Wednesday, March 29, 2023

ピーター・チェイニー「執拗な絞首刑執行人」

私立探偵キャラハンが活躍するシリーズの第一作。1938年の作品だが52年には舞台劇としてウエスト・エンドで上演され、さらに54年には映画化もされている。


話の出だしはだいたいこんな感じだ。メロールトン老人は(発音が間違っているかも知れないが)奇矯な大金持ちとしてロンドンではメディアを騒がせた存在である。彼には四人のろくでなしの息子とシンシスという美しいまま娘がいる。老人はろくでなしの息子に遺産を与えず、すべてをシンシスに遺贈しようと遺言を書き換えようとするのだが、ろくでなしの息子たちはそれを食い止めるために老人を殺害し、その罪をシンシスになすりつけようとする。そこでシンシスがキャラハンに助けを求めてくる……

登場人物は多彩で、話はかなりこみ入っている。キャラハンはロンドン中にアンテナをはりめぐらせる情報屋を利用して息子たちの動静を探り、犯罪の臭いがぷんぷんする場末のバーで格闘したり、麻薬中毒の金持ちからゆすりまがいの方法で金をまきあげたりする。十九世紀の世紀末に「ロンドンの秘密」というミステリが書かれて大評判になったが、本作における上流階級の腐敗ぶりやスラム街の描写は、あれをアップデートさせたような感じだ。

正直に感想を言うと、わたしはこの作品にあまり感心しなかった。「ロンドンの秘密」に負けないくらい、書き方が雑なのである。括弧を使って本文の補足をするのは多用されると見苦しい。また、だいたいは主人公のキャラハンの視点から書かれているのだが、ところどころそれを離れてしまう。意味のない視点の変更は読んでいて非常に気にかかる。ピーター・チェイニーが1940年代に書き始めた「ダーク・シリーズ」は興味深い作品が多いのだが、キャラハンやコーションものは首をひねる出来のものが多い感じがする。


Sunday, March 26, 2023

バーナーズ卿「らくだ」

 

バーナーズ卿は作曲もすれば、絵も描き、小説も書くという才人であり、かつまたエクセントリック(奇人)としても知られていた人だ。本作はファンタジーといえばいいのだろうか、寓話と呼べばいいのだろうか、それとも大人の童話とでも名づけるべきなのだろうか、分類がむずかしい奇妙な作品である。

とある田舎の教区の牧師さんの家にある日、らくだがやってくる。このらくだは人語を解し、相当な知性を備えているのだが、そのことは牧師さんにもその奥さんにもわからない。サーカスから逃げてきたのであろうと、一応自分の家で飼うことにする。

奥さんのアントニアは最近ペットの犬を亡くし、その代理の愛玩物としてこのらくだに強い愛情を抱く。そして困ったことや問題が起きると、らくだにぼそりとそのことをしゃべえってしまう。すると人語を解するこのらくだは、その希望を彼女に気づかれないようかなえてくれるのだ。このパターンが繰り返されながら物語は進んでいく。

アントニアの願いをかなえるためにらくだは、最初、金持ちの家から毛皮のコートを盗んで来たり、狐狩りの邪魔をしたりといったことをするのだが、じきにそれはもっと不吉で、グロテスクで、暴力的な振る舞いに変わっていく。そして最後にはこの村にあった秩序が完全に破壊されてしまうのである。

神さまに望みを実現してもらったら、かえってひどい目にあったという話があるけれど、このファンタジーもまったく同様である。牧師の妻のナイーブな希望が実現化されることで、村の風習やヒエラルキーが崩壊し、夫婦間の齟齬が露呈されていく。われわれの生活はらくだが示す暴力性を抑圧するところに成立しているのだ、とでもこの作品は教えているかのようだ。

イギリスのファンタジー小説のなかでもかなり出来の良い作品だと思う。掘り出し物である。

Thursday, March 23, 2023

フランク・ケイン「死の重さ」

私立探偵ジョニー・リデルのオフィスに一人の中国人がやってくる。依頼は小さな小包を預かってくれというもの。その料金として百ドルを支払うという。これは1950年代の話だから当時の百ドルは結構な価値がある。リデルは喜んでそれを保管するのだが、さっそく財務省の役人がやってきて、裁判所の許可証を見せ、その小包を持っていってしまう。いったい何が起きているのだろう、小包の中身は何なのだろう、と思いつつ読み進めると、オフィスは夜のうちになにものかに荒らされ、依頼人だった中国人は殺害され、財務省の役人といっていた男が偽者であることが判明する。どうやらいくつかのグループが小包を手に入れようと暗躍しているようだ。リデルは恋人で新聞記者のマグジイとともに事件の解決に乗り出す。


ジョニー・リデルものとしては五作目に当たる作品で、書き方にまだ若々しさを感じる。中国のギャングの抗争が背景にあるのかと思いきや、じつはスパイが暗躍しているとわかるというプロット・ツイストにも、アクションたっぷりの展開の仕方にもそれはあらわれている。読者を楽しませようという色気満々の作品だ。ただ物語の核となるべき謎の部分が弱くて、やや散漫な印象を与えるのが欠点と言えば欠点になっている。

Monday, March 20, 2023

地平線の問題

Quanta というネット・マガジンに「ブラックホールは終局的にはすべての量子状態を破壊する、と研究者は主張」(Black Holes Will Eventually Destroy All Quantum States, Researchers Argue)という記事が出ていて、これが圧倒的に面白かった。わたしは門外漢として量子力学に興味を持っているだけなので、内容の説明はできないが、理解した範囲でまとめると、情報の流れが一方通行になり、因果性パラドックスが発生するある領域の地平線、たとえば宇宙の端とかブラックホールとかリンドラー・ホライゾンとかキリング・ホライゾンといったものは、量子力学の確率論的な存在のありようを輪郭のはっきりした現実に変化させるということらしい。


わたしも文学における地平線、限界線の問題をこのところ考え続けていたので、この記事は非常に参考になった。文学が量子力学とどうつながるのかと疑問に思われるむきもあるだろうが、小説の語りにも、その語りを構成する地平線が存在しており、その地平線から物語を見返すと内容が奇怪な変容を遂げるのである。量子力学のアイデアと文学のアイデアのあいだには意外なことにある種の類似性が見出されるのだ。

科学も文学も情報が問題とされる。いずれもシンボルや記号によって構成されるからである。そしてシンボルや記号で構成される限り、シンボルや記号がもつある種の条件にしばられているはずだ。地平線・限界線はこの条件がいかなるものかということに迫る格好のスタート地点を提供している。


Friday, March 17, 2023

ポール・ケイポン「地球へ」

ケイポンはイギリスのSF作家で、映画やテレビの業界でも活躍した。彼の作品でいちばん有名なのは、地球からは太陽のちょうど反対側に存在する惑星アンチジオスを扱った三部作である。第一作は「太陽の反対側」(1950)、第二作は「惑星の残り半分」(1952)、そして第三作「地球へ」(1954)となっている。わたしは第一作も第二作も読んでいないが、たまたま Fadepage.com からいきなり第三作が電子化されたので読んでみた。ちなみにパブリックドメインにある作品を電子化するサイトにおいて、連作が途中から電子化されはじめるのはよくあることだ。手元に第一作がないから、仕方なく第二作や第三作から電子化の作業に着手するのである。これはもう仕方がない。

物語のほうは……。ポレンポート博士率いる宇宙探検隊がアンチジオスへ行き三年が経つ。果たして探検隊は無事目的地に着いたのか、それとも事故でもおきて宇宙の藻屑と化したのか、それすらもわからない。ところが、ある日、アマチュア宇宙研究家のコックス兄弟が、ポレンポートによってアンチジオスから発信された短波を捉えるのである。それによると彼らは無事であり、アンチジオスには優れた文明があり、彼らは宇宙船を建造し地球に帰る予定だというのだ。大ニュースだ。

しかしイギリスというのは宇宙時代になってもコロニアリズム、つまり植民地をつくり富を独占しようとする気質が消えていない。アンチジオスは友好的・平和的な文明を持つのに、新聞と資本家が結託してアンチジオスは野蛮で、ポレンポート博士たちは彼らの捕虜となっているなどと、でたらめの報道をやりはじめ、国民の敵愾心を煽り立てたのである。そして最終的にはアンチジオスに攻め込み、イギリスの属領としようとしていた。

宇宙船で地球に向かう途中、この動きを知ったポレンポート博士らは、このまま地球に着陸すれば攻撃されるかもしれない、あるいは一緒に地球へ行くアンチジオス人に危害が加えられるかもしれないと考え、一計を案じる。

この作品はアンチジオスから宇宙船で地球に向かうポレンポートたちの様子と、宇宙人が地球に来ると大騒ぎする地球の様子とが、交互に描かれている。正直いって前者のほうはさっぱり面白くない。最後まで読み通したのは、地球で起きる騒動に興味があったからだ。資本家と新聞社が宇宙人は敵対的であると喧伝して、国民のあいだに戦争の機運を煽り立てようとする。しかしそれが嘘であることを別の新聞がすっぱぬく。戦闘的な新聞社は大恥をかかされたわけだが、資本家のほうは平気だ。短い期間に株の操作で大儲けしたからである。が、新聞社もこすからさでは負けていない。この資本家が死んでしまったあと、新聞社は彼が偽の情報を流したためにわれわれは間違った報道をしてしまったと、自分たちの無罪を主張する。じつに節操ない連中だが、その戯画的な描き方の中にはひとつまみの真実みがこもっている。わたしとしては、アンチジオス側の話は省略し、最初から最後まで地球の騒動を詳しく描いて一編の小説に仕上げた方がよかったのではないかと思う。

Tuesday, March 14, 2023

独逸語大講座(6)

第四課

男性弱変化名詞 及び「成る」という意味の werden
Mensch, m. (弱) 人間überall 到る所で
Knabe, m. (弱) [boy] immer 何時も
Soldat, m. (弱) 兵士krank (形) [sick]
Student, m. (弱) 学生gesund (形) [sound]
Mut, m.  勇気bei と三格=……の許に
Fleiß, m.  勤勉aus と三格=……から
Weib, n.  女、妻grüßen 挨拶する
Bote, m. (弱) 使者sitzen 腰かけている

1. Ich werde ein Soldat oder ein General. 2. Du wirst morgen die Frau meines Feindes. 3. Er ist auch das Kind eines Menschen. 4. Sie wird die Frau eines Soldaten. 5. Was wird morgen aus diesem Menschen? 6. Der Engel ist der Bote des Himmels. 7. Dieser Mensch und sein Weib werden krank. 8. Der Bote des Soldaten kommt jetzt aus dem Hause. 9. Ich begegne heute keinem Menschen in diesem Garten. 10. Sie ist die Schwester eines Studenten und ehrt den Studenten auch.

【訳】1. 私は (ich) 一兵士に (ein Soldat) 或は (oder) 将軍に (ein General) 成る (werde) 註1 2. 汝は (Du) 明日は (morgen) 我が敵の (meines Feindes) 妻に (die Frau) 成る (wirst) 3. 彼 (er) も亦 (auch) 人間の (eines Menschen) 子供で (das Kind) ある (ist) 註1 4. 彼女は (sie) 一兵士の (eines Soldaten) 妻に (die Frau) 成る (wird) 5. 明日 (morgen) 此の人間から (aus diesem Menschen) 何が (was) 生ずるか (wird) 6. 天使は (der Angel) 天の (des Himmels) 使者で (der Bote) ある (ist) 7. 此の人間(dieser Mensch)と(und)彼の妻とは(sein Weib)病気に(karank)成る(werden) 8. 兵士の使者は(der Bote des Soldaten)今(jetzt)家から(aus dem Hause)〔出て〕来る(kommt) 9. 私は(ich)今日(heute)此の庭園で(in diesem Garten)一人の人間にも(keinem Menschen)逢わ(begegne)〔ない〕 10. 彼女は(sie)学生の(eines Studenten)姉妹で(die Schwester)ある(ist)そして(und)また(auch)学生を(den Studenten)尊敬する(ehrt)

11. Jedes Kind liebt diesen Menschen. 12. Unser Onkel grüßt den Boten der Königin. 13. Der Bote des Studenten grüßt den Vater des Knaben. 14. Ein Soldat trinkt nur mit einem Soldaten. 15. Der Vogel des Knaben sitzt auf jenem Dache. 16. Dieser Hund gehorcht nur einem Studenten. 17. Welches Buch gehört dem Soldaten dieses Generals? 18. Mit dem Hute in der Hand, geht er ins Zimmer des Kaisers. 19. Der Bote ihres Bruders sagt etwas zu deinem Diener. 20. Du bist vielleicht sehr krank, mein Mann!

【訳】11. すべての子供が (jedes Kind) 此の人間を (diesen Menschen) 愛する (liebt) 12. 我々の叔父が (unser Onkel) 王妃の (der Königin) 使者に (den Boten)註2 挨拶する (grüßt) 13. 学生の (des Studenten) 使者が (der Bote) 少年の (des Knaben) 父に (den Vater)註2 挨拶する (grüßt) 14. 兵士は (ein Soldat) 兵士と (mit einem Soldaten) のみ (nur) 飲む (trinkt) 15. 少年の (des Knaben) 鳥は (der Vogel) あの屋根の上に (auf jenem Dache) とまっている (sitzt) 16. 此の犬は (dieser Hund) 学生に (einem Studenten) のみ (nur) 服従する (gehorcht) 17. どの本が (welches Buch) 此の将軍の (dieses Generals) 兵士に (dem Soldaten) 属するか (gehört) 18. 手に (in der Hand) 帽子を持って (mit dem Hute) 彼は (er) 皇帝の (des Kaisers) 部屋へ (ins Zimmer)註3 行く(geht) 19. 彼女の兄弟の (ihres Bruders) 使者が (der Bote) 汝の下僕に向かって (zu deinem Diener) 何かを (etwas) 云う (sagt) 20. あなたは (Du) 恐らく (vielleicht) 大層 (sehr) 病気ですよ (bist krank) 良人よ! (mein Mann)註4

21. Das Weib des Soldaten geht zum König. 22. Jeder Soldat grüßt seinen General. 23. Die Mutter jenes Knaben sitzt immer in ihrem Zimmer. 24. Ich grüße, achte und ehre immer meinen Feind. 25. In diesem Hause wird kein Mensch krank. 26. Knabe, deine Schwester ist noch auf der Welt. 27. Dieser König ehrt und achtet den Soldaten. 28. Was für einen Studenten liebt deine Schwester ? 29. Ihr werdet Bruder und Schwester eines Kaisers. 30. Sie wird krank, ihr Arzt sitzt in ihrem Zimmer.

【訳】21. 兵士の (des Soldaten) 妻が (das Weib) 王の所へ (zum König) 行く (geht) 22. すべての兵士が (jeder Soldat) 彼の将軍に (seinen General) 挨拶する (grüßt) 23. あの少年の (jenes Knaben) 母は (die Mutter) 常に (immer) 彼女の部屋の中に (in ihrem Zimmer) 腰かけている (sitzt) 24. 私は (ich) 常に (immer) 私の敵に 〔敵を〕(meinen Feind) 挨拶し (grüßt) 敬い (achte) 且 (und) 尊ぶ (ehre) 25. 此の家に於いては (in diesem Hause) 一人の人間も (kein Mensch) 病気に (krank) 成ら (wird) 〔ない〕26. 少年よ (Knabe) きみの姉妹は (deine Schwester) 未だ (noch) 生きている (ist auf der Welt) 27. 此の王は (dieser König) 兵士を (den Soldaten) 敬い (ehrt) そして (und) 尊ぶ (achtet) 28. 汝の姉妹は (deine Schwester) どんな学生を (was für einen Studenten) 愛するか (liebt) 29. 汝等は (ihr) 皇帝の (eines Kaisers) 兄弟姉妹に (Bruder und Schwester) なる (werdet) 30. 彼女は (sie) 病気に (krank) なる (wird) 彼女の医者が (ihr Arzt) 彼女の部屋に (in ihrem Zimmer) 腰かけている (sitzt)

31. Der Knabe sitzt zwischen dem Soldaten und seiner Mutter. 32. Das Weib dieses Menschen gehorcht dem Kaiser nicht. 33. Unser Kind wird jetzt ein Knabe, mein Weib! 34. Eure Mutter sagt meinem Boten nichts. 35. Unser Knabe spielt immer bei seinem Onkel. 36. Der Mensch lacht und weint, immer und überall in der Welt. 37. Man lobt überall den Mut jenes Menschen. 38. Der Onkel meiner Frau trinkt mit einem Studenten. 39. Der Soldat und der Student lieben jenen Knaben. 40. Wird das Kind krank oder gesund ?

【訳】31. 少年は(der Knabe)兵士(dem Soldaten)と(und)彼の〔少年の〕母(seiner Mutter)の間に(zwischen)腰かけている(sitzt) 32. 此の人の(dieses Menschen)妻は(das Weib)は皇帝に(dem Kaiser)服従し(gehorcht)ない(nicht) 33. 我々の子供は(unser Kind)今や(jetzt)少年に(ein Knabe)成る(wird)、我が妻よ(mein Weib) 34. 汝等の母は(eure Mutter)私の使者に(meinem Boten)何も云わない(sagt nichts) 35. 我々の少年は(unser Knabe)常に(immer)彼の叔父の所で(bei seinem Onkel)遊ぶ(spielt) 36. 人間は(der Mensch)笑い(lacht)そして(und)泣く(weint)、常に(immer)そして(und)世界の(in der Welt)到る所で(überall) 37. 世人は(man)到る所で(überall)あの人間の(jenes Menschen)勇気を(den Mut)褒める(lobt) 38. 私の妻の(meiner Frau)叔父は(der Onkel)学生と(mit einem Studenten)飲む(trinkt) 39. 兵士と(der Soldat)と(und)学生とが(der Student)あの少年を(jenen Knaben)愛する(lieben) 40. 子供は(das Kind)病気に〔なるか〕(krank)又は(oder)丈夫に(gesund)なるか(wird)

41. Mein Bruder und König, wo ist jetzt dein Mut? 42. Jedes Kind wohnt bei seiner Mutter. 43. Knabe, dein Bruder kommt heute auf die Welt. 44. Der Soldat und der General grüßen ihren Kaiser. 45. Kein Mensch lobt den Fleiß dieses Studenten. 46. Der Diener des Generals wohnt jetzt beim Soldaten. 47. Der General wird der Feind seines Kaisers. 48. Jeder Mensch liebt seinen König und sein Vaterland. 49. Dieses Weib gehört keinem Menschen in der Welt. 50. Man ehrt überall den Mut und den Fleiß dieses Knaben. 51. Das ist der Hut dieses Boten, mein Weib! 52. Was wird jetzt aus deinem Fleiß, Student?

【訳】41. 我が兄弟なる王よ(mein Bruder und König)汝の勇気は(dein Mut)今(jetzt)何所に(wo)ありや(ist) 42. 各々の子供は(jedes Kind)自分の母の所に(bei seiner Mutter)住む(wohnt) 43. 少年よ(Knabe)汝の兄弟は(dein Bruder)今日(heute)生れた(kommt auf die Welt)註5 44. 兵士と(der Soldat)と(und)将軍とは(der General)彼等の皇帝に(ihren Kaiser)挨拶をする(grüßen) 45. いかなる人間も(kein Mensch)此の学生の(dieses Studenten)勤勉を(den Fleiß)褒め(lobt)〔ない〕 46. 将軍の(des Generals)下僕は(der Diener)今(jetzt)兵士の所に(beim Soldaten)註6住んでいる(wohnt) 47. 将軍は(der General)自分の皇帝の(seines Kaisers)敵に(der Feind)成る(wird) 48. すべての人間は(jeder Mensch)自分の王(seinen König)と(und)自分の祖国とを(sein Vaterland)愛する(liebt) 49. 此の女は(dieses Weib)世界の中の(in der Welt)いかなる人間にも属さない(gehört keinem Menschen)50. 世人は(man)到る所に於て(überall)此の少年の(dieses Knaben)勇気と(den Mut)と(und)勤勉とを(den Fleiß)尊敬する(ehrt)51. それは(das)此の使者の(dieses Boten)帽子で(der Hut)ある(ist)、我が妻よ!(mein Weib) 52. 今や(jetzt)お前の勤勉から(aus deinem Fleiß)何がなるか(was wird)学生よ(Student)〔どんな成果が生ずるか?即ち今はもはや報いられる望みが絶えたの意〕。

【註】〔1〕「彼も亦、人間の子供である」「彼女は、兵士の妻になる」の「……である」「……になる」は、いづれも sein と werden とが独立動詞として用いられた場合であるが、「……ある」「……なる」と訳すと(殊に後者の際)「で」「に」の前に来るべき名詞は、三格でなければいけないように思われるが、常に一格なる事に注意。
〔2〕「使者挨拶する」と日本語では云うが、den Boten (使者を)は(単数)四格、つまり grüßen は四格の補足語を採るるのです。
〔3〕ins = in das
〔4〕Mann は、此の場合「良人」の意味。
〔5〕現在形は直前の過去を指すにも用いられる。
〔6〕beim = bei dem

Sunday, March 12, 2023

英語読解のヒント(50)

50. scarcely / hardly.... before / when

基本表現と解説
  • Scarcely had I crossed the bridge before it fell down.
  • I had hardly crossed the bridge when it fell down. 「渡った途端に橋は崩落した」

「……やいなや……する」という意味の構文。scarcely の代わりに scarce が使われることもある。また、before や when の代わりに古い ere が使われることもある。

例文1

But scarcely had his army landed in Asia, when sultan Solyman attacked them, and made a terrible slaughter.

Samuel Griswold Goodrich, Peter Parley's Common School History

しかし彼の軍隊がアジアに上陸するやいやな、サルタンのソリマンは彼を迎撃して恐るべき殺戮を繰り広げた。

例文2

They took scarcely any notice when the twelve figures in female attire entered the hall.

Samuel Griswold Goodrich, Peter Parley's Common School History

彼らがほとんど気がつかぬうちに女の姿をした十二人の人がその部屋に入ってきた。

例文3

Little time was left to me for consideration, as the next moment a smart breeze began to agitate the taller trees. It increased to an unexpected height, and already the smaller branches and twigs were seen falling in a slanting direction toward the ground. Two minutes had scarcely elapsed, when the whole forest before me was in fearful motion.

Charles Joseph Barnes, New National Fifth Reader

考えるいとまもあらばこそ、烈風が吹き起こって高い木々を動かしはじめた。それは予想もしなかった激しさになり、すでに小さな枝が斜めに落下しているのが認められた。二分とたたぬうちに、目の前の森は見渡す

Saturday, March 11, 2023

英語読解のヒント(49)

49. 分詞構文 (3)

基本表現と解説
  • Son of a Boston merchant, he was sent to England at an early age. 「彼はボストンの商人の子で、子供のときイギリスにやられた」

「(being) + 名詞」の形をした分詞構文。

例文1

A Provencal by birth, he easily accustomed himself to all the dialects of the South....

Victor Hugo, Les Misérables (translated by Lascelles Wraxall)

生まれはプロヴァンス人であったから、彼は容易に南部の言語に馴れることができた。

例文2

A woman of pure instincts, she knew there had been nothing really wrong in the journey, but supposed it conventionally to be very wrong indeed.

Thomas Hardy, "The Son's Veto"

汚れのない心根の持ち主であったから、彼女はその旅行をすこしも悪いこととは思わなかったが、しかし世間一般の目から見ればひどく間違ったことのように見られるだろうと思ってはいた。

例文3

A moralist of the highest order, defender of the rights of small nations, apostle of the suppression of slavery, propagator of the true faith, John does not allow any one else to have a hand in the protection of petty states ; it is his privilege and his only.

Max O'Rell, John Bull and His Island

ジョン(ジョン・ブル、つまり英国人)は最高の道徳家、小国民の権利擁護者、奴隷廃止の使徒、真の信仰の宣伝者であるから、小国の保護に他人の干渉を許さない。これは彼の特権、彼のみの特権である。

Wednesday, March 8, 2023

英語読解のヒント(48)

48. 分詞構文 (2)

基本表現と解説
  • Deserted, despised, he submitted to everything with gentle patience. 「世間から捨てられ、卑しめられて、彼はなにごとにもおとなしく従った」

「(beng) + 過去分詞」の形をした分詞構文。

例文1

"Granted that Madaline has beauty, grace, purity, she is without fortune, connection, position."

Charlotte M. Braeme, Wife in Name Only

「マダラインは美人だし、上品で、純潔だが、財産も立派な親戚も地位もない」

例文2

Tired, I alighted, and fastened my horse to something like a pointed stump of a tree, which appeared above the snow....

Rudolf Erich Raspe, Surprising Adventures of Baron Munchausen

わしは疲れたから馬を下り、雪の上に出ている尖った木の株のようなものに馬をつないだ。

例文3

Foiled at all points, but still not able to rest, Miss Halcombe next determined to visit the asylum in which she then supposed Anne Catherick to be for the second time confined.

Wilkie Collins, The Woman in White

すべての点で失敗したが、なおじっとしていられなかったミス・ハルカムは、今度はアン・カサリックがふたたび幽閉されていると思われる癲狂院を訪ねることにした。

最近の注目作品

最近電子化された書籍のなかから注目作を三つ紹介する。

1. The Blood of the Vampire by
Florence Marryat (LibriVox)
19世紀のヴァンパイア小説というとブラム・ストーカーとかシェリダン・ル・ファニュがすぐ思い浮かぶが、この作品も重要である。若い外国育ちの女性と付き合った人々が次々と憔悴して死んでいくという物語なのだが、わたしが注目するのはこの物語に登場する資本家の女性が彼女と付き合ってもなかなか死なない点だ。マルクスは資本家をヴァンパイアに譬えたことがあるが、まるでこの資本家の女は労働者から血を吸って余力があるからなかなか死なないみたいなのである。ヴァンパイア小説にあらたな側面をつけ加えているのかもしれない一作だ。

2. The Big Four by Agatha Christie 
(Project Gutenberg)
これは説明する必要がないだろう。「スタイルズ荘の謎」がパブリックドメイン入りしてからずいぶんたくさんのクリスティティー作品がプロジェクト・グーテンバークから公開されている。

3. The Girl who Had to Die by
Elisabeth Sanxay Holding (Fadepage.com)
ホールディングの力作の一つがついに電子化された。心理的なサスペンスが好きな人なら見逃せない一作である。わたしは強烈なインパクト受け、以来ホールディングの作品を集めまくっている。

3月8日は国際婦人デーらしいが、はからずも今回の紹介は女性作家ばかりとなった。

Sunday, March 5, 2023

英語読解のヒント(47)

47. 分詞構文 (1)

基本表現と解説
  • Tall and slender, she stood before a large looking-glass. 「背の高い、すらりとした彼女は大きな鏡の前に立った」

「(being) + 形容詞」の形をした分詞構文。being はよく省略される。

例文1

Certain Dantes could not escape, the gendarmes released him.

Alexandre Dumas, The Count of Monte Cristo

逃げることはできないと信じて憲兵はダンテスを放した。

例文2

Indignant, I went next day to the shopkeeper, and produced the offending boot.

Max O'Rell, John Bull and His Island

怒ったわたしは翌日店に行き、そのいまいましい靴を突きつけた。

例文3

 John Bull is proud, brave, calm, tenacious, and a consummate diplomatist.
 Proud, he will never doubt of the success of his undertaking; brave, he will carry it through; calm, he will calculate with a cool head the material advantages of the victory; tenacious, he will know how to make it fruitful. Diplomacy answers for the rest.

Max O'Rell, John Bull and His Island

 ジョン・ブル(英国民)は自尊心が高く、勇敢で、冷静で、根気強く、外交手腕に長けている。
 彼は自尊心が高い、ゆえに事業の成功を疑わない。彼は勇敢である、ゆえにこれを実行する。彼は冷静である、ゆえに落ち着いて勝利したさいの物質的利益を計算する。彼は根気強い、ゆえに勝利を実り多いものにする方法を知っている。ほかのことは外向的手腕によって対応する。

Thursday, March 2, 2023

英語読解のヒント(46)

46. back

基本表現と解説
  • He has no clothes to his back. 「彼には着る服がない」

back はもともと「背中」だけれど、提喩として「身体」の意味に用いられる。「パン」で「食べ物」をあらわすたぐいである。

例文1

...without clothing to his back or shoes to his feet...

Richard Henry Dana, Jr., Two Years Before the Mast

……服もなく、靴もなく……

例文2

"There, if people can take the coat off your back they can't off mine,"....

George Sims, Memoirs of a Mother-in-Law

「ほら、あなたの服は脱がせることはできても、わたしの服は脱がせることはできない」

例文3

Moore has told the story of the over-fed, over-satisfied eastern despot, who sent a messenger to travel through the world, on order to find out the happiest man. When discovered, the messenger was immediately to seize him, take his shirt off his back, and bring it to the Caliph.

Samuel Smiles, Thrift

ムアがこんな話をしていた。飽食のかぎりをつくし、贅を極めた東洋の専制君主が世界でもっともしあわせな男を見つけてこいと使者を送り出した。見つかったらすぐさまそいつを引っ捕らえ、シャツを脱がし、それをわしのところへ持ってこい、というのだ。

関口存男「新ドイツ語大講座 下」(2)

§2. Der ? ach, dem traut ja keiner. あいつか?へん、あんなやつに誰が信用するものか。 trauen : 信用する。 ja : (文の勢いを強めるための助辞)  前項のは名詞に冠したものでしたが、こんどは名詞を省いたもの...