Sunday, June 29, 2025

エドワード・アタイヤ「残酷な火」

 


エドワード・アタイヤ(1903-1964)はレバノンに生まれ、オクスフォード大学に学び、スコットランド人の女性と結婚した作家である。自伝や「アラブ人」という評論が有名だが、ミステリも何冊か書いている。ウィキペディアの書誌を見る限り「残酷な火」(61)は彼が書いた最後のミステリのようだ。

舞台はレバノンの小さな村。主人公はファリス・ディーブという村の資産家である。金持ちはケチだと言われるが、この男は自分の子供や奥さんからも金を取り立てるドケチな男である。そして田舎育ちのケチな男らしく、男尊女卑の思想に染まりきっている。

彼はあるとき土地の取引のためにベイルートへ出かけ、そこでエジプト人のベリーダンサーを見かける。その蠱惑的な踊りに性欲を刺激され、彼は村に戻ってから自分の地所にある川の淵へ行く。前の日の晩、そこで美しいアメリカ人旅行者が裸で泳いでいるのを見ていたので、彼はその女を犯そうと思ったのである。ところが激しく抵抗され、つい彼は女を殺してしまう。そして近くに穴を掘って死体を埋めるのだ。

この旅行者の泊まっていたホテルが彼女の失踪に気づき、警察が動き出す。しかし警察よりもまずディーブの家族が彼の不審な挙動に気づき、徐々に彼と殺人を結びつけるようになる。

正直なところ、あまり面白い話ではない。物語の展開に無理はないけれど、ひねりもなく、事件が起きてからはたんたんと想定される結末へと進むだけだ。人物描写も定型的で、複雑さがない。この作品には家父長的なもの、封建的なものへの批判がこめられているのかもしれないが、印象にはまったく残らない。一月も経たずして忘れてしまうだろう。作家のなかにはそのキャリアの最後になると、文章から力が抜け、ただ惰性で(金のために)書いているだけという人がいるが、アタイヤもそんな人なのだろうか。ただし英語は非常にわかりやすいので、学習者の勉強にはちょうどいい。

Thursday, June 26, 2025

ベン・ベンソン「走る男」

 


ベン・ベンソンのことはよく知らない。1913年にマサチューセッツ州ボストンに生まれ、1959年に亡くなっている。リプトン社のお茶のセールスマンをしていたが、第二次世界大戦に参加し、深刻な負傷を負い、そのリハビリの一環として小説を書きはじめた。ウエイド・パリスを主人公にしたシリーズ、ラルフ・リンゼイを主人公にした警察ものがあり、今回読んだのは後者のシリーズの第五作目にあたる。

驚くほど巧みな書き方をする作者で、第一章、第二章はおだやかな雰囲気をかもしつつも、そこはかとなく後の波乱を予感させ、本書の主眼となる事件がはじまる第三章以降は、感傷を廃した文章で見事に警察捜査を描き出している。水際だった筆力、無駄のない描写、しかもすばらしく雰囲気がある。

主人公のラルフ・リンゼイはマサチューセッツ州の州警察に勤める二十三才の若い警官である。彼はあるとき、人目につかない場所に自動車が乗り捨てられているのを発見する。すぐそばには胸を撃たれて死んでいる男。いったいなにがあったのか。警察はヒッチハイカー強盗に遭ったのではないかと考える。そしてラルフは近辺でヒッチハイクをする不良の若者たちを調べていく。

警察の捜査は紆余曲折するが、そのいちいちが面白く書かれている。また不良どもに話しかけるラルフの言葉やほかの警察官との対比から、彼がどんな人物なのかもよくわかる。

物語の終わりにもう一つひねりがあれば、とは思うものの、1950年代前半に書かれた警察ものとしてはかなりレベルが高い。30年代にはシムノンのメグレ警視ものがあり、40年代にはジョン・クリーシーがウエスト警部ものを書いているが、メグレものには独特の憂愁がありウエストものにはメロドラマ的要素がある。50年代に書かれた本作は、感傷に濡れたところがなく(というより感傷を排することが本書のテーマになっている)ハードボイルドな印象すらある。警察ものとして確実に進歩を遂げている。同じ50年代に活躍した作家としてはヒラリー・ウォーとかエド・マクベインがいるが、彼らと比較してもおさおさ引けを取るとは思えない出来だ。ただベン・ベンソンは病気で亡くなったのが早すぎた。息長く活躍していれば、もっと評価が高かっただろう。

ウエッブサイト ameqlist 翻訳作品集成を見ると1960年代には創元推理文庫から彼の小説が五冊、短編が50年代後半から60年代前半までに五作翻訳されているようだ。ついでだから書き写しておこう。

小説

『あでやかな標的』 Target in Taffeta (1953) 創元推理文庫

『燃える導火線』 The Burning Fuse (1954) 創元推理文庫

『脱獄九時間目』 The Ninth Hour (1956) 創元推理文庫

『ストリップの女』 The Affair of the Exotic Dancer (1958) 創元推理文庫

『女狩人は死んだ』 The Huntress Is Dead (1960) 創元推理文庫

短編

「女の罠」 The Big Kiss-Off 日本版EQMM

「過去のある女」 Lady With a Past 日本版EQMM

「家のなかの殺人犯」 Killer in The House 東京創元社(Tokyo SogenSha)『アメリカ探偵作家クラブ傑作選2』所収

「あね、おとうと」 Smebody Has to Make a Move 日本版EQMM


小説はいずれもウエイド・パリスを主人公にしたものが訳されている。

Monday, June 23, 2025

ブライアン・フリン「中途の殺人」


 イギリス人はあまり傘をささない。外套のフードをかぶりはするが、それだけで、平気な顔で歩く人が多い。とくに若い男はそうだ。本書には雨が降っているのに二階建てバスの上の階に乗る男が出て来る。雨だけでなく、霧も出て、視界の悪い夜のことだ。車掌がいつもの停留所で彼を乗車させると、さっさとステップを上がって二階席へ行ってしまった。田舎道を走るバスなので乗客は五人ほど。みんな一階に座っているのに、この男だけ二階席だ。終点につくまで、彼以外だれも二階に上がった者はない。車掌はステップに座っていたからその点は間違いない。

ところが終点についても男は下に降りてこない。不思議に思って車掌が上に行ってみると、なんと彼は死んでいる。しかも警察医によると絞殺されたらしい。密室殺人ではないけれども、それに近い不可能犯罪が行われたのである。この謎を解くべく、名探偵アンソニー・バサーストが登場する。

魅力的な出だしなのだが、正直な話、そのあとはそれほどでもなかった。物語が進むにしたがい、謎解きというより、冒険小説的な味わいが強くなっていったからである。謎解きもまったくクレバーな印象はない。探偵とおなじように真相を正確に見きわめることはできないだろうが、しかしだいたいのところは想定できてしまうので、最後にバサーストの説明を聞いてもさほど感興は湧かない。よく処女作や初期の数作は巧妙な謎を構成して面白く読ませる作品を書くが、その後アイデアが尽きてしまうと、凡庸な冒険小説を書く作家がいるが、それを思い起こさせるような出来である。しかしわたしがいちばんこの作品で違和感を感じたのは、ナレーションが登場人物の一人の視線から語られる部分と、三人称によって語られる部分が混じり合っていることだ。コリンズの「月長石」のように複数の登場人物の視点から語られるのはかまわないのだが、特定人物の視点からの語りと三人称の語りがまじるのは、読んでいてなんとも落ち着きが悪い。

この前読んだ「孔雀の眼殺人事件」が非常によかったので、期待して読んだのだが、この作品はだいぶ質が落ちていると思う。しかし goodreads.com の評価を見ると四点以上の高得点を獲得しているので、わたしの趣味が一般と違うということを意味するだけなのかも知れない。


Friday, June 20, 2025

注目のPG作品

 今月わたしが注目した Project Gutenberg の作品は


1.J.E.ド・ベッカー「不夜城 吉原遊郭の歴史」(1906)

この本はどこかから翻訳が出ているのだろうか。図版類は写真や絵だけでなく、地図やら契約の書式まで収められ、吉原の全貌がわかる大著である。全部は読んでいないが、拾い読みをはじめると面白くて時間が経つのを忘れる。吉原については「吉原雑話」とか「吉原大全」とか「吉原鑑」とかいろいろな本が出ているが、ド・ベッカーはそれらもきちんと調べているようだ。たいした日本語力である。

店の仕組みはもちろん丁寧に紹介されているが、遊郭の女たちのあいだで流行っていたおまじないまで大量に採取されているのにはびっくりした。思いを寄せる客に来てもらうためのまじないとか、月経を止めるための方法まである。くしゃみをすると誰かに噂されている証拠、という迷信は世界中にあるが、吉原では「一回のくしゃみは誰かにこっそりほめられている証拠、二回は悪口を言われている証拠、三回は誰かに愛されている証拠、四回は風をひいた証拠」だったらしい。

本書の情報量には圧倒されるが、吉原が日常的な世界から切り離されながらも、一個の宇宙をなしていたことがわかる。


2.ルドルフ・ヘルツォーク「コーネリウス・ヴァンダーヴェルツの伴侶」

作者のルドルフ・ヘルツォーク(1869-1943)は第二次大戦がはじまる前のドイツ、つまりワイマール共和国の時代に人気のあった作者である。最初はロマンチックな物語を書いていたが、そのうち勤勉さとか国家への義務を重視し、家父長的な見方を強めた作品を書くようになり、当然予想されるようにナチスを支持した。そのせいか、亡くなって以後は忘れられた作家になってしまった。

しかし彼の文章はドイツ語学習者にはありがたい平易さがある。ドイツ語は文章が長くて構造が複雑だ、とよくけなされるが、それはマルクスみたいな一部の書き手に言えることで、ニーチェのようにわかりやすいドイツ語の書き手だって多いのである。ヘルツォークもその一人で、たとえば本書の冒頭の段落はこんな具合に書かれている。

Das Mädchen stand mitten auf der Landstraße, als Kornelius Vanderwelts Wagen in weiter Ferne wie eine winzige Staubwolke sichtbar wurde. Die Hände hielten das im Winde flatternde Mäntelchen in den Taschen am Körper fest. Der kleine Handkoffer ruhte wohlbehütet vor dem Straßenschmutz auf den Stiefelspitzen.

初級文法を終えた人なら楽に読めることがわかるだろう。


3.ヒューゴ・ベッタウアー「ユダヤ人のいない街」

ヒューゴ・ベッタウアー(1872-1925)はオーストリア人。彼も生前は人気のある作家で、その作品はよく映画にもなった。しかし反ユダヤ主義的な立場を取っていたためナチスに殺された。彼のもっとも有名な小説は Die Stadt ohne Juden 「ユダヤ人のいない街」(1922)だ。これは絶滅収容所への移送を思い起こさせる場面を含んでいて、予言的と称される物語だ。この英訳版がつい最近プロジェクト・グーテンバーグにアップロードされた。。ドイツ語版ももちろんある。さらに YouTube では映画も見られる。(こちら)サイレント映画なので音声は音楽だけ、ときどき字幕がはさまれるが、これは簡単なドイツ語なので理解に問題はない。


ドイツ語版の表紙

Tuesday, June 17, 2025

Elementary German Series (6)

6. Häufige Verben

denken1

Einige Menschen denken viel, andere denken wenig, andere denken nie. Nicht alle Menschen sagen, was sie denken, und nicht alle denken, was sie sagen.

1. denken 考える.

sehen2

Wir sehen mit den Augen. Karl hat schlechte Augen, er sieht nicht gut. Marie hat sehr gute Augen, sie sieht alles. Wer nicht sehen kann, ist blind. Zu Freunden sagen wir: „Wir sehen uns wieder. Auf Wiedersehen!“3

2. sehen 見る.
3. Auf Wiedersehen! それじゃ、またね.

hören4

Wir hören mit den Ohren. Ich höre die Nachtigall singen, du hörst die Katze schreien, er hört viele Katzen schreien, er hört Katzenmusik, wir hören ein Katzenkonzert. Himmel, welch ein Konzert!

4. hören 聴く.

riechen5

Wir riechen mit der Nase. Das Gas riecht schlecht, frischer Kaffee riecht gut, frische Eier riechen frisch, eine Rose riecht wundervoll.

5. riechen 匂いをかぐ.

schmecken6

Wir schmecken mit dem Munde und der Zunge. Ich schmecke den Honig; der Honig schmeckt süß.7 Du schmeckst den Zucker; der Zucker schmeckt süß. Kaffee ohne8 Zucker schmeckt nicht süß, er schmeckt bitter.

6. schmecken 味がする.
7. süß 甘い.
8. ohne ~なしの.

fühlen9

Wir fühlen mit den Fingern, wir fühlen mit den Händen, wir fühlen mit dem ganzen Körper, wir fühlen auch mit dem Herzen. Ich lege die Hand auf das Eis und fühle; das Eis ist kalt. Ich sitze in der Sonne und fühle die Sonne mit dem ganzen Körper.

9. fühlen 感じる.

sprechen

Wir sprechen mit der Zunge. Ich spreche die Sprache meines Vaters oder meiner Mutter. Du sprichst Englisch. Englisch ist deine Muttersprache. Er spricht Deutsch. Wir sprechen zu laut, wir sprechen zu wenig, wir sprechen zu viel, und so weiter.

schreien10

Einige Menschen sprechen sehr laut; sie schreien. Nicht nur11 Menschen schreien, auch einige Tiere schreien. Der Esel schreit. Wenn ein Mensch sehr viel und sehr laut schreit, sagt man: „Solch ein Esel.“

10. schreien 叫ぶ, 大声を出す. 11. nur ~だけ.

rufen12

Karl und Paul sind nicht hier. Die Mutter will mit ihnen sprechen. Die Mutter ruft. Sie ruft: „Karl, was tust13 du?“ Karl ruft zurück:14 „Ich tue nichts, Mutter!“ -- „Und was tut Paul?" ruft die Mutter wieder. „Paul hilft15 mir,“ ruft Karl zurück.

12. rufen 呼ぶ.
13. tun する.
14. zurück 戻して.
15. helfen 助ける.

beißen

Wir beißen mit den Zähnen. Wer schlechte Zähne hat, kann nicht gut beißen. Ein böser Hund beißt. Aber nicht nur der Hund beißt. Die Katze beißt die Maus, der Hund beißt die Katze, der Bär beißt den Hund, und der Tiger beißt den Bären. So geht's im Leben.

tragen

Wir tragen mit den Händen. Ich trage ein Buch unter dem Arm, du trägst die Äpfel ins Haus, er trägt einen schweren Sack auf seinen breiten Schultern. Das Pferd trägt seinen Herrn.

geben -- nehmen16

Wir geben und nehmen mit den Händen. Ich gebe ihm ein Buch. Er gibt mir nichts. Die Kinder geben der Mutter viel zu tun. Die Kinder nehmen, was die Mutter ihnen gibt. Man sagt: „Geben ist besser als nehmen.“

16. nehmen 取る.

Saturday, June 14, 2025

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(9)

§9. 不定の意を強める irgend

 「何か」(etwas, was)といえばよいところを、特に念を入れて「何でもよいからとにかく何か」といいたい時には irgend etwas, irgend was といいます。その他不定詞(ein, jemand, jemals, je)や疑問詞(wo, wann, wie, welcher)には、不定の意を強めるためにこの語を冠せ、一語に綴ることもあります:

(1) Ich muß irgendwen fragen.
  僕は誰かに問わなくてはならぬ。

(2) Er schläft irgendwo in der Ecke.
  彼はどこか隅っこで寝ている。

(3) Es wird mir irgendwie gelingen.
  なんとかマア首尾よくゆくだろう。

(4) Der Mensch muß irgendeinen Glauben haben.
  人間はなんらかの信念を持たねばならぬ。

(5) Habe ich dich irgendworin beleidigt?
  僕は君をなんらかの点で侮辱したかね?

(6) Hat er irgend jemals gelogen?
  かれは未だかつて嘘を吐いたことがあるか。

 単に irgend のみを用いると irgendwie (なんとかして、なんらかの方法で、なんらかの形で)と同意になります:Hilf mir, wenn es irgend möglich ist! (なんとか出来ることなら私を助けてくれ!)

 元来は irgend に対する否定形であった nirgend または nirgends は、nirgend(s)wo (英:nowhere 「どこにも……〔しない〕)と同意です:Solch ein Wolkenkuckucksheim gibt es ja nirgends in der Welt (そんな夢想郷は世界中どこにだってありゃせんよ)。

§9. (3) gelingen (=glücken): 成功する、うまくゆく。(5) beleidigen (=kränken):傷つける,怒らす。(6) gelogen: lügen (嘘を吐く), log, gelogen. Wolkenkuckucksheim, n.: 夢想郷, ユトピア。

Wednesday, June 11, 2025

英語読解のヒント(175)

175. if ever

基本表現と解説
  • Now is the time, if ever, to sally forth. 「今こそ反撃の時だ」
  • Rarely, if ever, he speaks in public. 「公の場所ではほとんど話さない」

最初の例文は Now is the time to sally forth, if ever there is time to do so. と解釈する。seldom, if ever とか rarely, if ever といった否定の意味をもつ語のあとに来る場合は「ほとんど……ない」の意味になる。

例文1

The little brass pistol in my room suddenly occurred to me. It had been loaded I don't know how many months, long before I left New Orleans, and now was the time, if ever, to fire it off.

Thomas Aldrich, The Story of a Bad Boy

ふとぼくは部屋にある小さな真鍮の拳銃を思い出した。何カ月前だったか憶えてないが、ニューオーリンズを去るずっと前に弾を込めておいたものだ。これをぶっぱなす時があるとすれば、いまこそその時だ。

例文2

The dishonesty is frequent enough, but is rarely, if ever, practised by the insane.

Charles Mercier, Crime and Insanity

不正直はひんぱんに行われるが、狂人が不正直をはたらくことはめったにない。

例文3

There was an Old Man on a hill,
Who seldom, if ever, stood still....

Edward Lear, Book of Nonsense

岡の上に老人が一人いた
彼はほとんどじっとしていなかった……

Sunday, June 8, 2025

英語読解のヒント(174)

174. if any

基本表現と解説
  • Send the remainder, if any, by Tuesday. 「残りがあるなら火曜日までに送れ」
  • Few, if any, of the sailors were saved. 「水夫らのうち、助かったのはあっても少なかった」

最初の例文は Send the remainder by Tuesday, if there is any remainder. と解する。また few, if any とか slight, if any といった表現は「ほとんど……ない」「あってもごく僅か」という意味になる。

例文1

Equally constant is the rule that the automatic action, if any, is always of the same type in the same case.

Charles Mercier, Crime and Insanity

同様にいつも見出されるのは、無意識的動作があるとすれば、それは同一の患者においてはつねに同一の種類のものである、ということである。

 これはてんかんに関する記述である。

例文2

...consulting advice on hygiene in a book written by a famous physician, I see that this great doctor advises the following:
Substantial and digestible meals at regular times.
Very little liquids at meals, if any.
....

Max O'Rell, Rambles in Womanland

衛生をたもつためには如何にすべきか、著名な医者によって書かれた本を参照してみると、この大先生はつぎのようなご意見をのたまわっておられる。
決まった時間にたっぷりと消化のよい食事をすること。
食事の際、液体は摂るとしてもごく少量にすること。
……

例文3

"When you go to a ballroom, I imagine that there are few women, if any, that you are not inclined to criticize."

Max O'Rell, Rambles in Womanland

「舞踏会に行ってごらんなさい。粗の目につかない女なんてほとんどいませんから」

Thursday, June 5, 2025

英語読解のヒント(173)

173. or I'm a Dutchman

基本表現と解説
  • Something is wrong, or I'm a Dutchman. 「ぜったい何かおかしい」
  • He has taken it, or I am much deceived. 「彼がそれを取ったにちがいない」

or I'm a Dutchman は「……でなければ、わたしはイギリス人でなくオランダ人ということになる」という、ある事実を強く断定する表現。前項に示した表現よりも語勢は強い。類似の表現には例文の or I am much deceived のほかにも次のようなものがある。

  1. or I am much misled
  2. or I am much mistaken
  3. or the devil is in it
  4. or I will eat my words
  5. or it is my fault

例文1

"A beadle! A parish beadle, or I'll eat my head."

Charles Dickens, Oliver Twist

「役人だろう! 教区役人にちがいない」

例文2

"You've known her long enough to trust her, or the Devil's in it. She ain't one to blab. Are you, Nancy?"

Charles Dickens, Oliver Twist

「彼女とは長い付き合いだ、信用していいってことはわかっているはずだ。べらべらしゃべったりはしない。そうだろう、ナンシー?」

例文3

"Run downstairs," he continued, "take a table near them, and keep your ears open. You will hear some strange talk, or I am much misled."

R. L. Stevenson, New Arabian Nights

「すぐ下に降りて、彼らのそばのテーブルにつき、耳をすましてみろ。不思議な話がきけるぜ。まちがいない」

Monday, June 2, 2025

英語読解のヒント(172)

172. if I remember aright

基本表現と解説
  • The man is sixty, if I remember aright. 「わたしの記憶が確かなら彼は六十だ」
  • The man is sixty, if I am not mistaken. 「わたしが間違っていなければ彼は六十だ」

「わたしの記憶が確かなら」とは言っても、どちらかというと記憶の正しさを主張する言い廻し。ほかにも次のような形がある。

  • if I remember right(ly)
  • if my memory serves me right
  • if I err not greatly
  • if I am not much mistaken
  • unless I greatly mistake
  • if I am rightly informed
  • if I am correctly informed

例文1

Yet, unless we greatly err, this subject is, to most readers, not only insipid, but positively distasteful.

Thomas Babington Macaulay, "Lord Clive"

しかしわれわれの見るところに大過なければ、このことは大概の読者には興味がないのみか、きわめていとわしいものである。

例文2

“There are features of interest about this ally. He lifts the case from the regions of the commonplace. I fancy that this ally breaks fresh ground in the annals of crime in this country — though parallel cases suggest themselves from India and, if my memory serves me, from Senegambia.”

Arthur Conan Doyle, The Sign of the Four

「この協力者にはいろいろ興味深いところがある。彼がいるからこの事件は並の事件と一線を画するのさ。彼はこの国の犯罪史に新生面をもたらすだろう。もっとも同様の事件はインドにもあるし、わたしの記憶違いでなければセネガンビアにもあるが」

例文3

"It is long since we have seen a white face in these wilds, and yours, if I am not mistaken, is that of an Englishman."

Henry Rider Haggard, Allan's Wife

「わたしたちがこの荒野で白人の顔を見てから久しくたちますが、あなたは、わたしの目にまちがいがなければイギリスのお方でしょうね」

ジョン・ラッセル・ファーン「栄光の輝きに照らされて」

  原題は Reflected Glory。他人がつかんだ栄光だけれども、その人と関係のある人が、まるで自分の栄光であるかのように感じる、という意味だ。「親の七光り」という日本語が示す事態と、よく似ていると云っていい。 女流作家のエルザは、ふとしたきっかけから画家のクライブと知り...