Monday, August 29, 2022

マージョリー・R・ワトソン「戦争の犬」

本作の舞台は東ヨーロッパのどこかであり、時はロシア革命以前のいつかと思われる。The Dogs of War「戦争の犬」というというタイトルはフレデリック・フォーサイスも使っていたが、戦争というのは綱を解き放たれた犬どもの喧嘩のようだという意味である。

東ヨーロッパのある国(かりにA国と呼ぼう)に疫病が発生した。多くの人が死に、べつの国(B国と呼ぼう)がA国の軍事力の低下につけこんで侵略戦争をはじめる。A国の若き王と王妃はロシアに逃げ込み、皇帝の助力を取りつけようとする。その逃避行の途中で弱り切った王妃の身体を休めるために修道院に立ち寄るのだが、さっそくB国の王とその手勢が彼らを追いかけてくる。王妃はもう動けないので、A国の王のみがロシアへの旅を続けることになる。

さて、王妃が残った修道院にB国の王がやってくる。そしてたちどころに百姓の恰好をした女がA国の王妃であることを見破る。そして彼らは二人だけで話をすることになるのだ。

じつはB国の王はA国の王妃を妻にしたかったのだが、その望みはかなわなかったのだった。彼女の良人はロシアに行ってしまったし、もう帰って来ることはないだろう。それならわたしの妻にならないか、と彼は王妃にもちかける。なんと、王妃はそのプロポーズを受け、あまつさえ敵であるはずの男にキスをするのである。しかしそれこそが彼女の恐るべき計略だった……。

終わってから「あの台詞にはこういう意味があったのか」とうならされる、非常によくできた一幕もののドラマだ。それにしても作者のマージョリー・R・ワトソン(Marjorie R. Watson) はどういう人なのだろうか。ホフマンの童話を語り直していたりするが、詳しいことはよくわからない。

Friday, August 26, 2022

ドラマ「ドラキュラ」販売のお知らせ

ハミルトン・ディーンとジョン・L・ボルダーストンによる戯曲「ドラキュラ」がアマゾンから販売開始となりました。



ブラム・ストーカーの名作をドラマ化したものです。精神科医スアードの娘ルーシーが夜な夜な悪夢に襲われ、身体から血が失われていく。スアードの親友ヴァン・ヘルシングは彼女を診断して、この病気をヴァンパイアによるものと見抜き、スアードおよびルーシーの恋人の力を借りてこの強敵に戦いを挑みます。

イギリスでもアメリカでも観客の評判がたいへんよかった作品です。ドラキュラ伯爵といえばすぐマント姿を思い浮かべますが、あの恰好を広めたのもこの作品です。ご一読していただければ幸いです。アマゾンの販売サイトはこちら

Tuesday, August 23, 2022

ロッド・サーリング「アロウ号の悲劇」

Thetwilightzone-logo
これは「トワイライト・ゾーン」のシナリオの一つ。原題は I Shot an Arrow 。
ナレーターの声が例の There is a fifth dimension beyond which is known to man. 「人が知る世界のかなたには第五次元が広がっている」という台詞を言い、ドラマははじまる。アメリカはアロウ・ワンというロケットで人類最初の有人宇宙飛行を行おうとしていた。ところがロケットは発射した途端、レーダーから姿を消す。いったいロケットはどこへ行ったのか。
場面は一転し、沙漠に不時着したロケットが画面に映る。そこから三名の乗組員が、死亡した数名の乗組員を船外に引っ張り出す。そして引っ張り出した途端にロケットは爆発する。
生き延びた三人の乗組員はわずかな水を消費しながら自分たちがどのような惑星にいるのか、生きる道はあるのか、必死の探索をこころみなければならなかった。一人の乗組員は少しでも長く生きようとして、残り二人を殺害し、水を奪い取るのだが、最後に彼はあることに気づいて愕然とするのだった……。
「トワイライト・ゾーン」らしいアイロニーのきいたドラマだ。水をめぐって乗組員のあいだに不和が生じるが、得体の知れない環境のなかで展開されるその緊迫感がなかなかいい。

Saturday, August 20, 2022

アーサー・ヘイリー「危険な飛行」

アーサー・ヘイリーは「ホテル」という本はたしかに読んだ。中身は忘れたが面白かったという印象だけは残っている。ほかにも何冊か読んだかもしれない。たぶん「探偵」あたりは読んでいると思うがまるっきり筋も印象も覚えていない。今回読んだのは Flight to Danger というドラマの台本だ。これはベストセラーとなり、映画の脚本、そして小説にも書き直された。三幕ものだが、一気に読んだ。スリラーとしても上出来だが、ヒューマン・ドラマとしてもぐっと胸に来る傑作だと思う。

カナダのウィニペッグという空港からヴァンクーヴァーに旅客機のDC4が飛ぶのだが、その飛行中にアクシデントが起きる。機内ではディナーとして魚料理と肉料理が配られたのだが、魚料理を選んだ客たちが次々と食中毒をおこす。さいわいにも乗客の中に医者がいて、応急処置を施すのだが、数名の患者はすぐさま入院治療が必要だと判断される。

しかし災難はそこで終わらない。なんとパイロット二人も魚を食べていたのだ。二人とも人事不省に陥り、飛行機を操縦できる人間は誰もいなくなる。そこで引っ張り出されるのが、戦争中、戦闘機を操っていたというジョージである。しかし戦闘機と大型機では操縦と言っても勝手が違う。しかもジョージはもう十年間も飛行機の操縦などやっていない。最初は「無理だ」といって尻込みした彼だが、飛行機を操った経験のある人が彼しかいないことを知り、仕方なくこの重大任務を引き受ける。

ヴァンクーヴァーの管制塔に事情を説明し、無線で連絡を取りながら彼はDC4の操縦法を教えてもらう。一方、ヴァンクーヴァーの空港では最悪の事態を予想して全市の救急車、消防車を空港に待機させる。そして経験豊かなパイロットを呼び出し、ジョージに操縦を教えさせる。さて、彼は無事に飛行機を着陸させることができるかどうか……。

本当に面白いドラマで、スリリングなだけでなく、危機に瀕した際に人間が見せる胆力のすばらしさが胸を打つ。そうだ、思い出してきた。「ホテル」もこのヒューマンドラマが面白かったのだ。

Wednesday, August 17, 2022

ロバート・F・キャロル「稲妻」

これは一幕もののホラー劇である。映画や小説ならともかく、演劇でホラーを表現するのはちょっと珍しい。もちろん「ドラキュラ」のように十九世紀末からその手の演劇はあるのだが、数は少ない。それで気になって読んでみたのである。英語の題名は Heat Lightning。
夜中に怯えた若い女がバス・ステーションに駆け込んでくる。稲妻が光る嵐の夜だ。バス・ステーションは薄暗い明かりがついているだけで、そこでバスを待つ乗客も男が一人だけだった。彼は慌てている女を見て、どうしたのかと声をかける。気が動転している女は、乗っていた車が故障し、歩いてバス・ステーションに来たのだという。その途中、一台の車から男が女の死体を引きずり出すところを見たらしい。彼女はさっそく走って逃げたのだが、男が後ろから追いかけてくるような気がしてすっかり震え上がっているのだ。 男は警察を呼ぶほうがいいと忠告するが、女はその男がどんな人相なのかもわからなかったと言う。そんな話をしているところへ、二人目の男がステーションにあらわれる。なんとなくずうずうしい感じの男で、若い女はとっさに自分を追ってきたあの殺人者ではないかと思う。バスが来るまで彼らの緊迫した会話がつづく。二人目の男はほんとうに殺人者なのだろうか。それとも……? 非常に単純な作りの劇だが、最後にどんでん返しが待ち受ける、面白い作品である。小劇場にはうってつけ。舞台効果も工夫のしがいがありそうだ。

Sunday, August 14, 2022

新ドイツ語大講座 訳読編

第7課 君主論

解説:古代の英雄アキレスは半人半馬の怪獣ヒロンに育てられたと伝えられているが、これは君主たる者は人間的性質と野獣的性質のふたつを巧みに使い分けなければならぬことを象徴的に物語っている。野獣的性質にはふたつの面がある。ひとつは狐の狡智であり、もうひとつは獅子の威力である。獅子は強いが罠にかかる。狐は罠を見破るが狼にはかなわない。君主は罠を見破るために狐の姿をかり、狼を退散させるために獅子の仮面をかぶらなくてはいけない。ただし狐のしっぽをつかまれたり、獅子の仮面をはぎとられぬ要心が肝要である。大衆は単純で目先の印象に支配されやすいからである。具眼の士はないわけでないが、大衆の声に反抗して起つほどの勇者はまずない。まして直接の審判の方法のない君主の言動に矛盾があったとしても、大衆はさして問題にしない。けだし大衆は「権威」に弱いからである。君主たるものは最後の目的たる国家の興隆に専心すればよい。そのための手段はつねに神聖である。要するに君主たるものは機に応じて鬼にも仏にもなるだけの修養を積んでおくことが肝要である。――これはマキアヴェリ(イタリア人)の政治論の中心的な部分をわかりやすく解説したものだが、その態度はあくまでも客観的・実証的で傾聴すべきものをふくんでいる。

Der Fürst

[1] Jeder weiß, wie lobenswert es1 ist, wenn ein Fürst sein Wort hält2 und rechtschaffen, nicht hinterlistig3 handelt. Und dennoch sieht man aus der Erfahrung der Vergangenheit, daß diejenigen4 Fürsten, welche mit List die Gemüter der Menschen5 zu betören verstanden, große Dinge ausgerichtet6 und am Ende diejenigen, die redlich handelten, überwunden7 haben. Man muß also wissen, daß es zwei Wege gibt, zu kämpfen8: einen gesetzlichen und einen gewaltsamen. Der erste geziemt9 den Menschen, der zweite eher10 den Tieren.

〔訳〕 Der Fürst 君主
ein Fürst 君主たる者が sein Wort hält その一言を守り und そして rechtschaffen 正直に、nicht hinterlistig 陰険にではなく handelt ふるまう wenn ならば、es それが wie lobenswert いかに称賛にあたいすること ist である[かは]、Jeder 誰でも weiß 知っている(周知のごとく、君主たる者が約束を守り、正直に行動をしてひとを欺かないということは、まことに称賛すべきことである)。Und dennoch にもかかわらず man われわれは aus der Erfahrung der Vergangenheit 過去の経験から sieht [つぎのようなことを]認めるのである、daß すなわち、mit List 策謀を用いて die Gemüter der Menschen 人間の心を zu betören 瞞着することを verstanden 心得ている welche ところの diejenigen Fürsten その君主たちが、große Dinge 大事業を ausgerichtet [haben] 成就し und そして am Ende 最後には diejenigen, die redlich handelten 正直に行動した君主たちを、überwunden haben 負かした(ところが、過去の経験であきらかなように、策略をもって巧みに人心を収攬した君主たちが、偉大な事業を成しとげ、ついには、正直に行動した君主たちをうちまかしたのである)。also それゆえに、zu kämpfen 闘うための zwei Wege ふたつの道:[すなわち] einen gesetzlichen [Weg] 合法的な[道] und と einen gewaltsamen [Weg] 暴力的な[道] es......gibt が存在する daß ことを Man われわれは muß......wissen 知らねばならぬ(ゆえに、生存のための闘いをたたかいぬくには、合法的な方法と暴力的な方法との、ふたつの方法があることを心得ておかなくてはならない)。Der erste [Weg] 第一の道は den Menschen 人間に geziemt ふさわしい、der zweite [Weg] 第二の方法は eher むしろ den Tieren 野獣に[ふさわしい]。

〔注〕【1】wie lobenswert es ist, wenn この es は wenn 以下の副文章の内容を指す先行詞である。なぜ daß を用いないで wenn を用いるかというと、daß を用いるとなにか事実そんなことがあったのを指摘して言うように聞こえるからである。
【2】sein Wort hält sein Wort halten = to keep one's word; この反対は sein Wort brechen = to break one's word.
【3】und rechtschaffen, nicht hinterlistig これは nicht hinterlistig, sondern rechtschaffen というよりは nicht hinterlistig に力が入っていることに注意する必要がある。
【4】diejenigen......, welche...... 「……するところのそのような」。これはたびたび出てくる構造で、diejenigen のかわりにたんに die と言ってもよし、solche と言ってもよい。
【5】die Gemüter der Menschen = the minds of men. der Menschen という二格規定がなくても、たんに die Gemüter だけで「人心」といった日本語に相当する意味になる。単数は Gemüt.
【6】große Dinge ausgerichtet große Dinge ausrichten 「大事を成しとげる」。
【7】überwunden 三要形:überwinden, überwand, überwunden.
【8】zu kämpfen この kämpfen は「生きるためにたたかう」すなわち「生存競争」(der Kampf ums Dasein)をたたかうことである。なおこの zu を伴う不定法は adnominal 「名詞付加的」用法で、先行する zwei Wege を規定している。
【9】geziemt ge- がついているが過去分詞ではない。geziemen は「……にとってふさわしい」あるいは「……らしい」、geziemt den Menschen は menschenwürdig 「人間らしい、人間としてはずかしくない」とおなじ。
【10】eher 「むしろ」。vielmehr とおなじ。(Der zweite Weg geziemt eher den Tieren. である)。

[2] Oft aber reicht die erste Weise nicht zu, und so11 muß bisweilen zur zweiten gegriffen werden12. Einem Fürsten ist13 daher14 nötig, bald den Menschen, bald15 das reißende Tier spielen zu können. Diese Lehre wird von den Alten16 symbolisch ausgedrückt in der Sage, wie Achilles und viele andere Helden vom Zentauren17 Chiron aufgezogen18 und unterwiesen19 worden. Einen solchen Lehrer haben, halb Mensch, halb Tier20, heißt nichts anderes, als21 daß ein Fürst beide Naturen, die menschliche und die tierische, gut zu gebrauchen wissen muß.

〔訳〕 aber ところが Oft しばしば die erste Weise 第一の方法が reicht......nicht zu 十分でない(ところが第一の方法だけではまにあわないことがある)、 und so そこで bisweilen 時には zur zweiten [Weise] 第二の方法に gegriffen werden 訴える muß 必要がある。daher したがって、 Einem Fürsten 君主たる者にとっては、 bald ある時は den Menschen 人間[の役]を、 bald ある時は das reißende Tier 猛獣[の役]を spielen 演じ zu können うることが ist......nötig 必要である。Diese Lehre この教訓は、 von den Alten 古代人によって、 in der Sage [つぎの]伝説のなかに、 symbolisch 象徴的に wird......ausgedrückt 表現されている、 wie すなわち Achilles und viele andere Helden アキレスおよび他の多くの英雄たちが vom Zentauren Chiron 半人獣の怪獣ヒロンによって aufgezogen 育てられ und かつ unterwiesen worden 指導された[という伝説に象徴されている]。halb Mensch, halb Tier なかば人間[であり]なかば野獣[である] Einen solchen Lehrer このような教師を haben もっていることは、 ein Fürst 君主たる者は beide Naturen 両方の性質、[すなわち] die menschliche [Natur] 人間的な性質 und と die tierische [Natur] 野獣的な性質を gut たくみに zu gebrauchen 使用することを wissen muß 心得ていなければならない daß ということ nichts anderes, als 以外の何物をも heißt 意味[しない](かかる半人半獣の教師をもつということは、とりもなおさず、君主たる者は人間的性質と野獣的性質の両者をうまく使いこなせなくてはいけないということを示唆している。)

〔注〕【11】und so 「かくして」、「それゆえ」。
有形無意の es を主語とする受働文【12】so muß bisweilen......werden この文章を定形正置文になおせば es muß bisweilen zur zweiten gegriffen werden となる。それが本文のように定形倒置文になって、形式上の主語 es が省かれたのである。このことについては「基礎入門編」の§86を参照されたい。zu etwas greifen は「あるものを用いる・ある手段に訴える」という熟語だが、この用法では greifen は言うまでもなく自動詞である。この有形無意の es を主語とする受動文の特徴のひとつは、自動詞をも受動形にすることである。自動詞は四格を支配せず、したがって受動文の主語となるべきものがないから、そのかわりに形式的な es を主語にすえるのである。念のため二三の例について受動形と能動形の両方を挙げてみよう:
 (1) われわれは働かねばならぬ。
  Man muß arbeiten.
  Es muß gearbeitet werden.
 (2) 喫煙してよろしい。
  Man darf rauchen.
  Es darf geraucht werden.
 (3) ここでは喫煙できない。
  Hier darf man nicht rauchen.
  Hier darf nicht geraucht werden. (主語 es は省かれる!)
【13】ist は ist es と言うにおなじ。つぎにくる zu を伴う不定句の先行詞となる es は、省いてもよいのである。
【14】daher also, demnach 「それゆえ」
【15】bald......bald...... 「時に……時に……」、「ある時は……、ある時は……」。
【16】den Alten der Alte 「老人」の複数ではなく、古代人(西洋人のいう古代人とはギリシア・ローマの古代人)の意。
【17】Zentaur ギリシア神話に出てくる、胸から上から人で、下の方が馬になっている怪獣。怪獣とはいえ、これは獣ではなく、非常な賢人で、かつ人を教えることに妙を得ているとされていた。今でも、乗馬の達人のことを Zentaur と言う。けだし、いわゆる鞍上人なく鞍下馬なしという、人馬一体の理想人だからであろう。――Zentaur は弱変化男性名詞である、それゆえ三格で、 -en をつけて vom Zentauren となっている。
【18】aufgezogen 三要形は aufziehen, zog auf, aufgezogen. 「教育する」は erziehen であるが、「養育する」(成人せしめる)は aufziehen である。
【19】unterwiesen 三要形:unterweisen, unterwies, unterwiesen. これは unterrichten 「教える」とおなじ。
【20】halb Mensch, halb Tier これは先行する Lehrer を形容する述語句。したがって Einen solchen Lehrer haben, der halb Mensch, halb Tier ist の省略形と考えてよい。
【21】nichts anderes, als = nothing [else] but.

[3] Muß22 sich der Fürst darauf verstehen, die Bestie zu spielen23, so muß er dazu von beiden nehmen24, vom Fuchs und vom Löwen. Denn der Löwe entgeht den Schlingen nicht, und der Fuchs kann sich gegen den Wolf nicht wehren. Die Fuchsgestalt ist also nötig, um die Schlingen kennenzulernen, und die Löwenmaske, um die Wölfe zu verjagen. Wer immer nur den Löwen spielt, versteht seine Sache schlecht25. Ein kluger Fürst kann und darf daher sein Wort nicht halten, wenn dessen Erfüllung26 sich gegen ihn selbst kehren würde, und wenn die Ursachen aufhören, die ihn bewogen27 haben, es zu geben. Wenn die Menschen insgesamt28 gut wären, so würde eine solche Handlung als nichtswürdig zu bezeichnen29 sein.

〔訳〕[もしも] der Fürst 君主が、 die Bestie zu spielen 野獣[の役]を演ずる、 sich......darauf verstehen ことを会得し Muß なければならない[とするならば]、 so そうとすれば es 君主は dazu そのためには von beiden......, vom Fuchs und vom Löwen 狐と獅子の両者から muß......nehmen 採るところがなければならぬ(君主たる者は、時に野獣となることも必要だとすれば、どうしても狐と獅子の両方の性質を兼ね備えなければならない)。Denn なぜなれば der Löwe 獅子は den Schlingen 罠から entgeht......nicht 逃れられない und し der Fuchs 狐は gegen den Wolf 狼にたいして kann sich......nicht wehren 身を守ることができない[獅子は強いが罠を見破る智恵がない、狐は罠を見破る智恵をもっているが、狼にはかなわない]。also ゆえに、 die Schlingen 罠 um......nötig 必要である、 und また、 die Wölfe 狼を um......zu verjagen 退散させるためには、 die Löwenmaske 獅子の仮面が[必要である]。immer つねに nur ただ den Löwen spielt 獅子を演じる Wer 者[獅子の役しか演じられない君主]は、 seine Sache 自分の責務を versteht......schlecht まずく理解する[賢明だとは言えない]。daher それゆえに Ein kluger Fürst 賢明なる君主は kann und darf......sein Wort nicht halten その一言を守ることはとうてい不可能でもあるし、また守ってはならないのである、 wenn もしも dessen Erfüllung その[一言の]履行が gegen ihn selbst 彼自身に向かって sich......kehren würde 鋒先を向ける[ならば]、 und そしてまた wenn もしも、 es zu geben その約束を与えるように、 ihn bewogen haben 彼[の気持]を動かした die ところの die Ursachen 原因が aufhören 無くな[ったならば](それゆえ、明君たる者は、いったんこうと約束しても、そのとうりやった日にはとんだ損をするとか、あるいは、約束した当時は何か約束しなければならない事情があって約束したのだが、今となればもはやそんな義理は感じないと言ったような場合には、そんな約束は平気で反古にしたってかまわないのである。かまわないどころではない、むしろそうしなければならないのである)。Wenn もしも die Menschen 人間が insgesamt ひとり残らず gut 善良で wären ある[とするならば]、 so その場合には eine solche Handlung かかる[不信の]行為は als nichtswürdig けしからぬと würde......zu bezeichnen sein 言うべきであろう。

〔注〕【22】Muß = Wenn......muß.
【23】die Bestie zu spielen = das Tier zu spielen.
【24】von beiden nehmen von......nehmen は「……から採る」すなわち「……から採って以て用いる」「……に学ぶ」「……の長をとる」という熟語である。etwas 「なにものかを、なんらかの長所を」といったような四格が省かれていると思えばよい。
【25】versteht seine Sache schlecht seine Sache gut (schlecht) verstehen 「要領がよい(悪い)・抜け目がない(うっかりしている)・賢明である(暗愚である)」。
【26】dessen Erfüllung dessen は sein Wort をうける指示代名詞の二格である。die Erfüllung desselben とも言う。
【27】bewogen 三要形:bewegen, bewog, bewogen. 机を動かす、風が海面を激動させる、といった場合の「動かす」 bewegen は規則的に bewegte, bewegt と変化するが、本文のように「説き動かす」、「誘って……させる」のときは不規則変化をする。
【28】insgesamt 「どいつもこいつも」、「みんな」で、 alle というよりも力が強い。samt und sonders とも言う。alle zusammen と言ってもよい。
【29】als nichtswürdig zu bezeichnen bezeichnen は nennen、 heißen などと同意。「名づける」「呼ぶ」である。zu bezeichnen sein 「名づけるべくある」は、「名づけることができる」の意。

[4] Da sie aber insgesamt nichtswürdige Lumpen30 sind und dir ihrerseits31 nicht Wort halten, so brauchst auch du es ihnen gegenüber nicht zu halten. Und einem Fürsten kann es nie an32 Vorwand fehlen, seinen Wortbruch zu beschönigen. Man könnte viele Beispiele anführen, um zu zeigen, wie viele Friedensschlüsse, wie viele Versprechungen durch Wortbrüche der Fürsten vernichtet worden, wie der33, der den Fuchs am besten zu spielen gewußt hat, auch am weitesten gekommen34 ist. Nur35 ist es notwendig, daß man die Fuchsnatur zu vertuschen36 weiß. Die Menschen sind so einfältig und hängen so sehr vom Eindrucke des Augenblicks ab, daß derjenige, der täuschen will, stets jemanden findet, der sich täuschen läßt.

〔訳〕aber ところが sie (die Menschen) 人間どもは insgesamt ひとり残らず nichtswürdige Lumpen けしからぬ不徳義漢[の寄りあい] sind であり und そして ihrerseits かれらの方でも dir 汝にたいして nicht Wort halten 約束を守らない Da のだから、 so それだから auch du 汝もなまた ihnen gegenüber かれらにたいして brauchst......es......nicht zu halten 約束を守る必要はない。 Und それに einem Fürsten 君主たる者が、 seinen Wortbruch zu beschönigen その破約をうまくとり繕う an Vorwand 口実に kann es nie......fehlen こと欠くことは決してない。 wie viele Friedensschlüsse いかに多くの講和条約締結が、 wie viele Versprechungen いかに多くの約束が durch Wortbrüche der Fürsten 君主たちの破約によって vernichtet worden 無効にされたかを、 am besten もっともたくみに den Fuchs......zu spielen 狐の役を演ずることを gewußt hat 心得た der ところの der 者が、 auch また am weitesten もっとも遠くまで gekommen ist 進んだ(いちばん立身出世した) wie ということを、 um zu zeigen 示すために、 Man われわれは viele Beispiele 多くの実例を könnte......anführen 挙げることができる。Nur ただし、 man われわれは die Fuchsnatur 狐の性質を zu vertuschen 韜晦(とうかい)する(ボヤかしごまかす)ことを weiß 心得ている es......, daß ことが、 ist......notwendig 必要である。Die Menschen 人間というものは so きわめて einfältig 単純 sind であり und かつ so sehr ひじょうに vom Eindrucke des Augenblicks 瞬間の印象(目前の感銘)に hängen......ab 左右される[ものである] daß から、 täuschen will 眩惑しようと思う der ところの derjenige 者は、 stets いつでも、 sich täuschen läßt 眩惑される der ところの jemanden 誰かを findet 見出す(ひっかけようと思えばひっかかる相手はいくらでもいる)。

〔注〕【30】Lumpen ルンペンというこの国では金のない人間のことをいうが、ドイツ語の元来の意は「不徳義漢」である。だからドイツ人にむかってうっかり Ich bin ein Lump! などと言ってはいけない。(Lumpen は複数形である)このルンペンが日本語にはいってきたのは、マルクス研究がさかんになった当時、翻訳家などがなまはんかなドイツ語をすこし見当ちがいにふりまわしたところからきたものらしい。
【31】ihrerseits 「かれらの側で」(auf ihrer Seite)の意。おなじく meinerseits、 deinerseits、 seinerseits、 unsererseits などがある。japanischerseits 「日本側で」や amerikanischerseits 「アメリカ側で」なども勝手に作ってよいことになっている。
【32】an この an は:Es fehlt mir an etwas. 「私にはあるものが欠けている」という用い方からきている。
【33】der = derjenige
【34】am weitesten gekommen ist = es am weitesten gebracht hat. この weit kommen も es weit bringen も、ともに「出世する」、「成功する」という熟語。
【35】Nur 「ただし」。
【36】vertuschen vertuscheln という形もある。bemänteln または beschönigen と言ってもよい。臭いものにふたをするように、ごまかして世間ていをつくろうことを言う。

[5] Denn die Menschen urteilen im ganzen mehr nach den Augen, als nach dem Gefühle. Die Augen hat jeder offen; wenige aber haben richtiges Gefühl. Jeder sieht, was du zu sein scheinst, wenige merken, wie du beschaffen bist, und diese wenigen wagen es nicht, der Stimme des großen Haufens zu widersprechen37. Dieser hält sich an die Majestät des Staates38, der sie verteidigt. Bei den Handlungen der Menschen, absonderlich der Fürsten, über die man keinen Gerichtshof anrufen kann, wird immer auf den Endzweck gesehen39.

〔訳〕 Denn けだし die Menschen 人間というのは im ganzen 概して、 nach dem Gefühl 気持による als よりも、 mehr より多く nach den Augen 眼によって urteilen 判断する[からである](行為を貫く精神によるよりは、むしろ外観によって判断するからである)。jeder だれでも Die Augen 眼[だけ]は hat......offen 開いている、 aber ところが wenige 少数の者が richtiges Gefühl 正しい感受力を haben もっている(ところが正しい判断力をもっている人はごく少ない)。Jeder 誰でも、 du 君が zu sein scheinst あるべく見える was ところのものを(君の外観を) sieht 見る、[ところが] du 君が wie いかなる beschaffen bist 性質をもっているか、 merken に気づく[ひとは] wenige 少数である、 und ところが diese wenigen この少数の人々は、 der Stimme des großen Haufens 大衆の声に zu widersprechen 反対する、 es ことを wagen......nicht 敢えてしない。Dieser (der große Haufen) 大衆は、 sie かれらを verteidigt 守護する der ところの an die Majestät des Staates 国家の権威に hält sich つくものだ。über die その人々を裁くために man われわれが keinen Gerichtshof anrufen kann いかなる法廷をも呼び立てることのできないような(法廷に訴えて裁きをつけることのできない) Bei den Handlungen der Menschen, absonderlich der Fürsten 人々、ことに君主たちの行動にあっては、 immer つねに wird......auf den Endzweck gesehen 窮極の目的のみが考慮される。

〔注〕【37】widersprechen 三要形:widersprechen, widersprach, widersprochen.
【38】hält sich an die Majestät des Staates sich an (四格) etwas halten = sich auf (四格) etwas verlassen.
【39】wird......auf den Endzweck gesehen auf etwas sehen は「あるものに注目する」ということで、本文はこの自動詞的用法の受動化である。したがって定形倒置になっているので形式上の主語 es が省かれたのである。

[6] Der Fürst sei also nur darauf bedacht40, zu siegen und den Staat zu erhalten; die Mittel dazu werden immer für ehrenvoll: gehalten und von jedermann gelobt werden. Denn der große Haufen hält es immer mit dem Scheine41 und mit dem Ausgange. Die ganze Welt ist voll von Pöbel und die wenigen Klügern kommen nur zu Worte, wenn es dem großen Haufen, der in sich selbst keine Kraft hat, an: einer Stütze fehlt. Wie viele Fürsten gab und gibt es in der Welt, die nichts als Frieden und Treue predigen, und doch um Ansehen und Macht gekommen wären, wenn sie sie selbst beobachtet hätten!

〔訳〕 also それゆえに Der Fürst 君主は、 zu siegen 勝利を得 und て den Staat 国家を zu erhalten 保持する nur darauf ことのみを sei......bedacht 心がける[べきである]: die Mittel dazu そのための手段は immer 常に werden......für ehrenvoll gehalten......werden 名誉あるものと考えられ und von jedermann だれからも [werden] gelobt [werden] 称讃されるであろう。 Denn なぜならば der große Haufen 大衆は immer つねに hält es......mit dem Scheine und mit dem Ausgange 外観と結果に左担する(みてくれと結果がよければその方につく)。 Die ganze Welt 全世界は ist voll von Pöbel 愚民に満ちている、 und そして die wenigen Klügern 少数の賢明な人々は、 in sich selbst 自分自身のなかに keine Kraft hat 力をもたない der ところの dem großen Haufen 大衆に、 es......an einer Stütze fehlt 支えるものがない wenn 時に nur のみ、 kommen......zu Worte 発言が許されるのみだ(衆愚の数は圧倒的に多い。そのあいだにごく少数の具眼の士がいるだけだ。だから、たいていは具眼の士は沈黙している。そして大衆が拠りどころを失って破局に追いこまれるような、一世紀に一度あるかないかというような危機でもなければ、たちあがることはない)。 Frieden und Treue 平和と誠意 nichts als 以外の何ものをも predigen 説かない(ただひたすら平和を賛美し誠意を説きながら)、 und doch しかもそれにもかかわらず、 wenn もしも sie かれらが selbst 自身で sie (=Frieden und Treue) それらを beobachtet hätten 遵守した[であろうならば]、 um Ansehen und Macht gekommen wären 名声と権力を失ったであろう[と思われる] die ところの Wie viele Fürsten いかに多くの君主が in der Welt 世界に gab......es いたことであろう und そして gibt es [現に]いることであろう!

〔注〕【40】sei......darauf bedacht この sei は要求話法の用法。bedacht は bedenken の過去分詞だが、今では独立した形容詞として用いられている。auf etwas bedacht sein = to be mindful of -ing, to be intent on -ing.
【41】hält es......mit dem Scheine es mit etwas halten 「あることに賛成する・加担する」という熟語で es はたんなる Füllwort 「虚字」にすぎない。

[7] Papst Alexander der Sechste42 z.B. tat gar nichts anderes als die Menschen täuschen, dachte an nichts anderes und fand immer Leute, die sich anführen ließen43. Niemals hat jemand eine größere Fertigkeit gehabt, zu versichern und mit großen Schwüren zu beteuern. Niemals aber hat jemand sein Wort weniger gehalten44. Dennoch gelangen ihm seine Anschläge nach Wunsch, weil er die Welt von dieser Seite gut kannte.

〔訳〕 z.B. (=zum Beispiel) たとえば Papst Alexander der Sechste 法王アレキサンダー六世は、 die Menschen täuschen 人間をだますこと gar nichts anderes als 以外のなにごとも tat な[さなかった]、 an nichts anderes ほかのなにごとをも dachte 考え[なかった] und そして immer つねに、 sich anführen ließen 瞞着される die ところの Leute ひとびとを fand 見出した。Niemals......jemand いまだかつて何人も、 zu versichern 確約をし und そして mit großen Schwüren ものものしい誓いをたてて zu beteuern 宣言する(いかめしい宣誓の言葉で約束を与える)[ことにかけては]、 eine größere Fertigkeit [彼より]大なる巧妙さを hat......gehabt 持[たなかったと](彼ほど巧妙なひとはかつてなかった)。aber ところが Niemals......jemand いまだかつて何人も hat......sein Wort weniger gehalten [彼より]よりすくなく約束を守った人間はなかった、(彼ほどすくなく約束を守る人間はなかった、すなわち彼ほど約束を守らない人間は古来まれに見るところである)Dennoch それにもかかわらず seine Anschläge 彼の策謀は nach Wunsch 思いどおりに gelangen ihm 成功した、 weil なぜかと言うに er 彼は die Welt 世の中[というもの]を von dieser Seite この方面から gut よく kannte 知っていた(世の中のこの面をよく知っていた)から。

〔注〕【42】Alexander der Sechste Alexander VI. とも書く。der Sechste 「第六番の者、六世」は Alexander の「同格説明語」(Apposition)と呼び、 Alexander の格とおなじ格になる、二格は Alexanders des Sechsten、三格は Alexander dem Sechsten、四格は Alexander den Sechsten である。
【43】sich anführen ließen 「だまされた」 sich......lassen 「自分を……せしめる」というのは「……される」という、ほとんど受動と同様の意の、よくでてくる形式である。
否定詞と als【44】Niemals......weniger gehalten この文章は Niemand hat sein Wort weniger gehalten als er. と言うのにひとしい。二三行前の Niemals hat jemand...... も Niemand hat eine größere Fertigkeit......als er. と言うのにひとしい。いうまでもないことだが、否定詞と比較級とを用いて、いわば最高級のごとき表現をするわけである。日本語ではたいてい「あいつほどりこうな奴はいない」などと言うが、ドイツ語では Niemand ist so klug wie er. と言う以外に Niemand ist klüger als er. という形をよく用いるというわけである。

[8] Ein Fürst braucht also die sogenannten schönen Tugenden gar nicht zu haben, wohl aber45 den Anschein davon46. Es ist z.B. sehr nachteilig, stets redlich zu sein: aber fromm, treu, menschlich, redlich zu scheinen47, ist sehr nützlich48. Er muß sein Gemüt so bilden, daß49 er, wenn es notwendig ist, auch das krasseste50 Gegenteil von alledem hervorkehren51 kann. Ein Fürst, und absonderlich52 ein neu emporgekommener53 Fürst, kann nicht immer alles das beobachten54, was bei den gewöhnlichen Menschen für gut gilt55. Er muß oft wider Treue und Menschenliebe, wider Gewissen und Religion handeln.

〔訳〕 also ゆえに Ein Fürst 君主は die sogenannten schönen Tugenden いわゆる美徳なるものを braucht......gar nicht zu haben ぜんぜんもつ必要がない、 wohl aber しかし den Anschein davon それの外観は[そなえていなくてはならない](いかにも美徳の君子らしく見せかける必要はある)。z.B. たとえば、 stets いつも redlich zu sein 正直にしている Es ことは ist......sehr nachteilig ひじょうに不利である、 aber ところが fromm, treu, menschlich, redlich [ひとから見て]敬虔で、忠実で、人間的で、正直で zu scheinen あるように見えるということは、 ist sehr nützlich きわめて有利である。Er 君主は、 wenn es notwendig ist 必要とあれば、 auch das krasseste Gegenteil von alledem それらすべての正反対をすらも er......hervorkehren kann 出して見せることができる so......daß ように sein Gemüt 自分の心情を muß......bilden 陶冶しなくてはならない。Ein Fürst 君主は、 und absonderlich ことに ein neu emporgekommener Fürst 新しく成りあがった君主は、 bei den gewöhnlichen Menschen 凡人どもの間で für gut gilt よいことと考えられている was ところの alles das すべてのことを nicht immer かならずしも kann......beobachten 遵守することはできない(必要はない)。Er 君主は oft しばしば wider Treue und Menschenliebe 義理と人間愛に反して、 wider Gewissen und Religion 良心と宗教に反して、 muß......handeln 行動しなくてはならぬ。

〔注〕【45】nicht......wohl aber......; nicht......sondern...... と zwar......aber...... とを同時に用いたときには、後半部に wohl aber という句を用いる。すなわち「……ではないが、しかし……ではある」という場合である。Ich habe noch keine Frau, wohl aber ein Liebchen. 「わたしはまだ家内はありませんが、情婦ならあります」。
【46】den Anschein davon は換言すれば deren Anschein または den Anschein derselben.
【47】scheinen とくに念を入れた語には、このように「隔字体」(Sperrdruck; Sperrschrift)というのを用いる。
【48】ist sehr nützlich この文章も前の文章とおなじように es を主語としてこう書きかえられる:es ist aber sehr nützlich, fromm, treu, menschlich, redlich zu scheinen.
【49】so......daß この従属的接続詞は「規定的」で、「……するように」、「……する目的で」という意味である。
【50】das krasseste Gegenteil kraß という形容詞は、 das krasse Gegenteil とか der krasseste Widerspruch 「もっともはなはだしい矛盾」とかいったような場合にのみにしか用いない語で、「露骨な」「ひどい」の意。
【51】hervorkehren 元来、衣服の裏側などを「表に向ける」、「裏がえして出す」こと。hervor- には、すべて隠れていたものが表面にあらわれる意があることは、先に述べたことがある。
【52】absonderlich 「ことに、なかんずく」これよりももっとふつうなのに vor allem, vornehmlich, insbesondere, besonders などがある。
【53】emporgekommen 三要形:emporkommen, kam empor, emporgekommen. ついでに「成りあがり者・幸運児」のことを Emporkömmling = upstart, fortune's minion と言う。
【54】beobachten この動詞にはふたつの意味がある。ひとつは「観察する」すなわち betrachten にあたる意味で、他のひとつは「遵守する」すなわち befolgen に相当する意味である。本文の場合は明らかに後者である。なお beobachten の発音は「ベーバハテン」である。
【55】für gut gilt für (als) gut gelten = für (als) etwas gehalten werden = to pass for something, to be considered as something. gelten の三要形:gelten, galt, gegolten.

[9] Er muß also einen Geist besitzen, der geschickt ist, sich so, wie es die jeweiligen Windrichtungen und die abwechselnden Glücksfälle fordern, zu wandeln. Er darf zwar den geraden Weg nicht verlassen, so lange er die Macht hat, wohl aber den krummen betreten, wenn es sein muß56. Ein Fürst muß sich daher wohl hüten, daß nie ein Wort aus seinem Munde geht, das nicht von Gerechtigkeit, Menschlichkeit und Frömmigkeit erfüllt ist. Alles, was er spricht, muß Treue, Mitleid und Demut atmen57. Und nichts ist notwendiger als der Schein aller dieser Tugenden.

〔訳〕 also ゆえに Er 君主は、 die jeweiligen Windrichtungen und die abwechselnden Glücksfälle そのときどきの風向きと変転常なき世運が es......fordern それを要求する wie ごとく、 so そのように sich......zu wandeln 自分を変化せしめる(転身する) geschickt ist 技量のある der ところの einen Geist 精神を muß......besitzen 所有しなくてはならない(したがって君主は、そのときどきの人心の動向を察知し、起伏常なき運命の趨行にしたがって、たくみに自己の姿を変えてゆくだけの弾力性のある精神の所有者でなければならない)。 zwar なるほど Er 君主は、 er 彼が die Macht 権力を hat 握っている so lange かぎりは、 den geraden Weg まっすぐな道(正直なやり方)を darf......nicht verlassen すててはならない、 wohl aber しかし、 wenn es sein muß 必要とあらば [darf] den krummen [Weg] betreten 曲った道を歩んで[よろしいのである]。daher それゆえ Ein Fürst 君主は、 von Gerechtigkeit, Menschlichkeit und Frömmigkeit 正義、仁徳および敬虔をもって nicht......erfüllt ist 満たされていない das ような ein Wort 一言も aus seinem Munde 自分の口から nie......geht けっして洩れない daß ように、 wohl よく muß sich......hüten 注意しなくてはならない。er 君主が spricht 語る was ところの Alles すべて[の言葉]は、 Treue, Mitleid und Demut 誠実、同情および謙譲を muß......atmen 発散していなくてはいけない。und そして nichts なにものも der Schein aller dieser Tugenden すべてこれらの徳の見せかけ ist notwendiger als より必要ではない(これらの徳をすべてかねそなえていると思わせることぐらい必要なことはない)。

〔注〕【56】wenn es sein muß = on (at) a pinch. 「いざとなれば」の意の成句。nötigenfalls, gegebenenfalls とも言う。
【57】atmen 「呼吸する」の意であるが、ここのように Demut atmen 「忍従を呼吸する」などというと、そのひと息ひと息が忍従の気魄に横溢していることを意味する。

Thursday, August 11, 2022

英語読解のヒント(21)

21. 同格 (1)

基本表現と解説

ここでは名詞または代名詞が、同一文章の中の他の名詞または代名詞と同格であるケースを示す。

例文1

He was a very pleasant-spoken manthat photographer.

The Houston Home Journal, June 20, 1874

彼はとても愉快な男だった――その写真師は。

例文2

It was a long waiting until they came home — my father and John.

Dinah Mulock Craik, John Halifax, Gentleman

彼ら――父とジョン――が帰って来るまで長いこと待った。

例文3

They went together, the father and son, so like in face yet so dissimilar in mind.

Charlotte M. Braeme, Dora Thorne

彼ら――父と息子――は連れだって歩いて行った。顔はよく似ているが気質はまるでちがう二人であった。

Monday, August 8, 2022

英語読解のヒント(20)

20. at any moment / hour / time

基本表現と解説

may / can / be liable / be expected 等、可能性をあらわす語とともに用いられた場合、表題の表現は「いつ……するかもしれない」「いまにも……するはずだ」という意味になる。

例文1

M. Myriel might be called at any hour to the bedside of the sick and the dying.

Vicotor Hugo, Les Misérables (translated by Lascelles Wraxall)

ミリエル氏は病人や死にかかった人のもとへいつ呼ばれないともかぎらなかった。

例文2

With rare exceptions, all the felines are untrustworthy and more or less treacherous, and no matter how long they may have been trained, or how well their trainer may know them, they are liable at any moment, and without the least reason, to turn on him.

Frank Charles Bostock, The Training of Wild Animals

まれなケースをのぞいて、ネコ科の動物はみな信用がならず、程度の差はあれみな油断できない。どれほど長期間にわたって訓練されていようとも、どれほど訓練者が彼らになれていようとも、彼らはいつなんどき、まったく理由もなく、訓練者に刃向かってくるかわからないのだ。

例文3

Then Butterwick started his sheep again, and commenced to count again. He got up to one hundred and twenty, and was feeling as if he would drop off at any moment, and just as his hundred and twenty-first sheep was about to take that fence, one of the twins began to cry.

Max Adler, "On Going to Sleep"

バターウィックはまた羊を数えはじめた。百二十匹まで数え、すぐにも寝つきそうになってきた。ところが百二十一匹目が今しも垣根にさしかかろうとするとき、双子の(赤ん坊の)一人が泣き出した。

Friday, August 5, 2022

英語読解のヒント(19)

19. another + 複数名詞

基本表現と解説
  • I had to pay another ten dollars. 「もうあと十ドル払わなければならなかった」
  • We walked another four miles. 「さらに四マイル歩いた」

another が複数形の数量表現に冠せられることがある。

例文1

My mother and sister had spoken so many last words, and had begged me to wait another five minutes so many times, that it was nearly midnight when the servant locked the garden-gate behind me.

Wilkie Collins, The Woman in White

母と妹は長々と別れの言葉を述べ、もう五分、もう五分と何度も引き留めるものだから、わたしが出発したあと下女が庭門を閉めたのは真夜中になろうとするころだった。

例文2

In another two minutes we were all three sucking the pulpy fruit. In an ordinary way we should have found it tasteless enough: as it was I thought it the most delicious thing I had ever tasted.

H. Rider Haggard, Allan's Wife

それからさらに二分後、われわれ三人はみなその柔らかい果実を吸っていた。普段ならなんて味気ないんだと思うところだが、しかしそのときはわたしが味わったどんな食べ物よりもおいしく感じられた。

例文3

"In another ten years, at maturity, you will be completely acclimated to Mars. Its air will be your air; its food plants your food."

Frederic Brown, "Keep Out"

「あと十年して大人になったとき、おまえは完全に火星の環境に慣れるだろう。火星の空気がおまえの空気になり、食用植物がおまえの食べ物になる」

Tuesday, August 2, 2022

英語読解のヒント(18)

18. 反覆

基本表現と解説
  • I must tell him, and that at once. 「彼に話さなければ。それもすぐに」
  • I must tell him, and tell him at once.

前項における and that の that の代わりに、先行する句をそのまま反覆する場合がある。

例文1

It has been observed, and very truly observed, that men used to lay out a one-pound note when they would not lay out a sovereign....

William Cobbett, Advice to Young Men

人間と云うものは、おなじ一ポンドでも、紙幣は使うが、金貨は使わない、などと言われている。これは真理だ。

例文2

Yet there was a small house, backed up against the cemetery wall, which was still awake, and awake to evil purpose, in that snoring district.

R. L. Stevenson, "A Lodging for the Night"

けれども墓地の塀に寄せてつくられた小さな家屋があって、その家は今なお目覚めていた。しかも周囲はいびきをかいて寝ているというのに、そこだけは起きていて悪事をたくらんでいたのである。

例文3

 "Do you suppose that she had money of her own?"
 "Very little, if any, sir. It was said, and said truly, I am afraid, that her means of living came privately from Sir Percival Glyde."

Wilkie Collins, The Woman in White

 「この女は自分の金を持っていたと思いますか」
 「持っていてもごくわずかです。彼女の生活費はサー・パーシヴァル・グライドが内々に出していると言われていますが、それは本当です」

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...