Sunday, July 30, 2023

エリザベス・サンクセイ・ホールディング「鳥影」

ホールディングの作品はかなり読んでいるが「鳥影」のようなSFじみた作品も書いているとは思わなかった。

アメリカに異変が起きる。鳥が昆虫を食べなくなったのである。また鳥たちは大群をなしてどこかへ飛んで行くようになった。鳥が大群をなすときは同一種の鳥がかたまるものだが、この異変においては雑多な鳥がまじっている。彼らがどこへ向かうのかはわからない。

鳥が昆虫を食べないものだから農作物に影響が出始める。家畜の飼料にも被害が出、林業も危機的状況に陥る。食品は値上がりし、紙の価格が高騰するというわけだ。

さて、スタンという一介の市民がこの異変の原因を突き止めようとする。彼は大群をなす鳥にむかって発砲し、数羽を傷つけ、ほとんど飛べなくなった鳥のあとをつけて、彼らの目的地をさぐる。なんとそれは川のほとりにぽっかりとあいた穴蔵だった。そこには虫がうじゃうじゃうごめいていて、鳥たちはそれを食べに穴蔵に入って行く。

そのときだ。スタンは三人の小人がパラシュートをつけて空から舞い降りてくるのを見る。そしてそのうちの一人がテレパシーのような力でスタンにこんな情報を与えるのだ。「われわれの惑星は人口が増えすぎ、新たな惑星を必要としている。ついては地球から人間を追い払い、われわれのものとしようと思う。今回の異変は地球乗っ取り計画の一部である」

スタンは命からがら異星人の手をのがれ、警察に保護されるのだが、彼が経験したことを警察や政府関係者に話しても信じてもらえない。証拠がなにもないからである。彼は異星人の一人を射殺して、その死体を車に乗せていたのだが、それも消えてしまっていた。

彼は家に帰り、ラジオを聞いた。すると鳥類の専門家が鳥の大群の行き先を発見し、そこにある穴をつぎつぎと破壊したところ、鳥は今までとおなじように虫を食べはじめ、アメリカが直面していた危機は回避されたようだとニュースで報じられていた。

宇宙人の侵略を知った主人公が周囲の人々に警告するが、周囲はそれを妄想扱いするという、SFではよくある設定だが、この作品はそれが用いられたごく初期の作品になるのではないだろうか。面白い短編だった。

Thursday, July 27, 2023

メタレベル、オブジェクト・レベル

スラヴォイ・ジジェクが講演でよく使う冗談のネタに、ヒトラーとスターリンが演説後の拍手に対する対応の違いというのがある。ヒトラーが演説を終え、聴衆が万雷の拍手をすると、彼はただ頷いてそれを受け容れる。しかしスターリンは聴衆と一緒に拍手する。スターリンの考えでは、自分は民衆の一人であって、ただ(おそらくは天上にでもいるのであろう)彼らの導き手の代わりに話をしただけなのである。スターリンはその導き手に対して民衆と一緒に拍手を送ったというわけだ。

この導き手という概念をメタレベルとすれば、ヒトラーは自分がメタレベルであることを自認していることになる。それにたいしてスターリンはメタレベルであるのにオブジェクト・レベルの一員であるかのようにわざと振る舞っているということになるだろう。わたしはメタレベルがオブジェクト・レベルにたたみ込まれる構造にちょっと関心があるので、スターリン的な独裁主義がこの形を取ることに非常な興味を覚える。考えて見れば father figure というのはメタレベルに存在するから father figure なのだろう。メモ代わりにここに書きつけて置く。


Monday, July 24, 2023

モーリス・プロクター「潜入捜査官」

 

モーリス・プロクターは六十年くらい前に

・Hell is a City

・The Chief Inspector's Statement (The Penycross Murders)

・The Speahead Death

・Devil in Moon Light

・Killer at Large

の五冊が翻訳されたようだが、それ以後はまるで無視されているようだ。しかしこの作者はじつにしっかりした文章を書く人で、私はその才能を大いにかっている。文章の上手な人が書いたジャンル小説はどれもひどいはずれがない。

本作の舞台はイギリスの労働者階級が居住するある工場地帯で、そこにあるパブの店主が地下室で死体となって発見される。この店主はコインの収集家で、彼の部屋を調べると金貨ばかりがすっかり盗まれていた。どうやら金目当ての殺人らしい。

この事件の捜査で活躍するのがビル・ナイトという新人警官である。彼は警官という身分を偽って労働者としてこの地区に住み込み、容疑者の行動を警察本部に連絡する。そして徐々に犯人を追い詰めていくのだ。

乱暴者とビルが喧嘩をする場面はあるが、とくに派手なアクションが展開されるわけではない。しかし物語はなかなか興味深い。なによりいいのは、作中人物の性格がくっきりと浮かび上がってくる点だ。ビルが下宿する宿のおかみさん、その不良息子、娘たち、パブを出入りする荒くれ男ども、こうした人々が類型的ではなく、見事に活写されているのだ。抜け目のないおかみさんの鋭い目つきや、賭博や犯罪にあけくれるちんけな息子の不良っぷり、そんな環境でブルジュア階級の子供が知る楽しみを知らずに育った娘たち、こうした人々の性格がじつにくっきりと描かれている。

作者が長年警察に勤務していたせいか、警察の捜査活動が異様なくらいリアリティを帯びていることも指摘しておくべきだろう。とりわけ警察の初動捜査の様子はすばらしい。サスペンスはないのだが、性格描写とかリアリズムとか、文章の書き方に興味がある人には面白く読める一作だと思う。

原題は The Pub Crawler つまり酒を飲むためにパブを梯子する人の意味である。


Wednesday, July 19, 2023

D.E.スティーブンソン「歪んだアダム」


スティーブンソンはあのR.L.スティーブンソンのまたいとこである。人気作家として多くのロマンス作品を残しているが、本作は珍しくスパイ小説だ。といっても書き方はロマンス小説っぽい。ハーレクインの中によくミステリとロマンスを結合させたような作品があるが、あんな感じである。

表題の「歪んだ」というのは、主人公のアダムは両足の長さが違い、びっこをひくように歩くことからついた。彼は学校で語学を教えている教師だ。時代は第二次世界大戦の真っ最中。本当なら祖国のために戦いたいのだが、障害があるため忸怩たる思いを抱きながら教師をしているのである。しかし彼が勤める学校の校長、クック氏は戦いの場が必ずしも戦場だけではないことを彼に教える。クック氏は優秀な科学者で、彼はX線を利用した破壊光線を発明する。もちろんイギリスがこの発明に興味を持つのは当然なのだが、ドイツのスパイもその秘密を探ろうとする。そのためクックの周辺には怪しげな人間の影が絶えずちらついているのだ。アダムはクック氏とともにスコットランドでこの機械の製作にあたる。もちろんその間に彼はスパイたちと虚々実々のかけひきを行うことになる。さらにまたブレンダという若く美しい少女と出会い……。

読みやすく明快な文章で、人物の造形は、やや型にはまった印象はあるが、悪くない。ただサスペンスはまったくないので、その点を承知で読むなら楽しめるだろう。

Saturday, July 15, 2023

独逸語大講座(10)

第七課

A

形容詞が強語尾を取る場合及び lassen, dürfen
lieb, a. 親愛なるbleiben とどまる
kalt, a. 冷たいSchönnheit, f. 美
gut, a. 善きErnst, m.真面目
groß, a. 大なるEile, f. 急ぎ
großt, a. 最大のbesitzen 所有する
höchst, a. 非常な、非常にvon と三格=[of, from]
all, a. 凡ゆるwie 如き、如く
kennen, 識るwenn [if]
Wert, m. 価値dich 汝を
Zeit, f. [time]mich 私を
Bedeutung, f. 意味、意義denn 何故ならば

1. Lieber Freund, mein Vater läßt Dich grüßen. 2. Liebe Schwester, unsere Eltern lassen uns nicht reisen. 3. Liebes Kind, Du darfst nicht rauchen und trinken. 4. Liebe Eltern, man sagt, daß ihr sehr krank seid. 5· Wo darf ich wohnen in dieser Stadt, schöne Königin? 6. Diese Leute lassen mich heute nicht ruhig arbeiten. 7. Ich trinke jetzt nur guten Wein und gutes Bier, obgleich ich nicht so reich bin wie Du. 8. Eine Frau von großer Schönheit sitzt im Garten des Königs und spielt mit ihren Kindern. 9. Sie behauptet in allem Ernst, daß ihre Eltern überall schöne Fabriken besitzen. 10. Lieber Freund, ich darf heute nicht in den Garten gehen, weil es dort so kalt ist.

【訳】1. 親愛なる友よ(lieber Freund)私の父が(mein Vater)君を(Dich)挨拶せ(grüßen)しめる(läßt)〔私の父から君に宜敷くとのことです〕2. 親愛なる姉妹よ(liebe Schwester)我々の両親は(unsere Eltern)我々をして(uns)旅行せしめぬ(lassen nicht reisen)3. 親愛なる子供よ(liebes Kind)お前は(Du)喫烟し(rauchen)そして(und)飲酒し(trinken)てはならない(darfst nicht)4. 親愛なる両親よ(liebe Eltern)註1あなた方は(ihr)大層(sehr)病気で(krank)ある(seid)〔云う事を〕(daß)世人が(man)云っている(sagt)5. 何所に(wo)私は(ich)此の市に於て(in dieser Stadt)住ん(wohnen)でよろしいのですか(darf)? 美しき王妃よ(schöne Königin)6. 此の人々は(diese Leute)私をして(mich)今日(heute)静かに(ruhig)働か(arbeiten)しめない(lassen nicht)7. 私は(二つ目の ich)君の(Du)如く(wie)そんなに(so)富んで(reich)い(bin)ない(nicht)にも拘わらず(obgleich)私は〔最初の ich〕今(jetzt)良い葡萄酒(guten Wein)と(und)良いビール(gutes Bier)ばかり(nur)飲む(trinke)8. 大なる美の(von großer Schönheit)一人の婦人が(eine Frau)王の(des Königs)庭園の中に(im Garten)腰かけていて(sitzt)そして(und)彼女の子供等と共に(mit ihren Kindern)遊んでいる(spielt)9. 彼女の両親は(ihre Eltern)到る所に(überall)美しい工場を(schöne Fabriken)所有している(besitzen)と(daß)彼女は(sie)凡ゆる真面目さに(in allem Ernst)註2主張する(behauptet)10. 親愛なる友よ(lieber Freund)其所は(dort、即ち庭は、の意)そんなに(so)冷たく(kalt)ある(es ist)註3から(weil)僕は(ich)今日は(heute)庭へ(in den Garten)行ってはならない(darf nicht gehen)

11. Dein guter Vater ist uns sehr lieb, nur läßt er uns von Zeit zu Zeit im Winter kalten Kaffee trinken; das ist nicht gut. 12. Mein kranker König, Deine Königin will Dich nicht mehr im Garten sitzen lassen, weil es hier so kalt wird. 13. Euer Bote will in aller Eile nach eurem Hause wandern. 14. Da hat euer Soldat ein Pferd von großem Wert! 15. Liebe Mutter, unser Vater darf hier nicht liegen bleiben, weil es in diesem Zimmer sehr kalt ist. 16. Der Brief da ist für mich von größtem Wert, da er von meiner Mutter kommt. 17. Ich lasse ihn so etwas ruhig behaupten, weil ich ihn überhaupt nicht achten kann. 18. Er will in allem Ernst ein Fürst oder ein Kaiser werden. 19. Lieber Kaiser, Du darfst nicht mehr in dieser Stadt bleiben, da Dein General sie den Feinden schenken will. 20. Die Straße da ist für unsern General von höchster Bedeutung, wenn die Feinde zu uns kommen.

【訳】11. 君の善良なる父は(Dein guter Vater)我々に(uns)大層(sehr)好ましく(lieb)ある(ist)たゞ(nur)彼は(er)我々をして(uns)時々(von Zeit zu Zeit)註4冬に(im Winter)冷たいコーヒーを(kalten Kaffee)飲ま(trinken)せる(läßt)それが(das)よく(gut)ありません(ist nicht)12. 我が病気の王よ(mein kranker König)此所は(hier)非常に(so)寒く(kalt)なりました(es wird)註5から(weil)汝の王妃は(Deine Königin)汝をして(Dich)〔最早〕(nicht mehr)庭園の中に(im Garten)腰かけていさせることを(sitzen lassen)欲し(will)〔ない〕13. 汝等の使者は(euer Bote)凡ゆる急ぎに於て(in aller Eile)註2汝等の家の方へ(nach eurem Hause)旅せんと(wandern)欲する(will)14. そこに(da)汝等の兵士は(euer Soldat)大なる価値の(von großem Wert)一頭の馬を(ein Pferd)持つ(hat)!15. 親愛なる母よ(liebe Mutter)此の部屋の中は(in diesem Zimmer)大層(sehr)寒く(kalt)ある(es ist)註3から(weil)我々の父は(unser Vater)こゝに9(hier)横わり(liegen)とどまっては(bleiben)ならない(darf nicht)16. そこにある(da)手紙は(der Brief)それが(er)註5私の母から(von meiner Mutter)来た(kommt)から(da)註6私に取って(für mich)最大の価値をもつ(ist von größtem Wert)註717. 私は(二つ目の ich)彼を(二つ目の ihn)抑も(überhaupt)尊敬することが(achten)出来(kann)ない(nicht)から(weil)私は(最初の ich)彼をして(最初の ihn)そんな事を(so etwas)平気で(ruhig)主張せ(behaupten)しめる(lasse)18. 彼は(er)凡ゆる真面目さで(in allem Ernst)国君(ein Fürst)又は(oder)皇帝に(ein Kaiser)成らんと(werden)欲する(will)19. 親愛なる皇帝よ(lieber Kaiser)汝の将軍は(Dein General)彼女を(sie)註5敵に(den Feinden)贈らんと(schenken)欲する(will)から(da)汝は(Du)最早(nicht mehr)此の市の中に(in dieser Stadt)とゞまってい(bleiben)てはなら(darfst)〔ない〕20. そこの(da)街道は(die Straße)敵が(die Feinde)我々に向かって(zu uns)来る(kommen)際に(wenn)我々の将軍の為めに(für unsern General)非常な意義をもつ(ist von höchster Bedeutung)註7

21. Mein Freund in der Heimat wird bald höchst reich werden, wenn gute Zeiten in die Welt kommen werden, wie er in allem Ernst glaubt. 22. Liebes Mädchen, Du mußt sofort nach Hause gehen, da es bald Abend wird. 23. Das Weib dieses Arbeiters läßt ihn kein gutes Bier trinken. 24. Du darfst so etwas nicht behaupten wollen, wenn Du mich so gut kennst, wie man mich überall kennt. 25. Wie kannst Du nur so etwas sagen, da Du mich ehrst, wie kein Mensch in der Welt? 26. Dieses Mädchen kann nicht das Weib jenes Mannes werden, weil er sie nicht so liebt, wie sie ihn liebt. 27. Liebe Leute, ihr dürft hier nicht stehen bleiben, weil die Luft dieses Zimmers so kalt ist. 28. Was von seinem Vater kommt, ist immer von großer Bedeutung für ihn. 29. Mein Vater läßt mich einen Brief schreiben. 30. Der Onkel dieses Knaben besitzt in einer Straße von Berlin eine Fabrik von höchstem Wert.

【訳】21. 故郷に於ける(in der Heimat)私の友人は(mein Freund)彼が(er)あらゆる真面目さに於いて(in allem Ernst)信じている(glaubt)如く(wie)よい時代が(gute Zeiten)世の中へ(in die Welt)来る(kommen)であろう(werden)なら(wenn)間もなく(bald)非常に(höchst)富裕に(reich)成る(werden)でしょう(wird)22. 親愛なる娘よ(liebes Mädchen)間もなく(bald)晩に(Abend)なる(es wird)から(da)お前は(Du)直ぐに(sofort)家へ(nach Hause)註9行か(gehen)なければならない(mußt)23. 此の労働者の(dieses Arbeiters)妻は(das Weib)彼をして(ihn)ちっとも良いビールを(kein gutes Bier)飲ま(trinken)しめ(läßt)〔ない〕24. 世人が(man)私を(mich)到る所に於いて(überall)識っている(kennt)如く(wie)そんなに(二つ目の so)よく(gut)君が(二つ目の Du)私を(mich)識っている(kennst)ならば(wenn)君は(最初の Du)そんな(最初の so)ことを(etwas)主張せんと(behaupten)欲し(wollen)てはよろしく(darfst)ない(nicht)25. 世の中に於ける(in der Welt)いかなる人間も(kein Mensch)[尊敬し]〔ない〕註10如く(wie)君は(二つ目の Du)僕を(mich)尊敬している(ehrst)のに(da)君は(最初の Du)どうして(wie)一体(nur)そんなことを(so etwas)云うことが(sagen)出来るか(kannst)?26. 彼女が(二つ目の sie 即ち此の娘)彼を(ihn、あの男)愛する(二つ目の liebt)如く(wie)そんなに(so)彼は(er)彼女を(最初の sie)註11愛さ(最初の liebt)ない(nicht)から(weil)此の娘は(dieses Mädchen)あの男の(jenes Mannes)妻に(das Weib)なることは(werden)出来(kann)ない(nicht)27. 親愛なる人々よ(liebe Leute)此の部屋の(dieses Zimmers)空気は(die Luft)非常に(so)冷たく(kalt)ある(ist)から(weil)君達は(ihr)此所に(hier)立ち(stehen)註12とどまっていてはよろしくない(dürft nicht bleiben)28. 彼の父から(von seinem Vater)由来する(kommt)所のものは(was)常に(immer)彼の為めに(für ihn)大なる意義をもつ(ist von großer Bedeutung)29. 私の父は(mein Vater)私をして(mich)手紙を(einen Brief)書か(schreiben)しめる(läßt)30. 此の少年の(dieses Knaben)叔父は(der Onkel)伯林(Berlin)の(von)ある街道に(in einer Straße)非常な価値の(von höchstem Wert)一つの工場を(eine Fabrik)所有する(besitzt)

31. Dein Karl wird Dich ganz sicher besuchen, wenn er nicht zu arbeiten hat. 32. Die Leute kennen den Wert dieser Bäume nicht. 33. Wenn die Gäste ins Haus kommen, so müssen die Kinder sofort auf die Straße gehen, denn unser Haus hat kein Gastzimmer. 34. Die Kinder dürfen heute Morgen nicht im Zimmer bleiben, weil der Hausvater einen Besuch hat.

【訳】31. 彼は(er=Dein Karl)仕事を(zu arbeiten)註13持た(hat)ない(nicht)なら(wenn)汝のカールは(Dein Karl)汝を(Dich)全く(ganz)確かに(sicher)訪問する(besuchen)でしょう(wird)32. 人々は(die Leute)之等の樹の(dieser Bäume)価値を(den Wert)識ら(kennen)ない(nicht)33. 客達が(die Gäste)家の中へ(ins Haus)来る(kommen)時は(wenn)その時は(so)子供達は(die Kinder)直ぐに(sofort)往来へ(auf die Straße)出(gehen)なければならぬ(müssen)何故ならば(wenn)我々の家は(unser Haus)一つの客間も持たない(hat kein Gastzimmer)〔から〕34. 親爺が(der Hausvater)一人の訪問客を(einen Besuch)持つ(hat)から(weil)子供達は(die Kinder)今朝は(heute Morgen)部屋の中に(im Zimmer)とどまっては(bleiben)よろしく(dürfen)ない(nicht)

【註】〔1〕liebe Eltern の如き呼び掛(Anrede)は常に一格で、冠詞を附けません。
〔2〕in allem Ernst、in aller Eile は「大真面目に、大急ぎで」即ち抽象名詞の前に附けられたる alle は、その名詞の意味を強めるだけである。
〔3〕es ist kalt、es wird kalt については、いずれ文法の方で詳しく説明がある筈であるが、此所に頻繁に出て来るので一言しておく。英語の it is cold、it rains、it snows 等と同様独逸語に於いても、天候自然界の現象を現す場合に常に es を主語とする。此の際の動詞を非人称動詞という。此の es は訳さない。然し、最近、翻訳の影響で「それは寒い」なんて文章を時々見受けるが、まさか「それは雨が降る」とは云われないようである。
〔4〕英語の from time to time。
〔5〕er は der Brief の代名詞。代名詞に就いても、後に文法で詳細な講義があるが、Brief は男性単数であるから er がその代名詞となる。
〔6〕da 「……から」と訳せば、其の訳を読むものは何の疑念も起こさず承知するが、いざ今度、自分が此の種の文章を字引を引いて訳す段になると、よく此の da を「そこで」と訳して涼しい顔をしている者が屡々ある。こんな誤は初学者に多いが、然し相当むずかしい本を読む様になっている学生にもよく見受ける癖だ。〔文法 87〕の配語法の規則を覚えているものには、決して、こんなへまな誤はない筈である。即ち「……から」という場合の da は従属的接続詞(従属文章の場合の接続詞)であるから定形が副文章の最後にある。「そこで」の場合は、副詞であるから da の次に定形が来なければならない。定形の位置によって直ぐ判る訳である。
〔7〕von größtem Wert、von höchster Bedeutung は sein (此所では ist)と結合して(即ち von+抽象名詞+sein)形容詞的の意味となる、もっと簡単な例をとって説明すれば、von Bedeutung sein = bedeutend sein (有意義である)、von Nutzen 〔利益〕sein = nützlich sein (有益である)等である。
〔8〕sie は Stadt〔女性〕の代名詞。
〔9〕nach Hause gehen 「家へ行く」即ち「帰宅する」という熟字である。
〔10〕wie kein Mensch in der Welt ehrt. 此の ehrt が省略されている。
〔11〕sie (最初の)之は四格、二つ目の sie は一格。いずれも dieses Mädchen の代名詞、此の事に就いては、いずれ文法で説明あるが、元来 Mädchen は中性であるが、天然の性により、代名詞は sie で女性でゆく、然し、勿論文法の性で、即ち中性 es でうける場合もある。
〔12〕stehen bleiben は「立ちとゞまる」の成句である。
〔13〕zu arbeiten haben は「働くべく持つ」「働かなくてはならない」の直訳で、zu tun haben も同様である。

Wednesday, July 12, 2023

英語読解のヒント(66)

66. I do not deny but (that / what)

基本表現と解説
  • I do not deny (doubt, etc.) but it is true.
  • I do not deny (doubt, etc.) but that it is true.
  • I do not deny (doubt, etc) but what it is true.

いずれも「それが事実であることを否定し(疑わ)ない」の意。deny, doubt, despair, scruple, make no question 等、否定の意味を含む語の後にくる but, but that, but what は that と考える。

例文1

"Nor can I deny," continued he, "but I have an interest in being first to deliver this message, as I expect for my reward to be honoured with Miss Sophy's hand as a partner."

Oliver Goldsmith, The Vicar of Wakefield

彼はつづけた。「正直に申し上げますが、わたしがこのお知らせを最初にお届けしようとしたのにはわけがありましてね。つまり、その、最初に届けたご褒美としてミス・ソフィアが踊りのお相手をしてくださるんじゃないかと思いまして」

例文2

I do not doubt but England is at present as polite a nation as any in the world....

Richard Steel, The Spectator (March 7, 1711)

わたしはイギリスが現在、世界中のいかなる国民にも劣らぬ、鄭重な国民であることを疑わない。

例文3

"Lieutenant Rich," he added, addressing Brackenbury, "I have heard much of you of late; and I cannot doubt but you have also heard of me. I am Major O'Rooke."

R. L. Stevenson, New Arabian Nights

彼はブラッケンベリにむかってさらに言った。「リッチ中尉、わたしは最近あなたのお噂をずいぶん聞きましたが、あなたもわたしの噂をお聞きになったと思う。わたしはオルーク少佐です」

Sunday, July 9, 2023

英語読解のヒント(65)

65. not but (that / what) (2)

基本表現と解説
  • ...not but what the picture has its darker side... 「……とはいえ、その絵には暗い側面があるけれども……」

not but that が though や neverthelss の意味に解せられることがある。

例文1

Thus we lived several years in a state of much happiness; not but that we sometimes had those little rubs which Providence sends to enhance the value of its favours.

Oliver Goldsmith, The Vicar of Wakefield

このようにして数年間、わたしたちはすこぶる幸せに暮らしていた。もっともときには天がその恩寵の有り難みを増すために下し給う、些細な厄介ごとがないわけではなかったが。

例文2

The right thigh-bone is decayed, has not got worse these nine years; therefore I conclude that I may live — say other thirty years. I should like, at all events, for life is sweet even at this cost; not but what I could die quietly enough, I dare say.

Philip Gilbert Hamerton, The Intellectual Life

右の大腿骨は腐ってしまったが、この九年間、それ以上悪くはならなかった。それゆえわたしはもう三十年は生きられると思う。とにかくわたしは生きたい。このような苦痛を忍んでも生きているのは善いものだからだ。もちろん、今でも死のうと思えば心静かに死ねるのではあるが。

例文3

As for his Speculations, notwithstanding the several obsolete Words and obscure Phrases of the Age in which he lived, we still understand enough of them to see the Diversions and Characters of the English Nation in his Time: Not but that we are to make Allowance for the Mirth and Humour of the Author, who has doubtless strained many Representations of Things beyond the Truth.

Joseph Addison, The Spectator June 26, 1711

彼の思索はわかるかというと、当時の廃語や不明の句が文中にあまたあるにもかかわらず、その頃の英国民の娯楽や気質がうかがわれるくらいには読める。もっとも作者一流の滑稽と諧謔をもって、事物の描写を実際以上に誇張しているから、それに対しては幾分斟酌しなければならないが。

Thursday, July 6, 2023

英語読解のヒント(64)

64. not but (that / what) (1)

基本表現と解説
  • Not but that he did it.
  • Not but what he did it. 「おおかた彼がやったのだろう」

前項 I don't know but that の形の短縮形である。

例文1

Not but that he may be thought imperfect in some few points.

Alexander Pope, "A Discourse on Pastoral Poetry"

彼にも不完全なところが二三ないわけじゃないのだろうが。

例文2

Not but they thought me worth a Ransom....

Samuel Butler, Hudibras

おおかたわたしに身代金の価値があると思ったのだろう。

例文3

"Poor Malthy!" he added, “I shall hardly know the club without him. The most of my patrons are boys, sir, and poetical boys, who are not much company for me. Not but what Malthy had some poetry, too; but it was of a kind that I could understand.”

R. L. Stevenson, New Arabin Nights

「気の毒なマルシー」と彼は言い添えた。「彼がいないクラブなんて考えられません。うちに来てくれるのはほとんどが若い男性です。しかも文学青年でしてね。わたしが好んでつきあうような人たちじゃない。マルシーにも詩情がないわけじゃないですが、わたしに理解できるような詩情でした」

Monday, July 3, 2023

英語読解のヒント(63)

63. I don't know but (that /what)

基本表現と解説
  • I don't know but that he did it.

前項の Who knows の代わりに I don't know とか I cannot say とか I shouldn't wonder などの表現を使うこともある。

例文1

"I am sorry you should be troubled, Mr. Gotobed; but, upon my word, I cannot say but what it serves you right."

Anthony Trollope, The American Senator

「あなたに迷惑がかかってお気の毒だと思います、ミスタ・ゴーツーベッド。でもこれは当然の報いでしょうな」

例文2

It cannot be but that some of the letters will give you pain....

John Keats, Letters of John Keats to Fanny Brawne (edited by H. Buxton Forman)

いくつかの手紙はあなたに苦痛を与えるにちがいありません……

例文3

"Marriage is evidently the dictate of nature; men and women were made to be companions of each other, and therefore I cannot be persuaded but that marriage is one of the means of happiness."

Samuel Johnson, The History of Rasselas

「結婚はあきらかに自然が命じるところのものだ。男と女は寄り添うようにつくられた。だから結婚はしあわせへの一つの手段なのだとしか思えない」

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(2)

§2. Der ? ach, dem traut ja keiner. あいつか?へん、あんなやつに誰が信用するものか。 trauen : 信用する。 ja : (文の勢いを強めるための助辞)  前項のは名詞に冠したものでしたが、こんどは名詞を省いたもの...