Sunday, January 29, 2023

オクタヴス・ロイ・コーエン「失われた女」

これはコーエンの作品の中でもかなり上等の部類に属するだろう。力のこもったいい作品である。


ダニー・ハリディという三十代後半の警官が夜のパトロールを終え、警察署で仲間とたむろしていると、二人の市民が行衛不明届けを出しにやってくる。一人はハンサムで、りゅうとした身なりの男、もう一人は二十くらいの美少女である。男の話によると彼の妻が昨日の晩から行衛不明になっているらしい。一緒に連れている美少女は歳の離れた妻の妹だった。彼らはハリウッドの豪華な屋敷に一緒に暮らしているのだ。

この美少女アイリスが物珍しそうに警察署内をきょろきょろと見ているので、行衛不明届けが受理されるあいだ、ダニーが彼女に署内の案内をしてやる。ところがとある部屋に入った途端、アイリスはダニーにこっそりと打ち明けるのだ。「わたしの姉は殺されたのよ。彼女の夫に」

なんと次の日の晩、行衛不明になっていた女はモーテルの一室で殺害されて発見された。車の中で銃で撃たれ、その後モーテルの部屋に引きずり込まれたようだ。

なぜアイリスは姉の殺害を知っていたのか。殺したのは本当に夫なのか。さらに事件は連続殺人へと発展していく。

コーエンは日本では無名だけれども圧倒的に面白い作家である。黒人社会を描いた作品のあるものはステレオタイプにあふれすぎていて評判がよくないが、ミステリはどれを読んでも夢中になる。しかも彼のミステリはどこか変なのだ。本作も変なところがあり、そこが圧倒的にわたしの興味を惹いた。

ミステリは物語を批判する物語だ。名探偵にはたいてい彼を引き立てるやや愚鈍な相方がいる。事件を調査して愚鈍な相方はある物語(A)を考え出すが、名探偵は最後にその物語をくつがえす物語(B)を提示する。この物語の位相転換がミステリの醍醐味である。

位相転換を行うには探偵は物語(A)の外部に立っていなければならない。物語内部に呑み込まれている存在には、その物語を位相転換することはできない。1920年代のミステリを読んでいてよくあるのは、事件が起きて探偵がその解決に乗り出すのだが、探偵が事件の渦中の男や女と恋に陥ってしまうと言う設定である。探偵が事件と距離を置けなくなった途端に、物語はミステリからメロドラマに変わってしまう。探偵が物語の内部に足を踏み入れると、位相転換の能力は失われるのだ。

探偵が事件に積極的にかかわっていくミステリもあるではないか、と反論される人もいるだろう。その通り、ハードボイルドというのはそういう物語だ。これは物語の中核にあるもの、多くの場合ファムファタールにあらわされる死の欲動に探偵が直面する話になるが、これは論理性によって推理を展開する、いわゆる本格的なミステリとは異なるジャンルを形成する。

コーエンのミステリが変なのは、批判の対象である物語の内部に探偵役がのめり込むにも拘わらず、最後にはその探偵役が位相転換を成功させる点である。本作ではダニー警官が事件の渦中にあるアイリスとある種の恋愛関係に陥る。にもかかわらず、ダニーは物語の最後で探偵としての役割を果たしている。ダニーは容疑者でもあるアイリスとの交友関係を上司に報告し、いわばスパイのようにアイリスたちを観察する。その意味では彼は物語の外部にとどまっているのだが、同時に彼はアイリスに惹かれ肉体関係も持つ。こういう不可解な探偵が登場するのがコーエンの特徴である。

彼のミステリのおかしさは理論的に興味深い。ここには考えなければならない問題がいくつもある。作品自体が面白いだけに余計にわたしには興味深い。


Thursday, January 26, 2023

ジョアナ・ケイナン「宿泊は殺人付きで」


原題は Murder Included (1950) 。ジョアナ・ケイナンはその作品が最近になって次々と再刊されるようになった。

物語の舞台はデストレイ家の大きな屋敷である。主のチャールズは落ちぶれた貴族で、その財政状況は屋敷を維持することもあやしいくらいだ。そこでチャールズの妻であるバニーが、屋敷を民宿のようにして、客が狩りを楽しめるようにしようと考える。その結果デストレイ家には七十だが矍鑠として馬に乗るハドソン嬢、ローズ一家、スキャプネル一家など大勢の人が集まって来る。

ところがその屋敷の中で殺人が起きる。死んだのはハドソン嬢だ。彼女は寝る前にナイトキャップをたしなむ癖があるのだが、その酒の中に何者かが植物の毒を混入させたらしいのだ。ハドソン夫人とは仲が悪く、薬草の知識があるバニーが犯人と疑われるが、証拠はない。

そうこうするうちに第二の殺人が起きる。今度はスキャプネル家のシシリーだ。彼女は狩りに出掛けたのだが、そのとき持っていった水筒の中に、第一の殺人で使われたのとおなじ毒薬が入れられていたのだ……。

この作品はよい着眼点を持っている。最初にハドソン嬢が殺されたとき、警察はハドソン嬢の敵を捜した。そしてシシリーが殺されたとき、警察はシシリーがハドソン殺しについて何か重要な情報を持っていたから殺されたのだと考えた。しかし本件においてそれはひっくり返っている。犯人がシシリーを最初に殺すと、重要な情報を持っているハドソン嬢がたちどころに事件の真相を見抜いてしまう。だからハドソン嬢がまず殺されたのだ。バニーは「わたしたちは時制を取り違えていたのよ」というが、これは非常に興味深い台詞だ。ここには哲学的な考察がある。

本篇はいわゆる本格推理ではない。犯人は「偶発的」に見つかる。しかし犯人を見つけたのがバニーだという点は重要だと思う。バニーはイギリスとはまったく異なる環境で育ち、イギリスの田舎的な考え方、あるいは都会的な考え方にもなじめない、本質的な部外者である。彼女はイギリス的な思考法、物語化のパターンから決定的にずれている。ずれているからこそ、事件の真相にたどりつけたのだ。良人であり典型的なイギリスの田舎紳士サー・チャールズも、排外的な感性の持ち主であるスコットランドヤードの若手刑事も気づかなかった事件の真相に。

ピーター・チェイニーの「誰も見なかった男」に引き続き、この作品もまた時間をおいて読み直さなければならない。

Wednesday, January 25, 2023

注目の三作

最近電子化された作品の中で注目したい作品を三つあげておく。

一つは Fadepage.com が出したハリー・ポール・ケイポンの「地球へ」。これは三部作の第三部で、太陽の反対側にある惑星に行った科学者のポレンポート博士から(これが第一部の話)地球にあててモールス信号が出ていることを、イギリスはケント州に住むコックス兄弟が発見する。しかし返事を返すには強力な送信機が必要だ。そこでポレンポート博士の宇宙旅行に協力した新聞社に援助を頼みにいくのだが、この秘密が洩れ、博士がいる惑星を植民地化しようとする動きが出て来て……という話。作者はウエルズ的なSFを書いている人だ。Fadepage.com は第一部と第二部をすっとばしていきなり第三部を電子化したが、どういうわけだろう。


アメリカのプロジェクト・グーテンバークは、ウォルター・ホワイトの「燧石に秘められた火」を出した。作者は人権運動家として名高い人だ。物語はケネス・ハーパーという若き黒人医師が南ジョージアの故郷で開業し、地元の黒人労働者のために協同組合を組織しようとしたところ、クークラックスクランの邪魔に出逢い、暴力的で悲劇的な事件に発展するというもの。1920年代に書かれたものだが、発表当時は世評が高い作品だった。


LibriVox からはフレデリック・ポールとC. M. コーンブルースの共著「町が溺れる」をあげたい。タイトル通りの物語で、米国北東部のある町がハリケーンに襲われ洪水に遭うという話。異常気象のせいでこれから洪水は増えるだろうが、朗読者の丁寧な解説によると科学的な議論よりも人間的なドラマに重きを置いた物語らしい。今突然思い出したが、たしかエミール・ゾラも洪水を扱ったパニック小説を書いていなかっただろうか。



Monday, January 23, 2023

ロベルト・プファーラー「インターパッシヴィティー」

哲学で大切なのは、新しい概念を学ぶことである。今まで知らなかった新しい概念、それはあなたの思考に新しい地平をもたらすものである。あるいはあなたが今まで抱いていた考えを覆すものである。もしもそういう起爆力のある概念を学ばなかったとしたら、今まであなたが抱いていた考えを補強するにすぎない考えしか与えられなかったとしたら、あなたは哲学を学ばなかったか、哲学が力を失ったか、どちらかである。


ロベルト・プファーラーはインターパッシヴィティーという概念をつくって世に広めたドイツの哲学者である。このブログで以前、谷崎潤一郎の「或る調書の一節」について書いたが、あの内容と大いに関係がある。すなわち信仰のような内的な心情が、じつは個人の外に、物質的な形として存在しているという事態をあらわす概念である。信仰については今あげたブログの記事で書いたから、別の例をあげよう。アメリカのコメディ番組には、登場人物たちがジョークをいうと観客の笑い声が聞こえてくるものがある。あれは視聴者の代わりにテレビが「楽しんでくれている」のだ。一日働いてぐったりしながらぼんやりそのコメディ番組を見、見終わったときにはなんだか楽しかったような気分を漠然と味わう。登場人物のジョークはたいてい古くさく、面白くもないのだが、笑い声のおかげで、なんだか自分が笑ったような気分になる。楽しさというのは個人の内面にある感情のようだが、ここではテレビがわたしの代わりに「楽しんでいる」のだ。テレビの享楽は、テレビがわたしの外にあるものであるにもかかわらず、わたしの享楽にもなっている。

あるいはトウィッチや YouTube のゲーム実況でもおなじことが起きている。実況者は視聴者の代わりにゲームを享受し、視聴者はそれを見て自分がゲームをし、楽しんだかのような気分になる。こういう奇妙な代理構造をプファーラーはインターパッシヴィティーと呼んでいる。

本書はこの概念に関してかかれたさまざまな論文を一つにまとめたものだ。いろいろな角度からこの概念に斬り込み、反覆される部分も多いけれど、何度も何度もこの概念に立ち向かうにつれ、しだいに理論が深まっていく様子がわかる本となっている。もしもこの概念に興味があるなら、第三章から読みはじめるのがいいだろう。インターパッシヴィティーの概要、その問題点が簡潔にまとめられている。アカデミックな書き物だからある程度はむずかしいのだが、知的なものに関心がある向きはぜひ一読してほしい。起爆力のある概念であり、われわれの日常的振る舞いに深い反省をもたらす考え方だから。

Friday, January 20, 2023

ナイジェル・バルチン「小さな秘密研究室」

バルチンは1908年生まれの作家で今でもかなり評判の高い小説家。このたび彼の作品の中でもとりわけ有名な「小さな秘密研究室」を手に入れたので読んでみた。この人は文章がうまく、無駄のない的確な書き方をする。相当な手練れだというのが第一印象で、ファンが多いのもよくわかった。

さて内容のほうだが……。

戦時中の武器開発者サミーという男が語り手である。彼は事故か何かで片足を失い義足をはめている。彼は武器を開発して、彼の上司がそれを軍部に売り込むという商売に携わっている。そして上司の秘書をしている美しいスーザンと密かに同棲生活を送っている。結婚すればいいじゃないか、という人もいるのだが、サミーにはコンプレックスがあって、スーザンが自分と一緒になるのはよいことではないと結婚を拒否している。スーザンは結婚してもいいと考えているようなのだが。

あるときサミーはスチュアートという大尉から質問を受ける。ドイツの戦闘機が通過したあとに小さな爆弾が発見され、それを見つけた人が吹き飛ばされ死んでしまうという事件が連続して起きたのだ。この爆弾がどういう仕掛けでできているのか、意見を聞きたいというのである。この当時の爆弾処理がどう行われていたのかよくは知らないが(今もどう行われているのか知らないのだが)、どうやら人間が生命の危険を冒して分解・解体をやっていたようだ。スチュアート大尉はこの新型爆弾の解体途中で吹き飛んで死んだ。そしてとうとうサミーがこのやっかいな仕掛けの爆弾を解体することになる……。

武器開発研究の話など、わたしははじめて小説の形で読んだ。科学とビジネスの矛盾、科学者・軍人・政治家といった利害の異なる人々の確執、政治の世界の酷薄な力関係、ビジネスマン同士の敵対と野合、そこで展開される権謀術数はそれだけで充分に興味深かった。コンプレックスの塊でありながらも、じつに人間的なサミーが、研究組織の大激変に直面して見せる怒りや苦悩には深く共鳴した。おそらく日本のサラリーマンが読んでも心動かされると思う。サミーは自分の価値に疑問を持ちながら、かつまた組織や政府といったもののポリティックスに翻弄されながら生きている人々の典型だからだ。最後にサミーは複雑な構造の爆弾を解体するが、その過程はさまざまな力の交錯する実生活を生き抜くことの比喩になっている。読み終わってなんともいえない感慨がじわりと身体に広がった。

Tuesday, January 17, 2023

龍が如く6

外国では Yakuza というタイトルで知られた日本のビデオゲーム「龍が如く」は、わたしも大好きなシリーズである。残念ながらわたしのPCはビデオカードを備えておらず、文書の読み書きのみを目的とするスペックなので、わたし自身はゲームをやったことがない。しかしほかのゲーマーたちがプレイする様子を YouTube や Twitch で楽しく見ている。つい最近、わたしの好きなゲーマー、バニーテイルズさんが Yakuza 6 のストリーミングを終えた。わたしはそれを見ながら感慨を新たにした。サブカルチャーがときどき嫌になるくらい現実を的確にとらえることがあるけれど、Yakuza はまさにその典型だと思う。

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Yakuza シリーズはパターナリズムというテーマに太く貫かれている。日本におけるパターナリズムといえば、三島由紀夫がいろいろな形でそれを小説に表現している。とりわけ「絹と明察」は企業体における二つのパターナリズムを描いて興味深い。一つは前近代的な企業体におけるパターナリズムである。ここにおいて企業家は家父長制的あるいは権威主義的な父であり、労働者はその子という立場に置かれる。古い家制度の支配形式がそのまま会社にも持ち込まれているのである。あるいは、搾取という形態を覆い隠すものとして疑似的親子関係が導入されているのだといってもいい。もう一つのパターナリズムは近代的なそれであり、ここでは資本家は慈悲深い父としてあらわれる。この企業体においては労働者の福利厚生を手厚く行っている。慈悲深さ、思いやりのもっともよい例は終身雇用という制度だろう。しかし三島はその背後に「そのように労働者を扱った方が結局は会社の儲けになる」というきわめてシニカルな計算が働いていることを指摘している。わたしは三島の小説家としての技量をあまり評価しないが、この作品だけは非常に面白いと思う。

さて Yakuza だが、この物語は1988年、バブル経済期からはじまる。三島が描いた近代的パターナリズムが終焉を迎える時期だ。誰もが知っているように、この時期から効率化とか結果至上主義とかが幅を利かせるようになり、終身雇用を骨格としたパターナリスティックな企業風土が変質していく。そしてネオリベラリズムの大波が日本を襲い、正社員は非正規労働者に置き換えられ、親と子という疑似的な家族関係が会社からは消えてしまったのである。Yakuza はまさにこの大変化をやくざ組織の変遷を通して描いており、シリーズの最終作(つまり桐生の物語の最終作)は、「父」なるものの消滅を、桐生が社会から姿を消すという形で示している。この物語の年代は2016年である。

Yakuza 6 でとりわけ興味深いのは尾道の極道、広瀬一家の物語である。広瀬一家には Yakuza シリーズで幾度も生じる悲劇的なパターンが繰り返されている。親分の広瀬が子分たちの親を殺していた、そして罪の意識からその子供たちを自分の子分として養育してきたのである。これは桐生が親と慕う極道、風間がしてきたことであり、桐生自身も象徴的な形で堂島という極道を殺し、その子大吾の父となる。ただ広瀬一家のエピソードはそのパターンの根源になにがあるのかを示している点で非常に興味深いのだ。

端的に言えばそれは作中で「尾道の秘密」と呼ばれる政治的スキャンダルである。そのスキャンダルを隠蔽するために事情を知っている関係者を、大道寺という政治家と巌見という資本家(且つやくざ)が広瀬に殺させていたのである。おそらく風間のケースも似たようなものではなかったか。風間の弟の経歴を考えれば十分にそれはありそうな話だ。ともかくそれは father figure の最たるものである国家の汚点であり、その失敗と挫折、父なるものの欠陥の証にほかならない。父殺し、代理の父という Yakuza におけるめざましい特徴は、「国家=父」の致命的な欠如を隠蔽しようとするところから生じてきている、と言えないか。

バニーテイルズさんのストリーミングを見ていて、視聴者の一人がこんなことを言っていた。「尾道の秘密は underwhelming だ」と。秘密、秘密と喧伝された割に、戦艦大和などしょぼいではないか、という意味だ。その通りなのだが、ここで物語を享受するわれわれはただがっかりしてはいけないのだ。秘密はなるほど国家的なものであってその意味では overwhelming でなければならないのだが、同時にそれは父なるものの無能性をあらわすものであって、その意味では underwhelming でなければならないのである。高角砲を男根のように屹立させた「尾道の秘密」は敗戦の名残の鉄くずにすぎず、まさにそれは致命的な失敗としての父、死んだ父を象徴するにふさわしい。

主人公の桐生一馬も最後には「親」になるがそのなり方は変わっている。彼が行う「親殺し」はあくまでシンボリックなものである。また彼は「父」の無能性をあばきつつ親になるのだ。さらに Yakuza 6 において彼が大吾に残す「遺書」には、親の仇など取ろうと思うな、俺にそんな価値はない、と父の価値を否定する言葉を書いている。一方において己の無価値を糊塗するために父殺しを重ねるメカニズムがあるとすれば、桐生は明らかにそのメカニズムから微妙にずれており、且つ又それを否定しようとしている。その上で彼は大吾の「親」になり、大吾は彼を偉大な「親」と認めるのである。パラドキシカルな言い方をすると、桐生は親になることを否定する限りにおいて親になるのだ。

Yakuza は「父」という形象がはらむ問題を独自の角度から探っていて、興味が尽きない。この問題系が Yakuza 7 以降どう引き継がれるのか、わたしは目が離せない。もっと一般の人にも知られてよい優秀な作品である。

Saturday, January 14, 2023

独逸語大講座(4)

第三課

(不定冠詞、haben の人称変化、kein)
Besuch, Befucher, m.訪問、訪問客Lebewohl, n.ごきげんよう
Hut. m.帽子wandern徒歩旅行する
Hand, f.reisen旅行する
Welt, f.世界sagen云う
Zimmer, n.部屋durch と四格= [through]
Stock, m.ステッキvielleicht恐らくは
Diener, m.下僕mit と三格= [with]
Tür, f.nun[now]
Wanderer, m.徒歩旅行者nur[only]
                     

1. Morgen habe ich einen Besuch zu Hause. 2. Du hast eine Frau und ein Kind. 3. Ein Tag hat nur einen Morgen und einen Abend. 4. Wir haben heute keinen König mehr im Lande. 5. Ihr habt morgen vielleicht einen Arzt zum Besuch. 6. Sie haben hier einen Stock. 7. Dieser Hut gehört noch keinem Manne. 8. Diese Stadt hat jetzt nur ein Tor. 9. Der Diener geht nun in das Zimmer des Kindes. 10. Dieser Arzt hat nur einen Freund in der Stadt.

【訳】l. 明日(morgen)私は(ich)うちに(zu Hause)訪問客を(einen Besuch)持つ(habe) 2. 汝は(Du)一人の妻(eine Frau)と(und)一人の子供とを(ein Kind)持つ(hast) 3. 一日は(ein Tag)ただ(nur)一つの朝(einen Morgen)と(und)一つの晩とを(einen Abend)持つ(hat) 4. 我々は(wir)今日(heute)国の中に(im Lande)最早一人の王をも(keinen König mehr)持た(haben)〔ない〕 5. 汝等は(ihr)明日(morgen)恐らく(vielleicht)医者を(einen Arzt)訪問客に(zum Besuch)もつであろう(habt) 6. あなたは(Sie)此所に(hier)一本のステッキを(einen Stock)持つ(haben) 7. 此の帽子は(dieser Hut)まだ(noch)何人にも(keinem Manne)属さ(gehört)〔ない〕 8. 此の市は(diese Stadt)今は(jetzt)ただ(nur)一つの門を(ein Tor)持つ(hat) 9. 下僕は(der Diener)今や(nun)子供の(des Kindes)部屋へ(in das Zimmer)行く(geht) 10. 此の医者は(dieser Arzt)市に(in der Stadt)たゞ(nur)一人の友人を(einen Freund)持つ(hat)

11. Hast Du heute keinen Besuch? 12. Der Freund dieser Frau hat heute Besuch. 13. Jenes Kind gehorcht einem Diener nicht. 14. Der Besuch geht durch ein Tor in das Haus. 15. Ich habe einen Vater, eine Mutter und ein Kind. 16. Der Kaiser steht nun in der Tür des Zimmers. 17. Jener König hat nur einen Freund im Lande. 18. Warum hat der Kaiser keine Kaiserin? 19. Ein Diener hat den Hut eines Besuchers in der Hand. 20. Die Frau des Arztes hat einen Diener.

【訳】11. 汝は(Du)今日(heute)一人の訪問客をも(keinen Besuch)持 た(hast)〔ない〕か〔汝の所に、今日、来客はないか〕 12. 此の女の友人は (der Freund dieser Frau)今日(heute)訪問客を(Besuch)持つ(hat) 13. あの 子供は(jenes Kind)一人の下僕には(einem Diener)服従し(gehorcht)ない (nicht) 14. 訪問客が(der Besuch)門を通って(durch ein Tor)家へ(in das Haus)行く(geht) 15. 私は(ich)一人の父(einen Vater)一人の母(eine Mutter)と(und)一人の子供を(ein Kind)持つ(habe) 16. 皇帝は(der Kaiser)今や(nun)部屋の(des Zimmer)扉の中に(in der Tür)立っている (steht) 17. あの王は(jener König)国の中に(im Lande)ただ(nur)一人の 友人を(einen Freund)持つ(hat) 18. 何故に(warum)皇帝は(der Kaiser) 一人の皇妃をも(keine Kaiserin)持た(hat)〔ないか〕 19. 下僕が(ein Diener)訪問客の(eines Besuchers)帽子を(den Hut)手に(in der Hand)持つ (hat) 20. 医者の妻は(die Frau des Arztes)一人の下僕を(einen Diener)持 つ(hat)

21. Der Wanderer wandert mit einem Stock durch die Welt. 22. Wie heißt die Frau eines Königs? 23. Der Vater sucht das Kind mit einem Diener. 24. Das Kind spielt in keinem Zimmer des Hauses. 25. Ich habe jetzt nur einen Freund in der Welt. 26. Der Kaiser begegnet keinem Feinde. 27. Geht heute der Kaiser durch die Stadt? 28. Gehst Du morgen vielleicht in die Welt? 29. Jener Garten hat nur ein Tor. 30. Der Onkel dieses Mannes hat keine Frau mehr.

【訳】21. 徒歩旅行者は(der Wanderer)一本の杖を以って(mit einem Stock)世界中を(durch die Welt)徒歩旅行する(wandert) 22. 王の妻は(die Frau eines Königs)何と(wie)呼ばれるか(heißt) 23. 父は(der Vater)下僕 と共に(mit einem Diener)子供を(das Kind)探す(sucht) 24. 子供は(das Kind)家の(des Hauses)どの部屋でも(in keinem Zimmer)遊ば(spielt)〔な い〕 25. 私は(ich)今は(jetzt)世界の中で(in der Welt)ただ(nur)一人 の友人を(einen Freund)持つ(habe) 26. 皇帝は(der Kaiser)一人の敵に も(keinem Feinde)逢わ(begegnet)〔ない〕 27. 今日(heute)皇帝は(der Kaiser)市を通って(durch die Stadt)行くか(geht) 28. 君は(Du)明日は (morgen)恐らく (vielleicht)世間へ(in die Welt)出るか(gehst)註1 29. あの 庭園は(jener Garten)ただ(nur)一つの門を(ein Tor)持つ(hat) 30. 此 の人の叔父は(der Onkel dieses Mannes)最早妻を(keine Frau mehr)持た (hat)〔ない〕

31. Nun gehe ich in das Land des Feindes. 82. Die Frau eines Königs ist eine Königin. 33. Die Mutter reist vielleicht mit dem Vater. 34. Er ist der Freund einer Königin. 35. Wo ist der Hut jenes Besuchers? 36. Der König dieses Landes fürchtet keinen Feind. 37. Der Onkel jenes Kindes reist durch das Land. 38. Der Wanderer begegnet einer Frau. 39. Der Besucher geht, den Hut in der Hand, durch das Zimmer. 40. Dieser Mann sagt jetzt der Welt Lebewohl.

【訳】31. 今や(nun)私は(ich)敵の(des Feindes)国へ(in das Land) 行く(gehe) 32. 王の(eines Königs)妻は(die Frau)王妃で(eine Königin) ある(ist) 33. 母は(die Mutter)恐らくは(vielleicht)父と共に(mit dem Vater)旅行する(reist) 34. 彼は(er)王妃の(einer Königin)友人で(der Freund)ある(ist) 35. 何所に(wo)あの訪問客の(jenes Besuchers)帽子が (der Hut)ある(ist)36. 此の国の王は(der König dieses Landes)如何な る敵をも(keinen Feind)恐れ(fürchtet)〔ない〕 37. あの子供の(jenes Kindes) 叔父は(der Onkel)国中を(durch das Land)旅行する(reist) 38. 徒歩旅行 者が(der Wanderer)一人の女に(einer Frau)逢う(begegnet) 39. 訪問客が (der Besucher)帽子を(den Hut)手にして(in der Hand)部屋を通って(durch das Zimmer)行く(geht) 40. 此の人は(dieser Mann)今や(jetzt)世の中に (der Welt)御機嫌ようを[別れの挨拶](Lebewohl)云う(sagt)

41. Der Garten hat jetzt kein Tor mehr. 42. Warum hat jenes Land keinen Kaiser? 43. Mein Onkel reift mit einem Diener. 44. Der Onkel sagt dem Vater Lebewohl und geht. 45. Der Besuch kommt nun in das Zimmer des Vaters. 46. Warum hat der Diener keinen Hut in der Hand? 47. Die Frau des Onkels achtet keinen Mann in der Welt. 48. Hat dieses Zimmer eine Tür? 49. Der Wanderer wandert mit einem Freunde. 50. Der Besuch und der Diener gehen durch eine Tür. 51. Mein Vater und mein Onkel sagen dem Diener nichts. 52. Ein Mann steht in der Tür eines Zimmers. 53. Haben Sie einen Hut und einen Stock?

【訳】41. 庭園は(der Garten) 今は(jetzt) 最早一つの門をも(kein Tor mehr) 持た(hat)〔ない〕 42. 何故に(warum) あの国は(jenes Land) 皇帝 を (keinen Kaiser) 持た(hat)〔ないか〕 43. 私の叔父は(mein Onkel)一人 の下僕と共に(mit einem Diener) 旅行する(reist) 44. 叔父は(der Onkel) 父 に(dem Vater) 御機嫌ようを(Lebewohl) 云い(sagt) そして(und) 去る(geht) 45. 訪問客は(der Besuch) 今や(nun) 父の(des Vaters) 部屋へ(in das Zimmer) 来る(kommt) 46. 何故に(warum) 下僕は(der Diener) 帽子を (keinen Hut) 手〔の中〕に(in der Hand) 持た(hat)〔ないか〕 47. 叔父の(des Onkels) 妻君は(die Frau) 世の中に於ける(in der Welt) 如何なる男をも (keinen Mann) 尊敬し(achtet)〔ない〕 28. 此の部屋は(dieses Zimmer) 扉を (eine Tür) 持つか(hat) 49. 徒歩旅行者は(der Wanderer) 一人の友人と共 に(mit einem Freunde) 徒歩旅行する(wandert) 50. 訪問客(der Besuch) と (und) 下僕とが(der Diener) 扉を通って(durch eine Tür) 行く(gehen) 51. 私の父(mein Vater) と(und) 私の叔父とは(mein Onkel) 下僕に(dein Diener) 何事も(nichts) 云は(sagen)〔ない〕 52. 一人の男が(ein Mann) 部屋の (eines Zimmers) 扉の中に(in der Tür) 立っている(steht) 53. あなたは(Sie) 一つの帽子(einen Hut) と(und) 一本の杖とを(einen Stock) 持っていますか (haben)

【註】〔1〕独逸語では、現在形を以って未来の代りに用いることがよくあります。殊に未来の時の副詞が用いられる場合はそうです。日本語でも「明日行く」と云います。

Wednesday, January 11, 2023

英語読解のヒント(41)

41. as it were

基本表現と解説
  • A good king is, as it were, the father of his people. 「明君はさながら民の父である」

as it were は「さながら」「いわば」の意味。

例文1

For years the phrase had been in my mind — had, as it were, become part and parcel of myself.

Max O'Rell, Rambles in Womanland

この言い廻しは何年ものあいだ頭のなかにあり、いわばわたしの一部と化してしまっていた。

例文2

The French girl is every day getting freer. She is no longer cloistered, as it were, at home and at school. She now frequents the society of young men, gets better acquainted with them, and on more intimate terms than before.

Max O'Rell, Rambles in Womanland

フランスの若い女性は今日日、ますます自由になりつつある。彼らは家や学校でもはや修道院じみた生活を送ってはいない。彼らは若い男と付き合い、彼らと以前よりも親しく、親密になっている。

例文3

The wind drooped, as it were, folded its wings and sank to rest; the fragrant warmth of night rose in whiffs from the earth.

Ivan Turgenev, Acia (translated by Constance Garnett)

風はいわば悄然とうなだれ、翼をおさめて眠りについてしまった。かぐわしく暖かい夜の空気が地面からふっと立ち昇ってきた。

Sunday, January 8, 2023

英語読解のヒント(40)

40. 理由を示す「as + 主語 + 述語」

基本表現と解説
  • It was too far to go for me, weak and ill as I was. 「わたしには遠すぎていけなかった。なにしろ弱っていて具合が悪かったから」

§35. から §39. の形はたいていの場合「……だけれども」という譲歩を示すが、「……だから」と理由の意味で用いられることもある。

例文1

Sir Colin, disciplined soldier as he was, bowed to the superior authority and promptly set about the preparations for the Rohilcund campaign.

Archibald Forbes, Colin Campbell

コリン卿は規律正しい軍人であったため、上官に一礼すると即座にローヒルカンドでの戦闘準備にとりかかった。

例文2

It is easy to be courageous in theory, not difficult to be bold in practice, when the mind has time to collect its energies; but taken as I was by surprise, I confess that astonishment and terror so far mastered all my faculties, that, without daring to cast a second glance towards the vision, I walked rapidly back into the garden....

"Account of an Apparition" from The New Monthly Magazine and Literary Journal

頭のなかでなら勇敢になるのはやさしい。勇気を奮い起こす時間があるなら、実際においても大胆になるのはむずかしくない。しかしわたしは不意を喰らったので、驚きと恐怖にすっかり度を失い、幽霊のほうに二度と視線を向けることなく足早に庭へと戻っていった……

例文3

The hapless man had sunk to rise no more. Once sucked beneath the deep waters of the frozen lake, exhausted as he was, there was no hope for him.

Everett Evelyn-Green, FRENCH AND ENGLISH

不幸な男は沈んだきり二度と浮かび上がらなかった。凍った湖の深い水の中にいったん吸い込まれれば、疲れ切った男に助かる見込みはなかった。

Friday, January 6, 2023

注目の二冊

最近アメリカのプロジェクト・グーテンバーグと、カナダのフェイディド・ペイジからそれぞれ一冊ずつ注目すべき本が出た。プロジェクト・グーテンバークは The War Against Japan (対日戦争)という第二次世界大戦の記録写真集を出してくれた。数えたわけではないけれど、おそらく千葉近い鮮やかな写真が短い解説つきで配列されており、興味深いことこの上ない。そのうちの二つを紹介する。

写真1

日米の激戦地だったペレリュー島で、カメラマンにカメラを向けられ笑顔を作ろうとしている米兵の写真。手榴弾が二つ見えるが、すぐ手に取れるよう、こんな所にくっつけているらしい。わたしの友人で、アメリカ海軍に十年間いた猛者が、手榴弾の投擲訓練についていろいろ話してくれたことがあったが、この写真を見た途端それを突然思い出した。

写真2


これはアメリカの攻撃を引きつけるために、日本軍が石灰岩を刻んでつくった戦車のダミーだそうだ。硫黄島にある。

もちろん戦闘や爆発や原爆の写真も多数あり、読み応え充分な一冊になっている。

フェイディド・ペイジはいくつも注目すべき作品を電子化しているのだが、わたしがとりわけ注目したのはオルダス・ハクスリーの「ポイント・カウンター・ポイント」。


実在の人物を登場人物にすえた長編小説で、モダン・ライブラリーの小説百選にも選ばれている。ハクスリーは最近はほとんど読まれていない気がするが、わたしは学生時代に愛読した。「ポイント・カウンター・ポイント」は翻訳が出ているが、六十年以上も前のものであり、わたしが新訳を出そうかなと考えている。アーノルド・ベネットの「老妻物語」も訳したいのだけど……。

Thursday, January 5, 2023

英語読解のヒント(39)

39. 譲歩の形 (4) 「過去分詞 + as / though + 主語 + 述語」

基本表現と解説
  • Deprived though he was of all his weapons, he would not give in. 「武器はことごとく奪われていたけれども、彼は降伏しようとしなかった」

過去分詞が先頭に来るパターン。

例文1

Inexperienced though he was, he had still a strong sense of the danger of Sibyl's position.

Oscar Wilde, The Picture of Dorian Gray

未熟ではあったが、それでも彼はシビルの立場が危険だと強く感じていた。

例文2

Seeing me coming, Miss March whispered to him; he turned upon me a listless gaze from over his fur collar, and bowed languidly, without rising from his easy-chair. Yes, it was Mr. March — the very Mr. March we had met! I knew him, changed though he was; but he did not know me in the least, as, indeed, was not likely.

Maria Dinah Craik, John Halifax, Gentleman

近づいて来るわたしを見て、ミス・マーチは彼に耳打ちをした。彼は毛皮の襟の上から冷淡な視線をわたしに向け、安楽椅子から立ち上がりもせず、物憂げに一礼した。そう、それはミスタ・マーチだった。以前出会ったミスタ・マーチだった! 変わってはいたが、わたしはそれが彼だとわかった。しかし彼のほうはわたしが誰かすこしもわからなかった。もっとも、わからなくて当然ではあったけれど。

例文3

Deprived as he was of all external attractiveness, he showed himself full of kindness to all who came to him, and, though he never would put himself forward, he had a welcome for every one.

Emile Souvester, An Attic Philosopher in Paris

見た目に人を惹きつけるものはまったくなかったが、彼は近づいてくる人には誰にでも親切にし、自分から押し出していくことはなかったが、訪ねてくる人はみな歓迎した。

Monday, January 2, 2023

英語読解のヒント(38)

38. 譲歩の形 (3) 「形容詞 + as / though + 主語 + 述語」

基本表現と解説
  • Young as he was, he was equal to the task. 「若かったけれど、彼はその仕事をこなす力量があった」

形容詞が先頭に来るパターンである。ついでに言うと、young as he was という句は「若かったため」という理由を示す句にもなりうる。

  • Young as he was, he was not equal to the task. 「若かったため、その仕事をこなす力がなかった」

譲歩を示すのか理由を示すのかは、文脈から判断するしかない。(§39. 参照)

例文1

Yet, silent as he was, I knew perfectly well what it was over which he was brooding.

Arthur Conan Doyle, "The Adventure of Silver Blaze"

が、黙ってはいても、わたしには彼がなにを考えているのかよくわかっていた。

例文2

Short as was the time he had known her, Dora had, in some mysterious way, grown to be a part of himself.

Charlotte Mary Brame, Dora Thorne

ドラと知り合ってそんなに時間は経っていなかったが、彼女は不思議な具合にもう彼の一部と化していた。

例文3

Thus paradoxical though it may seem, pain is one of the conditions of the physical well-being of man; as death, according to Dr. Thomas Brown, is one of the conditions of the enjoyment of life.

Samuel Smiles, Thrift

ゆえに、矛盾しているようにみえるけれども、苦痛とは人間の肉体的幸福の条件のひとつなのである。トマス・ブラウン博士によると、死というものは生の条件の一つなのだそうだが、ちょうどそれとおなじように。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(2)

§2. Der ? ach, dem traut ja keiner. あいつか?へん、あんなやつに誰が信用するものか。 trauen : 信用する。 ja : (文の勢いを強めるための助辞)  前項のは名詞に冠したものでしたが、こんどは名詞を省いたもの...