1930年に出たクレメンス・デイン(Clemence Dane)の「印刷屋の徒弟」(Printer's Devil)を読んでいたら、巻末に新刊本の広告が出ていた。どの本にも十数行の梗概が付されていて、内容がだいたい推測できる。こういう巻末広告は、あまり有名ではない作品を漁っている私のような人間には非常にありがたい。防備録がわりにここに書きつけておく。
The Golden Pound by A. S. M. Hutchinson
短編集。ハッチンソン(1879-1971)は新聞雑誌の編集者をしつつロマンスや家族を主題にした小説を書いた。If Winter Comes は不幸な結婚、離婚、シングルマザーの自殺を描く。1922年、アメリカでベストセラーとなる。フェミニストから批判のある This Freedom は1924年にベストセラーリスト入りしている。さらに翌年、One Increasing Purpose もベストセラーリスト入り。
The English Paragon by Marjorie Bowen
アキテーヌをめぐるエドワード黒太子とフランスの戦いを描く。
The Little Dog Laughed by Leonard Merrick
メリックはごくありきたりの主題を一見して平易な文章でたんたんと綴るのだが、読み進めるとフランス的なエスプリを利かせていることがわかる、なかなか巧妙な作家である。
Blue Flames by Richmal Crompton
クロンプトンは「ジャスト・ウィリアム」のシリーズで有名な作家。
The Knife Behind the Curtain by Valentine Williams
第一次大戦中のスパイの活躍を描いてわりと名前の知られた作家。本書はミステリ短編集。
The Last Hero by Leslie Charteris
「サイモン・テンプラー」ものの一作。
Fair Stood the Wind by C. Lenanton
全く知らない作家。梗概によるとミセス・オリファントが総勢十一名のさまざまな客を引き連れ、フランスとイタリアを自動車で旅行する様子を描いているらしい。
Earth-Battle by Dorothy Cottrell
コットレル(1902-1957)はオーストラリアの作家で生涯車いすで過ごした人らしい。本書は牧羊業者がクイーンズランドの土地を耕し、それをすべて失うまでの歳月を描いているらしい。
The Peeping Tower by J. E. Buckrose
これまた全く知らない作家。しかし今回のリストの中で一番興味をそそる内容。六十歳のミセス・クイーディはふと耳にした他人の発言から、自分が無価値な人間と思われていることを知り、田舎の村にあるうらびれた屋敷に閉じこもる。ところがこの村はよそ者を嫌い、ひどく迷信的で、ミセス・クイーディとのあいだに緊張が高まっていく。
Spiderweb by Alice Campbell
Project Gutenberg にはキャンベルの Juggernaut が収録されていて、たぶんこれは読んでいるはずだが、内容はまったく記憶が無い。本書はキャサリン・ウエストという美しい娘が、パリにあるいとこの立派なフラットで徐々に死へと追い詰められていく物語だそうだ。
The Thirty Thieves by B. Dyke Acland
知らない作家。本書は第一次大戦後の政治に対する風刺になっているらしいが、滑稽で生き生きしていて、苦々しい味わいはないと書いてある。
On Helle's Wave by Hugh Imber
インバーと読むのだろうか、この人は The Spine という小説でデビューし、その次作として本書を出したようだ。梗概によるといずれも世評は高かったらしい。中近東を舞台にしたロマンスまじりのスパイ小説といったところ。
A Poor Man Came in Sight by E. Godfray Sellick
十四世紀のイギリスを舞台に、とある商人が妻の情人を殺し、その償いにカンタベリーへと巡礼の旅をするという話。
The Splendour of God by Honore Willsie Morrow
十九世紀にビルマへ赴いた宣教師の物語。実在した人物の伝記に基づく作品らしい。
The Vantine Diamonds by Seamark
盗まれたダイヤモンドをめぐる主人公クリス・カーテリー、警察、ギャング達の闘争。
The Honourable Pursuit by Patrick Wynnton
密輸入を主題にした冒険物語。最近気がついたが、この当時は密輸入を扱った冒険小説がけっこう書かれている。