「スーパーマッチョ」 Le Surmale, roman moderne by Alfred Jarry
スペイン語の書籍カタログを見ていたら
El Supermacho
なんてタイトルがあった。誰だ、ふざけやがって、と思って作者を見たら、アルフレッド・ジャリとある。ジャリは十九世紀の終わりから二十世紀のはじめにかけて活躍したフランス人の作家・劇作家だ。わたしは作者名を見て、ああ、あれか、と思い出した。El Supermacho は、日本語では「超男性」とか訳されている本だ。そうか、スペイン語では「スーパーマッチョ」なのか。
「超男性」なんて週刊誌の広告にでも出て来そうな言葉だが、実際、絶倫男の話でもあるのだから、この日本語のタイトルは間違いではない。主人公は肉体を鍛錬し、人間をも、機械をも越えようとする。この本を読むと今のボディビルダーがジムで訓練する様子を思わず思い起こす。トレッドミルの上でいつまでも歩き、走り続ける人々。ダンベルを反覆して持ち上げる動作の繰り返し。しかもより大きな重量を扱えるように努力を重ねる。まさしく自己の身体をより優秀な機械に変貌させようとしているのではないか。筋肉を鉄に変えようとしているのではないか。この本の主人公も最後には、肉体を鉄の塊にないあわせるようにして死ぬ。
性行為は愛の行為であり、機械的動作とは対極にあるように思われるが、しかしあれは煎じ詰めれば in-out-in-out という反覆行為に過ぎない。鉄の筋肉を持てば、この反覆行為はいくらでも続けることが出来る。それゆえ主人公は絶倫男、「超男性」なのである。
いったい主人公(マルクイユ)はどれくらいの肉体能力を持っていたのか。それは自転車と汽車による凄絶な一万マイルレースを読めばわかる。無限の運動を可能にする、新発明の永久運動食を食べた五人のサイクリストと、機関車が一万マイル競争をすることになる。五人のサイクリストは一台の自転車、つまり五人乗りの自転車をこぐ。彼らは一秒も休むことなく、糞尿も垂れ流しのまま自転車をこぎ、ついにそのうちの一人は死んでしまうのだが、それでも機関車とデッドヒートを演じながら何昼夜もゴールを目ざす。レースの最中にサイクリストの一人が、彼らの後ろから追いかけてくる一台の自転車に気づく。それは影のように彼らのあとについてきたかと思うと、ゴール直前で彼らを抜き去り、もちろん機関車も抜き去ってゴールする。これが主人公マルクイユである。
「超男性」は、肉体を鉄化する、というある種のロマンティシズム、そしてグロテスクさを描いた代表的な作品と言えるだろう。
もっとも現在のボディビルダーはステロイドにまみれて死んでいく。そこには鉄化とは微妙に違う何かがあるようだ。それを洞察し小説化することはジャリの切り開いた伝統を引き継ぎ、更新することであると思うのだが、なぜかボディビルを扱った作品を小説家は書こうとしない。
Thursday, February 28, 2019
Tuesday, February 26, 2019
2019 チャンピオン・カーニバル
今年のチャンピオン・カーニバルの出場選手とブロック分けが発表された。迫力のあるメンツが揃った。
Aブロックは宮原、ゼウス、石川、青柳、崔、真霜、ジェイムス、ヴァレッタ、岡林。
Bブロックは諏訪魔、野村、リー、ドーリング、ヨシタツ、橋本、アドニス、レッドマン、吉田である。
KAI や火野の名前がないのは寂しいが、ある意味では今までにないくらい所属、他団体・フリー、海外選手のバランスがうまくとれた大会になりそうだ。われわれファンはどうしても馬場社長時代の全日が忘れられず、やはり少なくとも四人くらいは海外の大きな選手が出ていないと、チャンピオン・カーニバルという感じがしないのである。
Aブロックはとんでもない猛者の集まりになっている。誰も怪我をしないで全日程を終了してくれと願うのみである。わたしは実力だけでなく、クレバーさを持ち合わせた真霜が好きなのだが、このリーグ戦を抜けるにはプロレスの技術だけじゃなく運も必要だと思う。
Bブロックにはよく知らない選手が三人もいる。リストの最後の三名のことだ。サム・アドニスは去年も全日に来ていたようだが、試合を見たことがない。全日のホームページに彼の紹介が残っていたが、その写真を見るとなんとメキシコ在住のくせにトランプ大統領支持者であるらしい。キャラづくりでやっているのかどうなのか知らないが、身長が193センチもあるので大暴れして欲しい。
ジョエル・レッドマンはイングランドの出身で三十一歳とまだ若い。宮原と一歳くらいしか違わない。鍛え上げた見事な体つきでハンサムだ。こういう見かけに華のある選手が活躍すると女性ファンも増えるんじゃないだろうか。
吉田隆司は現オープン・ザ・トライアングルゲートの王者であると紹介には書いてある。最近はインディの団体にもものすごい体格の(もちろん実力もある)選手がいてびっくりさせられるが(去年の鷹木信悟はすばらしかった)、吉田はどんな選手なのか、試合を見るのが楽しみだ。
去年は秋山と丸藤のあいだにある「因縁」がリーグ戦にピリッとした味わいを与えていたが、今年は凄絶な星争いに終始するかも知れない。
Aブロックは宮原、ゼウス、石川、青柳、崔、真霜、ジェイムス、ヴァレッタ、岡林。
Bブロックは諏訪魔、野村、リー、ドーリング、ヨシタツ、橋本、アドニス、レッドマン、吉田である。
KAI や火野の名前がないのは寂しいが、ある意味では今までにないくらい所属、他団体・フリー、海外選手のバランスがうまくとれた大会になりそうだ。われわれファンはどうしても馬場社長時代の全日が忘れられず、やはり少なくとも四人くらいは海外の大きな選手が出ていないと、チャンピオン・カーニバルという感じがしないのである。
Aブロックはとんでもない猛者の集まりになっている。誰も怪我をしないで全日程を終了してくれと願うのみである。わたしは実力だけでなく、クレバーさを持ち合わせた真霜が好きなのだが、このリーグ戦を抜けるにはプロレスの技術だけじゃなく運も必要だと思う。
Bブロックにはよく知らない選手が三人もいる。リストの最後の三名のことだ。サム・アドニスは去年も全日に来ていたようだが、試合を見たことがない。全日のホームページに彼の紹介が残っていたが、その写真を見るとなんとメキシコ在住のくせにトランプ大統領支持者であるらしい。キャラづくりでやっているのかどうなのか知らないが、身長が193センチもあるので大暴れして欲しい。
ジョエル・レッドマンはイングランドの出身で三十一歳とまだ若い。宮原と一歳くらいしか違わない。鍛え上げた見事な体つきでハンサムだ。こういう見かけに華のある選手が活躍すると女性ファンも増えるんじゃないだろうか。
吉田隆司は現オープン・ザ・トライアングルゲートの王者であると紹介には書いてある。最近はインディの団体にもものすごい体格の(もちろん実力もある)選手がいてびっくりさせられるが(去年の鷹木信悟はすばらしかった)、吉田はどんな選手なのか、試合を見るのが楽しみだ。
去年は秋山と丸藤のあいだにある「因縁」がリーグ戦にピリッとした味わいを与えていたが、今年は凄絶な星争いに終始するかも知れない。
Monday, February 25, 2019
文学とは
ほとんどの人が絶望的なまでに誤解していることなのだが、文学というのは、まさしく文学を批判することなのである。うんとわかりやすく言うと、蝶よ、花よと歌うことが文学ではなく、そうした文学に対する観念を批判することこそ文学なのである。
そして文学とは閑文字なりと思い込んでいる人々こそ、こうした「ダメな」文学的観念にやられてしまう。最近のいい例は安倍首相で、自衛官の息子が「自衛隊は違法なのか」と眼に涙をためて尋ねた、などと話をしている。「眼に涙をためて」。文学を知らない人は、自分が文学にやられていることを知らない。
Sunday, February 24, 2019
COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS
早稲田大學敎授 深澤裕次郎著
應用英文解釋法
東京英文週報社發行
(p. 3-7)
範例
I
(a) There is (he has) queerness about him.
(b) There is (he has) queer look about him.
(c) Is there (has he) anything queer abuot him?
(d) There is (he has) something queer about him.
(e) There is (he has) nothing queer about him.
II
(a) There is (he has) queerness in him.
(b) There is (he has) queer look in him.
(c) Is there (has he) anything queer in him?
(d) There is (he has) something queer in him.
(e) There is (he has) nothing queer in him.
I & II
(a) 彼には奇異(な性質)が有る。
(b) 彼には奇異なところが有る。
(c) 彼には何か奇異なところが有るか。
(d) 彼には何やら奇異なところが有る。
(e) 彼には少しも奇異なところは無い。
解説
about(周圍に)、in(中に)は或る性質、趣等が人或は物に附屬する意を示すPreposition にして前者は偶然外部に附着し、後者は必然内部に固有する意有り。
Anything, something, nothing の thing は一種の Pronoun の如き役目を爲すものにして本文の如き場合にありては air, look 等に相當するものなり、故に(c)(d)(e)の anything, something, nothing は(b)の look の Pronoun たる thing に any, some, no
の加はりたるものなり。
用例
1. There is a great mystery about it.
Mark Twain
それには非常に不思議な點が有る。
2. She has not a cheerful feature about her.
Max O'Rell
彼女には快活な所は無い。
3. There is cheefulness about flowers.
S. Smiles
花には快活な趣が有る。
4. There never was any truly great man with less of brag about him.
三四・海兵
古來如何なる偉人にても彼ぐらゐ自慢氣の少ない人は無かつた。
5. But with strangers there was a certain severity of manner about her.
A. Trollope
併し知らない人に對しては此女には一種過酷な樣子が有つた。
6. There was about Mrs. Reed a kindly manner wich pleased all who knew her.
N. N. R. IV.
リード夫人には親切な所が有て知る者皆喜んで居た。
7. Very well, then, I don't see that there is any mystery about it, after all.
Mark Twain
併しさうした所で別段それに不思議が有るとは思ひません。
8. She has a timid look about her.
V. Hugo
彼女には臆病な樣子が有る。
9. There was an air of respectability about her.
Max O'Rell
彼女には尊敬す可き趣が有る。
10. He was not sailorly, and yet he had a smack of the sea about him too.
R. L. Stevenson
彼は船頭のやうでは無かつたが、併しまた彼には何となく海臭いところが有つた。
11. There was nothing commonplace about it {=face}.
M. Clay
それには平凡なところは少しもなかつた。
12. There was nothing ignominious about poverty.
S. Smiles
貧窮は耻づ可きで無い。
13. In other respects there was nothing remarkable about it.
G. R. Sims
他の點に於いては何も變つた所は無かつた。
14. Now, it is a fact that there was nothing at all particular about the knocker on the door, except that it was very large.
C. Dickens
さて、其戸叩きにはそれが非常に大きかつたと云ふ外變つた所は少しも無かつた。
15. The clock was hard on ten when the patrol went by with halberds and a lantern, beating their hands; and they saw nothing suspicious about the cemetery of St. John.
R. L. Stevenson
夜番が其手を打ち乍ら戟と角燈を携へて通つたのは十時近くであつたがセント・ヂヨンの墓所には何の變りも無かつた。
hard on 近く
16. On the outside, the private mansions have nothing remarkable about them; but what wealth and luxury was hidden behind their high dark walls?
Max O'Rell
これ等私邸の外部には何等變りたる所なし、されど其高き暗き壁の後に隱るゝ富と驕奢とは幾何ぞや。
17. I always think that there is something human about them {=the baboons}.
H. R. Haggard
私はいつもさう思ふ事だが彼等(狒々)には何となく人間らしいところがある。
18. There was something original, independent, and heroic about the plan that pleased the camp.
Bret Harte
其考には人夫全體の満足を買つた斬新な、掛け離れた、勇ましい所が有つた。
19. The evening before I had detected something forced, something not quite natural about her.
Turgenev
前夜私は彼女の樣子に無理な所、全く自然で無い所の有るのを見た。
20. There was something of a gymnast about him; he used with great facility his right hand or his left hand.
V. Hugo
彼には體育家の趣が有つて、右手をも左手をも自由自在に用ひた。
21. As I saw the landscape under these atmospheric aspects, there was something positively ghastly about it.
J. E. Muddock
斯う云ふ天氣模樣で四圍の光景を眺めた時には確かに氣味惡い趣が有つた。
22. Altogether he reminded me forcibly of a gorilla, and there was something very pleasing and genial about the man's eye.
R. Haggard
全體から云ふと、どうしても彼は猖々としか思へなかつたが其眼には非常に氣持の善い優しい樣子が有つた。
riminded me...of「を私に思ひ起さしめた」「を私に思はせた」。
23. This place has something of the solemn grandeur of a wood about it...something uncultivated that delights the eye.
Max O'Rell
此公園には森林の如き雄大の趣が有る、人目を喜ばす自然の儘の趣が有る。
24. There was something so awful, though, about talking with living, sinful lips to the ghastly dead, that I could not hardly bring myself to rise and speak.
Mark Twain
併し此生きてる罪の深い唇で亡靈と話をするのは何となく恐ろしくて殆ど立ち上つて切り出す勇氣が無かつた。
bring myself to...する氣になる。
25. I hate a man who goes to sleep at once; there is a sort of indefinable something about it which is not exactly an insult, and yet is an insolence; and one which is hard to bear.
Mark Twain
俺は直ぐねる人間は嫌ひだ、直ぐねると云ふ事には元より侮辱ではないが、無禮とでも云はうか一種名の附けようの無いものが有る、耐え難いものが有る。
26. There is something fiendish in the look of exulation that delights Arthur Dynecourt's face.
The Duchess アーサー・ダインコートの顔に浮んだ得意の樣子には惡魔の樣な趣がある。
27. When her husband was paying the bill there was something disagreeable in the eye of the man who was taking the money.
A. Trollope
良人が勘定を拂つて居る時金を請取つて居る男の眼中にいやな樣子が有つた。
28. He left the bench, walked straight up to the man, and with his eagle eye actually cowed the man, who dropped the weapons, afterwards saying, "There was something in the eye I could not resist."
O. S. Marden
彼は椅子を離れ、眞直ぐに其男の所に進んで行き其鷲の樣な眼を以てとうとう其男を威壓して了つたので、其男は武器を落して了つた。そして後になつて斯う云つた「あの人の眼には私に抵抗の出來ぬ何かがある」。
29. She was aware that it was not his wont to be so loud -- that there was generally something more delicate and perhaps more querulous in his nocturnal voice, but then the present circumstances were exceptional.
A. Trollope
こんなに鼾の高いのは例で無いと云ふこと、鼻息に何となく平素より優しい所が有り、平素より震へて居る樣子があると云ふ事を夫人は知つたのである、けれども今日の場合は別物である。
30. If there should be anything disagreeable in the operation, he must submit to it.
A. Trollope
よし其手術にいやな所が有つても、彼はそれを忍ばなくてはならぬ。
**********
トランスクライバー独白
29 の訳文はあまりよくない。「彼女は鼾がいつもよりひどく高いことに気づいた。普段はもっとかすかで、震えるような感じがあるのだが、そのときの鼾は異常だった」
應用英文解釋法
東京英文週報社發行
(p. 3-7)
範例
I
(a) There is (he has) queerness about him.
(b) There is (he has) queer look about him.
(c) Is there (has he) anything queer abuot him?
(d) There is (he has) something queer about him.
(e) There is (he has) nothing queer about him.
II
(a) There is (he has) queerness in him.
(b) There is (he has) queer look in him.
(c) Is there (has he) anything queer in him?
(d) There is (he has) something queer in him.
(e) There is (he has) nothing queer in him.
I & II
(a) 彼には奇異(な性質)が有る。
(b) 彼には奇異なところが有る。
(c) 彼には何か奇異なところが有るか。
(d) 彼には何やら奇異なところが有る。
(e) 彼には少しも奇異なところは無い。
解説
about(周圍に)、in(中に)は或る性質、趣等が人或は物に附屬する意を示すPreposition にして前者は偶然外部に附着し、後者は必然内部に固有する意有り。
Anything, something, nothing の thing は一種の Pronoun の如き役目を爲すものにして本文の如き場合にありては air, look 等に相當するものなり、故に(c)(d)(e)の anything, something, nothing は(b)の look の Pronoun たる thing に any, some, no
の加はりたるものなり。
用例
1. There is a great mystery about it.
Mark Twain
それには非常に不思議な點が有る。
2. She has not a cheerful feature about her.
Max O'Rell
彼女には快活な所は無い。
3. There is cheefulness about flowers.
S. Smiles
花には快活な趣が有る。
4. There never was any truly great man with less of brag about him.
三四・海兵
古來如何なる偉人にても彼ぐらゐ自慢氣の少ない人は無かつた。
5. But with strangers there was a certain severity of manner about her.
A. Trollope
併し知らない人に對しては此女には一種過酷な樣子が有つた。
6. There was about Mrs. Reed a kindly manner wich pleased all who knew her.
N. N. R. IV.
リード夫人には親切な所が有て知る者皆喜んで居た。
7. Very well, then, I don't see that there is any mystery about it, after all.
Mark Twain
併しさうした所で別段それに不思議が有るとは思ひません。
8. She has a timid look about her.
V. Hugo
彼女には臆病な樣子が有る。
9. There was an air of respectability about her.
Max O'Rell
彼女には尊敬す可き趣が有る。
10. He was not sailorly, and yet he had a smack of the sea about him too.
R. L. Stevenson
彼は船頭のやうでは無かつたが、併しまた彼には何となく海臭いところが有つた。
11. There was nothing commonplace about it {=face}.
M. Clay
それには平凡なところは少しもなかつた。
12. There was nothing ignominious about poverty.
S. Smiles
貧窮は耻づ可きで無い。
13. In other respects there was nothing remarkable about it.
G. R. Sims
他の點に於いては何も變つた所は無かつた。
14. Now, it is a fact that there was nothing at all particular about the knocker on the door, except that it was very large.
C. Dickens
さて、其戸叩きにはそれが非常に大きかつたと云ふ外變つた所は少しも無かつた。
15. The clock was hard on ten when the patrol went by with halberds and a lantern, beating their hands; and they saw nothing suspicious about the cemetery of St. John.
R. L. Stevenson
夜番が其手を打ち乍ら戟と角燈を携へて通つたのは十時近くであつたがセント・ヂヨンの墓所には何の變りも無かつた。
hard on 近く
16. On the outside, the private mansions have nothing remarkable about them; but what wealth and luxury was hidden behind their high dark walls?
Max O'Rell
これ等私邸の外部には何等變りたる所なし、されど其高き暗き壁の後に隱るゝ富と驕奢とは幾何ぞや。
17. I always think that there is something human about them {=the baboons}.
H. R. Haggard
私はいつもさう思ふ事だが彼等(狒々)には何となく人間らしいところがある。
18. There was something original, independent, and heroic about the plan that pleased the camp.
Bret Harte
其考には人夫全體の満足を買つた斬新な、掛け離れた、勇ましい所が有つた。
19. The evening before I had detected something forced, something not quite natural about her.
Turgenev
前夜私は彼女の樣子に無理な所、全く自然で無い所の有るのを見た。
20. There was something of a gymnast about him; he used with great facility his right hand or his left hand.
V. Hugo
彼には體育家の趣が有つて、右手をも左手をも自由自在に用ひた。
21. As I saw the landscape under these atmospheric aspects, there was something positively ghastly about it.
J. E. Muddock
斯う云ふ天氣模樣で四圍の光景を眺めた時には確かに氣味惡い趣が有つた。
22. Altogether he reminded me forcibly of a gorilla, and there was something very pleasing and genial about the man's eye.
R. Haggard
全體から云ふと、どうしても彼は猖々としか思へなかつたが其眼には非常に氣持の善い優しい樣子が有つた。
riminded me...of「を私に思ひ起さしめた」「を私に思はせた」。
23. This place has something of the solemn grandeur of a wood about it...something uncultivated that delights the eye.
Max O'Rell
此公園には森林の如き雄大の趣が有る、人目を喜ばす自然の儘の趣が有る。
24. There was something so awful, though, about talking with living, sinful lips to the ghastly dead, that I could not hardly bring myself to rise and speak.
Mark Twain
併し此生きてる罪の深い唇で亡靈と話をするのは何となく恐ろしくて殆ど立ち上つて切り出す勇氣が無かつた。
bring myself to...する氣になる。
25. I hate a man who goes to sleep at once; there is a sort of indefinable something about it which is not exactly an insult, and yet is an insolence; and one which is hard to bear.
Mark Twain
俺は直ぐねる人間は嫌ひだ、直ぐねると云ふ事には元より侮辱ではないが、無禮とでも云はうか一種名の附けようの無いものが有る、耐え難いものが有る。
26. There is something fiendish in the look of exulation that delights Arthur Dynecourt's face.
The Duchess アーサー・ダインコートの顔に浮んだ得意の樣子には惡魔の樣な趣がある。
27. When her husband was paying the bill there was something disagreeable in the eye of the man who was taking the money.
A. Trollope
良人が勘定を拂つて居る時金を請取つて居る男の眼中にいやな樣子が有つた。
28. He left the bench, walked straight up to the man, and with his eagle eye actually cowed the man, who dropped the weapons, afterwards saying, "There was something in the eye I could not resist."
O. S. Marden
彼は椅子を離れ、眞直ぐに其男の所に進んで行き其鷲の樣な眼を以てとうとう其男を威壓して了つたので、其男は武器を落して了つた。そして後になつて斯う云つた「あの人の眼には私に抵抗の出來ぬ何かがある」。
29. She was aware that it was not his wont to be so loud -- that there was generally something more delicate and perhaps more querulous in his nocturnal voice, but then the present circumstances were exceptional.
A. Trollope
こんなに鼾の高いのは例で無いと云ふこと、鼻息に何となく平素より優しい所が有り、平素より震へて居る樣子があると云ふ事を夫人は知つたのである、けれども今日の場合は別物である。
30. If there should be anything disagreeable in the operation, he must submit to it.
A. Trollope
よし其手術にいやな所が有つても、彼はそれを忍ばなくてはならぬ。
**********
トランスクライバー独白
29 の訳文はあまりよくない。「彼女は鼾がいつもよりひどく高いことに気づいた。普段はもっとかすかで、震えるような感じがあるのだが、そのときの鼾は異常だった」
Friday, February 22, 2019
闘う文学者
トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を作ろうとしているが、ミステリ作家のドン・ウインズローがそのことに関しツイッター上で「フォックス・ニュースでおれと討論しようぜ」と持ちかけた。それを知ったスティーブン・キングは、「そいつは見たいな。一万ドル出すぜ」とウインズローに言った。ただし二十一日の時点ではトランプからはまだ返事がないそうだ。
ウインズローが出したツイートの内容はこんな感じだ。「親愛なる本物のトランプよ。トランプ・ウオールについて議論しようぜ。そして国民に決定してもらおう。おれはあんたのニュース・ネットワークにだって出る。フォックス・ニュースだ。どんな番組でもいい。アンカーも誰でもいい。時間もいつだっていい。大統領選挙のときは十八人の共和党の人間と議論したんだから、作家を一人相手にするくらい朝飯前だろう。返事を待つ」
これはガーディアンの記事を読んで知ったのだが、彼はもとから壁の設置に反対していて、二年前には全面広告を出して「交通事故でより薬物の過剰摂取で死ぬ人が多いこの時代、ドラッグ問題を根本的に解決する代わりにトランプは国境の壁というファンタジーをわれわれに与えようとしている。そんなものはドラッグの流入を防ぐのにちっとも役に立たないのだが」
彼はこんな具合にさかんにトランプ批判をやっているようだ。キングもトランプにたいして臆することなく批判する。つい先日、トランプの国家非常事態宣言に対して「民主主義からの大きな後退、独裁主義への大きな前進だ。二百年以上つづいてきたアメリカの統治の形を彼は破壊しようとしている」とやった。
ひるがえって日本の作家はどうだろう。文化人はどうだろう。議論しようぜ、と安倍首相にもちかける人間はいるだろうか。そっちの都合のいい条件を呑んでやる、と言える人はいるだろうか。わたしはおそらく野坂昭如ならやっていただろうな、と思う。かなり確信を持ってそう思う。
しかし不幸なのは安倍にしろトランプにしろ教養がないから(どちらもゴルフはするが読書はしない)議論らしい議論にならないという点が残念である。論点をずらすとかヒステリックに関係のない話をするとか(とくに安倍)、そんな程度しかできないのだ。論理的に問い詰めることを知っているなら高校生でも安倍首相を容易に窮地に追いやることが出来るのだろう。
だからだろう、ウインズローがディベートのセッティングはいっさい大統領の判断に任せると言ったのは。まともにやったのではトランプ不利は明白。そこで相手の都合のいい条件、たとえばアンカーがトランプに口添えすることもできるような状況でやろうと言ったのだ。さすがアメリカ人、ウエスタンに出てくるガンマンのような格好良さだ。わたしはウインズローが最近出した「国境」という本をさっそく読んでみようと思う。
ウインズローが出したツイートの内容はこんな感じだ。「親愛なる本物のトランプよ。トランプ・ウオールについて議論しようぜ。そして国民に決定してもらおう。おれはあんたのニュース・ネットワークにだって出る。フォックス・ニュースだ。どんな番組でもいい。アンカーも誰でもいい。時間もいつだっていい。大統領選挙のときは十八人の共和党の人間と議論したんだから、作家を一人相手にするくらい朝飯前だろう。返事を待つ」
これはガーディアンの記事を読んで知ったのだが、彼はもとから壁の設置に反対していて、二年前には全面広告を出して「交通事故でより薬物の過剰摂取で死ぬ人が多いこの時代、ドラッグ問題を根本的に解決する代わりにトランプは国境の壁というファンタジーをわれわれに与えようとしている。そんなものはドラッグの流入を防ぐのにちっとも役に立たないのだが」
彼はこんな具合にさかんにトランプ批判をやっているようだ。キングもトランプにたいして臆することなく批判する。つい先日、トランプの国家非常事態宣言に対して「民主主義からの大きな後退、独裁主義への大きな前進だ。二百年以上つづいてきたアメリカの統治の形を彼は破壊しようとしている」とやった。
ひるがえって日本の作家はどうだろう。文化人はどうだろう。議論しようぜ、と安倍首相にもちかける人間はいるだろうか。そっちの都合のいい条件を呑んでやる、と言える人はいるだろうか。わたしはおそらく野坂昭如ならやっていただろうな、と思う。かなり確信を持ってそう思う。
しかし不幸なのは安倍にしろトランプにしろ教養がないから(どちらもゴルフはするが読書はしない)議論らしい議論にならないという点が残念である。論点をずらすとかヒステリックに関係のない話をするとか(とくに安倍)、そんな程度しかできないのだ。論理的に問い詰めることを知っているなら高校生でも安倍首相を容易に窮地に追いやることが出来るのだろう。
だからだろう、ウインズローがディベートのセッティングはいっさい大統領の判断に任せると言ったのは。まともにやったのではトランプ不利は明白。そこで相手の都合のいい条件、たとえばアンカーがトランプに口添えすることもできるような状況でやろうと言ったのだ。さすがアメリカ人、ウエスタンに出てくるガンマンのような格好良さだ。わたしはウインズローが最近出した「国境」という本をさっそく読んでみようと思う。
Thursday, February 21, 2019
H.G.ウエルズの「ワシントンと平和の謎」から
本書には次のような一節がある。
これは今でも変わらない。なぜ安倍政権がつづくのか。日本人は、「従え」と命令する首長を好むからだろう。それで生活が経済的に苦しくなろうが、関係ない。それどころか「苦しくても従う」というところにある種の快楽・享楽を見出しているのだ。このマゾヒスト的な快楽・享楽こそ日本的性格の根本にあるのではないか。
谷崎潤一郎が描くマゾヒスチックな快楽も、じつはこれと関連している。「春琴抄」において佐助は春琴に献身的につくす。春琴の暴力的なわがままにひたすら耐える。そして春琴がその美を失っても、みずから失明することにより、不都合な現実を見ないことにする。晩年の春琴はさすがに弱気になったようだが、佐助はそれを許さず、あくまで彼女を玉座につけ、自分はその前にかしずこうとする。これはマゾヒスチックな享楽を決して手放さなかった男の物語であり、日本人の本質に迫るという意味で傑作なのだと思う。
ただウエルズのようにこのような特質が「大西洋の国の人々」にないとはいえない。たとえばドイツはどうだろうか。ゲッベルスが国民にむかって「今まで味わったことのない苦難が強いられることになるが、きみたちはそれに耐えられるか」と言ったとき、国民は大歓呼して苦難を味わおうと答えたのである。
わたしはこれと同じことが近い将来日本に起きても驚かないし、現在それは起きていると考えてもいいのだと思う。誰もが日本の豊かさに関する政府の統計が嘘であることを知っている。そして今後生活はさらに苦しくなることを知っている。しかしほとんどの人はそれを喜んで受け入れようとしているのだ。政府は無言のうちにこういうメッセージを発している。「その通り、統計にあらわれた豊かさなんてまやかしだ。諸君は苦しい生活を送っている。しかしこれからはもっと苦しい生活になるだろう。きみたちはそれを迎え入れるか」国民はそれに対して言いしれぬ享楽を感じ、無言の内に歓呼しているのである。
ウエルズの本(Washington and the Riddle of Peace)はプロジェクト・グーテンバーグで読める。
Japan is not a people trying to express itself through a Government as we Atlantic peoples are, but a Government, a small ruling class, in effective possession of an obedience-loving people.
日本は大西洋の国の人々と違い、その国民は政府を通して自己を表現しようとしない。逆に少数の支配階級によってつくられる政府が実質上、従順に従うことを好む人々を支配している。
これは今でも変わらない。なぜ安倍政権がつづくのか。日本人は、「従え」と命令する首長を好むからだろう。それで生活が経済的に苦しくなろうが、関係ない。それどころか「苦しくても従う」というところにある種の快楽・享楽を見出しているのだ。このマゾヒスト的な快楽・享楽こそ日本的性格の根本にあるのではないか。
谷崎潤一郎が描くマゾヒスチックな快楽も、じつはこれと関連している。「春琴抄」において佐助は春琴に献身的につくす。春琴の暴力的なわがままにひたすら耐える。そして春琴がその美を失っても、みずから失明することにより、不都合な現実を見ないことにする。晩年の春琴はさすがに弱気になったようだが、佐助はそれを許さず、あくまで彼女を玉座につけ、自分はその前にかしずこうとする。これはマゾヒスチックな享楽を決して手放さなかった男の物語であり、日本人の本質に迫るという意味で傑作なのだと思う。
ただウエルズのようにこのような特質が「大西洋の国の人々」にないとはいえない。たとえばドイツはどうだろうか。ゲッベルスが国民にむかって「今まで味わったことのない苦難が強いられることになるが、きみたちはそれに耐えられるか」と言ったとき、国民は大歓呼して苦難を味わおうと答えたのである。
わたしはこれと同じことが近い将来日本に起きても驚かないし、現在それは起きていると考えてもいいのだと思う。誰もが日本の豊かさに関する政府の統計が嘘であることを知っている。そして今後生活はさらに苦しくなることを知っている。しかしほとんどの人はそれを喜んで受け入れようとしているのだ。政府は無言のうちにこういうメッセージを発している。「その通り、統計にあらわれた豊かさなんてまやかしだ。諸君は苦しい生活を送っている。しかしこれからはもっと苦しい生活になるだろう。きみたちはそれを迎え入れるか」国民はそれに対して言いしれぬ享楽を感じ、無言の内に歓呼しているのである。
ウエルズの本(Washington and the Riddle of Peace)はプロジェクト・グーテンバーグで読める。
Wednesday, February 20, 2019
全日本プロレス ジュニアヘビー級リーグ戦決勝
ジュニアヘビー級のリーグ戦は吉岡世起と岩本煌史で決勝を戦うことになった。W-1 対 全日本という構図、そして生きのいい若い世代のぶつかり合い、じつにいい組み合わせが実現した。
吉岡はきっと決勝に出てくるとリーグ前から思っていた。彼は勝負に貪欲で、どこかぎらぎらしている。まだ子供っぽさを残した顔立ちだが、野性味も兼ね備えていて、持ち技はあらあらしく多彩だ。わたしはこういう一匹狼的なレスラーが好きである。
岩本は初戦で鈴木鼓太郎に敗れ、どうなるかと思ったが、その後持ち直したのは立派である。彼は吉岡とは逆に、闘志を内に秘めるタイプだ。最近は技の使い方・タイミングに工夫を凝らし、戦い方がすこしうまくなったようだ。たとえば彼の得意技の払い腰(わたしは「孤高の芸術」という名称を好まない)を、相手が予期しない場面で使うようになった。相手の意表を突けば技の威力は何倍にもなる。そういう効率的な戦い方をおぼえてきた気がする。
岩本はチャンピオンだが、吉岡を格上の選手くらいに考えて試合に臨まないと、えらいことになるだろう。吉岡の技の豊富さとスピードに翻弄されるか、それとも岩本が吉岡の動きを読んで返し技をかけるか。普段から戦っている相手ではないので、岩本の対応能力が問われると思う。
吉岡はきっと決勝に出てくるとリーグ前から思っていた。彼は勝負に貪欲で、どこかぎらぎらしている。まだ子供っぽさを残した顔立ちだが、野性味も兼ね備えていて、持ち技はあらあらしく多彩だ。わたしはこういう一匹狼的なレスラーが好きである。
岩本は初戦で鈴木鼓太郎に敗れ、どうなるかと思ったが、その後持ち直したのは立派である。彼は吉岡とは逆に、闘志を内に秘めるタイプだ。最近は技の使い方・タイミングに工夫を凝らし、戦い方がすこしうまくなったようだ。たとえば彼の得意技の払い腰(わたしは「孤高の芸術」という名称を好まない)を、相手が予期しない場面で使うようになった。相手の意表を突けば技の威力は何倍にもなる。そういう効率的な戦い方をおぼえてきた気がする。
岩本はチャンピオンだが、吉岡を格上の選手くらいに考えて試合に臨まないと、えらいことになるだろう。吉岡の技の豊富さとスピードに翻弄されるか、それとも岩本が吉岡の動きを読んで返し技をかけるか。普段から戦っている相手ではないので、岩本の対応能力が問われると思う。
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