題を解き明かそうとするあまり、文学がユーモアを表現することに我慢がならないのです。ユーモアはその隆盛期にはある目的を果たしていたのですが、その時代は過ぎ去りました。わたしとしてはユーモアの衰退を残念に思う気はありません。

Sunday, September 29, 2024

S. S. ヴァン・ダイン「カナリア殺人事件」

 


S.S.ヴァン・ダインを読んだのは随分昔で、「僧正殺人事件」と「グリーン家殺人事件」を読んだことは憶えているが、他の作品はどうだろう。「ベンスン殺人事件」は読んだかもしれないが、ストーリーはさっぱり憶えていない。じつは「僧正」も「グリーン家」も内容はきれいさっぱり忘れてしまった。「僧正」というのはチェスの「僧正」のことだったろうか。「グリーン家」の犯人はぼんやり憶えているが、事件の内容はなにひとつ頭に残っていない。

「カナリア殺人事件」は心理的な手掛かりによって犯人を見出す物語だというようなことを何かで読み、興味をなくして読まなかった。その頃は、初期のエラリー・クイーンみたいにしっかりした物質的手掛かりから論理的に推理を構築する物語に魅力を感じていたので、「心理的手掛かり」などというあやふやなものには食指が動かなかった。

今も「心理的手掛かり」には関心がないのだが、高名な作品ではあるし、一度は読んでおこうと半ばあきらめたような気分で本作を読み出した。テキストは Fadedpage.com から出されたものだ。

無能な警察と天才的探偵という設定や、探偵が事件現場から警察の目を盗んでこっそり重要証拠をくすねるとか、古いパターンが目について仕方がなかったが、ちょっとだけ面白かった部分もある。それは十四章で探偵ヴァンスが犯罪を芸術にたとえる部分だ。ここで彼は絵画のオリジナルと、コピー(模写)に関する興味深い議論を展開している。

われわれはオリジナルとコピーについて考える時、オリジナルの完成度を百パーセントとするなら、コピーの出来はそれよりも低いと考える。コピーにはオリジナルに到達し得ないある種の欠如が存在する、というように。ところがヴァンスが提示している議論はちがう。オリジナルのほうにこそ欠如が存在する。そしてコピーが復元し得ないのは、まさにその欠如である、というのだ。つまりこの議論を敷衍するなら、オリジナルこそオリジナルに到達し得ていない、なぜなら欠如を含んでいるから。しかしながら、その欠如こそ、オリジナルをオリジナルにしている当のものだ、ということになる。一応その部分を引用しておくので、興味のある向きはじっくり読んでみてほしい。


“Y’ know, Markham,” he began, in his emotionless drawl, “every genuine work of art has a quality which the critics call élan-namely, enthusiasm and spontaneity. A copy, or imitation, lacks that distinguishing characteristic; it’s too perfect, too carefully done, too exact. Even enlightened scions of the law, I fancy, are aware that there is bad drawing in Botticelli and disproportions in Rubens, what? In an original, d’ ye see, such flaws don’t matter. But an imitator never puts ’em in: he doesn’t dare-he’s too intent on getting all the details correct. The imitator works with a self-consciousness and a meticulous care which the artist, in the throes of creative labor, never exhibits. And here’s the point: there’s no way of imitating that enthusiasm and spontaneity-that élan-which an original painting possesses. However closely a copy may resemble an original, there’s a vast psychological difference between them. The copy breathes an air of insincerity, of ultra-perfection, of conscious effort. . . . You follow me, eh?”


わたしの解釈には多少の強引さがあるのだが、しかしそう考えるなら探偵の考え方はラカンの対象aの考え方と見事に一致する。S.S.ヴァン・ダインは美術評論家でもあるようだが、わたしはこれを読んで彼の推理小説より美術評論のほうに関心を持った。こんな議論を展開しているなら大いに読む価値がある。さらにこの視角から彼のミステリも読み替えが可能だろうか、と考え出した。わたしが知るかぎり、この一節に注目したヴァン・ダイン論、推理小説論というのは見たことがないのだが。

Thursday, September 26, 2024

クロード・ホートン「隣人たち」

 


Hathi Trust のサイトでクロード・ホートンの Neibours 「隣人たち」を見つけたときはうれしかった。作者の処女作で(1926年)読みたくてたまらなかったからである。処女作だけあって、欠点もあるが、ホートンの出発地点を確認できるという貴重な一作だ。彼の不思議な小説世界は、いったいどのようにして形成されていったのか、そうしたことを考える非常によい材料である。ホートンは今では知っている人はほとんどない作家だ。しかし生前はポピュラーではなかったものの、かなりの評価を得ていた人で、ヒュー・ウォルポールや J.B.プリーストレーのような文壇の大御所からも一目置かれていたのである。ついでに言うと、Internet Archive のサイトには Writers Three: A Literary Exchange on the Works of Claude Houghton with Henry Miller, Claude Houghton, Ben Abramson という書簡集が出ていて、これまた貴重な資料である。そう、ホートンはヘンリー・ミラーからも尊敬されていたのだ。

この小説は、知的で謎めいた出だしが見事で、一気にその独特の世界に引きずり込まれる。


私は自分の人生を生きるのをやめようとしている。他人の人生に巻き込まれ、他人の興味や経験に魅了され、その結果、自分の人生はしだいに後景へと退き、ついにはたんなる影と化してしまうことが、いかに容易に起こりうるかを、もはや手遅れではあるものの、理解した。


いったいどんな筋なのか。

「隣人たち」はとある若者(語り手)、これから世に出て行こうとしている男が屋根裏部屋を借りるところから始まる。彼は野心に満ちた男で、自分が持つ可能性をすべて十全に発揮した人生を送りたいと考えている。彼はあらゆる可能性が自分のなかにあり、そのうちの一つではなく、すべてを開花させようと思っている。その目的に向かって作戦を練るために、とりあえずその屋根裏部屋を借り、方針が定まったらすぐにそこを出ていくはずだった。

ところがあるとき、彼は隣の部屋に別の男が住んでいることに気づく。屋根裏に住んでいるのは自分だけだと思っていたから彼はびっくりする。そして彼の笑い声を聞いた途端、彼はその男を恐れ、強烈に憎み出すのだ。憎み出すと同時に彼から離れられなくなる。二つの部屋を隔てる壁が薄いのか、隣の男の声はすべて聞こえる。彼はそれを徹底的に紙に記録しはじめる。それはどうやら膨大な量になるらしく、あとで自分が書いたものを整理しようとしたとき、部屋のあちこちから出現する記録用紙に彼はてんてこまいしている。彼は自分の存在を消そうとまでする。隣の男(作家で名前はヴィクターという)に自分が住んでいることを気取られまいと、電気を消し、食事は夜中に外に出てすませるという暮らしぶりだ。そしてヴィクターが恋人や友人たちと交わす会話に聞き耳を立て、そのすべてを紙に書きつけていく。その結果、彼はとうとう最初の頃の自分とはまったく違う人間に変貌するのだ。自分自身の影になり、隣の男の影になってしまうのである。彼はついに隣の男を殺そうとする。

この粗筋だけでも本書がキリスト教的な物語であることは明瞭だろう。聖書は「隣人を愛せ」と言う。フロイトは隣人のなかに自分を攻撃する存在を見てしまう人間のありようを問題にした。キルケゴールは「理想的な隣人とは死んだ隣人である」と言い、本書の語り手はそれを実行しようとする。本書は隣人に対する西洋のさまざまな考察の上に立って書かれていることはまちがいない。(もっとも本書の発行は1926年でフロイトの「文化への不満」より四年早く書かれているが)

語り手が記録する隣人の会話も面白い。とくに科学者の卵である友人と、「偶然と必然」を巡って交わす会話、さらに霧の濃い晩に別の友人と「虚構と現実」を巡って交わす会話は興味深い。また隣人が恋人と語り合うなかで、次第に隣人の人となりが明らかになっていくのだが、それが語り手の秘密を開示していくようにも読めて考え込まされた。たとえば作家になろうとする隣人ヴィクターは、まだ何も書かれていない、おろしたての原稿用紙について語る。それを前に机に座る瞬間は、その原稿用紙にどんな内容のことも書けるという、あらゆる可能性に満ちた瞬間だ。それは語り手が冒頭で語る「自分にはあらゆる可能性が眠っている」という感覚とおなじではないだろうか。語り手とヴィクターのあいだには不思議な関係性がある。そしてこの関係性を通して、「書く」という行為をめぐる、これまた不思議な考察が展開されている。しかしこのあたりはまだまだよく考えなければならない。

いずれにしろ後の作品に登場するテーマ群が処女作にほとんどすべてあらわれているのではないだろうか。語り手が隣人の会話を記録し、それに触発された語り手が自分の哲学を語るという、物語的にはほとんど起伏のない展開なのだが、読んで損はしないだけの内容があると思う。


英語読解のヒント(140)

140. go so far as 基本表現と解説 I went so far as Shanghai. 「上海まで行った」 At last he went so far as to draw his sword. 「ついに佩剣を抜くにまでいたった」 go so fa...