Thursday, September 29, 2022

warm bank

わたしが読む本は十九世紀後半から二十世紀前半の百年間に出たものが多いのだが、それでも最新の新語とか表現は気を配って覚えるようにしている。新聞も読むし、最近のわたしの趣味としてゲーム実況を見るので、話についていくには新しいスラングなども知らなければならない。You are down bad とか That's so snatched とか、コンテクストでなんとなくわかるけれども、字面からは意味がとりにくい表現がたくさんある。

最近の生活費高騰により出てきた新語の一つに warm bank がある。イギリスでは光熱費が2022年の四月と比較して97%も上昇した。おかげで七百万世帯が fuel poverty (燃料費の貧困)に陥いろうとしている。そこで地方議会、慈善団体、博物館、図書館、NHS などが、暖房費に苦慮する地元の人々のために、暖かく安全に時間を過ごせる場所を提供するというのが warm bank の基本的なアイデアとなる。場所によっては食料の提供もあるらしい。つまりそういう場所は food bank と warm bank を兼任することになるわけだ。

これはかなり大きな反響を呼んだ。ある女性は Warm Homes というキャンペーンを立ち上げ、暖房費が払えないご近所さんを居間に招待して暖かく過ごしてもらおうと呼び掛けている。

アバディーン、バーミンガム、ダンディー、ブリストルなどの市も地元の団体と協力して warm bank を開設する用意をしている。寒くなる十月から開かれるそうだ。コロナ感染とか気になる点はいくつかあるものの、イギリスのコミュニティー精神はやっぱりすごい。

日本では家族精神が強調されるが、コミュニティー精神はない。人間がコミュニティーの一員であるという意識はゼロに等しい。だからコミュニティーが個人を助けるということ(生活保護)はしようとしない。わたしの住んでいる市では、冬のあいだホームレスの人々が図書館で暖を取ろうとすると、警備員などが追い出しをはかっている。現政府とかその支援団体である宗教団体は、なにが問題が起きるとすぐ家族のせいにするが、じつはそれは家族ではなく、政府の政策の問題であったりする。そのくせ国家は戦争になると個人に命をささげるよう命令するのである。

しかし話を warm bank に戻そう。このアイデアは助け合いの精神を発揮して大いに結構なのだけれど、問題は根本から解決しなければならない。warm bank がいつまでも続くような状態であってはならないのである。そのためにはやはり省エネ技術、再生可能エネルギーの開発、化石燃料からの脱却に国家が力を入れなければならない。そしてもう一つ。イギリスは世界でもっとも裕福な国の一つである。光熱費に困るほど金がないわけではないのだ。では、なぜ warm bank が必要になるのか。これは Don't Pay 運動を展開しているルイス・フォードが指摘していることだが、要するに金が一つ所に停滞しているからである。

Monday, September 26, 2022

カルロ・ロヴェリ「時間とはなにか、空間とはなにか」

時間は存在しない。

まるでラカンの「女は存在しない」に対抗するような言い廻しだが、これがロヴェリの主張である。

ラカンの「女は存在しない」を理解するのはなかなか厄介だが、ロヴェリの主張はわかりやすい。よく考えてみると、われわれは時間をはかっているようで、じつは別のものをはかっている。ガリレオは教会の天井にぶらさがるシャンデリアの揺れが一定していることに気づいた。そのとき彼は自分の脈を取ってはかったといわれる。シャンデリアの一揺れする「時間」は常に一定だと彼は考えたのだが、しかし彼は時間そのものをはかったわけではない。シャンデリアの揺れの周期を、脈搏と比較して、その周期は一定であるといっただけである。

ニュートンは時間は存在しないけれども、それを想定することはいろいろと便利だと考えた。ところが量子力学では時間という観念がなくなる。量子力学でシャンデリアの揺れを語るには、ガリレオのように他の何かと比較してどうこうであると議論しなければならない。

ロヴェリのこんな説明を読みながら、わたしは貨幣論を想いだした。貨幣の価値というのも時間と同様、まぼろしのようにしか存在していない。貨幣の価値を究極的に支えるものなどないのである。時間は存在しないという考え方は、貨幣は存在しないということであり、シャンデリアの揺れを脈搏と比較するとは、貨幣価値というまぼろしを消し去り、物々交換で考えることとパラレルな事態ではないだろうか。マルクスが貨幣価値や貨幣形態について考えた際の論理が、量子力学において反覆されているとしたら……。

Saturday, September 24, 2022

ヒラリー・マンテル追悼

わたしは朝起きると必ずガーディアン紙を読むのだが、先日はウエッブページを開くなり Hilary Mantel remembered などという文字が目に飛び込み、いったい何を云っているんだと思った。マンテルは写真でしか見たことがないが、いつも若々しく元気そうで作品自体がエネルギッシュなものだから、まさか亡くなるとはまったく思っていなかったのだ。新聞に掲載されている写真もつい最近のものばかりで、どれを見ても溌剌の気にあふれていて老いが迫っているような感じはない。享年七十歳、死因は脳卒中。記事を読むと彼女はずっと健康状態が悪かったということだが……。

エリザベス女王が死去したときは、年も年だからと、あらかじめ心構えができていたけれど、マンテルの死はまさに不意打ちでショックが大きい。とにかく今は冥福を祈る。

Friday, September 23, 2022

ケイト・エヴァンズ「赤いローザ」

ローザ・ルクセンブルグの生涯を描いたグラフィック・ノベルである。写真を見るとわかるけれど、ローザは幼いときの病気と栄養不良のせいで非常に小柄な女性だった。しかし経済学に通じ、理論的な頭を持ち、大胆な活動家として圧倒的なオーラを持つ人物である。資本主義によるグローバリゼーションを見事に予見し、軍産複合体といった概念を練り上げた人でもある。

この作品は変にローザを理想化することなく、たんたんとその生涯を追っている。驚いたのは彼女の恋愛、結婚、離婚、偽装結婚などの経歴で、わたしは生身のローザ・ルクセンブルグをなにも知らなかったことを教えられた。

彼女の思想や理想を示すために、かなり長々と引用のなされる部分もある。とくに彼女が牢獄の中で書いた文章は痛ましいほどのリリシズムにあふれ、作者の思いをこめた絵といっしょになって本書の白眉をなしている。

彼女の理論的な側面についてはグラフィック・ノベルだからもちろん詳しくは書かれていない。しかし巻末には便利な註がつけてあり、より突っ込んだ内容に興味がある人は、そこを読めばなにを参考すればよいのか、すぐわかるようにできている。この点は非常によい。

考えさせられた部分はいくつもあるが、そのうちの一つ二つを挙げておこう。一つは社会民主党が主催する学校でローザが講義をしていたときのことだ。彼女は矛盾についてのヘーゲルの考えを教えた。この矛盾というのはパラドキシカルな概念で、たとえば資本主義は資本主義を崩壊させるものを内に含んでいるといったものである。資本主義に対して、その外部に反・資本主義といったものがあり、それが資本主義を崩壊させるというのではない。反・資本主義は資本主義に内在するのである。こういうややこしい考え方には、ある程度思考訓練を受けた人でなければついていけない。たいていの人は資本主義は資本主義だ、反・資本主義はそれとは別のものだ、と考えたがる。そのほうが明快(わたしに言わせれば単純)なのである。ローザも学生のそのような反応に愕然とする。しかも社会民主党のトップを取る男がその程度の理解力しか持っていないのだ。ちなみにこの男はのちに革命を裏切ることになる。

もう一つはローザが煽動罪で裁判にかけられる場面だ。彼女が有能な弁護士ととともに保釈を要求すると検察側は「保釈などすれば被告人は逃亡する可能性が大いにあります」という。それに対してローザは「あなたがわたしの立場にあったなら逃げ出すでしょうね。社会民主党員は逃げません。あくまでみずからの行動を擁護し、あなたの判断を嘲笑うでしょう。さあ、判決をお下しなさい」と返した。すごい啖呵を切ったものだ。裁判官は一年間の禁固刑を命じるが、結局ローザは自由の身となる。

国家や男性中心主義を向こうにまわして戦い続けた彼女だが、誰もが知っているように1919年、四十七歳のときに反革命軍に捕まり、暴行を受け、頭を銃で撃ち抜かれる。

作者は最後の数ページでローザの戦いが世界中で今も続いていることを示している。わたしは今の日本においてもローザやカールが戦っていると思う。そしてこれからその戦いはもっと厳しいものになる。


Tuesday, September 20, 2022

パット・フランク「禍なるかな、バビロン」

パット・フランクのこの小説は日本ではなぜか翻訳が出ていないが、デイヴィッド・プリングルがSF小説百選のリストにも入れた名作である。

まず時代は1959年。場所はフロリダのフォート・リポーズという小さな町だ。主な登場人物は、フォート・リポーズに住むランディ・ブラグという三十代の男と、空軍士官であるその兄マーク・ブラグになるだろう。メイン・ストーリーは、マークからランディのもとに電報が届くところからはじまる。その電報には、自分の家族をフォート・リポーズに送るのでよろしく面倒を見てくれと書いてあり、一番最後に「禍なるかな、バビロン」と記してあった。この「禍なるかな、バビロン」は「ヨハネの黙示録」から来ている言葉で、兄弟のあいだでは核戦争の開始を意味していた。

当時アメリカとソ連は中東と地中海地域をめぐって緊張が高まっていた。具体的に言うと、ソ連はエジプト、シリア、イラクを使ってトルコを脅していた。ボスポラス海峡を軍事利用するためである。それに対してアメリカはレバノンに基地を構え、トルコやイスラエルといった同盟国に支援をしていた。

スプートニクを飛ばしたソ連はアメリカよりも軍事力において一歩上を行っていたが、三四年もすればアメリカもソ連に追い付くと考えられていた。しかしソ連は自国の優位を保とうと、アメリカとNATO の軍事施設に核による先制攻撃を加えようとしていることがわかった。ソ連は先制攻撃により反撃を最小限に抑えようと考えていたというから、今、敵基地攻撃能力を議論している日本とおなじようなものだろう。それでも NATO の反撃を完全には防げず、二千万から三千万の人が死ぬことはいたしかたないとソ連は考えていた。(日本はどれだけの死者数を想定しているのか)

この小説が面白いのは、戦争が起きるきっかけが、「間違い」であるという点だ。地中海を航行中のアメリカの艦隊が、敵機に追跡されていることに気づく。アメリカは迎撃のために戦闘機を一機出すのだが、若いパイロットはシリアにあるソ連の潜水艦基地を「誤って」爆撃してしまうのだ。ソ連は翌日アメリカとその同盟国に全面核攻撃をする。アメリカも報復攻撃。フォート・リポーズにいたランディとマークの家族は近くの軍事基地に落ちた爆弾の衝撃に目を覚ます。

そのあとは大混乱が生じる。観光客はホテルに閉じ込められ、通信網はずたずた。脱獄が発生し、取り付け騒ぎの結果、貨幣は価値を失う。病気治療をしていた人々は停電のために命を失い、遺体は墓地ではなく、家の近くに埋められる。遺体を墓地へ運ぶ車のガソリンがないのだ。食糧不足のため人々はやせ細り、強盗団があらわれ、自警団が結成される。

アメリカの大都市は壊滅状態に陥り、核に汚染された地域が広がったが、ソ連もアメリカの攻撃で指導者を失う。西ヨーロッパも大きな被害を受けた。しかし戦争はそれでも止まず、アメリカの空軍とソ連の原子力潜水艦による攻撃が何ヶ月も続いた。

陸軍予備役将校であったランディは大統領からフロリダ地区の非常事態に対処することを命じられる。彼は自警団を作り、放射能に汚染されたマイアミから持ち込まれる貴金属類を押収し、食糧や塩の確保に大車輪の働きを見せる。

終局的にはこの戦争はアメリカの勝利に終わるのだが、大量の死者(国内の生存者は四千五百万人だけ)を出し、インフラは破壊されつくし、自然の資源を失った。政府は軍事用に大量にストックしてあったウラニウムとプルトニウムを使って発電をしようとまで考える。アメリカはいわゆる第三世界から食糧や燃料や医療の援助を受け、アメリカとソ連に代わって「三大強国」(作中に名前は挙げられていない)が世界をリードするようになる。

以上がだいたいの話の筋である。冷戦時に書かれたという古さはあるけれども、日本はその冷戦時に周回遅れで戻りつつあるので、結構面白く読めた。ランディは兄からの知らせで戦争が起こることを知り、いろいろな準備をはじめる。食糧も水も貯めておかねばならない、ロウソクやランプも必要だ、その燃料も、車のガソリンも、薬だっている。第一に、現金がなければならない。それも一週間程度の短期間でなく、数カ月にわたる備えが必要だ。この日常的で、具体的な描写がなかなかいい。戦争が起きてからの庶民の生活ぶりは、日本でもパニックが生じた時に起きることとまったくおなじで、ひどくリアルだ。(みんなトイレットペーパーを買いに走り、店から品物がなくなり、ガソリンスタンドもなにもかもあっという間に休業状態に陥る)

が、いちばん興味深かったのは、戦争が「誤爆」から始まったという点だ。緊張関係が高まれば、「誤り」が発生する確率はぐんと高くなる。戦争への備えとは、戦争を抑止するどころか、機械の故障や不具合、人間のミスによって突然全面破壊へと向かう、想像以上に貧弱なものなのである。


追記

セオドア・ルーズベルトの The Strenuous Life を読んでいたらこんな一節にぶつかった。メモ代わりに書きつけて置く。

It ought to be no less unnecessary to say that any man who tries to solve the great problems that confront us by an appeal to anger and passion, to ignorance and folly, to malice and envy, is not, and never can be, aught but an enemy of the very people he professes to befriend. In the words of Lowell, it is far safer to adopt “All men up” than “Some men down” for a motto. Speaking broadly, we can not in the long run benefit one man by the downfall of another. Our energies, as a rule, can be employed to much better advantage in uplifting some than in pulling down others. Of course there must sometimes be pulling down, too. We have no business to blink evils, and where it is necessary that the knife should be used, let it be used unsparingly, but let it be used intelligently. When there is need of a drastic remedy, apply it, but do not apply it in the mere spirit of hate. Normally, a pound of construction is worth a ton of destruction.

アメリカがいい国とは思わないけれど、ちゃんと考えている。文学者も哲学者も政治家も考えている。

Saturday, September 17, 2022

スーザン・グラスペル「瑣末なもの」

Sgc1894

これは傑作、名作といっていい。白黒映画のようなしぶい作品だが、内容の重さは圧倒的で、そのすごさに読後、しばし茫然とした。1916年の作品だが、今の人が読んでも感銘を受けるだろう。

まわりには畑しかない寂しい場所に立つ農夫の家で殺人事件が起きた。夫婦者が人との交際もほとんどなくそこに暮らしていたのだが、あるとき夫が首をくくられて死んでいたのだ。妻の話によると一緒に寝ていたとき、何者かが侵入してきて、自分が気づかぬうちに夫を絞殺したのだと言う。この芝居は現場検証にきた弁護士と保安官、そして牢屋に入れられた妻のための衣服類を取りに来た二人の夫人によって演じられる。

男二人が家の内外を証拠を求めてうろついているあいだに、女二人は台所を見たり作りかけのキルトを手に取ったりする。そして男二人は証拠をまったく捜し出せないのに、女二人は女性的、かつ家庭的な品々のなかに事件の真相を示すものを見つけるのである。それは男あるいは法の目から見れば「瑣末なもの」なのだろうが、しかし女の目から見れば、雄弁に夫婦の関係がいかなるものであったのかを語り、なぜ妻が夫を殺害したのかを説明するものだった。しかし女二人はその「証拠」を男たちから隠してしまう。

これは本当に驚くべき作品で、夫婦者は劇中に姿を現さないのに、二人の姿が彷彿と浮かんでくるのである。たった一幕の芝居なのに、とりわけ妻の人生の変化、苦悩、絶望が痛いほど伝わってくる。こんなに強烈なフェミニズム文学に出会ったのはシャーロット・ギルマンの「黄色い壁紙」を読んで以来である。

Wednesday, September 14, 2022

新ドイツ語大講座 訳読編

第8課 アインシュタインの空間論

解説:アインシュタインという名は、本書を読む諸君なら知らない人はないだろう。ドイツがナチスの天下になり、ユダヤ人排斥をやりだしてからアメリカに避難したドイツ人はかなりいるが、そのなかでも作家のトーマス・マンと自然科学者のアインシュタインは世界的に有名である。アインシュタインの名がこの国で急に有名になったのは今から二十年以上も前に、いまは故人の石原純博士等が相対性原理(Relativitätstheorie)を紹介された時からである。本文で紹介した空間論は、専門家にはもちろん当時でもわかっていたことだが、一般のひとびとにはなかなか理解しがたい学説で、結局この新しい空間論の details のひとつである相対性理論の方が、通俗的な形で、新奇を好む学生たちに比較的受けいれられたようである。たとえば、橋の上を自転車に乗って通っていくひとが、車の上から石を落とす。走る車の中で見ているとその石は垂直に落ちていく。ところが河原に立って見ている人の眼には、石は弧を描いて落下する。つまり同一物体の運動でも、それを観察する人の立場によって異なった現象に見える。ざっとこんなふうに相対性原理なるものを説明して、白線の高校生がバーの女給たちを感心させていたものである。しかしこの程度の知識では肝心の空間論は、一向につかめないし、今日の自然科学の進歩にはついてゆけない。アインシュタインの空間論は、これまでの常識を一蹴して、宇宙全体は一種の球のような性格をもち、有限であって無限ではない、と主張する。問題はこの「球のような性格」である。球といえばわれわれはすぐに野球のボールのようなものを想像するが、それでは話にならない。宇宙がボールのようなものなら、その宇宙ボールを浮かべている何物かがあることになる。宇宙のほかにまたべつの宇宙があってはたまらない。宇宙のもつ球のような性格というのは、主として球の表面のもっている性格だと思えばよい。野球のボールとちがって、地球だの宇宙となると、その表面はいわば水平面のようなものである。水平面が二次元の世界であることはいうまでもあるまい。つまりアインシュタインは、宇宙全体は球の表面がもっているような性質をもっている、換言すれば、二次元の世界と考えらるべきものである、と主張するのである。これを二次元の世界にふさわしく根拠づけるものは、一直線に空間を進んでいくうちについにもとの出発点に帰ってくるという事実(いや、まだこんな途方もない大旅行をしたひとがいないから、事実とはいわれないが)である。あるいは今にすばらしく精巧な望遠鏡ができたら、それを覗いているうちに無限のなかたに自分の後頭部を見うるようなことになろうかも知れない。宇宙が球の表面のような性質をもっていることを確かめるもうひとつの方法がある。それは三角測量(Triangulation)である。平地では三角形の内角の和は二直角になることは小学生でも知っているが、さて球の表面ではどうなるだろうか。総和は二直角以上になる。しかもその三角形が大きければ、それにしたがって総和も大きくなるのである! これは天文学上の、すなわち天体の測定によって確かめられた事実である。以上のことから宇宙が「無限」でないことはわかったと思う。しかし、宇宙は「無限」ではないが、「無限界」であることに変わりはない。なぜかと言うに、どこにも限界がないからである。最近の天文学はさらに一段と精密になって、アインシュタインの主張するように宇宙は有限であるが、たえず拡がりを増していると主張している。ここらでアインシュタインの宇宙論をすっかりつかんでおかないと、こんごの自然科学の進歩についていけなくなると思う。――この課あたりになると、前に読んだところを忘れているようでは内容的に先に進めなくなってしまう。語学の知識と内容の把握が緊密に平行して進まなければ、どちらも中途半端なものになるおそれがある。パラグラフひとつ読破するごとに、けっきょくなにを言っているか、を自問自答しつつ進んでもらいたい。

Die Einsteinsche1 Raumlehre2

[1] Es war eine ziemlich starke Zumutung3 für den Verstand des normalen Publikums, als vor einigen Jahrhunderten zum erstenmal behauptet wurde4, daß die Erde eine kugelförmige Gestalt besitze5. Eine derartige6 Lehre widersprach7 ja8 geradezu9 allen normalen Vorstellungen10; denn überall, wo man die Erde überblicken konnte, erschien sie als ebene11 Fläche, und selbst12 von den höchsten Bergen aus13 konnte man eine Krümmung14 der Erdoberfläche nirgends15 bemerken!

〔訳〕Die Einsteinsche Raumlehre アインシュタインの空間論
die Erde 地球は eine kugelförmige Gestalt 球のごとき形態を besitze (三要形:besitzen, besaß, besessen)そなえている daß と、 vor einigen Jahrhunderten 数百年前に zum erstenmal はじめて behauptet wurde 主張された als 時、 Es それは für den Verstand des normalen Publikums 通常の公衆の理解力にとって eine ziemlich starke Zumutung かなり無理な要求 war であった(数世紀前にはじめて、地球は球形であるという学説が唱えられたが、科学知識のとぼしい当時のふつうのひとびとにこの説を理解しろと言っても、それはすこしむりな注文であった)。ja けだし Eine derartige Lehre かかる学説は geradezu 全くもって allen normalen Vorstellungen あらゆるふつうの考え方に widersprach (三要形:widersprechen, widersprach, widersprochen)矛盾していた(そういう説は当時のふつうの一般のひとびとの常識にてんから反していた); denn なぜかと言うに、 man 人が die Erde 地球を überblicken konnte 見渡すことのできる wo ところの überall いたるところにおいて(どこで地球を見渡しても)、 sie 地球は als ebene Fläche 平らな面として erschien (三要形:erscheinen, erschien, erschienen)見えた、 und そして selbst von den höchsten Bergen aus 最高の山獄[の上]からでさえ man ひとは eine Krümmung der Erdoberfläche 地球表面の湾曲などというものは nirgends どこにも konnte......bemerken 認めること[ができなかったからである]!

〔注〕固有名詞の形容詞化語尾 -sch について【1】Einsteinsche -sch の語尾は固有人名に付して形容詞を作る、ただしその形容詞を大書するところがこの sch 語尾の特徴である。(人名ではなく、地名ならば -er という無変化語尾をつけることは既出)。例:Weilsche Krankheit 「ワイル氏病」、 Die Magellansche Wolke 「マジェラン星雲」、 Faradaysche Gesetze 「ファラデイの法則」など。
【2】Raumlehre = Raumtheorie.
【3】starke Zumutung 「むりな注文」という成句。Zumutung は jemandem etwas zumuten 「あるひとにあることを強要する、押しつけがましく要求する」から作った名詞。
【4】behauptet wurde に主語がないのは daß...... 以下にたいする先行詞 es がその直前に省かれているのである。
【5】besitze besitzen (所有する、 possess)の第一式接続法(用法は間接話法)。
【6】derartige = solche, derlei (これは der Art 「そんな種類の」から造った語)。
【7】widersprach widersprechen 「矛盾する、齟齬(そご)する」。齟齬という名詞は Widerspruch.
助詞 ja の一用法「だって……じゃないか」【8】ja は「じつに」、「じっさい」、「あきらかに」であるが、この助辞がはいると、その文はよく「だって……じゃないか!」(「けだし……なるをもってなり」、「現に……なんだから」)という意味になりがちであるから、 ja には「けだし」とか「現に」とか「だって」とかいったような用法もあると言ってもよいわけである。だから、ほとんど denn 「なぜなら」とおなじとも言えるであろう。
【9】geradezu 「まったくもって」、「(こうなるともう)ぜんぜん」など。 schon と言ってもいいが、 schon よりも強い。Das ist geradezu empörend! 「それはまたあんまりひどすぎるじゃないか!」
【10】allen normalen Vorstellungen これは三格(widersprach と結合するから)。normal は「標準的」、「ふつうの」(durchschnittlich または Durchschnitts- とおなじ)。Vorstellung は Begriff とおなじ(専門語としては二者はちがうが、ふつうはおなじに使う:「考え方」、「観念」)。
【11】eben この語は、副詞としては「ちょうど」(eben so など)あるいは「たったいま」(soeben とおなじ)であるが、形容詞としては「平らな」「平面の」である:ebene Geometrie (平面幾何学、 Planimetrie)。
【12】selbst 「……すら」、「……さえ」、「……だに」。
【13】von......aus 「……から」。(aus は余計なようだが、 von だけでは念がはいらないからこんなものを追加する習慣がある)。
【14】Krümmung 「湾曲」:形容詞は krumm 「曲った」、動詞は krümmen 「曲げる」。「曲線」は krumme Linie。 Krümmung に不定冠詞がついているのは、そもそも湾曲などというものは……[存在しない]の意だからである。
【15】nirgends = nirgendswo (nowhere)

[2] Mehr als das16: die Lehre von17 der Kugelgestalt der Erde führte18 offensichtlich19 zu ganz absurden20 Folgerungen21. Die Bewohner der unteren22 Erdhälfte23 mußten dann24 mit den Füßen nach oben25 an dieser Kugel26 herumlaufen27, wie z.B. Fliegen an der Zimmerdecke28. Diese bedauernswerten29 Menschen mußten30 dann in den Weltraum hinunterfallen!

〔訳〕 Mehr als das それより以上だ(それだけではない):die Lehre von der Kugelgestalt der Erde 地球の球形の学説(地球はまるいという説)は offensichtlich あきらかに zu ganz absurden Folgerungen まったく不合理な結論に führte 導いた。 dann その場合には(もしも地球がまるいとすれば) Die Bewohner der unteren Erdhälfte 地球の下半分の居住者たちは、 z.B. (= zum Beispiel) 例えば Fliegen an der Zimmerdecke 部屋の天井にとまっている蝿 wie のように、 mit den Füßen nach oben 上の方へ足をむけて an dieser Kugel この[地球という]球[の表面]を mußten......herumlaufen 走り回らねばならない(とひとは言った)。 dann もしもそうとすれば Diese bedauernswerten Menschen この憐れむべきひとびとは in den Weltraum 宇宙の中へ mußten......hinunterfallen (三要形:hinunterfallen, fiel hinunter, hinuntergefallen) 落ちていくにちがいなかった![と当時のひとびとは考えた]。

〔注〕【16】mehr als das これは ja (英の nay)「いや、それのみかは」とおなじ意の間投的挿入句。
【17】die Lehre von...... 「……に関する学説」 Lehre や Theorie にはたいてい von をつけ、二格をすぐ結びつけないことになっている: Darwins Theorie (または Lehre)von der Entstehung der Arten 「種の起源に関するダーウィンの学説」、 die Lehre von Gegensatz des Yin and Yang 「陰陽の対立についての説」など。
【18】führte......zu...... は「……に導く」(これは輸入の直訳語らしい)で、「……の勢のおもむくところ、やがてはついに……という結果になる」という時に用いる。
【19】offensichtlich = offenbar 「あきらかに、だれが考えてもわかるとおり」。
【20】absurd 「むちゃくちゃな、非常識な、不条理な、支離滅裂な」。
【21】Folgerung 「結論」(ほんとうはむしろ「推論」)で、 Schluß とおなじ。「推論する」は folgern、 schließen。
【22】unteren unter は前置詞としてのみならず、形容詞としても用いる(反対は ober)。副詞としては unten 「下に」、 oben 「上に」である。
【23】Erdhäfte 「半球」これは Hemisphäre (西半球、東半球という「半球」というギリシャ系語のドイツ訳)。 Hemi は halb の意、 Sphäre は球(Kugel)、 Halbkugel におなじ。
【24】dann 「しかる時は」:「そうだとすると」(in diesem Falle)。
【25】mit den Füßen nach oben 直訳すると「足をもって上方へ」だが「足を上の方へむけて」の意。前に mit dem einen Fuße im Grabe 「片足を半分墓の中へつっこんだ」という文例があったのを思い出すこと。
【26】an dieser Kugel an は物の表面を指す、 auf でもその意になるが、ここは逆立しているわけだから、わざわざ厳密に an と言ったからおもしろいのである。
【27】herumlaufen herum 「……し回る」は umher (英 to and fro)「あちこち」と同意、ただすこし誇張し滑稽化する意がある。「おまえはどこをうろつき回っていた?」 (Wo hast du die ganze Zeit herumgetrieben?) など。
【28】Decke 「天井」。床(ゆか)の方は Boden、 Fußboden。
【29】bedauernswert bedauern は「かわいそうに思う」、 -wert (または würdig、英:worth)は「……の価値ある」。 bemerkenswert 「注目にあたいする」、 bewundernswert 「おどろくべき、驚嘆すべき」など。
扮役的直説法について【30】mußten これが直説法の過去になっているところに目をとめること。(ひとつ前の mußten もおなじ)。 müßten 「……せねばならないはずだが」とでもあるならわかるが、「せねばならなかった」と断言してあるのはどういうわけであろうか? これが、ずっと前に触れたことのある「Indicativus mimicus 扮役的直接法」または「直接引用」である。 Sie sagten: diese bedauernswerten Menschen müssen aber in den Weltraum hinunterfallen! と言うかわりに、 sagen という過去形を省いて、 müssen という現在形を暴力的に過去にかえてしまうことがドイツ語ではひじょうにはやるのである。おしまいの!の印に注意すればこの関係はなおよくわかるはずである。

[3] So31 führte man gegen die Behauptung der Gelehrten den gesunden Menschenverstand32 ins Feld33 und brandmarkte34 die Lehre der Wissenschaft zu einer weltfremden35 Spekulation36, die der normale Mensch nicht mitmachen37 könne.
 Als dann Kolumbus den ersten Schritt zur Umsegelung38 der Erdkugel machte, als später Magellan39 die Umschiffung wirklich gelang40, da mußte der gesunde Menschenverstand klein beigeben41.

〔訳〕So こういうふうに man [当時の]ひとびとは gegen die Behauptung der Gelehrten 学者たちの主張に対して den gesunden Menschenverstand 常識を führte......ins Feld くりだし(学者の説を撃破するために常識という武器をもちだし) und て die Lehre der Wissenschaft 学問の説くところを、 der normale Menschen 通常人が nicht mitmachen könne 追随することのできない die ところの zu einer weltfremden Spekulation 世間ばなれした空論であると brandmarkte 烙印をおしてしまった。
 dann ついで Kolumbus コロンブスが den ersten Schritt zur Umsegelung der Erdkugel 地球周航のための最初の一歩を machte 決行した Als 時、 später その後で die Umschiffung 周航[の業]が wirklich 実際に Magellan マジェランに gelang (三要形:gelingen, gelang, gelungen) 成功した(マジェランがほんとうに地球周航に成功した) als 時、それを見て der gesunde Menschenverstand 常識は mußte......klein beigeben (三要形:beigeben, gab bei, beigegeben)[先の鼻息はどこへやら]すごすごと屈服してしまった。

〔注〕【31】so 「かくのごとく」、「上述のごとく」。 auf diese Weise とも dergestalt ともいう。
【32】der gesunde Menschenverstand common sense に相当する「常識」という熟語。 Mutterwizt 「母ゆずりの智恵」とも言う。
【33】führte......ins Feld 「もちだす」、「おっとりだす」(槍、なぎなたをおっとりだす、などの)、「……を切札に出す」という成句。 Feld は戦場で、元来は、とっておきの精鋭などを戦場に「くりだす」ことを言ったもの。
【34】brandmarken 「烙印をおす」、(zu: 「……として」)すなわち「レッテルをつける」、したがって「……だと言って葬り去る」こと。「折り紙をつける」のとは反対で、悪い方にしか用いない。 stempeln 「判をおす」とも言う。――穏便なところでは bezeichnen 「……呼ばわりする、……と名づける」ともいう、この方は善悪を問わず、用いる。
【35】weltfremd 「世の中では親しまれない」「世間ばなれのした」。
【36】Spekulation 思弁。すなわち「微妙すぎるやっかいな理窟」、「現実の基礎から足の浮いた、理窟のための理窟」である。この語にはべつに「投機」の意もあることをついでに記憶すること。
【37】mitmachen 行動をともにする、などと言う「ともにする」である。
【38】Umsegelung 「周航」 das Segel 「帆」から segeln 「航海する」。つぎにでる Umschiffung とおなじ。
【39】Magellan 人名だが、文法的に三格であることは、 gelang (gelingen, gelang, gelungen) との関係からわかるはず。
【40】gelang gelingen 「成功する」の過去形。これは三格とともに用い、 Etwas gelingt mir. 「あることが私に成功する」というふうに用いる。だから Magellan は三格。
【41】klein beigeben これは成句で、いやいやに折れてでる。しぶしぶ兜をぬぐことを言う。つまり、大きなことを言っておきながら、形勢不利と見るや、いままでの鼻息にも似ず、いいかげんな負け惜しみを言いながら鳴りをひそめてしまうことを「小さく横へ添えてだす」というわけである。おそらくカルタの方からでもきた言葉であろう。

[4] Und heute gibt es ja wohl42 niemand, der die Kugelgestalt der Erde ernstlich anzweifelt43. Schon der junge Volksschüler vermag44 mit überlegenem Lächeln den Einwand zu widerlegen, die Bewohner der untern Halbkugel müßten45 herunterfallen. Er wird sogar46 mit dem Stolz des Wissenden47 erklären, daß „unten" und „oben" relative Begriffe seien48, daß es eine49 „untere" Halbkugel gar50 nicht geben könne.

〔訳〕 Und そして heute 今日においては ja wohl おそらく、 die Kugelgestalt der Erde 地球が円い形のものであることを ernstlich 本気で anzweifelt 疑う der ような niemand ひとはひとりも gibt es 存在[しないであろう]。 Schon der junge Volksschüler 幼い小学生ですら、 die Bewohner der untern Halbkugel 下半球の居住者たちは müßten herunterfallen 落ちていくだろう、 den Einwand [という]抗議を mit überlegenem Lächeln えらそうな微笑を浮かべて vermag......zu widerlegen 反駁することができる。 sogar それどころか Er (Volksschüler) 小学生は mit dem Stolz des Wissenden 識者の誇りをもって、 „unten“ und „oben“ 「下」と「上」は relative Begriffe 相対的な概念 seien である daß ということ、 eine „untere“ Halbkugel 「下」半球[などというものは] es......gar nicht geben könne そもそもありえない daß ということを、 wird......erklären 説明するであろう(それだけならまだしも、ひょっとすると小学生は、いっぱし物識り顔でつぎのような説明さえしかねない、すなわち、「上」とか「下」というのは相対的な概念にすぎず、したがって「下」半球なぞというものは全然あるわけのものでないと)。

〔注〕【42】ja wohl ja は「あきらかに」、 wohl は「おそらく」。
【43】anzweifelt たんに「疑う」は zweifeln という自動詞だが、「……を疑う」、「……を疑問視する」(すなわち否定する、にちかい)は bezweifeln, anzweifeln, in Frage stellen である。
【44】vermag 「できる」三要形:vermögen, vermochte, vermocht. これは können とおなじ、ただし zu + 不定法と結びつく:Ich vermag Berge zu versetzen. 「私は山をも移すことができる」。
【45】müßten müssen の接続法第二式、用法は間接話法。すなわち den Einwand を説明する間接引用文だから(逐語訳を見よ)。もし die Bewohner が単数ならば第一式の müsse でも第二式の müßte でもかまわない。
【46】sogar 「それどころか」で、文頭ならば ja 「いやそれどころか」を用いる。
【47】der Wissende 「知れる者」 wissen の現在分詞 wissend の名詞化。 der Sachverständige 「くろうと、専門家」とも der Eingeweihte 「その方の事情に明るいひと」とも言う。
【48】seien は wären と言ってもおなじ。
【49】eine を用いたのは、やはり「……などというものは」だからである。
【50】gar nicht = überhaupt nicht 「そもそも……ない」。

[5] Unterdessen51 sind die Gelehrten gegenüber52 dem Wissen der damaligen Zeit abermals53 um54 ein Stück fortgeschritten und legen dem heutigen Publikum eine Behauptung von ähnlicher Kühnheit vor; und der gesunde Menschenverstand, obschon55 er seitdem viel gelernt hat, steht wieder einmal56 in Opposition57 zu der neuen Lehre. Diese neue Lehre ist die Behauptung Einsteins, daß der Weltraum als Ganzes von58 kugelartigem59 Charakter sei und sich nicht60, wie man bisher glaubte, ins Unendliche ausdehne.

〔訳〕 Unterdessen そうこうするあいだに die Gelehrten 学者たち(学界)は gegenüber dem Wissen der damaligen Zeit その当時(地球が円形であることがわかったころ)の知識にくらべて abermals またもや um ein Stück 一道程 sind......fortgeschritten (三要形:fortschreiten, schritt fort, fortgeschritten)進歩した und そして dem heutigen Publikum こんにちの世人に eine Behauptung von ähnlicher Kühnheit [地球は円いという主張と]似たような大胆さのひとつの主張(似たような思い切った主張)を legen......vor 提出している; und そして der gesunde Menschenverstand 常識は――er (der gesunde Menschenverstand) それは seitdem それ以来(地球が円いことを発見して以来) viel 大いに gelernt hat 学ぶところがあった obschon にもかかわらず――wieder einmal またもや zu der neuen Lehre この新説にたいして steht......in Opposition 反対の立場をとっている。 Diese neue Lehre その新しい学説とは、 der Weltraum als Ganzes 全体としての宇宙は von kugelartigem Charakter 球のごとき性質をもったもの sei であり und したがって、 man 世人が bisher 在来 glaubte 信じていた wie ように、 ins Unendliche 無限なものへ sich nicht......ausdehne 延長するものでない(無限の拡がりをもったものでない) daß という die Behauptung Einsteins アインシュタインの主張 ist である。

〔注〕【51】unterdessen 「さるほどに」、「そうしているあいだに一方では」。ほかに unterdes, indes, indessen, während der Zeit なども用いる。
【52】gegenüber 「……にたいして」の意の三格支配前(後)置詞、ここでは im Vergleich zu...... 「……にくらべて」の意。
【53】abermals zum zweitenmal, schon wieder 「またもや、またぞろ」。
【54】um ein Stück um は「いくらいくら分だけ」の「だけ」にあたる。 Die Amerikaner sind uns um 100 Jahre voraus. 「アメリカ人はわれわれにくらべて百年だけすすんでいる」、 Ich habe mich um 10 Minuten verspätet. 「私は十分間だけ遅刻した」――ein Stück (英:a piece)は ein Stück Weges 「ちょっとした道のり」の略形。
【55】obschon = obgleich, obwohl, obzwar, wenn auch.
【56】wieder einmal 前出 abermals と同意。 wiederum 「またもや」と言うにおなじ。とくに einmal だけの意味を考えてはいけない。通俗体のドイツ語では、こういう場合の副詞に、形式的に einmal (略して mal)をつけるだけの話である。(abermals の方では mals の形でついている)たとえば früher einmal 「もうせん」、 später einmal 「このつぎ」、 zunächst einmal 「さしずめ、まずもって」など。
【57】in Opposition zu...... (英語とぜんぜんおなじ)「……と対立して」――in Opposition zu A stehen はAと「対立する、張り合う」。
形容詞的用法の von【58】von kugelartigem Charakter sei この von の用法に注意(英の of):Power without knowledge is of no value. = Macht ohne Wissen ist von keinem Wert. 「知識を伴わざる権力は無価値である」;This is a rule of general application. = Das ist eine Vorschrift von allgemeiner Anwendung. 「これは一般的適用性を有する規則である」。 affairs of great moment = Angelegenheiten von großem Belang 「重大事件」など。
形容詞語尾 -artig の意味【59】kugelartig 「球のような、球的」 kugelförmig 「球の形をした」ではなく、球「的」性質、というところに相対理論のむずかしいところがみえている。 -artig, -haft の二語尾は、「的」と言いたい時に、どんな名詞にでも付加してよいことになっている。
【60】nicht の位置に注意せよ! wie man bisher glaubte, nicht ins Unendliche ausdehne だったらどんな意味になるか?

[6] Nun wollen wir hier gewiß61 nicht behaupten, daß es eine einfache Sache sei, der neuen Lehre der Wissenschaft zu folgen. Aber man kann dem anschaulichen62 Vorstellen63, über das64 doch65 jeder gesunde Menschenverstand irgendwie66 verfügt, einige Anhaltspunkte geben. Man kann zum Beispiel diejenigen Argumente67 zusammenstellen68, die etwa der Volksschüler des Jahres 2000 vorbringen69 wird, wenn er die70 dann71 schon wohlvertraute72 Lehre verteidigen soll. Wir wollen das jetzt versuchen.

〔訳〕 Nun さて wir われわれは hier ここで、 der neuen Lehre der Wissenschaft この科学の新説に zu folgen ついていく(この新学説を理解する) es ことが eine einfache Sache やさしいこと sei である、 daß と gewiß けっして wollen......nicht behaupten 主張しようとするものではない。 Aber しかしながら man われわれは、 jeder gesunde Menschenverstand 常識が doch おそらく über das それを irgendwie なんらかの方法で verfügt もっている[ところの](常識のあるひとなら誰でももっている)、 dem anschaulichen Vorstellen 具体的表象力に einige Anhaltspunkte 二三の拠りどころを kann......geben あたえることができる(むずかしい抽象論ではふつうの常識人にはわかりにくいだろうが、直覚的にわかるような説明法なら誰でもとりつけると思うから、そういう直覚的な把握の手がかりになるような二三の説明を試みることにしよう)。 zum Beispiel [そのためには]たとえば、 der Volksschüler des Jahres 2000 紀元二千年ごろの小学生が、 wenn もしも er (Volksschüler) 彼が die dann schon wohlvertraute Lehre そのころにはもうよく知っている学説を verteidigen 弁護する soll ことになった[なら]、 etwas おそらく vorbringen wird もちだすであろう die ような、 diejenigen Argumente 論証法を Man ひとは kann......zusammenstellen まとめることができる(紀元二千年ごろになれば小学生でも宇宙が球的性格のものであることくらいは知っているであろうが、そのころの小学生に向かって、どうして宇宙が球的なものであるかと訊ねたら、おそらく、それはこういうわけだから、と言ってもちだしそうな理窟が今からでも考えられる)。 Wir われわれは das そういう論証法を jetzt いま wollen......versuchen こころみてみよう。

〔注〕【61】gewiß = freilich 「もちろん」。
【62】anschaulich 直感的(intuitiv)とよく似ているが、ちょっとちがう。実物をまざまざと眼前に「見る」ように「具体的」にはっきりしたものをいう。 dem anschaulichen Vorstellen は anschauenden Vorstellen と言ってもよく、つまり「具体的な考え方」のこと。
【63】Vorstellen Vorstellungsvermögen 「表象能力」。いったいわれわれの心意の機能をさすときには、哲学者の最近の傾向として、すべて不定法の名詞化を用いる。 Das Denken は「われわれの思惟能力」あるいは時には「考えるわれら」とすらもなる。 Dem Denken dünkt das Tun ein Wunder. 「われわれの思惟には、行為は奇蹟と思われる。――行動する時は無我夢中でやるが、あとは理窟で考えてみると、自分ながらよくもやったと思って感心する」など。
【64】über etwas verfügen 「あるものを持つ」という成句。(verfügen を、左右する、とか駆使する、とかいうふうに思ってはいけない)
【65】doch 関係文が「……であるはずの……」という意の時には、そのどこかに doch を挿入する。(ja でも ja doch でもおなじ)Ich finde meine Schule, die ich doch vorhin hier abgezogen, nicht mehr. 「さっきここで脱いだはずの靴がもうみつからない」。
【66】irgendwie なんらかの方法で。(どういうふうに持っているとはっきり言うわけにはいかないが、十人十色で、めいめいそれぞれの様式でもっている、の意)
【67】Argument, n. いわゆる「理窟」のこと。
【68】zusammenstellen 揃えてひとに見せる、まとめて述べる。
【69】vorbringen ひと前に「だす」、すなわち「もちだす」。
【70】die は Lehre の冠詞。ここを冠飾句でなく、関係文に直せば: wenn er die Lehre, die dann schon wohlvertraut geworden sein wird, verteidigen soll.
【71】dann 「その当時においては」(紀元2000年頃には)。
【72】wohlvertraut 「よく慣れた、あたりまえになってしまった」 = selbstverständlich, gang und gäbe, geläufig 「あたりまえの、慣れっこの、わかりきった」。

[7] Zunächst muß man sich darüber klar sein73, daß man sich den kugelartigen Weltraum nicht vorstellen darf74 als eine Kugel, die in einem andern größeren Raum schwebt. Denn der Weltraum ist ja75 der gesamte Raum, und darum kann es nicht noch Raum außer ihm geben. Die Bezeichnung76 „kugelartig" ist eben77 nur ein Vergleich. Es handelt78 sich hier gar nicht um eine gewöhnliche Kugel. Nun, wie ist das zu verstehen79?

〔訳〕 Zunächst さしあたって man われわれは darüber つぎの点に関して muß......sich......klar sein はっきりした理解を持つ必要がある、 daß すなわち man われわれは den kugelartigen Weltraum 球的な宇宙を、 in einem andern größeren Raum 他のもっと大きな空間に schwebt 浮遊している die ところの als eine Kugel ひとつの球と sich......nicht vorstellen darf 考えてはならない。 Denn なぜならば der Weltraum 宇宙は ja あきらかに der gesamte Raum 空間の総体 ist であり、 und darum したがって außer ihm この空間のほかに noch なお更に Raum 空間が kann es nicht......geben 存在するわけがない[からである]。 Die Bezeichnung „kugelartig“ 「球状の」という名称は eben つまり nur ein Vergleich たんなる比較にすぎない ist のである。 hier この場合においては eine gewöhnliche Kugel 通常の球が Es handelt sich......gar nicht um 問題になっているのでは全然ない(球状といっても通常の球のことを言っているのではない)。 Nun さて[それならば]、 das そのこと(この場合の球状)は wie いかに ist......zu verstehen (三要形:verstehen, verstand, verstanden)理解すべきであろうか?

〔注〕【73】sich darüber klar sein は「そのことを明瞭に理解する」という熟語。 klar の代わりに im klaren とも言う。
【74】darf は Kugel のつぎにくるべきものであるが(またそこへおいてもよいのであるが)Kugel には関係文が結びつくから、わざと前にだしたもの。
【75】ja は、 denn があれば要らないようなものであるが、「わかりきったことだが」の意を強めるために入れたもの。
【76】Bezeichnung = Benennung, Ausdruck.
【77】eben はちょうど日本語の「つまり」にあたる。 also 「だからつまり」と言ってもよいところ。
【78】Es handelt sich hier gar nicht um eine gewöhnliche Kugel = Es ist gar nicht eine gewöhnliche Kugel. = Es ist hier nicht von einer gewöhnlichen Kugel die Rede. ――Es handelt sich um......は、「それは……である」という慣用句。なお37頁第2課注47を参照せよ。
【79】Wie ist das zu verstehen? = Wie soll man das verstehen?

[8] Bei80 der Kugel unterscheidet man zweierlei81: ihre Oberfläche und den durch sie umrissenen Raum. Man sehe82 zunächst einmal83 von diesem Raum ab84 und richte85 sein Augenmerk86 ausschließlich auf die Oberfläche, die als solche87 etwas Zweidimensionales88 ist im Gegensatz zum89 an sich90 dreidimensionalen Raum. Nun ist die Behauptung der neuen Lehre die91: der Weltraum hat als Ganzes diejenigen Eigenschaften, die die Kugeloberfläche hat.

〔訳〕 Bei der Kugel 球にあっては man われわれは zweierlei 二者を unterscheidet (三要形:unterscheiden, unterschied, unterschieden)区別する:[すなわち] ihre Oberfläche その表面 und と den durch sie umrissenen (三要形:umreißen, umriß, umrissen)Raum その表面によって画された空間[である]。 Man われわれは zunächst einmal まずさしあたり von diesem Raum この空間から sehe......ab (三要形:absehen, sah ab, abgesehen)目をそらそう(この空間を問題外におこう) und そして sein Augenmerk われわれの注意を ausschließlich もっぱら auf die Oberfläche 表面に[だけ] richte 向けてみよう、 die 表面は als solche そのものとして(表面そのものは) im Gegensatz zum an sich dreidimensionalen Raum 本来三次元である空間に対して etwas Zweidimensionales 二次元的なもの ist である。 Nun ところで die Behauptung der neuen Lehre 新しい学説の主張は die 次のごときもの ist である:[すなわち]der Weltraum 宇宙は als Ganzes 全体として、 die Kugeloberfläche 球の表面が hat もっている die ような、 diejenigen Eigenschaften そういう性質を hat もっている。

〔注〕【80】Bei der Kugel 「球においては」というのは bei dem Begriff Kugel 「球という概念に際しては」、すなわち、球と言えばすぐ……を考える、という「と言えば」にあたるのが bei である。
【81】zweierlei ふたつの事柄を、ふたつの点を。 ein Doppeltes とも言う。(数詞にはすべて -erlei の語尾をつけて、「いく種類」の意の形容詞、名詞をつくる。)
【82】sehe (接続法第一式、要求話法)。
【83】zunächst einmal 「まず」、「まずもって」(einmal は無意味、前出 wieder einmal などとおなじ)。
【84】von......absehen は「……は仮にしばらく措く」、「……をしばらく度外視する」、「……をしばらく考慮の外におく」(文字どおりには「……から眼をそらす」、 ab- は とおなじ)。
【85】richte 接続法第一式、要求話法。 richten 「向ける」。
【86】Augenmerk 眼、観点、眼のつけどころ、注意。
als solche, an sich 「それ自体」【87】als solche 「それ自体が」(an sich とも言う);ここでは主語が Oberfläche だから solche は女性になっているが、主語が男・中性ならば als solcher、 als solches というふうに変わってくる。たとえば「穴という奴は、それ自体としては、無いものである」(Das Loch ist als solches nichts.)と言う。つまり、そこだけ何もないのを称して穴というのだから。けれども、穴があいているのを指して「ここにひとつの穴が……無い」というのはちょっとおかしい。実際としてはやはり穴が「ある」と言う。けれども、やかましく言うと、穴という概念は、「それ自体としては」(すなわち、「やかましく、厳密に言うと」)無いことを意味するのである……といったようなばかな理窟も言えるわけである。そのほか、「人間はそれ自体としては野獣より弱い」(Der Mensch als solcher ist schwächer als die Bestie.)などと言う。つまり、武器をもったり、文明世界にいたりするからこそ獣物より強いのだが、それ自身としては、すなわち具体物を全部のけてしまって、動物と同じ裸一貫として考えれば、人間ほど弱いものはない、という意味である。――原文の箇所もそれで、平面というものは、あいまいに考えれば、その上に山があったり川があったりして、多少こう厚みもあり凸凹もあるように思うが、やかましく言うと、すなわち平面という「観念」を厳密に考えてゆくというと(これが als solche)、ふたつのダイメンションしかない、というわけである。つまり「観念を厳密に考えると」という際にこの als solche という文句を用いる。学問というものは、いつも観念を厳密に考えるものだから、学問書を読んでいるとしょっちゅうこの句におめにかかる。
【88】Zweidimensionales 「二次元的なもの」:Dimension 「次元」ということばを知らない人はまさかあるまい。その形容詞が dimensional である。これはそれをまた名詞化したもの。だから etwas Zweidimensionales と言うかわりにたんに zweidimensional と言ってもよいところ。
【89】im Gegensatz zu...... は「……とはちがって」という前置句。英:contrary to......
【90】an sich = als solcher (前注87)。
【91】die これは冠詞ではなく、指示代名詞である。 diese と言うにおなじ。女性になっているのは Behauptung をうけるから。日本語なら「こうである」と言う時に、ドイツ語では「これである」と言うのである。 Mein Entschluß ist der. 「私の決心はこうである」; Meine Ansicht ist die. 「私の意見はこうである」など。

[9] Um den Vergleich mit der Kugel weiter durchzuführen92, müssen wir uns zunächst einmal eine Welt vorstellen, in der alles Geschehen sich auf der Oberfläche einer Kugel abspielt93. Wir müssen uns also eine zweidimensionale Welt vorstellen. Ich will gerade94 nicht behaupten, daß es eine solche95 wirklich gibt ; aber nichts steht uns im Wege96, uns97 eine solche zu denken. Soviel98 Phantasie darf ich den lieben Lesern zutrauen99, nicht wahr100?

〔訳〕 den Vergleich mit der Kugel 球との比較を weiter さらにつづけて Um......durchzuführen 行なうためには、 wir われわれは zunächst einmal さしあたり、 alles Geschehen あらゆる現象が auf der Oberfläche einer Kugel 球の表面において sich......abspielt 展開する in der ところの、 eine Welt ひとつの世界を müssen......uns......vorstellen 思い浮かべてみる必要がある。 also つまり Wir われわれは eine zweidimensionale Welt ひとつの二次元的世界を müssen uns......vorstellen 思い浮かべてみなくてはならない。 eine solche [Welt] かかる世界が wirklich 実際に es......gibt 存在する daß と、 Ich 私は gerade 必ずしも will......nicht behaupten 主張するものではない; aber しかし eine solche かかる世界を uns......zu denken 想像する[にあたって]、 nichts なにものも steht uns im Wege われわれの道をふさがぬ(想像することはすこしもさしつかえないと思う)。 Soviel Phantasie この程度の想像力を ich 私は den lieben Lesern 親愛なる読者たちに darf......zutrauen 期待していいと思うが、 nich wahr どうだろう?

〔注〕【92】weiter durchführen 「さらに先へと遂行する」とは「続行する」、「そのまま続けてゆく」。
【93】sich abspielen 「行なわれる」、すなわち geschehen とほぼ同意であるが、すでに主語が Geschehen だからそれが使えなかったわけである。
【94】gerade nicht 「必ずしも……とは言わぬ」、「別に……というわけでない」という時には nicht に gerade を添える。(英:not exactly)。
【95】eine solche 「そんなもの」。(すなわち solche zweidimensionale Welt)
【96】nichts steht uns im Wege jemandem im Wege stehen は「あるひとに対して、その行手に立ちふさがっている」という原意から、「あるひとを妨げる」の意に用いる。 Nichts hindert uns. 「なにものもわれわれを妨げない」と言ってもいい。すなわち「……するになんのさしつかえがあろう」、「……したってかまわない」という成句である。
【97】uns denken sich etwas denken 「自分にあるものを考えてみる」は、すでにいくどか出てきた sich etwas vorstellen とおなじ。
【98】soviel 「それくらいの」、「その程度の」
【99】zutrauen 「期待する」、すなわち「もっているものと考える」こと。その用法は jemandem etwas zutrauen 「あるひとにあることを期待する」。
nicht wahr? の用法【100】「そうでしょう?」「そうでしょうね?」と念をおす言葉。英語ではその時々でいろいろだが、ドイツ語はその前に使った動詞のいかんにかかわらず、いつも nicht wahr でいいから便利である。フランス語もそうで、いつも n'est-ce pas? でよい。ただ英語だけがやっかいである。

[10] Wir müssen uns also eine zweidimensionale Welt vor-stellen, in der alles Geschehen sich auf der Oberfläche einer Kugel abspielt. Außerhalb101 dieser Kugeloberfläche, ebenso in Innern102 der Kugel, gibt es nichts, keine Himmelskörper, keine Lichtstrahlen, keine Vorgänge irgendwelcher103 Art. Würden104 auf einer solchen Kugel Lebewesen105 wohnen, die selbst natürlich auch von flächenhafter106 Gestalt sind, also kleine Scheibchen107 ohne Dicke, die auf der Kugel herumlaufen können, so würden diese Lebewesen mit Recht108 behaupten, daß ihre Welt nur zwei Dimensionen besitze.

〔訳〕 also ゆえに Wir われわれは、 alles Geschehen あらゆる現象が auf der Oberfläche einer Kugel ひとつの球の表面において sich......abspielt 展開する in der ところの、 eine zweidimensionale Welt 二次元的世界なるものを müssen uns......vorstellen 想像してみなくてはならない。 Außerhalb dieser Kugeloberfläche この球の表面の外にも、 ebenso また im Innern der Kugel この球の内部にも、 gibt es nichts 何物も存在しない、 keine Himmelskörper 天体もなければ、 keine Lichtstrahlen 光線もなく、 keine Vorgänge irgendwelcher Art どんな種類の事象もない。 auf einer solchen Kugel かかる球の上に、 natürlich 言うまでもなく selbst それ自身 auch また von flächenhafter Gestalt 平面的な形体をもって sind いる、 also したがって、 auf der Kugel この球の上を herumlaufen (三要形:herumlaufen, lief herum, herumgelaufen)können 走り回ることのできる die ところの、 kleine Scheibchen ohne Dicke 厚さのない小さな円板[である] Lebewesen, die ところの生物が Würden......wohnen もしも住んでいるとしたならば、 so そうしたら diese Lebewesen これらの生物が、 ihre Welt かれらの世界は nur zwei Dimensionen ふたつの次元しか besitze もっていない daß と、 würden......behaupten 主張しても mit Recht 無理からぬことと言わなければならない。

〔注〕【101】außerhalb 「……の外部に」という二格支配前置詞。反対は innerhalb 「……の内部に」。
【102】im Innern のかわりに innerhalb でもよい。
【103】irgendwelcher: 「なんらかの」。(Art [種類]が女性で、それを二格にしたもの)――keine Vorgänge irgendwelcher Art のかわりにたんに keinerlei Vorgänge 「いかなる種類のできごとも」と言ってもよい。
【104】würden これは würde (英の would、あるいはここではむしろ should)の複数形。文頭の定形倒置は Wenn......と同じ。約束話法の構文規則を思い出すこと!
【105】Lebewesen Wesen というのは、べつに「本質」という場合のみではなく、たんに「物」、「者」(英の being)という時にも用いる。
【106】flächenhaft 「平面的」 -haft という語尾が -artig とおなじく、ちょうど「的」にあたり、かつどんな名詞にでも添えて用いられることは前に述べておいた。
縮小名詞 Diminutiv -chen -lein【107】Scheibchen: Scheibe 「盤、平盤」の縮小名詞。たびたびでてくるこの「縮小名詞」についてちょっと一言。 -chen あるいは -lein という中性語尾を付すると「小さな……」という名詞ができる。(変音に注意)
 der Mann (男) das Männchen 小男
           das Männlein (同)
 die Hand (手) das Händchen お手て
           das Händlein (同)
 das Haus (家) das Häuschen 小屋
           das Häuslein (同)
 「小さい」というのはごく一般的に言っての話で、詳しく言うと、「かわいい」の意になったり(Händchen)、またひやかすような、軽蔑的な意をおびたり(Männlein 「おっさん」)、またぜんぜん意味が変わったり(「雄」を Männchen、雌を Weibchen という、たとえ象の雌雄といえども!)する。すべて中性である。
【108】mit Recht behaupten 「道理をもって主張する」とは、主張するのはむりもないことだ、の意。

[11] Sie können nämlich zwei Stangen überall nur waagerecht109 aufeinander110 stellen ; eine dritte Stange durch den Schnittpunkt senkrecht zu den beiden andern zu stellen, wäre111 in jener Welt nicht möglich, da diese dritte Stange in die Höhe, die es doch nicht gibt, hinausragen müßte. Aber jene Lebewesen würden sich darüber gewiß gar nicht wundern; es wäre ihnen selbstverständlich, daß es nur zwei Dimensionen gibt. Eine112 dritte Dimension wäre ihnen ein Begriff, oder besser113 ein Unbegriff114, der geradeso115 inhaltlos sein würde als der116 einer vierten Dimension117 für uns. Für118 Schachspiel würden sie sich sehr bald interessieren, wenn wir es bei ihnen einführten; für Hürdenlaufen und Stabhochspringen dagegen würden sie kein Verständnis aufbringen119.

〔訳〕 nämlich つまり Sie かれらは zwei Stangen 二本の棒を überall いかなる場所においても nur waagerecht 水平にしか können......aufeinander stellen 積み重ねることができないのである; eine dritte Stange 三本目の棒を durch den Schnittpunkt 先の[二本の棒の]接点を通して senkrecht zu den beiden andern 二本の棒にたいして垂直に zu stellen 立てる[などという]ことは、 in jener Welt この世界においては wäre......nicht möglich 不可能であろう、 da けだし diese dritte Stange この三本目の棒は in die Höhe 上方へ――doch ところが die 上などというものは es......nicht gibt [この世界には]存在しないのである――hinausragen müssen 突き出るにちがいないから。 Aber しかし jene Lebewesen この生物たちは darüber そのこと(上や下がないということ)を gewiß きっと würden sich......gar nicht wundern 少しも不思議に思わないだろう; nur zwei Dimensionen たんにふたつの次元しか es......gibt 存在[しない] daß という es ことは ihnen かれらにとって selbstverständlich 自明のこと wäre である[から]。 Eine dritte Dimension 第三次元などというものは ihnen かれらにとっては、 für uns われわれにとって der (=Begriff) einer vierten Dimension 第四次元の概念が geradeso......als [そうである]とちょうど同じように inhaltlos sein würde 無内容であるだろう(ナンセンスであるだろう) der ところの、 ein Begriff 一つの概念、 oder besser むしろ ein Unbegriff 怪概念 wäre であるだろう(現代のわれわれにとって第四次元の概念はナンセンスなものにすぎないが、第二次元の世界に住んでいる生物にも第三次元などというものはやはり同様にナンセンスな概念、否むしろ怪概念であろう)。 Für Schachspiel 将棋にたいしてならば sie かれらは sehr bald すぐに würden......sich interessieren 興味を感ずるであろう、 wenn もしも wir われわれが es (Schachspiel) それを bei ihnen かれらの世界に einführten 紹介したならば; dagegen これに反して für Hürdenlaufen und Stabhochspringen ハードル・レースと棒高跳にたいしては sie かれらは würden......kein Verständnis aufbringen (三要形: aufbringen, brachte auf, aufgebracht)なんの理解をも示さないであろう。

〔注〕【109】waagrecht 「水平に」。 Wage (または Waage)は秤のこと。反対は lotrecht、 senkrecht 「垂直、鉛直」。
【110】aufeinander = eine auf die andere 「ひとつを他の上に」と言うにおなじ。「上下に重ねて」である。おなじように ineinander 「おたがいに入り組み合って」、 nebeneinander 「ならんで、平行して」など、いろいろな似た語がある。
【111】wäre 約束話法。
【112】eine たびたび注したごとく、「……などというものは」の時にはかならず不定冠詞。
【113】oder besser 「あるいは(こうも言える)」という成句。 besser gesagt または um es besser auszudrücken 「それを、もっとよく言い表わせば」とも言える。
前綴り un- の意味【114】Unbegriff un- という前綴りは、反対を意味する以外に、「とんでもない」、「とんだ」、「けしからぬ」、「無茶な」、「なってない」(とにかく「悪い」の意)の意に用いる。たとえば Tugend は徳だが、 Untugend は悪徳である、 Unmensch はべつに人間以外の動植物ではなく、「ひとでなし」である。その他 Unstaat 「とんでもない国家」、 Unbuch 「悪書」など。ついには「どえらい」、「莫大な」まで意味する: Unsumme 「巨額」、 Untiefe 「どえらい深いところ」など。ここの Unbegriff は、したがって「荒唐無稽の概念」である。
【115】geradeso......als...... は ebenso......wie とおなじ。「……とまったくおなじく……」。
【116】der = derjenige 「……のそれ」(冠詞ではなく、指示代名詞)。
【117】vierten Dimension 「第四次元」第四次元などというものはあるはずがない。(ただし、あるひとびとに言わせると、時間というものが第四次元だそうであるが、それはまあ論外である)
【118】für これは sich für etwas interessieren 「あるものに興味をもつ」の für etwas の部分を強調先置した形。
【119】Verständnis aufbringen 「理解」示す、というのは、もちろん、興味と関心をもつことである。

[12] Könnten jene Lebewesen nun bemerken, daß sie sich auf einer Kugelfläche befinden? Daß sie sich auf (oder besser in) einer Fläche befinden, das würden sie schon bald bemerken, sobald sie etwas zu philosophieren beginnen; aber ob sie so leicht auch zur Erkenntnis gelangen würden, daß sie sich auf einer Kugeloberfläche befinden? Ich glaube, schwerlich120. Es121 würde dann mindestens ein anderer122 Einstein nötig sein.
 Trotzdem wäre es nicht gänzlich ausgeschlossen123, daß sie die Kugelform ihrer Welt doch124 erkennen. Zwar könnten sie es125 nicht an126 den dreidimensionalen Eigenschaften der Kugel tun, denn sie könnten nicht quer durch den Innenraum von einer Stelle der Oberfläche in gerader Linie127 zur gegenüberliegenden128 Stelle gelangen ; wohl aber129 an den flächenhaften Eigenschaften der Kugel.

〔訳〕 nun ところで jene Lebewesen 前述の生物たちは、 sie かれらが auf einer Kugelfläche 球の表面に sich......befinden (三要形:befinden, befand, befunden)いる daß ということを、 bemerken 認める Könnten ことができるであろうか? sie かれらが auf (oder besser in) einer Fläche ある表面の上、というよりはむしろ表面の「内」に sich......befinden 存在している Daß ということ、 das そのことに sie かれらは、 sie (二番目の sie)かれらが etwas 多少 zu philosophieren 哲学することを beginnen (三要形:beginnen, begann, begonnen)はじめる sobald やいなや、 schon bald ただちに bemerken 気づく würden であろう; aber しかし sie (第二の sie) かれらが auf einer Kugeloberfläche 球の表面に sich......befinden 存在している daß という zur Erkenntnis 認識に auch も sie かれらは so leicht そう容易に gelangen 到達する würden であろう ob か? schwerlich [それは]むずかしい、[と] Ich 私は glaube 思う。 dann その際には(それがわかるためには) mindestens すくなくとも ein anderer Einstein もうひとりのアインシュタインが Es würde......nötig sein 必要であろう。
 Trotzdem とは言うものの、 sie かれらが die Kugelform ihrer Welt かれらの世界が球形であることを doch やはり結局は erkennen (三要形:erkennen, erkannte, erkannt)認識する daß という、 es ことは wäre......nicht gänzlich ausgeschlossen (三要形:ausschließen, schloß aus, ausgeschlossen)ぜんぜん除外されたことではないだろう(ありえないことではない)。 Zwar なるほど sie かれらは an den dreidimensionalen Eigenschaften der Kugel 球の三次元的性質によっては könnten......es nicht......tun かかる認識に達することはできないであろう、 denn なぜかと言うに sie かれらは quer durch den Innenraum [球の]内部を横断して von einer Stelle der Oberfläche 表面のある箇所から in gerader Linie 一直線に zur gegenüberliegenden Stelle 相対する箇所へ könnten nicht......gelangen 達することができないからである; wohl aber しかし an den flächenhaften Eigenschaften der Kugel 球の平面的性質によってなら[そうした認識に達することができるかもしれない]。

〔注〕【120】schwerlich kaum とおなじ。これらは日本語の「とても」とおなじく、否定詞である。schwerlich のかわりに nicht と言っても意味はかわらない。
【121】Es 文の非人称化(「基礎入門編」§125)。
【122】ein anderer Einstein もうひとりのアインシュタインが、とは、われわれの世界におけるアインシュタインのごとき人間が。
【123】ausgeschlossen 「除外されたこと」とは、 unmöglich 「不可能」、 undenkbar 「考えられない」の意。会話で Ausgeschlossen! と言えば、「そんなことは考えられない」すなわち「だめです!」、「そんな話はない!」、「そりゃそうだ」などの意。
【124】doch この語を強く発音して読め。 trotz alledem 「それにもかかわらず」と言うにおなじ。
【125】es......tun 「それをなす」とは、直前の die Kugelform ihrer Welt erkennen をくりかえすかわりである。
【126】an 「……を見て」、「……を観察して」。
【127】in gerader Linie = geradesweges.
【128】gegenüberliegend 英:opposite
【129】wohl aber sondern とほぼおなじ。

[13] Zwar wäre es ihnen unmöglich, die Krümmung der Kugel als Wölbung130 der Fläche zu sehen; denn in dieser Welt würden die Lichtstrahlen selbst131 auf der Kugelfläche entlanggleiten132, da sie ja nicht in den Raum hinauskönnen133, und man könnte also sozusagen um die Kugel herumsehen134, die Fläche würde deshalb eben erscheinen, der Weg der Lichtstrahlen würde als gerade Linie angesehen135 werden. Nur würde man die merkwürdige Entdeckung machen, daß man beim Fortschreiten in gerader Linie schließlich wieder an seinen Ausgangspunkt zurückkommt! Ja, wenn die Kugel nicht zu groß ist und keine Hindernisse im Wege stehen, würde man, mit dem Fernglas geradeaus blickend136, in der unendlichen Ferne schließlich seinen eigenen Hinterkopf sichten137!

〔訳〕 Zwar なるほど die Krümmung der Kugel 球の湾曲を als Wölbung der Fläche 平面の膨らみとして zu sehen 見る es ことは ihnen かれらにとって wäre......unmöglich 不可能であろう: denn なぜなれば in dieser Welt この世界においては die Lichtstrahlen selbst 光線すら、 sie (Lichtstrahlen) それが in den Raum 空間の中へ nicht......hinauskönnen 射しでることができない da......ja ものである以上、 auf der Kugelfläche entlanggleiten (三要形:entlanggleiten, glitt entlang, entlanggeglitten)球面上に沿って滑る würden であろうから、 und......also それゆえに man かれらは sozusagen 言わば um die Kugel herumsehen 球のまわりをぐるりと回って見通す könnte ことができよう、 deshalb したがって die Fläche 表面は eben 平らに erscheinen 見える würde であろう、 der Weg der Lichtstrahlen 光線の[すすむ]道は als gerade Linie 直線と angesehen (三要形:ansehen, sah an, angesehen) werden 見なされる würde であろう。 Nur ただし、 beim Fortschreiten in gerader Linie 直線にすすんでいくうちに schließlich ついには wieder ふたたび an seinen Ausgangspunkt もとの出発点へ zurückkommt (三要形:zurückkommen, kam zurück, zurückgekommen)かえってくる daß という die merkwürdige Entdeckung 不思議な発見を würde man......machen かれらはなすであろう! Ja 否、 wenn もしも die Kugel 球が nicht zu groß ist あまり大きくなく und かつ keine Hindernisse なんらの障碍も im Wege stehen 道をふさいでいないとすれば、 man かれらは、 mit dem Fernglas 望遠鏡をもって geradeaus blickend まっすぐ前方を眺めて見たならば、 in der unendlichen Ferne 無限の遠方に schließlich ついには seinen eigenen Hinterkopf 自分自身の後頭部を sichten 認める würde であろう!

〔注〕【130】Wölbung wölben 「丸みをつける・ふくらます・もりあげる」。
【131】die Lichtstrahlen selbst = sogar die Lichtstrahlen.
【132】entlanggleiten entlang (英: along)gleiten (英:glide)。
Ich kann nicht hinaus. 私は表へでられない【133】hinauskönnen 「外へ出ることができる」。話法の助動詞は、方向を指す語とともに用いれば、もはや gehen などの動作動詞を必要としない。 Ich muß hinaus. 「私は外出せねばならぬ」。 Darf ich herein? 「入ってもよろしいですか?」。 Er will nach Paris. 「彼はパリに行こうとしている」。
【134】um die Kugel herumsehen 「球の周囲をめぐって見る」というのは、球の表面に沿って曲面的に視線をはしらせること。もちろん視線はラジオの長波みたいにそうはいかない。ふつうよく言うことに、 Er kann um die Ecke sehen. 「彼は角を曲って視線を向けることができる」すなわち、物の陰にあるものまでが見えるということを、こういうふうにおもしろく言うのである。
【135】als......angesehen werden = für......gehalten werden
【136】mit dem Fernglas geradeaus blickend = wenn man mit dem F. geradeaus blickt
【137】sichten sehen とけっきょく同意であるが、「遠望する」という特殊な語である。

[14] Es gibt für diese armen Flächenbewohner noch andere Mittel, die Krümmung zu bemerken. Die Feldmesser würden nämlich bei138 genauerer Messung bald entdecken, daß da139 sehr merkwürdige geometrische Gesetze gelten140. Nehmen wir141 mal142 an, sie bedienten143 sich dabei des bei uns üblichen144 Feldmessungsverfahrens145, das man Triangulation heißt146: man stellt an den Endpunkten eines großen Dreiecks Winkelmesser auf und mißt147 die Winkel des Dreiecks aus. Würde man das auf der richtigen Ebene tun und nachher die gemessenen inneren Winkel zusammenzählen, so würde, wie jeder weiß, ein Betrag148 von 180 Grad, das heißt zwei rechte Winkel, herauskommen149.

〔訳〕 für diese armen Flächenbewohner このかわいそうな平面居住者たちにとって、 die Krümmung 湾曲を zu bemerken 認知すべき noch andere Mittel なお他の方法が Es gibt 存在する。 nämlich すなわち Die Feldmesser 測量士は bei genauerer Messung [ふつうよりも]正確に測量するならば、 bald やがて entdecken [つぎのような事実を]発見する würden であろう、 daß すなわち da そこには sehr merkwürdige geometrische Gesetze ひじょうに奇妙な幾何学の法則が gelten (三要形:gelten, galt, gegolten)支配する[ことを]。 wir われわれは mal ちょっと Nehmen......an (三要形:annehmen, nahm an, angenommen)[こう]仮定してみよう[かりに]、 sie (Feldmesser) かれらが dabei その際(測量に当たって)、 man ひとが Triangulation 三角測量 heißt と呼んでいる(三角測量と呼ばれている) das ところの、 des bei uns üblichen Feldmessungsverfahrens われわれのもとでふつう行われている測量法を bedienten sich 用いた[と考えてみよう]: an den Endpunkten eines großen Dreiecks ひとつの大きな三角形の頂点に Winkelmesser 測角器を man stellt......auf 据えつけ und そして die Winkel des Dreiecks その三角形の[三つの]角を [man]mißt......aus (三要形:ausmessen, maß aus, ausgemessen)量る。[もしも] man かれらが das そのことを auf der richtigen Ebene 正しい平面上において tun 行ない und そして nachher 後で die gemessenen (三要形:messen, maß, gemessen) inneren Winkel 測定した内角を zusammenzählen 合計する Würde ならば、 so そうすれば、 wie jeder weiß だれでも知っているように、 ein Betrag von 180 Grad 総計百八十度、 das heißt 換言すれば zwei rechte Winkel 二直角が herauskommen (三要形:herauskommen, kam heraus, herausgekommen)生ずる würde であろう。

〔注〕bei...... の句と wenn...... の文【138】bei genauerer Messung 「より正確なる測量に際しては」とは、 genauer messend あるいは wenn sie genauer messen 「もしかれらが、なおも正確に測っていくならば」の意。 wenn の文は、簡単であればたいてい bei...... の句によって表現できる:「天気がよかったら」は bei schönem Wetter または Wenn das Wetter schön ist. 「条件が変らなければ」は bei gleich bleibenden Bedingungen または Wenn die Bedingungen die gleichen bleiben.
【139】da: 英語の there (「基礎入門編」§125)にあたる。主文章なら Es gelten sehr merkwürdige Gesetze だが、副文章では es を用いるかわりに、英語とおなじ da を用いるのである。
【140】gelten 「通用する」、「支配する」。
【141】nehmen wir......an 命令法の一種
【142】mal (einmal の異形)「ちょっと」、「こころみに」、「まあ」。
【143】bedienten 形は接続法第二式、間接話法。 sich eines Dinges bedienen 「あるものを用いる」、二格支配ゆえ des Feldmessungsverfahrens と二格になっている。
【144】üblich 「習慣の」、「ふつう行なわれている」、「慣用の」。
【145】Verfahren, n. = Methode, f.
【146】heißt: heißen, hieß, geheißen. この動詞は自動詞として「呼ばれる」、「と称する」の意にも、またこの場合のように他動詞として nennen, bezeichnen と同意にも使われる。
【147】mißt これでわかる通り、 messen 「量る」という動詞は sprechen などとおなじ型である。(messen, maß, gemessen; ich messe, du mißt, er mißt)
【148】Betrag, m. = Summe, f. 合計。
【149】herauskommen 「(結果が)生ずる・(答が)出る」。

[15] Auf einer Kugeloberfläche kommt aber ein größerer Betrag heraus, weil da das Dreieck nicht von drei geraden Linien, sondern von drei sich aufwölbenden150 Kreisbögen151 begrenzt152 wird. Jene Feldmesser freilich153 bemerken keine Wölbung der Dreieckseiten, sondern sehen diese für geradlinig an. Sie würden in ihrer unverbesserlich154 planimetrischen Denkweise diese merkwürdige Erscheinung nicht ergründen155 können, sie würden es einfach156 als eine durch Beobachtungen festgestellte157 Tatsache erklären158, daß die Summe der inneren Winkel im Dreieck größer als 180 Grad ist, und zwar159 um so160 mehr, je größer das Dreieck ist.

〔訳〕 aber ところが Auf einer Kugeloberfläche 球の表面においては ein größerer Betrag それより大なる総計が kommt......heraus 出てくる(球の表面においては三つの角の総計は百八十度以上になる)、 weil なぜかと言うに da そこにおいては das Dreieck 三角形は nicht von drei geraden Linien 三つの直線によってではなく sondern して von drei sich aufwölbenden Kreisbögen 三つのふくれ上がった円弧によって begrenzt wird 境界づけられているから(球の表面においては、三角形の三辺は三つの直線ではなくて、三つのもりあがった弧線だから)。 jene Feldmesser 先の測量師たちは freilich もちろん keine Wölbung der Dreieckseiten 三角形の三辺のふくれには bemerken 気がつかない sondern で diese 三辺を für geradlinig 直線的なものと sehen......an 考える。 Sie かれらは in ihrer unverbesserlich planimetrischen Denkweise かれらの度しがたく平面幾何学的な考え方において(平面幾何学的な考え方に慣れきっているので) diese merkwürdige Erscheinung この不思議な現象を nicht ergründen können 究理することができない würden であろう、 die Summe der inneren Winkel im Dreieck 三角形の内角の総和は größer als 180 Grad ist 百八十度より大であり、 und zwar しかも、 das Dreieck 三角形が je größer......ist 大きくなればなるほど、 um so mehr それだけ [総和も]大になる daß という es ことを sie かれらは einfach あっさりと als eine durch Beobachtungen festgestellte Tatsache 観察によって確かめられた事実だと erklären 言明する würden であろう。

〔注〕【150】sich aufwölbend 自分をもりあげるところの。もりあがる、ふくらんだ、凸面の。
【151】Kreisbogen, m. 円弧。 Kreis 「円」、 Bogen 「弓、アーチ弧」。
【152】begrenzen = umreißen 「画する」。
【153】freilich もちろん、なるほど(= zwar)。
【154】unverbesserlich verbessern 「改める、矯正する」より。(度しがたく平面幾何的な、なんと言っても平面幾何的考え方の改まらない)。
【155】ergründen 「究める」 = sich erklären 「解明する」。
【156】einfach かんたんに、あっさりと、わけもなく、たんに。
【157】festgestellt feststellen 「認識する、認める、認知する」。
【158】erklären 説明する、ではなくて、 als、 für とともに用いるときには「言明する、宣言する、……と言いはなつ」。
【159】und zwar 「しかも」(時には「ただし」)。
【160】um so = desto 「ますます」つぎの je と対照する。

[16] Das sind also die Erlebnisse der Bewohner einer zweidimensionalen Kugelflächenwelt. Und eben diese Erlebnisse sind es161, die wir nun in unsere dreidimensionale Welt übertragen müssen, wenn wir uns den kugelartigen Charakter des Weltraums vorstellen wollen. Unser Weltgeschehen spielt sich völlig innerhalb von drei Raumdimensionen ab. Eine Krümmung des Raumes in eine vierte Dimension hinein162 können wir uns deshalb nicht vorstellen. Wir müssen uns vielmehr auf einen Standpunkt stellen,, der der Situation jener Flächenbewohner entspricht: wir müssen uns den kugelartigen Charakter unseres dreidimensionalen Raumes nach den Erlebnissen in unserer dreidimensionalen Welt allein ausmalen163.

〔訳〕 also つまり Das これが die Erlebnisse der Bewohner einer zweidimensionalen Kugelflächenwelt 二次元的球面世界に居住するひとびとの経験 sind なのである。 Und そして eben diese Erlebnisse ほかならぬかかる経験こそ、 wir われわれが nun さていよいよ、 den kugelartigen Charakter des Weltraums 宇宙の球的性格を wenn wir uns......vorstellen wollen 想像しようと思えば、 in unsere dreidimensionale Welt われわれの三次元的世界へ übertragen müssen 移して考えなくてはならぬ die ところの es もの sind なのである。 Unser Weltgeschehen われわれの世界の現象は völlig ぜんぜん innerhalb von drei Raumdimensionen 三次元の空間内で spielt sich......ab 生起する。 deshalb それゆえ wir われわれは Eine Krümmung des Raumes in eine vierte Dimension hinein 空間が第四次元へ曲りこむなどということを können......uns......nicht vorstellen 想像することができない。 vielmehr むしろ Wir われわれは、 der Situation jener Flächenbewohner 先の平面居住者の状況に entspricht (三要形:entsprechen, entsprach, entsprochen)該当する der ような auf einen Standpunkt ひとつの立場へ müssen uns......stellen 我我自身をおかなくてはならない: wir われわれは den kugelartigen Charakter unseres dreidimensionalen Raumes われわれの三次元的空間の球的性格を nach den Erlebnissen in unserer dreidimensionalen Welt allein われわれの三次元的世界における経験のみにしたがって müssen uns......ausmalen 想像するよりしかたがない。

〔注〕【161】sind es, die...... ここの関係を逐語訳の方でよく研究していただきたい。 es を die でうけるはずはないのであるが、「……するのは……である」という場合には、その……によって関係代名詞の性数を決定するのである。
【162】eine Krümmung des Raumes in eine vierte Dimension hinein 直訳すると、「第四次元の中へむかっての、空間の湾入」つまり、空間というものが、元来存在しないはずの第四次元の中へギュッと曲がり込んでいる、という妙な表現であるが、妙であるだけに、言わんとするところがはっきりうかがわれる。 in......hinein 「……の中へむかっての」。
【163】ausmalen 「[心に]描いてみる」。 Sich etwas ausmalen という形で覚えておくこと。

[17] Das ist nun gar nicht so schwierig. Wir denken uns wieder Feldmesser an der Arbeit. Auf drei Berggipfeln sei164 je165 ein Feldmesser mit seinem Winkelmesser aufgestellt. Jeder kann die beiden andern im Fernrohr seines Apparates sehen. Jeder mißt den Dreieckswinkel und notiert ihn in sein Meßbuch. Nachher treffen sie sich im Tal, teilen sich ihre Messungen mit166 und zählen die Winkel zusammen: sie erhalten167 dann einen Betrag, der größer ist als 180 Grad. Ein solches Ergebnis mag168 ja unseren Feldmessern sehr merkwürdig vorkommen.

〔訳〕 nun ところで Das このことは so schwierig それほどむずかしい ist......gar nicht ことでは全然ない。 Wir われわれは wieder もういちど Feldmesser an der Arbeit 測量師が仕事するところを denken uns 想像してみよう。 Auf drei Berggipfeln 三つの山の頂上に je それぞれ ein Feldmesser mit seinem Winkelmesser 一人の測量師が側角器をもって aufgestellt 配置されて sei いると仮定しよう。 Jeder 測量師のひとりひとりは die beiden andern 相棒のふたりを im Fernrohr seines Apparates 測量具の望遠鏡によって kann......sehen 望むことができる。 Jeder 測量師は den Dreieckswinkel [それぞれの]三角形の一角を mißt 測定し und そして ihn その角を in sein Meßbuch 測量手帳へ notiert 記入する。 Nachher あとで sie 三人は im Tal [山をおりて]平地で treffen......sich 集合する、 ihre Messungen かれらの測量の結果を teilen sich......mit 教え合う und そして die Winkel [三つの]角を zählen......zusammen 加算する: dann その時 sie かれらは、 größer ist als 180 Grad 百八十度より大きい der ところの einen Betrag 総計を erhalten 得る。 Ein solches Ergebnis かかる経験は ja あきらかに unseren Feldmessern これらの測量師たちには sehr merkwürdig きわめて不思議なことに mag......vorkommen (三要形: vorkommen, kam vor, vorgekommen)思われるであろう。

〔注〕【164】sei 要求話法。すなわち sei aufgestellt で「配置されてあらんことを」(すなわち「据えつけたものと仮定しよう」)。
【165】je 「おのおの」、「それぞれ」である。(jeder という語はがんらい je der 「各々その」と言ったところからきている)。
【166】mitteilen 「伝える」、「伝達する」、「通知する」。
【167】erhalten = gewinnen
【168】mag muß とおなじで、「……するに相違ない」。

[18] Nun wird freilich nicht behauptet169, daß bei irdischen170 Messungen schon171 derartige Abweichungen172 eintreten173 würden. Anders174 aber liegt es bei astronomischen Messungen. Würden drei Beobachter auf drei verschiedenen Fixsternen aufgestellt und die Winkel des durch sie gebildeten Dreiecks messen, so würden sie beim Zusammenzählen mehr als 180 Grad erhalten. Und weiter175; würde man in diesem Raum immer176 in gerader Linie fortschreiten, mitten durch den Rau177 hindurch, so würde man schließlich von rückwärts an seinen Ausgangspunkt zurückkommen. Auch das wird von der modernen Astronomie behauptet.

〔訳〕 Nun さて freilich もちろん、 bei irdischen Messungen 地球上の測量にあたって schon 早くも derartige Abweichungen かかる偏差が eintreten (三要形:eintreten, trat ein, eingetreten) würden 現われる daß と wird......nicht behauptet 主張するわけではない。 aber しかし bei astronomischen Messungen 天文学上の測定に際しては Anders liegt es 事情がちがってくる。 drei Beobachter 三人の観察者が auf drei verschiedenen Fixsternen 三つの異なった恒星に aufgestellt 配置され und そして die Winkel des durch sie gebildeten Dreiecks その三つの恒星によって形づくられた三つの角を messen 測る Würden ならば、 so そうすれば sie かれらは beim Zusammenzählen 合計の時には mehr als 180 Grad 百八十度以上を würden......erhalten (三要形:erhalten, erhielt, erhalten)得るであろう。 Und weiter それだけではない:[もしも] man われわれが in diesem Raum この空間(宇宙)を immer in gerader Linie どこまでも一直線に mitten durch den Raum hindurch 空間のまっただなかを貫いて würde......fortschreiten 前進しつづけるであろうならば、 so そうすれば man われわれは schließlich ついには von rückwärts 背後から an seinen Ausgangspunkt われわれの出発点へ würde......zurückkommen かえってくるであろう。 Auch das このことをもまた von der modernen Astronomie 現代の天文学によって wird......behaptet 主張されている。

〔注〕【169】wird......behauptet この文の主語はどれか?(「基礎入門編」§86)。
【170】irdisch Erde と関係した形容詞。 irden 「土製の」、 irdisch 「地上の、地球上の」。
【171】schon 「すでに」、「はやくも」(というのは、地球上ではたいした距離ではないから、「まだ」そんな偏差は生じないわけである)。
【172】Abweichung, f. abweichen 「それる、偏する」より。
【173】eintreten = beginnen, entstehen 「生ずる」。
【174】anders この語は so の反対で、換言すれば nicht so である。 es liegt anders (es liegt nicht so) で「這般(しゃはん)の事情はべつである」、「話がすこしちがってくる」、「関係が異る」という熟語。
【175】und weiter 「さらに一歩を進めて言えば」あるいは「しかのみならず」という間投的挿入句。完全に言うとすれば und jetzt gehen wir noch einen Schritt weiter.
【176】immer = immerzu 「どんどんと、どこまでも」。
【177】mitten durch den Raum hindurch mitten は「まただなかを」という副詞。 durch......hindurch は「……を貫いて」。

[19] Nur daß178 wir auf179 einen Magellan180 des Weltraumes nicht hoffen können, denn der Weltraum ist viel zu groß, als181 daß er mit einem auch noch so182 schnellen Fahrzeug durchflogen183 werden könnte. Der Umfang des Weltraumes in Kilometern ausgedrückt, wird nach Einstein mit einer Zahl angegeben, die man mit 26 Stellen184 schreiben muß. Das ist ja wohl ein bißchen185 zu lang für eine Weltreise. Wir können infolgedessen186 mit unseren Fernrohren auch noch nicht um den Raum herumsehen187. Derartige Fernen vermag einstweilen188 auch189 das beste Fernrohr nicht zu durchdringen.

〔訳〕 Nur daß ただし wir われわれは auf einen Magellan des Weltraumes 宇宙のマジェランが[出現することを] nicht hoffen können 期待することはできない、 denn なぜならば der Weltraum 宇宙は、 er (Weltraum) それが mit einem auch noch so schnellen Fahrzeug たとえどれほど速力の早い乗物をもってしても durchflogen (三要形:durchfliegen, durchflog, durchflogen) werden könnte 横断飛行されうる als daß にしては、 viel zu groß あまりにも広大すぎる ist のである[から](なぜならば宇宙はあまりに広大であるから、どんなに速力の早い乗物をもってしても横断しきるということは不可能だからである)。 nach Einstein アインシュタインによれば、 Der Umfang des Weltraumes 宇宙の周囲は、 in Kilometern ausgedrückt キロメートルで表わすと、 man われわれが mit 26 Stellen 二十六桁をもって schreiben muß 書かねばならぬ die ような mit einer Zahl 数をもって wird......angegeben (三要形:angeben, gab an, angegeben)挙げられる(アインシュタインの説では、宇宙の周囲は、キロメートルで表わすと、二十六桁ぐらいの数になる)。 Das これ(この数)は für eine Weltreise 世界旅行をするにしては ja wohl あきらかに ist......ein bißchen zu lang すこしばかり遠すぎる。 infolgedessen それゆえ Wir われわれは auch また mit unseren Fernrohren 望遠鏡をもって noch nicht まだ können......um den Raum herumsehen 宇宙をぐるりとひとめぐり眺めとおすことはでき[ない]。 auch das beste Fernrohr 最上の望遠鏡ですらも einstweilen 当分は Derartige Fernen かかる距離を vermag......nicht zu durchdringen (三要形:durchdringen, durchdrang, durchdrungen)貫通する(眺めとおす)ことはできない。

〔注〕【178】nur daß...... は、「ただし」という形式と思ってよろしい。ただし、そのつぎはもちろん定形後置の従属文になる。
【179】auf これは auf......hoffen 「……を期待して待つ、……の到来を待つ」の auf。
【180】Magellan 世界一周をした人物。 einen Magellan des Weltraumes というのは、史実の Magellan を ein Magellan des Weltmeeres と考えて、それと一幅対をなす第二の「宇宙旅行のマジェラン」と言ったわけ。
viel zu......, als daß...... について【181】「……するにしては、あまりにも……」という形式である。 viel は単に zu を強めるための副詞。「あまりにも」と対応する後の部分は、 zu を伴う不定句でもよく、 als daß でもよい。 als daß の際は、このテキストの場合のごとく接続法第二式(könnte!)を定形にすることが多い。「私はだまされるにしてはあまりにも頭がよすぎます」: Ich bin viel zu schlau, um mich betrügen zu lassen. あるいは als daß ich mich betrügen ließe.
【182】auch noch so 「たとえいかに」という副詞句。
【183】durchflogen 文字通りには「飛び貫く」、「飛び横ぎる」。 fliegen 「飛ぶ」の三要形: fliegen, flog, geflogen.
【184】Stelle は、数学の方では「桁」の意に用いる。 zweistellig 「二桁の」など。
【185】ein bißchen = ein wenig, etwas 「少々」。
【186】infolgedessen 「それゆえ」: in Folge dessen (それの・結果・として)。
【187】um den Raum herumsehen 前注134。
【188】einstweilen 当分の間は、ここしばらくは。
【189】auch = selbst, sogar 「……といえども」。

[20] Was wir hier geschildert haben, mag befremdend klingen — aber unvorstellbar ist es gewiß nicht. Die Behauptung Einsteins, daß der Weltraum endlich sei, läßt190 sich in eine Anzahl durchaus191 vorstellbarer Einzelheiten192 auflösen. Dieser Weltraum ist endlich, denn man kann sich in ihm nicht beliebig weit vom Ausgangspunkt entfernen; vielmehr wird die Entfernung beim Fortschreiten in gerader Linie nur anfänglich größer, während193 sie nach Erreichung eines größten Wertes wieder abnimmt194. Trotzdem ist diese Welt unbegrenzt, denn nirgends stößt man an195 eine Grenze.

〔訳〕 wir われわれ(筆者)が hier ここで geschildert haben 述べた Was ことは、 mag befremdend klingen (三要形:klingen, klang, geklungen)奇異にひびくかもしれない―― aber しかし es それは unvorstellbar 考えられないことでは ist......gewiß nicht けっしてない。 der Weltraum 宇宙は endlich 有限 sei である daß という Die Behauptung Einsteins アインシュタインの主張は、 in eine Anzahl durchaus vorstellbarer Einzelheiten じゅうぶん想像することのできるいくつかの個別的な事実に läßt sich......auflösen 分解することができる。 Dieser Weltraum この宇宙は endlich 有限 ist である、 denn なぜならば man ひとは in ihm この宇宙のなかで beliebig weit 任意の遠方へは kann sich nicht......vom Ausgangspunkt entfernen 出発点から離れることができ[ない]からである; vielmehr むしろ beim Fortschreiten in gerader Linie 直線に前進していると nur anfänglich ただはじめのあいだだけ die Entfernung 距離が wird......größten Wertes ある最大値に達した後では sie 距離は wieder 逆に abnimmt (三要形:abnehmen, nahm ab, abgenommen)減少してくるのである。 Trotzdem それにもかかわらず diese Welt この世界は unbegrenzt 無限界 ist である、 denn けだし nirgends いずこにおいても man われわれは stößt......an eine Grenze 限界につきあたらないからである。

〔注〕【190】läßt sich......auflösen = kann man auflösen
【191】durchaus 「じゅうぶん……できる」とか、「結構……できる」とか言う場合の「じゅうぶん」、「結構」にあたる語。
【192】Einzelheiten = 英 details
【193】während コントラストをだすための接続詞、英 whereas.
【194】abnimmt abnehmen 「減る」、 zunehmen 「増す」。
【195】auf (または anetwas stoßen 「あるものにぶつかる、つきあたる」、 stoßen の三要形:stoßen, stieß, gestoßen.

[21] Unter196 Grenze des Weltraums versteht man eine Fläche, von der wir sagen müßten, daß die Punkte auf der einen Seite derselben197 zur wirklich existierenden Welt gehören, während die Punkte auf der anderen Seite nicht. Aber der wirkliche Raum besitzt solche Begrenzung nirgends. Vielmehr gehören, wo man auch steht, alle umgebenden Punkte mit198 zum Raum. Es ist damit199 gerade so, wie wir es eingangs schon von der Erdoberfläche gesagt haben. Wo man auch steht, man sieht seine Umgebung stets als ebenes Flächenstück200; und doch schließen sich diese scheinbar201 ebenen Flächenstücke nicht zu202 einer großen ebenen Platte, sondern zu einer großen Kugelfläche zusammen.

〔訳〕 Unter Grenze des Weltraumes 宇宙の限界[という言葉]のもとに、 wir われわれは eine Fläche [つぎのような]平面を versteht (三要形:verstehen, verstand, verstanden)理解する(われわれが「宇宙の限界」と言う時、それはつぎのような平面のことを言うのである)、 vor der (= Fläche) その平面について wir われわれは sagen müßten [つぎのように]言わなくてはならない(その平面はつぎのような性格をもっている)、 daß すなわち die Punkte auf der einen Seite derselben この平面の一方の側における点は zur wirklich existierenden Welt 実際に存在する世界に gehören 属する、 während ところが die Punkte auf der anderen Seite 他の側における点は nicht [実際に存在する世界に属]さない(と、言わざるをえない)。 Aber しかし der wirkliche Raum 実存する空間は nirgends どこにも solche Begrenzung かかる限界を besitzt もって[いない]。 Vielmehr むしろ、 wo man auch steht われわれがどこに立とうと、 alle umgebenden Punkte あらゆる周囲の点は mit ともに zum Raum この空間に gehören 属する(やはりこの空間の一部である)。 damit この空間はと言えば、 wir われわれが eingangs [本文の]冒頭において schon すでに von der Erdoberfläche 地球の表面について es......gesagt haben 述べた wie と gerade so ちょうどおなじような Es ist 関係にある。 Wo man auch steht どこに立って(眺めて)も、 man 人は seine Umgebung 自分の周囲を stets つねに als ebenes Flächenstück 平らな面の一部として sieht 見る; und doch にもかかわらず diese scheinbar ebenen Flächenstücke この一見平らな面の諸断片は schließen sich......zusammen (三要形:zusammenschließen, schloß zusammen, zusammengeschlossen)集合して nicht zu einer großen ebenen Platte ひとつの大きな平らな板にならない sondern で、 zu einer großen Kugelfläche ひとつの大きな球面に[なる]。

〔注〕【196】unter 「AをBと解する」ということを Man versteht B unter A. と言う。
【197】derselben = der Fläche 「平面の」と言うかわりに用いた指示代名詞。
mit は副詞の場合がある【198】mit この mit はふつうの前置詞の mit ではない。これは副詞で、「ともに」、「また」、「も」である。 mit gehören 「いっしょに属する、これまた属する」と考えればわかるだろう。たとえば「わたしもそばで見ていました」は Auch ich sah es an. よりは Ich sah es mit an. と言った方がよい。「われまた罪あり」は Auch ich bin schuld daran. あるいはもっとふつうには Ich bin mit schuld daran. だから共犯者(Komplice)はドイツ語では Auchschuldiger ではなく Mitschuldiger である。 Mitmensch 「同胞」といえば、「これまた人間」の意で、「同胞市民」もドイツ語では「これまた市民」(Mitbürger)と言う。
Es ist mit......so und so. 這般の関係はしかじかである【199】Es ist damit geradeso, wie...... これはよく出てくるひとつの形式で、この mit という前置詞のつぎにくる名詞が、いわば意味上の主語であると思ってもよい。すなわち「いったいAという奴は……である」とか、「そもAの者たる、……に似たるあり」とか、そういう比喩の際に Es ist mit A...... という形式を用いるのである:たいていは Es ist mit A wie mit B. 「いったいAという奴は、まるでBみたいなところがある」(英 It is with A as with B.)というふうにふたつならべて用いる。たとえば「そも人の一生たる、あたかも期日未定の死刑の宣告に似たるあり」なら Es ist mit unserem Dasein wie mit einem Todesurteil mit unbestimmter Frist. ――「結婚というものは富くじを引くようなものだ」(当たりくじはまあ……ない!) Es ist mit dem Heiraten wie mit der Lotterie.
【200】Flächenstück Stück とは Teil 「一部分」の意。
【201】scheinbar 一見したところ、見かけは。
結果を示す zu と in【202】schließen sich zu......zusammen 「……に結集する」というのは「結集して……になる」ということである。英語ならたいてい into というところを、ドイツ語では to (zu) か in (in) かのどちらかひとつを用いる。「木を焼いて炭にする」は Holz zur Kohle verbrennen. 「炭をすりつぶして粉末にする」は Kohle zu Pulver zerreiben. 「塩素とナトリウムが化合して食塩になる」なら Chlor und Natrium verbindet sich zu Kochsalz. 「草花をたばねて花束にする」なら Blumen zu einem Strauß verbinden. など。またある場合は in と四格を用いる。「不用の家具類を金に替える」は entbehrliche Hausmobilien in Geld umsetzen. 「月給は持ちかえる途中で消えてしまう」は Das Monatsgehalt zerfließt auf dem Nachhauseweg ins Nichts. 「問題をこじつけてしゃれにしてしまう」は die Sache in einen Scherz drehen. など。

[22] So203 besteht204 der Raum auch aus lauter205 Einzelstücken von ganz normalem Charakter, die sich nach allen Richtungen stetig206 in den übrigen Raum verlängern, und der Beobachter entdeckt deshalb an keiner Stelle eine207 Grenze des Raumes. Und noch schließen sich alle diese Raumstücke nicht zu einem unendlich großen, sondern nur zu einem endlichen Raume zusammen. Man könnte den Weltraum etwa208 mit Kugeln, sagen wir209 von210 der Größe der Erdkugel, ausstopfen. Würde der Beobachter zwischen den Löchern, die die Kugeln zwischen sich lassen, herumklettern, so würde er feststellen, daß jede Kugel an allen ihren Seiten von anstoßenden211 Kugeln berührt wird.

〔訳〕 So それと同じように der Raum この空間 auch もまた aus lauter Einzelstücken von ganz normalem Charakter まったく通常の性格をもった個々の断片ばかりから besteht 成りたっている、 die この個々の断片は nach allen Richtungen あらゆる方向に向かって stetig しだいに in den übrigen Raum 残りの空間の中へ sich......verlängern 延長されて行く、 und......deshalb それゆえにまた der Beobachter 観測者は an keiner Stelle いかなる場所においても eine Grenze des Raumes 空間の限界などというものを entdeckt 発見[しない]。 Und doch にもかかわらず alle diese Raumstücke これらすべての空間の断片は schließen sich......zusammen 結合して nicht zu einem unendlich großen [Raume] ひとつの無限に大きい空間にならない sondern で nur ただたんに zu einem endlichen Raume ひとつの有限な空間に[なるにすぎない]。 Man われわれは etwa なんなら(要すれば) den Weltraum 宇宙を mit Kugeln 球をもって、 sagen wir たとえば von der Größe der Erdkugel 地球の大きさの[球をもって] könnte......ausstopfen 塡充することができるであろう。 der Beobachter 観測者が、 die Kugeln 球が zwischen sich 自分の間に lassen 残しておく die ところの zwischen den Löchern 空隙の間を(観測者が球と球との間にできる空隙の間を)、 Würde......herumklettern あちこち攀ぢ回るとしたら、 so そうすれば er 観測者は、 jede Kugel どの球も an allen ihren Seiten そのあらゆる側面において von anstoßenden Kugeln 隣接せる球によって berührt wird 触れられる(隣接せる球と接触している) daß ことを würde......feststellen 認めるであろう。

〔注〕【203】So 「かくのごとく」。
【204】besteht aus...... 「……から成っている」、「から構成されている」。
【205】lauter これは laut という形容詞ではなく、もとから lauter で、無語尾のまま用い、ほんとうは副詞(nur とほとんど同意)なのである、ただかならず名詞の前におかれるから、ちょっと形容詞のような感じをあたえる。(おなじものに eitel がある)Sie sehen hier lauter Freunde. 「ここにごらんになるのはみんな味方ばかりです」、 Er lebt unter eitel Büchern. 「あいつはまるで本ばかりの中にうずまって暮している」。
【206】stetig 「だんだんと」、「いつのまにか」(たとえば、爪先上りに、いつのまにか山頂に達している路ならば Es geht stetig bergauf. と言うなど)。
【207】eine たびたび言うとおり、境界「などというものは」だから不定冠詞。
「なんなら」という etwa【208】etwa 「なんなら」こうしてもよかろう、などと言う際の「なんなら」である。「なんなら巡査にでもなろうかなあ」 Werde ich etwa Polizist? 「なんなら僕のところで泊りたまえよ」 Sie könnten etwa bei mir übernachten. ――また vielleicht も用いる: Vielleicht könnten Sie bei mir übernachten? ――断わっておくが etwa は、 etwas とはぜんぜん別物である。
sagen wir そうですねえ、まあ……;たとえば……【209】sagen wir これは文章ではなく、 etwa とよく似た間投的挿入句である(英語ではたんに say と言う)。いったい数というものは、一例として言う場合には4でも5でも100でも75でも何でもいいようなものだが、あんまり自由すぎてちょっとためらうものだが、そういう時に思いきってこの sagen wir 「なんならこうとでもしておきましょうか」を前置きにして任意の数を出すのである。たとえば、友禅の着物を、昔の話だが定価150円也という正札をつけて飾窓に出したら、ちっとも売れなかった。それは安すぎたからである。そういうばかな、婦人の心理を知らない商人には、こう言って教えてやるとよい: Nehmen Sie doch den Preis höher, sagen wir......zu 500, oder besser 5000 Yen! 「もっと高くしたらどうです、そうですねえ、まあ五百円とか、あるいは五千円の方がよいかも知れないが」商人は思いきって五万円とつけた、そしたらあくる日売れたという話。
【210】von この von は「……という性質をもった」の意。
【211】anstoßend 「隣接の」 benachbart ではたんに「近所の」になって、すぐ接している意味にならない。

[23] Da gibt es keine einzige Kugel, die an einem Rande läge212. Würde er aber auf jede Kugel eine Ziffer213 schreiben, so würde er schließlich finden, daß die Kugeln eine feste214 Zahl haben. Das heißt, schließlich hat jede Kugel eine Nummer, ist überall von numerierten Kugeln umgeben, und eine Kugel hat215 die größte Nummer erhalten. Auch hier ist wieder216 jedes Einzelgebiet von ganz normalem Charakter, nur der Zusammenschluß zu einem endlichen Ganzen ist überraschend.

〔訳〕 Da そこには、 an einem Rande 絶端に läge 位置するといった die ような keine einzige Kugel ただひとつの球も gibt es 存在[しない]。 aber しかし er 観測者が auf jede Kugel おのおのの球に eine Ziffer ひとつの数字(番号)を Würde......schreiben 書きつけていくならば、 so そうすれば er 彼は schließlich ついには、 die Kugeln 球が eine feste Zahl 一定の数を haben もっている daß ことを würde......finden 発見するであろう。 Das heißt 換言すれば、 schließlich 結局は jede Kugel おのおのの球は eine Nummer [それぞれ]ひとつの番号を hat もち、 überall いたるところで von numerierten Kugeln 番号のついた球によって ist......umgeben (三要形:umgeben, umgab, umgeben)とりまかれている、 und そして eine Kugel そのうちのひとつの球は die größte Nummer (ついに)最高の番号を hat......erhalten 得た(というわけである!) Auch hier この場合においても wieder 先の場合とおなじく jedes Einzelgebiet おのおのの個々の領域(球)は ist......von ganz normalem Charakter まったく通常の性格のものである、 nur der Zusammenschluß zu einem endlichen Ganzen ただ有限なるひとつの全体への結合(結合してひとつの有限な全体になること)が überraschend 意外に思われる ist のにすぎない。

〔注〕否定的基礎の上に立つ虚構の文の定形は第二式接続法【212】läge liegen 「位置する」の三要形は liegen, lag, gelegen で、その第二式接続法が läge. ――「……するといったような(そんなものはない)というふうに、否定されるべきはずの虚構的な文には、第二式接続法を用いる。「彼女がいちど恋人としてもたなかったような男は世の中にひとりもいない」は Es gibt keinen Mann in der Welt, den sie nicht einmal zum Liebhaber gehabt hätte. ――「ばかをなおす薬なんてものはない」は Es gibt kein Mittel, womit man Dummköpfe heilen könnte.
【213】Ziffer つぎの単語を区別しておぼえること: Zahl, f. 「数」、 Wert, m. 「数値」、 Größe, f. 「数値」、 Ziffer, f. 「数字」、 Nummer, f. 「番号」。
【214】fest = bestimmt 「一定の」。
【215】hat この現在完了は、「……してしまう」すなわち「最後には……するにいたる」という意で用いてある。
【216】wieder またもや。(wiederum とも言う)。

[24] Der mathematische Philosoph vermag heute diese Zusammenhänge noch viel genauer auszumalen, als wir es in dieser kurzen Skizze können. Ich glaube daher nicht, daß man heute noch ernstlich von217 einer Unvorstellbarkeit der Einsteinschen Lehre reden darf. Vielmehr scheint mir die gegenwärtige Situation nicht viel anders218 zu sein, als die Situation zu Kolumbus' Zeiten219. Es220 wird lediglich221 einige Zeit der Gewöhnung verstreichen müssen, bis man die neue Weltraumlehre als eine vertraute222 Vorstellung empfindet. Indessen schreitet die Wissenschaft schon wieder fort.

〔訳〕 Der mathematische Philosoph 数理哲学者は heute 今日では diese Zusammenhänge こうした関係を、 wir われわれが in dieser kurzen Skizze この短い概説において es......können なしうる als よりも noch viel genauer はるかに正確に vermag......auszumalen 描写(説明)することができる。 daher それゆえに Ich 私は、 heute noch 今日なお ernstlich 大まじめに von einer Unvorstellbarkeit der Einsteinschen Lehre アインシュタインの学説は考え得られないものだなどと man......reden darf 言ってよろしい daß とは glaube......nicht 思わない。 Vielmehr むしろ mir 私には die gegenwärtige Situation 現在の状況は als die Situation zu Kolumbus' Zeiten コロンブスの時代における情況とくらべて nicht viel anders さして変わらない zu sein ものである scheint ように思われる。 die neue Weltraumlehre この新しい宇宙論が als eine vertraute Vorstellung 周知の考え方として man......empfindet (三要形: empfinden, empfand, empfunden)われわれが感ずる bis までには、 lediglich たんに einige Zeit der Gewöhnung 慣れしたしむためのすこしの時間が Es wird......verstreichen (三要形: verstreichen, verstrich, verstrichen)müssen 経過する必要があるであろう。 Indessen その間に die Wissenschaft 科学は schon wieder またもや schreitet......fort 進歩しつつある。

〔注〕von......reden の意味【217】von......reden は、べつに「……について話す」というのではなく、「……なんてことを言う」という意である。たとえば、「死ぬなんてことを言う奴にかぎって死んだためしがない」は Wer vom Sterben redet, denkt am wenigsten daran. von einer Unvorstellbarkeit der Einsteinschen Lehre 「アインシュタイン説の想像不可能性」と言うと、えらいやかましく聞こえるが、じつは「アインシュタインの説はちょっとピンとこない、なんてことを」ということにすぎない。どうです、ドイツ語における普遍的一切合財名詞化の生硬性がわかりますか?
【218】nicht viel anders zu sein ちょうど「たいして変わらない」にあたる。
【219】Kolumbus' Zeiten 二格の s をつけようと思っても、尻に s があるためにつけられない時には、固有名詞ならば ' を打っておく。ただし des をつけると ' は不用: Das Ei des Kolumbus 「コロンブスの卵」など。
【220】Es は非人称主語、文の非人称化、意味上の主語はつぎの einige Zeit.
【221】lediglich nur とおなじ。
【222】vertraut 「親しい・心安い・慣れっこになった」。

[25] Gerade in den letzten Jahren sind gewisse Erkenntnisse der Astronomie zutage getreten223, welche die Einsteinsche Lehre noch etwas verwickelter erscheinen lassen224. Danach ist der Raum zwar endlich, aber in wachsender Ausdehnung begriffen225; wir haben uns als Vergleich also einen Gummiball zu denken, der aufgeblasen wird und dessen Oberfläche sich daher ständig ausdehnt. Natürlich handelt226 es sich bei dieser sich ausdehnenden Oberfläche um ein zweidimensionales Analogon227 des in Wirklichkeit dreidimensionalen Weltraums.

〔訳〕 Gerade in den letzten Jahren ちょうどこの最近の數年間に、 die Einsteinsche Lehre アインシュタインの学説を noch etwas verwickelter さらにすこしく複雑に erscheinen lassen 見えさせる welche ような gewisse Erkenntnisse der Astronomie ある種の天文学上の知識が sind......zutage getreten あきらかにされた。 Danach それによると der Raum 宇宙は zwar なるほど endlich 有限 ist ではある、 aber が [ist]......in wachsender Ausdehnung begriffen (三要形: begreifen, begriff, begriffen)たえず拡大しつつある; also ゆえに wir われわれは als Vergleich 比喩として、[息を吹きこんで] aufgeblasen (三要形: aufblasen, blies auf, aufgeblasen) wird ふくらませられ und......daher したがって dessen Oberfläche その表面が ständig たえず sich......ausdehnt 拡がっていく der ところの einen Gummiball ひとつのゴムマリを haben uns......zu denken 想像してみる必要がある。 Natürlich 言うまでもなく bei dieser sich ausdehnenden Oberfläche このたえず拡がりつつある表面というのは ein zweidimensionales Analogon des in Wirklichkeit dreidimensionalen Weltraums じつは三次元的な宇宙の二次元的類似物 handelt es sich um なのである。

〔注〕【223】zutage treten 現われる、(発表されること)。
【224】erscheinen lassen 「見えさせる・思わせる」
【225】in......begriffen sein 「……しつつある」。「すべては流る」 Alles fließt. または Alles ist im Fluß begriffen.
【226】es handelt sich bei A um B 「AというのはじつはBである」という成句。
【227】Analogon 「類似物、平行物、比較物」。たとえば、ギリシァ神話の、神の山オリンポス(Olymp)の Analogon をこの国に求めるならば、それは高天原である、など。つまり、似ているだけではいけないので、似ていても違っていてもいいから、とにかくおなじような関係にあるものを Analogon と言うのである。

[26] Daß das nun freilich228 die letzte Stufe unseres Wissens vom Weltraum sei, das wollen wir gewiß nicht behaupten. Im Gegenteil229, wenn der Volksschüler des Jahres 2000 das Bild230 des Einsteinschen Weltraums in sich aufgenommen231 hat, so wird vermutlich die Wissenschaft schon wieder ein Stück weiter sein und Dinge behaupten, die auch dem Publikum jener vorgerückten Zeit recht unverständlich erscheinen würden. Aber das ist nun einmal232 der Lauf der Welt233; und vielleicht ist gerade das234 so interessant an235 dieser Welt, daß unser Wissen von ihr ebenso wächst, wie der Raum, der uns umfaßt.

〔訳〕 nun さて freilich いうまでもなく das これが die letzte Stufe unseres Wissens vom Weltraum 宇宙に関するわれわれの知識の最後の段階 sei である(宇宙に関するわれわれの知識がこれで終わった) Daß など das そんなことは wir われわれは wollen......behaupten 主張しようとするものでは gewiß nicht 決してない。 Im Gegenteil, それどころか、 der Volksschüler des Jahres 2000 紀元二千年ごろの小学生が das Bild des Einsteinschen Weltraums アインシュタインの宇宙像を in sich aufgenommen (三要形: aufnehmen, nahm auf, aufgenommen) hat 頭にいれてしまった wenn ならば、 so その時には vermutlich おそらく die Wissenschaft 科学は schon wieder またもや ein Stück weiter ひと駒先に進んで sein おり und そして、 auch dem Publikum jener vorgerückten Zeit その進歩した時代のひとびとにも recht unverständlich まったく不可解に erscheinen würden 思われるであろう die ような Dinge ことがらを behaupten 主張する wird であろう。 Aber しかし das これが der Lauf der Welt 世のつね ist であって nun einmal しかたがない; und そして vielleicht おそらくは、 unser Wissen von ihr (Welt) この世界に関するわれわれの知識が uns umfaßt われわれをとりまく der ところの wie der Raum 空間と ebenso 同様に wächst (三要形: wachsen, wuchs, gewachsen)成長していく daß という gerade das まさにこの点が an dieser Welt この世界の so interessant きわめておもしろいところ ist なのであろう。

〔注〕【228】nun freilich 「さてもちろん」これはほんとうは daß...... のなかにはいるべきではなく、 daß のほかに、文の劈頭におくべきものであるが、 aber などを数語あとへずらせて文内にいれるとおなじようにこうして立入り禁止のところへまでも乗りこむ特権がすべての副詞類接続詞(jedoch, daher, indessen, nun など)にあることをあらためて認識していただきた。
【229】im Gegenteil (英 on the contrary)。「むしろその逆である」、「それどころか」、「それどころではなく」。
【230】Bild 元来「図」、「絵」であるが、「全貌」、「相貌」時には「概略」の意にすら用いられ、学術用語では「像」と言っている(Weltbild 世界像、など)。
【231】in sich aufnehmen おのが頭脳のなかへ「とりいれる」こと。もちろんけっきょく「こなす」ことである。
【232】nun einmal 「なんと言っても」、「なんせ」、「もともと」、「どうせ」――「あいつはもとっからああなんですよ」 (Er ist nun einmal so.)、「僕はどうせものわかりが悪い方なんで」 (Ich bin nun einmal schwer von Begriff)。
【233】der Lauf der Welt 「世の歩み」、すなわち「世の実情」。 Das ist der Lauf der Welt. 「それが世のつねである、世の中はそうしたもの」はふつうよく使うおざなり文句である(英:So the world wags.)
【234】gerade das = eben das, das eben. 「この点がつまり」、「この点こそ」、「ここがつまり」。
【235】an dieser Welt その具有する性質を批評するときにはたいてい an を用いる: An ihm gefällt mir manches. 「あいつにはいろいろと気にいった点がある」。

Sunday, September 11, 2022

英語読解のヒント(25)

25. 同格 (5)

基本表現と解説
  • He rashly ventured to swim across the turbulent river, an act which cost him his life. 「彼は無謀にも濁流を泳いで渡ろうとしたが、それがために命を失った」

名詞が文、または文中に含まれた名詞と同格のケース。

例文1

I have not the firm soul of the critic. It is not my profession to know things for certain, and to make others feel that certainty. On the contrary, I am often wronga luxury no critic can afford.

John Galsworthy, "Vague Thoughts on Art"

わたしは批評家のような揺るがない心など持っていない。明確に事実を知り、その明確さを他人に感じさせることはわたしの仕事ではない。わたしはよく間違うけれども、これは批評家にはとうてい許されない贅沢である。

例文2

He was a slender man, with white, fragile hands, and eyes that glanced half a dozen different ways at oncea habit probably acquired from watching the boys.

Thomas Bailey Aldrich, The Story of a Bad Boy

彼はほっそりした男で、白い華奢な手をしていた。その目はいちどきに四方八方を見わたした。たぶん子供らに注意の目をむけることから来た癖なのだろう。

例文3

There sat the beautiful girl with Tota on her knees. She was lulling her to sleep, and held up her finger to me enjoining silence. At last the child went off into a sound natural slumberan example that I should have been glad to follow had it not been for my burning curiosity.

H. Rider Haggard, Allan's Wife

そこにはトータを膝の上に載せた、あの美しい女がすわっていた。彼女はトータをあやして寝かしつけている最中で、静かにするようわたしにむかって指をあげた。ようやく子供はぐっすり眠った。わたしも聞きたくてたまらないことがなければ赤ん坊にならってぐっすり眠りたいところだった。

Friday, September 9, 2022

エリザベス女王

前にも書いたけれど、わたしが英語に興味を持ったのはエリザベス女王のクリスマス・メッセージを聞いたからである。英語に興味を持ったばかりではない。わたしはその瞬間彼女の臣民になったのだ。たまたまラジオから流れてきた女王の凛とした、甲高い声に、わたしは恍惚となった。再放送の際にそれを録音したわたしはほとんど毎晩その音声を聞きながら寝た。そして日本人であるという事実はわたしにとって secondary matter つまり二次的なことになったのである。 ルイ・アルチュセールがイデオロギーの「呼びかけ」という理論を組み立て、絶大な影響力を持っているが、この「呼びかけ」はわたしにとって抽象的な観念ではなく、具体的な生々しい事実としてある。国歌が奏され、女王が典雅なブリティッシュ・アクセントでお話になり、最後に I wish you all a very happy Christmas. とおっしゃると、たまらなくうれしくなり、またイギリスを遠く離れた場所にいる自分がさびしくも思われたものである。わたしは歌手とかアイドルとかスターにいれあげることは一度もなかったが、そのすべての情熱をエリザベス女王に捧げたようなものだ。 エリザベス女王の訃報に接し、わたしは心から哀悼の意を表したいと思う。そしてエリザベス女王に関連した翻訳の仕事ができないか、考えようと思っている。

Thursday, September 8, 2022

英語読解のヒント(24)

24. 同格 (4)

基本表現と解説
  • The doctor has just told me, what I always feared, that hers is an incurable disease. 「医者がいまさっき言ったことは、わたしがいつも怖れていたこと、つまり彼女の病が不治の病であるということだった」

名詞節が、名詞または名詞句と同格になるケースを示す。

例文1

Scott felt, what every sensitive nature must feel, that poverty is a much lighter burden to bear than debt.

Samuel Smiles, Thrift

スコットは繊細な人間ならだれもが感じることを感じた。つまり、貧乏は借金よりもはるかに負担にならないということだ。

例文2

We observed also, what I have often proved since, that the nature of a horse can be told by his colour, from the coquettish light bay, full of fancies and nerves, to the hardy chestnut, and from the docile roan to the pig-headed rusty-black.

Arthur Conan Doyle, The Exploits of Brigadier Gerard

われわれはこんなことにも気がついた。それは以後の経験もしばしば正しさを証明したこと、つまり移り気で神経質な、なよなよした薄鹿毛色の馬から、たくましい栗毛の馬に至るまで、また、大人しい糟毛の馬から愚かしいほど言うことをきかない赤黒の馬に至るまで、馬の性格は色でわかるということだ。

例文3

Onward he came, sticking up in his saddle with rigid perpendicularity, a tall, thin figure in rusty black, whom the showman and the conjurer shortly recognized to be, what his aspect sufficiently indicated, a travelling preacher of great fame among the Methodists.

Nathaniel Hawthorne, "The Seven Vagabonds"

彼は羊羹色の衣をまとい、長身痩躯の身体を鞍の上にまっすぐ立ててやってきた。見世物師と手品師はすぐにこの男こそは、その風采にもそれと知られる人物、メソジストのあいだで大いに名をはせていてる巡回説教師であると見て取った。

Monday, September 5, 2022

英語読解のヒント(23)

23. 同格 (3)

基本表現と解説
  • The rumour that our steamship Sakata-maru was sunk proved only too true. 「汽船坂田丸撃沈の報は不幸にして事実だった」

名詞句が、名詞または代名詞と同格のケースを示す。

例文1

His wife turned towards him with looks of love in her joyous blue eyes; and in the serene expression of her face he read the Divine beatitude, "Blessed are the pure in heart."

Henry Wadsworth Longfellow, Kavanagh

彼の妻は喜びにみちた青い目に愛する気持ちをあらわして彼のほうを振り返った。彼女のおだやかな顔色のうちに、彼は「心の清き者は幸いなり」という尊いしあわせを読み取った。

Blessed are the pure in heart は「マタイ伝」に出て来る言葉。

例文2

All intellectual lives, however much they may differ in the variety of their purposes, have at least this purpose in common, that they are mainly devoted to self-education of one kind or another.

Philip Gilbert Hamerton, The Intellectual Life

すべての知的生活は、どれほど目的が異なろうとも、すくなくとも次の目的においては共通している。すなわち、なんらかの形の自己修養がその主眼になっているという点だ。

例文3

"But it went as far as this: that I actually found myself prowling past the shop at night under a sort of desperate necessity to be near some place where she had been. A hideous temptation to kiss the doorstep because her foot had pressed it made me realize how mad I was."

Bernard Shaw, Getting Married

ところがぼくは、どうしても彼女がいた場所の近くにいたくて、いたくて、たまらない気持ちになってね、夜中にその店の前をうろうろしさえしたんだよ。彼女の足がふみつけたという理由から、戸口の踏み段にキスをしたいという、とんでもない誘惑を感じたときは、自分がどれほど狂っているか、自覚させられたよ。

Friday, September 2, 2022

英語読解のヒント(22)

22. 同格 (2)

基本表現と解説
  • Certainly this was the beautiful trait of his, to do his work well. 「よい仕事をするというところが彼の美点である」

ここでは名詞句が、名詞または代名詞と同格であるケースを示す。

例文1

Oh let us still the secret joy partake,
To follow virtue even for virtue's sake.

Alexander Pope, "The Temple of Fame"

徳のために徳を求めるという
この隠れた楽しみを味わわしめよ

例文2

Yes, this is the central passion of all men of true ability, to do their work well; their happiness lies in that, and not in the amount of their profits, or even in their reputation.

Philip Gilbert Hamerton, The Intellectual Life

そう、真の能力を持つすべての人の情熱の中心にあるもの、それはよい仕事をすることなのだ。彼らの幸せとはそれであり、儲けの額ではない。名声ですらない。

例文3

If there is one lesson which experience teaches, surely it is this, to make plans that are strictly limited, and to arrange our work in a practicable way within the limits that we must accept.

Philip Gilbert Hamerton, The Intellectual Life

もし経験がわれわれに与える教訓が一つあるとするなら、それは間違いなくこれである。すなわち、範囲を厳密に制限した計画を立てること、そして受け入れざるを得ないこの制限内で実行可能な仕事の手立てを考えること。

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...