Friday, March 29, 2024

エレナ・ゴメル「物語の時空」


物語論において時空間が扱われるとき、それはたいていわれわれの世界、つまり三次元世界の常識的時空概念が用いられている。もっと言えばニュートン的な絶対的時空概念である。空間のなかに何が存在しようと空間と時間は絶対的な基準としてその外部にありつづけるという考え方である。わたしにはこれがさっぱりわからない。物語の世界は記号の世界であって、記号による特殊な時空を形成している。それは三次元などという空間とはまったく別物の、いや三次元と比べるなら異様としかいいようがない空間が形づくられるはずである。この異様さに気づいていたのがフロイドで、だからわたしは精神分析を一生懸命勉強するのである。

エレナ・ゴメルも、この物語論の弊害を嘆いている。彼女はSFを書き、最新の量子力学にも通じている珍しい文学研究者で、時空概念が二十世紀以降、劇的な変化を遂げたことを識っている。その変化を文学のなかに見ていこうというのが本書である。

ニュートンが考えたような絶対的時空間、ダーウィンが考えたような偶然性に支配された空間概念、アインシュタインの時間と空間を一体的にとらえた相対性理論、観察者と観察の対象の区別が成立しなくなる量子力学、ブラックホールなど極限的な時空間のありようを考える宇宙論、こうした考え方がリアリズム小説からポストモダン小説にいたるまでのさまざまな作品のなかにどう反映されているのか。

これは読んでいてじつに楽しい本だった。文学の研究書とはいえ、読書好きなら誰にでもわかるように書かれている。(物語論の専門用語がすこし煩わしいかもしれないが)そして古い文学研究を打ち破る爽快感にあふれている。また物語論の最新の成果をおおざっぱに教えてくれる、すぐれた物語論入門書にもなっている。さらに本書では多くの小説が紹介され議論されているが、いずれもゴメルの愛読書なのだろう、珍しい本、あまり知られていない本も含まれているが、どれも思わず興味を惹かれるような紹介・議論になっていて本当に読んでいて楽しかった。とりわけクストファー・プリーストリーの「反転した世界」に関する議論を読んでいるときは、この本を再読したくなった。もちろんプリーストリーが最近物故したという理由もあるのだけれど。

こんなにいい本なのだから、どこかの出版社が日本語に訳したらいいのに。

ただ、この本を読んでいて飽き足らなく思ったのはフロイドやラカンが出て来ないところだ。(フロイドは出て来るが的をはずした議論だと思う)精神分析がすっぽり抜け落ちている。フロイドやラカンこそが、言語によって構成されるトポロジカルな空間の奇怪さを真っ向から考察しているのに。そしてその考察はいまだに充分発展させられていないというのに。

そしてこの欠如は、彼女の議論の皮相さを示してもいる。さまざまな時空概念が、テキストの上っ面と比較されているだけで、一歩踏み込んだテキスト内部への視線が欠けているのだ。

また、これは彼女の研究範囲にないのかもしれないが、ルネサンス期の時空概念がまったく触れられていない。ゴメルは小説を研究対象にしているのだからシェイクスピアなどの詩や戯曲を扱わないのはしょうがないけれど、ルネサンス期のパラドキシカルな詩や戯曲には驚くべき時空概念の表現が見られる。たとえばシェイクスピアの「冬物語」のリオンティーズとポリクシニーズの関係は、量子力学でいうEPRパラドクスを想起させるものである。文学の世界には量子力学が提出する奇妙な考え方を先行的に提出している例が見つかる。

ゴメルがダーウィンに関して、彼が不連続性や偶然性に焦点をあてたと述べている部分では、我が意を得た思いだった。わたしは自分が訳した「オードリー夫人の秘密」の後書きで、主人公が目的論的構えを挫折させる不連続性、偶然性の原理を示していると書いたが、ゴメルの論旨はわたしの議論とぴったり適合する。「オードリー夫人」の後書きを書くときこの本を読んでいればとちょっと残念に思った。(今調べたら、わたしが「オードリー夫人」の翻訳を出したのは2013年、ゴメルの本書が出たのは翌年の2014年だった)

Wednesday, March 27, 2024

ドナルド・ゴインズ「ブラック・ガール・ロスト」

 


文章も構成も際立ってうまいわけではないのに、読みだしたら止まらないという作家がいる。ドナルド・ゴインズもそんな一人だ。この作家の作品ははじめて読んだが、奇妙に魅了されて短時間で読み終わった。

ドナルド・ゴインズは二十歳のころにヘロイン中毒になり、軍隊を除隊してからは強盗をはたらいていた。逮捕され監獄に入れられ、その後小説を書き始めた。三十七歳でギャングに殺されるまで十六作品をものしたらしい。文章が洗練されていないのは彼の経歴と関係があるのだろうが、物語を書きたいという熱気が文章の背後から伝わってきて、作品の世界に引き込まれてしまう。同時にスラム街における女の子の成長という特殊な主題の面白さも魅力となっている。

主人公はスラム街に生まれた黒人の少女サンドラだ。小さい時は飲んだくれの母親のせいでまともに食べ物も与えられず、たえず空腹に苦しんでいた。まるで戦時中、あるいは戦後の混乱期の子供たちのようだ。それにつけこんで食べ物を与える代わりに彼女を性的に利用しようとする大人もいれば、社会の底辺に生まれたとはいえ、一本筋の通ったその気性を愛し、アルバイトに雇う心やさしい大人もいる。やがてサンドラはアルバイトによって小金を貯めるようになる。

あるとき偶然、純度の高い麻薬を手に入れ、それを売りさばいて大金を手にするようになる。売りさばくときに彼女の手伝いをしてくれたのがチンクという学校の同級生だ。女の子と話すのが苦手なこの男の子は放課後にこっそりクスリを売って金儲けをしている。しかし奇妙に信義に厚く、サンドラは彼を信頼し、二人は恋人になる。が、良質の麻薬を売り、警察の目に留まらないはずはない。学校の昼休み時間にクスリを取りに家に帰ったチンクは逮捕され、同時にサンドラも捕らえられてしまう……。

こんな具合に話が進展していくのだが、非常に面白い。

わたしはサンドラに強い好感を抱いた。彼女にはずる賢いところがなく、気持ちのよい、きっぱりした性格で、スラム街ではなく普通の家庭に育ったわれわれでさえ感心するくらい、ある種の強い社会的規範をもっている。もちろん生きる手段を奪われた環境にあるのだから、それなりに「悪事」にも手を出さなければならない。しかし彼女は懸命に生きようとしているのであって、サンドラを逮捕する黒人警官が、彼女の必死に生きる姿勢を同情的に見つめる部分はちょっと胸にぐっとくるものがあった。

この話はその後サンドラがレイプされ、それを知った獄中のチンクが脱獄するというようにエスカレートしていくのだが、もともと悪いやつらがどんどん羽目をはずしてとうとう自滅するというのではなく、幸せを求めてどんなに努力しても、環境がそれを許さないという、ゲットーの悲劇として描かれている。センチメンタルな部分が気になるが、アメリカには元犯罪者や元ホームレスによる文学の伝統があり、それを引き継ぐ作品として十分価値があると思う。

Sunday, March 24, 2024

フレドリック・ブラウン「なんたる狂った宇宙」

 

フレドリック・ブラウンは1972年の没だから、とっくに日本ではパブリックドメイン入りしている。ブラウンは才人で、どの作品も面白く、わたしもほとんどの作品を読み尽くしていると思う。翻訳したい気持ちはあるけれど、だいたい訳が出ているし、今でも人気作家だから、今後新訳も出続けるだろう。なるべく商業出版とは重ならない領域で仕事をしたいので、ブラウンはよほどのことがないかぎり手を出さないつもりだ。

「なんたる狂った宇宙」は中学生ぐらいのときに読んだから何十年ぶりかの再読である。読み返してこんな話しだったのかとびっくりした。完全に内容を忘れていた。

名作リストに載るくらいだから詳しい筋の紹介は必要ないだろう。SF雑誌の編集者ウィントンがふとしたことからパラレルユニバースにさまよいこんでしまう。そこでは地球は気味の悪いエイリアンと生存をかけた戦いを繰り広げており、地球軍の指揮を執っているのはドペルというハンサムな英雄だった。ウィントンはこの世界でエイリアン側のスパイと間違われ命を狙われるのだが、物語の後半にいたって、ある秘密に気づく。彼がさまよいこんだ世界、これは彼が編集する雑誌のファンであるドッペルバーグという男の夢想する世界なのだ。英雄ドペルはドッペルバーグが夢見るおのれの姿であり、この世界のさまざまな奇矯な特徴はドッペルバーグがいかにも思い描きそうな世界のありようを示している。ウィントンはいわばドッペルバーグの夢の世界にまぎれこんだのである。

しかしこの設定には二つほど疑問が残る。第一にウィントンがこの世界に跳び込んでくるという事態ははたしてドッペルバーグが夢想するような事態だろうか。この小説の説明によると宇宙には無限の可能世界が存在しているということだから、ドッペルバーグが夢想する世界にウィントンが跳び込んでくるという世界があってもかまわないのだろうが、そうすると可能世界とういのは他の可能世界からの干渉を受けうるということになるのだろうか。

第二にウィントンをドッペルバーグの宇宙に飛ばした、ある科学現象は無限の可能世界とどういう関係にあるのだろう。この科学現象によって人がある宇宙から別の宇宙に移動するということは、前段で書いたように、個々の可能世界は独立した存在ではないということになる。干渉を可能にするような科学現象は、可能世界とどういう関係にあるのか。この科学現象は存在論的にどのような位置を占めるのか。量子力学でいう多世界解釈というのは、わたしの生半可な理解では、たしか世界間の干渉は考えられていないはずである。

わたしはこの話がパルプらしい、荒唐無稽なものだということをいいたいのではない。逆に現実にあることをパルプらしい荒唐無稽なシチュエーションに置き換えただけではないかと考える。われわれはそれぞれ欲望を持って生きている。そしてときどき、どういうわけか、知らぬ間に他人の夢に巻き込まれてしまうことがある。具体的には戦争や、さまざまなイデオロギー的対立を考えればよい。この不思議な事態をブラウンは、量子力学の多世界になぞらえ、SF的に考察しているのではないのか。欲望、夢、イデオロギーといったものの構造を探るヒントがこの作品にはあるような気がする。フィリップ・K・ディックの名作 EYE IN THE SKY も読み返したくなった。

Wednesday, March 20, 2024

アーヴィン・アッシュ「量子もつれ解説」

タイトルにあげたのは書籍ではなく、YouTube の番組である。(リンクはこちら)Arvin Ash という人が科学を解説している番組があって、そのなかの一つが非常に興味深かったので、取り上げておこうと思う。

以前わたしはこのブログでシェイクスピアの「冬物語」に見られるパラドックスと、量子力学のいわゆるEPRパラドックスの類似性を指摘したことがある。文学、それも十六世紀の作品と、最先端科学である量子力学のあいだにつながりがあるというのだから、ハナからこの議論を無視する人もいるだろうけど、しかしパラドックスの構造はまったく同型である。量子力学のパラドックスは装いは新しいが、古来からあるパラドックスの形を変えたものといえるのではないか。古代ギリシャからある「わたしは嘘つきだ」という真偽判定不能の一文が、二十世紀になってゲーデルの不完全性定理のもとになっているのとおなじことだ。

EPAパラドックスについてはアーヴィンさんの番組内で説明されているので、見てもらうのが一番いいが、これはアインシュタインが量子力学の考え方がおかしいことを証明しようとして考え出した思考実験である。量子もつれ状態にある二つの粒子を宇宙の一方の果てと他方の果てに移動させる。この二つの粒子には特徴があって、一方が Spin Up であるなら他方はかならず Spin Down となる。しかしこの Spin Up と Spin Down は計測されるまでは不確定の状態にある。そして一方の粒子が測定により Spin Up と確定したら、他方の粒子はそれと同時に Spin Down の状態になるのである。まるで一方の情報が宇宙を超えて瞬時に他方へ伝わったかのように、だ。アインシュタインは光より速いものはないのだから、これはおかしい、といいたかったのだ。そしてわれわれにはまだわかっていない変数Xがあって、それがこのような現象を生んでいると主張する。それに対してボーアという学者は、いや、Xなんてない、この奇妙な現象が現実だ、という。どっちが正しいのか。

アイルランドのベルという学者が、まことに単純だが狡猾きわまりないある実験を考え出し、それを実際にやってみると……なんとボーアのほうが正しいことが判明した。アインシュタインはどこがまちがっていたのか。

アーヴィンさんはこう言う。

[EPRパラドックスを考えた科学者たちは]二つの粒子を別々の物体として考えた。そう考えてしまったのも当然だ。粒子は宇宙の反対の方向に飛ばされるのだから。しかも両者が何光年も離れるまで待ったうえでようやく計測できるのだ。しかし物体がもつれの状態におかれると、それらは別々の物体ではない。それらはいわば単一の物体の二つの部分なのだ。

こういうことだ。量子力学では物体は波動関数によってあらわされる。この波動関数はその物体に関していえるすべてをまとめた数学的表現だ。この波動関数は宇宙にも広がりうる。だから粒子は波のようにふるまうのだ。

しかし二つの粒子をもつれの状態に置くと、それらは単一の波動関数によってあらわされる。もつれの状態に置かれた二つの物体はおなじ波動関数によってあらわされるのだから、それらは数学的には同一の物体である。これがもつれの本当の意味だ。また粒子の属性が相互依存関係にある理由である。あなたがたとえば一方の粒子を測定すれば、あなたは波動関数を変えたことになり、もう一方の粒子の状態も変えたことになる。なぜなら他方の粒子もおなじ波動関数であらわされるのだから。

ここにあるのは二つのものが同一であるのか、同一でないのか、決定不能であるという「冬物語」のパラドックスとまったくおなじである。これはリオンティーズとポリクシニーズの関係に置き換えることができる。二人は作中の比喩を使えば、二本の枝であり、同時に一本の木なのである。両者を別個の存在と考えることはできない。しかし単純にひとつのものとも考えることはできない。自同性と他者性のパラドキシカルな関係が「冬物語」の眼目である。

いや、もう一人ハーマイオニーの存在を忘れてはならない。彼女は上記の二人のあいだに存在すると言っていい。しかしその役割はやはりパラドキシカルである。彼女は二人を「繋ぐ」と同時に「切断」するのだ。リオンティーズとポリクシニーズが二者であり一者だとすれば、それはハーマイオニーの力がそうさせているのである。ハーマイオニーがあらわす力こそ量子力学の「もつれ」である。


この三者関係は二つの様態を持つ。三者がパラドキシカルな状態で共存しているありようと、一者がほかの二者を放逐し、純然たる同一性・自同性を確立しようとするありようの二つである。前者においては他者性、つまり自同なるものからつねにずれていこうとする力がはたらいているが、後者においてはそれがない。だからリオンティーズがポリクシニーズとハーマイオニーを追放すると、時間は停止ししてリオンティーズが治める国は「冬」に閉ざされ、ハーマイオニーは銅像のように空間的動きを失う。

逆に言うと、ハーマイオニーは時間や空間を生み出しているのではないか。わたしはずっとそう思っていたけれど、アーヴィンさんの番組を見て、やっぱりそうかとうれしくなった。彼はこんなことを番組内で言っている。

じつは研究者のなかには量子もつれは空間よりももっと根本的なものではないか、われわれの空間概念は、巨大な相互作用の網のなかで物体をつなげる量子もつれから発生するのではないかと考える人もいる。

アーヴィンさんは空間だけをあげているが、それでもこれを聞いた時、わたしは百万の援軍を得た思いだった。

文学の研究が量子力学に直接役立つわけではないが、文学が考え出したパラドックスが、量子力学が直面したパラドックスとよく似ていることは否定できない。最近、哲学者のジジェクが盛んに量子力学を論じているが、彼もラカン派の議論と量子力学の考え方が根本において同型ではないかと考えている。非常に興味深い。

Sunday, March 17, 2024

独逸語大講座(18)

Der Mönch schlug die Augen auf,1 sah das schöne Bildnis an,2 wurde ganz rot und eine Zeit lang3 konnte4 er nicht aufstehen. Endlich stand er doch5 auf, trat hinzu,6 warf7 sich dem8 Mädchen zu Füßen und begann laut zu beten: „ du ewiger Gott, beschäme9 mich nicht vor meinen Kameraden! Sei10 mir doch11 gnädig12 und laß13 einmal ein großes Wunder geschehen14! Gib15 diesem Gesicht Farbe, diesen Händen Wärme, bewege16 diese Füße, löse17 diese Zunge, gib diesem Leib18 eine Seele19!" Da20 er ein Jüngling reinen21 Herzens22 war, wurde seine Bitte auf der Stelle23 erhört. Sofort belebte sich24 die Figur, die Gewänder25 rauschten, Gesicht und Hände färbten sich26 und das Haar wuchs.27 Die Gestalt fing an umherzuwandern,28 wenn auch29 im Anfang noch ein wenig30 taumelnd.31 Aus dem Mund kamen Worte,32 erst wie zum33 Versuch, dann aber die schönen, lieblichen Gedanken,34 wie sie35 die jungen Mädchen zu haben pflegen.36

訳。僧は der Mönch 眼を die Augen 開けた schlug auf, 美しい像を das schöne Bildnis 眺めた sah an, 真赤に ganz rot なった wurde そして und しばらくの間は eine Zeit lang 起ち上ることが aufstehen 出来なかった konnte er nicht. しかし〔流石に〕doch 遂には endlich 起ち上って stand er auf 歩み寄り trat hinzu 娘の足下に dem Mädchen zu Füßen 身を投げ伏して warf sich そして und 大きな声で laut 祈り始めた begann zu beten:「おゝ、汝永遠なる神よ „o du ewiger Gott わが同輩等の前に vor meinen Kameraden 我を恥しめ給う勿れ beschäme mich nicht, 冀くば doch 我に慈悲深くあり給え sei mir gnädig 而して und 一度 einmal 一つの大なる奇蹟を ein großes Wunder 起らしめ給え laß geschehen! 此の顔に diesem Gesicht 色を与え給え gib Farbe, 此の〔両〕手に diesen Händen 温熱を〔与え給え〕 Wärme 此等の足を diese Füße 動かし給え bewege, 此の舌を解き給え löse diese Zunge, 此の体に diesem Leibe 一つの魂を授け給え」 gib eine Seele!“ 彼は er 浄き心を持った青年 ein Jüngling reinen Herzens であった war ので da 彼の願いは seine Bitte 立ち所に auf der Stelle 聴届けられた wurde erhört すぐさま sofort 像は die Figur 活気づいた belebte sich 衣は die Gewänder ざわめいた rauschten 顔と手は Gesicht und Hände 色づいた färbten sich そして und 髪の毛は das Haar 生えた wuchs. 似姿は die Gestalt あちこちとぶらつき始めた fing an umherzuwandern 勿論(たとえ)wenn auch 初めの中は im Anfang まだ noch 少々 ein wenig よろめきつつ taumelnd. 〔ではあったにしろ〕。口からは aus dem Mund 言葉が洩れて来た kamen Worte 先ず最初は erst あたかも試験的の如くに wie zum Versuch, しかし其の次には dann aber 若い娘達が die jungen Mädchen 持つのを常とする zu haben pflegen ような wie sie 〔左様な〕美しい可愛らしい考えが die schönen, lieblichen Gedanken 〔口から洩れて来た〕[kamen aus dem Mund.]

註。――1. aufschlagen (開ける)の過去。――2. ansehen は分離動詞。――3. eine Zeit lang (暫時)は熟語。eine Zeitlang とも書く。――4. können の過去。――5. doch=矢張り、さすがに、それにも拘らず、とは云え、それでも。――6. hinzutreten (歩み寄る)の過去。treten (踏む、歩む、英語の to tread)の三要形は treten, trat, getreten.――7. werfen (投げる)の過去。此処では sich werfen (身を投げる)という再帰動詞。――8. 日本語から考えると zu den Füßen des Mädchens (娘の足下に)と云いそうな訳だが、ドイツ語では dem Mädchen zu Füßen (娘に足下に)という。つまり両方とも同じである。――9. beschämen (恥かしめる)の命令形。命令形は、一般的規則としては =e の語尾を採る事になっているが、geben (ich gebe, du gibst, er gibt)の型で人称変化する動詞(第二巻 119)に限って =e を附けず、且つ幹母音が i になる。gib! (与えよ)。――10. sein (to be)の命令形(英語の be!)――これは前項に述べた命令法に関する通則の例外である。――11. 命令文にはよく doch (どうか、どうぞ)を入れる。第5項で説明した doch とは別物である。――12. 英語の grace は die Knabe, gracious は gnädig.――13. lassen の命令形 lasse の =e を省いた省略形。この方を多く用いる。――14. geschehen は英語の to happen, (生ずる、出来する、起る、行われる)。――15. geben の命令形。――16. bewegen (動かす)の命令形。――17. lösen (解く)の命令形。――18. der Leib=der Körper.――19. die Seele 魂(英 soul)=der Geist 精神(英 spirit).――20. 接続詞としての da は、略 weil と同意、(……であるが故に)。――21. 二格の =en という語尾に関しては文法第一巻の98参照。――22. das Herz (英 heart)の格変化は変則で、das Herz, des Herzens, dem Herz, 又は dem Herzen, das Herz.――reinen Herzens (清き心の)が「清き心を持った」という意味になる。第一巻読本の部55頁註7.に説明したのもこれと似た語法である。――23. auf der Stelle (立ち所に)は熟語。――24. sich beleben (活気づく)は四格の再帰代名詞を伴う再帰動詞。Leben (命)から来ている。――25. 単数は das Gewand. 即ち das Kleid (着物)に対する詩語。――26. sich färben (色が差す、彩られる)も再帰動詞。――27.wachsen, wuchs, gewachsen (生える)chs [クス] の発音に注意すべし。(第一巻 24ー26項)。――28. wandeln は漫歩すること、wandern (てくてく歩く)とは少し違う。――umher= は「あちこち……し廻る」と云う意の前綴(英 about).――29.wenn だけならば「若しも」、wenn auch は「たとえ……にしろ」(英 though)――30.ein wenig=a little, somewhat.――31.taumeln (よろめく)の現在分詞が taumelnd (よろめきつつ)=nd, =end は英語の -ing に相当する。――32.Wort, n. (言葉)には複数形が二つある。die Wörter は「単語」(即ち意味の関連せざる数個の言葉)で die Worte は「詞」即ち一連の文句である。――33.zu は「……の為め」――zum Versuch は「試みの為め」。――34. der Gedanke 又は der Gedanken (考え、思想)二格以下はすべて =en の方で変化する。即ち des Gedankens, dem Gedanken, den Gedanken. 複数は四格とも Gedanken.――35.sie は「それらを」(Gedanken を受ける代名詞)――wie と sie と二つで結びついて一種の関係代名詞を形成する。(詳細は第二巻171に就て見よ)。――36.「云々するのを例とする、常とする、週刊とする」は zu……pflegen である。此の zu に就いてはいずれ第四巻で説明する事になっている。

Friday, March 15, 2024

英語読解のヒント(105)

105. 助動詞のあとの動詞の省略

基本表現と解説
  • She loves him as she would love her own child.
  • She loves him as she would do her own child.
  • She loves him as she would her own child.

いずれも「彼女は自分の子供を愛するように彼を愛する」という意味だが、助動詞のあとの動詞は反覆することもあれば、代動詞を用いることもあるし、省略されることもある。

例文1

 "Anything else?" I asked, for Holmes was turning the pipe about in his hand, and staring at it in his peculiar pensive way.
 He held it up and tapped on it with his long, thin forefinger, as a professor might who was lecturing on a bone.

Arthur Conan Doyle, "The Yellow Face"

「ほかには?」とわたしは聞いた。というのはホームズがパイプをひねくりまわし、彼特有のじっと考え込むような目つきでそれを見つめていたからだ。
 彼はパイプを差し上げ、骨について講義する教授のように細くて長い指でこつこつとたたいた。

例文2

When a woman has had a tiff with her husband and is sulking the rest of the day, she will put on, in the evening, half a dozen wraps, one on the top of the other; she makes herself absolutely inaccessible; she packs herself as she would a valuable clock that had to be shipped to the Antipodes.

Max O'Rell, Between Ourselves

夫と仲違いし、一日中ふてくされている妻は、夕方になると五着も六着も外衣を重ね着する。そうやって彼女は自分を絶対的に手の触れえない存在にするのだ。彼女は地球の反対側に送る貴重な時計を包むかのように丁寧に身ごしらえする。

例文3

It was clear that the cottage had at last been let. I walked past it, and then stopping, as an idle man might, I ran my eye over it and wondered what sort of folk they were who had come to live so near us.

Arthur Conan Doyle, "The Yellow Face"

とうとう小屋に借り手がついたことは明らかでした。わたしはその前を通り過ぎてから、暇人がするように立ち止まって、小屋を見回し、どんな人がうちらのすぐそばに引っ越してきたのだろうと思いました。

Tuesday, March 12, 2024

英語読解のヒント(104)

104. 代動詞 do

基本表現と解説
  • She loves him as she does her own child. 「彼女は自分の子供を愛するように彼を愛する」

動詞を反覆せず do で代用するケース。

例文1

Passion spreads the riot as the wind does fire.

Victor Hugo, Les Misérables (translated by Lascelles Wraxall)

風が火を広めるように、激しい感情が暴動を広める。

例文2

Eyes will not see when the heart wishes them to be blind; desire conceals truth as darkness does the earth. Seneca

Dictionary of Quotations (compiled by James Wood)

「心が見ようとしないとき、目は盲目となる。暗闇が地上を蔽うように、欲望は真実を隠す」セネカ

例文3

As the days passed she began to lose something of her shy, startled manner, and laughed and talked to him as she would have done to her own brother.

Charlotte Mary Brame, Dora Thorne

日が経つにつれ、はにかんだような、びくびくしたところが幾分かなくなり、自分の兄弟に対してしたように彼に対しても笑ったり話したりするようになった。

 ここの done は laughed と talked の二つの動詞を受けている。

Saturday, March 9, 2024

英語読解のヒント(103)

103. 動詞の反覆

基本表現と解説
  • She loves him as she loves her own child. 「彼女は自分の子供を愛するように彼を愛する」

おなじ動詞を反覆するケース。ここにあげた例のように動詞を反覆するか、次項に示すように do でもって代理するかはレトリック上の問題である。

例文1

...go on living exactly as you have always lived, only doing everything in more and more moderation.

Max O'Rell, Rambles in Womanland

今まで通りに生きていきなさい。ただし万事を徐々に控え目にしていきながら。

例文2

We of this generation do not have to face a task such as that our fathers faced, but we have our tasks, and woe to us if we fail to perform them!

Theodore Roosevelt, The Strenuous Life

現代のわれわれは祖先が直面したような課題に直面することはない。しかしわれわれにはわれわれの課題がある。もしその課題に対処できないようなら、われわれに災いあれ!

例文3

From a chaos of wild dreams was finally brought forth a gigantic clam, whose mission it was to devour me as I had devoured its relatives.

Charles J. Barnes and J. Marshall Hawkes, New National Fourth Reader

荒唐無稽な夢の中からついに一個の大蛤があらわれた。その使命は、わたしがその親戚を食べたように、わたしを取って食うことだった。

Tuesday, March 5, 2024

英語読解のヒント(102)

102. do (5)

基本表現と解説
  • He seldom speaks, but when he does speak, he always speaks to the purpose. 「滅多にしゃべらないが、しゃべるとなるといつも適切な話し方をする」

この do は If you speak at all の at all 「いやしくも」のようなニュアンスを持つ。

例文1

And if you do fight, fight it out; and don't give in while you can stand and see.

Thomas Hughes, Tom Brown's School Days

闘うなら最後まで闘いなさい。その足で立ち、その目でものが見えるあいだは屈服するな。

例文2

Much will be done if we do but try. Nobody knows what he can do till he has tried; and few try their best till they have been forced to do it.

Samuel Smiles, Self-Help

やってみさえすればいろいろなことができるのだ。やってみるまでは誰も何ができるかわからない。そして、そうせざるをえなくなるまで全力を尽くしてやってみる人はほとんどない。

 if we do but try は if we do only try と言い換えられる。

例文3

"The first thing for a boy to learn, after obedience and morality, is a habit of observation. A habit of using your eyes. It matters little what you use them on, provided you do use them.

Charles Kingsley, His Letters and Memories of His Life

従順さと道徳心を学んだあと男子がまず身につけるべきものは観察の習慣である。目を使う習慣だ。目を使いさえすれば、何にそれを用いようが問うところではない。

Saturday, March 2, 2024

英語読解のヒント(101)

101. do (4)

基本表現と解説
  • He does speak, but he cannot speak to the purpose. 「しゃべるにはしゃべるが、要領を得た話し方ができない」

but に導かれる節が後続する場合は、譲歩を示す。「なるほど……だが、しかし」。

例文1

To be sure he did eat little children, but only very little ones....

George MacDonald, "The Giant's Heart"

たしかに彼は子供を食べたが、しかしごくごく小さい連中だけを食べたのだった……。

例文2

“Listen, Rudolph,” she said. “I'll tell you all about it. He did come up, but he left right away. We quarreled."

Mary Roberts Rinehart, Dangerous Days

「いいこと、ルドルフ。全部話すわ。彼は来たけど、すぐ帰ったの。わたしたち喧嘩したのよ」

例文3

 "Can't the prince find her a husband?"
 "He did find her a lieutenant, but she won't hear of anybody under the rank of major."

Arthur Macken, The Memoires of Casanova

 「皇子は彼女に夫を見つけられないのか」
 「中尉を見つけてやったんだが、少佐より下のやつは駄目だと言ってね」

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...