Sunday, March 31, 2019

青木、チャンピオン・カーニバルに参戦

真霜拳號が怪我のため、チャンピオン・カーニバルを欠場することになった。

プロレスラーはほんとうに怪我と闘わなければならないし、欠場する選手が出るたびに胸が痛くなる。どんなに気をつけていても運動していれば怪我は突然襲ってくる。わたしも筋トレをしているから、その怖さはよくわかっているつもりだ。わたしが高重量を扱わないのも怪我を避けるためである。

それはともかく、秋山社長が補欠の選定に悩んでいるとき、青木が自分を出させてくれと申しこみ、受け入れられたそうだ。こういう踏み込みのよさ、決断力、あるいは責任感とでもいうべきものが青木の真骨頂である。彼が「隊長」と渾名されるのは伊達ではない。

青木はジュニアだから体格的にはまったく不利だ。しかし秋山社長は、彼ならやってくれる、とコメントしている。全日のツイッターを見たら、さっそく青木の優勝を予想している人もいた。みんな青木の意気を感じているのだ。

しかし、わたしが言いたいのは、青木のことではない。なぜジュニアのチャンピオンである岩本がまっさきに名乗り出なかったのかということである。岩本には新しい世代の牽引役として期待をかけているが、しかしまだどこか頼りなさ、物足りなさを感じる。それがまたしてもここであらわれた。青木はツイッターに「なんで青木? と思う方は圧倒的に多いはずです。最近は特に何か実績を残しているわけでもないですから。 でも、ここで動かなかったら自分の先は無いような気がしました。」と書きこんでいるが、岩本なら「実績」があるし、申し分ないだろう。この行動力の差がチャンピオンとして君臨した男と、これからチャンピオンの風格を身につけようとしている男の差なのだろうか。

Friday, March 29, 2019

タンパク質の量

わたしは十年ほど前に胆嚢をとった。石ができ、癌になる可能性があるといわれたからだ。術後の経過はよかったのだが、あるとき重いものを持つと、右の体側が折れることに気づいた。胆嚢を切除した影響だろうか。それからは筋トレをして身体作りにはげむようにしている。

筋トレだけしても筋肉はつかない。筋肉量を増やすには、筋肉の材料を食べなければならない。つまりタンパク質だ。この摂取量に関して、厚労省は、六十五歳以上の人は、やや多めに取ることが望ましいと、摂取基準値をちょっとだけ上げるようだ。目安として毎日体重一キロに対して一グラム以上のタンパク質摂取をすすめている(体重が五十キロなら、五十グラムのタンパク質)。

たぶんボディビルダーやプロレスラーなどは体重一キロにつき三グラムくらいはタンパク質を摂取しているだろう。それに較べれば一キロ/一グラムは少ないが、しかし実際にやってみると、意外とたいへんである。食が細い人は食事の量を増やさなければならないだろう。

そういう人はプロテイン・サプリを飲むといい。「プロテイン=たんぱく質」サプリは、非常に優秀で効果がある。これはわたしも体感したので自信を持っていえる。飲み始めの人ほど効果があらわれると思う。ただ市販されているプロテインはやたらと高いので、ネット上で販売されているのを買う方がいい。

プロテインを一キロ/一グラム摂取し、かつ適度に筋トレをすれば、何歳になっても筋肉は成長する。べつにムキムキになる必要はない、健康的な生活を維持できるだけの筋力がほしいという人は、膝を床につけたままでの腕立てや、スクワット、クランチといった運動を疲れすぎない程度に、定期的に行えばいい。(強度の運動は怪我の元なので、気をつけてほしい)時間もさほどかからないし、ちょっとずつ身体が変化していくのを確認するのは楽しいものだ。

Thursday, March 28, 2019

石川の意地

三月十九日に行われた関本・岡林組(チャンピオン)対諏訪魔・石川組(挑戦者)による世界タッグ選手権が YouTube で視聴できたので一言感想をいいたい。すごかった。とてつもない迫力の試合だった。四人ともすばらしかった。

勢い余って四人が場外に出てしまったこともあったけれど、そのあとは乱戦にならず、リングで試合をしてくれたのもよかった。エプロンサイドや場外での攻防は危険すぎて見ていられない。

石川は最後によくぞ気力をふるいたたせたと思う。終盤に岡林のゴーレム・スプラッシュ(いい技の名前だ)をくらってからはもうだめだと、見ている方もしめかけたけれど、場外で関本を押さえる諏訪魔に檄を飛ばされてよろよろと立ち上がり、回転式のラリアットを決めてからは連続攻撃をしかけて、ついに岡林からピンホールドをとった。

試合中は終始、岡林のパワーが石川の巨体を圧倒していただけに、思わずわたしも、やった、と手をたたいた。圧巻だった。モンスター同士の壮絶なバトルだった。

ベルトが大日本プロレスに移ったのは石川が関本からピンを取られたからだが、今回は石川が岡林からピンを取った。これで五分。またいつか大舞台で彼らの戦いを見たいものだ。全日に来てくれた大日本プロレスにも感謝したい。

Tuesday, March 26, 2019

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著
應用英文解釋法
東京英文週報社發行

(p. 18-21)

範例
The tall tower stood out boldly against clear evening sky.

解説
Against
  = In optical contact with
  = In contrast with
  = Having as background
  と接觸するが如く見えて
  と對照して
  を背景として
  をうしろに
  の上に

例へば水平線上碧空を背景として艦影を望むが如く多くは背景との色彩の相違に依り其物の明に際立ちて見ゆるに云ふ。
從て   Clearly         明に
     Distinctly      明に
     Brightly          鮮に
     Boldly            際立ちて
     In relief         くつきりと
     In bold relief    くつきりと際立ちて
     In strong relief  くつきりと際立ちて
等の Adverb 及 Adverbial Phrase を伴ふ事多し。  
例へば
                         |clearly     |
                         |distinctly   |
                         |brightly    |
The tall tower stood out |boldly     |against the clear evening sky.
                         |in relief    |
                         |in bold relief |
                         |in strong relief|
猶ほ against の代りに on を用ふる事あり。又 against の次に the background of (の背景)の來る事あり。

用例
1.  It shone out with dazzling brightness against the murky, starless sky.
    W. Collins
    其火焔は暗い星の無い空を背景としてぎらぎらと輝いた。
2.  He never cared to look at the town standing out in relief against the sky.
    Jules Verne
    彼は空を背景にくつきりと現はれてゐる都會を眺めようとはしなかつた。
    in relief くつきりと。
3.  Nothing could be seen from the windows but an immense white sheet, against which the steam of the engine looked gray.
    Jules Verne
  窓からは眼も及ばぬ程の一面の白い雪景色の外は何にも見えなかつた、其雪と對照して汽鑵の蒸汽が鼠色に見えて居た。
4.  At this moment a lamp was lit at the end of the street, and a fir-branch hanging from an iron bar stood out on the white twilight sky.
    V. Hugo
    此時街のはづれに一個の燈が點ぜられた、而て鐵の棒から下つて居る樅の枝が白い黄昏の空を背景に現はれてゐた。
5.  Her graceful figure stood out distinctly and finely against the clear sky; but I looked at her with a feeling of hostility.
    Turgenev
    彼女の優美な姿は晴れた空を背景にはつきりと美しく現はれた。併し私は憎いと云ふ感じを以て彼の女を眺めた。
6.  The shepherd's dog barked fiercely when one of these alien-looking men appeared on the upland, dark against the early winter sunset.
    G. Eliot
    此等の胡散らしき人の一人が早き冬の夕陽をうしろに丘の上に黒く姿を現はした時に羊飼の犬は烈しく吠えた。
7.  Standing out distinctly against the darkness of the velvet was a mass of wavering nebulous light, that gradually defined itself as a blue star.
    J. E. Muddock
    打ち震ふ星雲の如き一團の光が天鵞絨の黒い上にはつきりと現はれ次第に靑い星となつた。
  defined itself はっきりして來た。
8.  The boy held the tiller, while against the red glare of the furnace I could see old Smith, stripped to the waist, and shovelling coals for dear life.
    C. Doyle
    少年は梶を握つて居り、それから火爐の赤い火をうしろに腰の邊まで服を脱ぎ一生懸命石炭を*(一字漢字が読み取れず)いて居るスミス老人が見えた。
  for dear life 一所懸命に
9.  There was no doubt about it; before me were the thick lips, fat cheeks and squat nose standing out with startling clearness against that flaming background.
    H. R. Haggard
    それに就ては一點の疑も無かつた、即ち我々の前面に*(一字漢字が読み取れず)つて厚き唇、肥えたる頬、平たき鼻は彼の燃ゆるが如き朝日を背景に驚く計りはつきりと現はれてゐた。
10. In the east the dark mass of Val de Grace stood out against the bright steel blue horizon, and glittering Venus rose behind the dome and looked like a soul escaping from a gloomy edifice.
    V. Hugo
  東方を見るとヴル・ド・グラースの黒き山影が晴れやかな鋼鐵の如き青い地平線を背景に現はれ煌々たる金星は圓蓋の背後より昇り宛ら其陰鬱なる建物より逃れ出でたる靈魂の如く見えた。
11. Where can the singer be? Look up! look up! The skylark is the singer -- there he is so high up in the air, that he seems to us no more than a dark spot against the white clouds.
    L. R. IV.
  歌ふ者は何處に居るので有らう? 仰ぎ見よ、仰ぎ見よ、歌ふ者は雲雀で有る、雲雀は白い雲の上の一點としか見えないほども空高く飛んで居る。
12. He was standing out against the sunset sky on a little eminence, or ridge of ground, which ran through the swamp, evidently a favourite path for game, and there was something very beautiful about him.
    H. R. Haggard
    沼地の中に在る小丘或は土地の*(漢字一字読み取れず)(これは獸が好んで通る道らしい)の上に彼は落日の空をうしろに姿を現はして居たが、其姿には非常に優美な趣があつた。

Sunday, March 24, 2019

Secondhand books: the murky world of literary plagiarism

アリソン・フラッドがガーディアン紙に「古本 文学的剽窃という薄暗い世界」というタイトルで記事を出していた。

最近ガーディアン紙上で盗作問題が連続して取り上げられたので、それをまとめたような内容になっている。それを読んで思ったことを書きつけておく。

わたしは学術論文でもないかぎり、盗作にはさほど目くじらをたてるべきではないと思っている。著作権をやかましく言い立てることも、どうかと思う。なぜなら文化とか思想といったものはいろいろな形で「伝播」するもの、「伝播」をうながすべきものだからである。今までにもおなじことは何回か書いた。

アリソン・フラッドはマーク・トウェインのこんな言葉を引いている。「人間が話すことも書くことも、みんな盗作じゃないかね」

そうなのだ。子供がままごとをし、大人の口真似をして成長するように、作家だって既存の言語、表現を真似ることで新しい作品を作っていくのである。これもアリソン・フラッドが引用している言葉だが、T. S. エリオットは「未成熟な詩人は真似をする。成熟した詩人は盗む」と言ったらしい。

日本はまだ文字がなかったころ、中国人が使う漢字に一驚し、それを輸入した。中国人の真似をして、自分たちの文化・文学をつくりはじめたのだ。和歌なんていうのは、本歌取りといって、他人の作品を上手に自分の作品に取り込むことがその重要な技術のひとつに数えられている。明治に入ってからは西洋の単語、西洋語の文脈を日本語に取り入れ、近代化をはかろうとした。経済成長するときも、日本の企業は西洋の製品を真似して作り、そこに洗練を付け加えていったのである。日本はいつも他国の文化を真似て成長してきた。上手に真似をすること、これが大切なのだ。古今東西を通してシェイクスピアはおそらく最高の言語芸術を残したが、そのすべては昔からある言い伝えや物語の焼き直しである。

べつに真似する気はなくても、作品の発想が似てしまうことはよくある。われわれの思考や発想はある程度、時代によって規定されているので、それは仕方のないことだ。同じ時代に生きていればいくつかの問題系をどうしても共有してしまう。

また無意識のうちに他人の作品を摸倣することもある。これは記事にはない例だが、ヘレン・ケラーの書いた童話が盗作扱いされたことがある。たしかによく似た話がすでにあって彼女はそれを「読んだ」(ヘレン・ケラーのことなので、読んだ、には括弧をつけておく)事があるのかもしれないが、「読んだ」としてもヘレン自身はその話をすっかり忘れてしまっていたのである。無意識の摸倣なんてことはしょっちゅう起きているだろう。

物語のプロットや登場人物の名前までが「偶然」に似通うことだってあるだろう。アリソン・フラッドは、A・J・フィンのミステリ「窓の女」と自己出版されたサラ・A・デンジルの「エプリルを救って」がよく似ていることを詳細に報告しているが、記事の内容を見る限り、どっちがどっちを真似たともいえないようだ。二人の人間が別々に、しかし同時期に、おなじ発明をすることがあるように、文学の世界においても別々の人間がおなじ想像をふくらますことがあっても不思議ではない。文学作品同士の類似とはちょっと違うが、モーガン・ロバートソンが書いた「タイタン号沈没」は、作品が出版されて十四年後に起きたタイタニック号の沈没を実に正確に「預言」していたことで知られる。船の名前もそっくりだし、タイタン号は全長八百フィートだが、タイタニック号は八百八十二フィート、排水量は前者が四万五千トン、後者は四万六千トンと驚くべき類似を見せている。タイタニック号の製造もその根本には巨大船にたいする人間の夢があると考えるなら、これまた夢想、空想、想像が偶然にも一致した例と考えていいだろう。

摸倣したり情報を伝播するのは人間の条件みたいなもので、それをいちいち資本主義の原理である著作権などで縛るというのは意味がないし馬鹿げている。丸谷才一は「文学は文学からつくられる」と言ったが、文学というのはとりわけ摸倣、パロディ、剽窃をこととする、まことにあやしげでいかがわしく、謎めいていて得体がしれず、かつ猥雑なバイタリティに富んだ領域なのである。お上品とか秩序をここに見るのはおおきな間違いだ。

Friday, March 22, 2019

ドイツ語の教科書

今、わたしはこのブログで古い語学書を電子化しているけれども、英語の教科書の名作というものがあるだろうか。これは難問だ。正直、すばらしいと賞賛できる作品は思いつかない。日本人によって書かれたもの、日本以外の国で書かれたもの、わたしはかなりの数の教科書を読んでいるはずだが、自信を持って人に推薦できるような本には出会っていないようだ。

ところがドイツ語の教科書ならある。それも二冊もある。一冊は Graded German Reader -- Erste Stufe である。これはかなり有名な教科書で、今でも人気がある。ドイツ語を読みたいと考えている人は必読だろう。一ページ目から順々に読んでいけば、確実に読解力がついていく。奇跡的といってもいいくらい見事に読み物、練習問題が配列されていて、無理なく知識を蓄えていくことができるのだ。

もう一冊は Foundation Course in German というタイトルで、これはあまり知られていないかもしれない。Conrad P. Homberger という人が書いたもので、普通のドイツ語の初級教科書なのだが、発音や文法の説明は短く的確で、練習問題もよく考えられてつくられている。おそらく作者はドイツ語の教師なのだろう、しかも教え方に工夫を凝らすタイプの教師なのだ。彼の永年の経験のエッセンスがこの教科書に詰まっているのではないか。

欧米におけるドイツ語の教授法は日本のそれとは違っているので、ちょっと目には戸惑う人もいるかもしれないが、ドイツ語のリフレッシャー・コースを探しているなら上の二冊はおすすめである。

Wednesday, March 20, 2019

三月十九日全日本プロレス後楽園大会

ベルトのかかった試合が三つ行われた。

ジュニアヘビーの岩本・鈴木戦は、岩本が防衛に成功。鼓太郎に勝って岩本の存在感が増した。以前はベルトを獲っても、なんとなく頼りなさが漂っていたし、実際、すぐ近藤修司に王座を奪われたが、今回はちょっとちがうようだ。

試合後のインタビューで、「全日には飛んだり跳ねたりする選手がいないので、他団体の選手にも眼を向けたい」と言っていたが、それはいい考えだと思う。彼は真面目で地味な選手なので、対戦相手の選択に工夫をして、選手権試合を盛り上げるべきである。欲を言えば、腰投げのほかにもう一つ、柔道の技を応用した派手な決め手がほしい。

世界タッグは諏訪魔・石川組が、ようやく関本・岡林組からベルトを取り返した。正直、諏訪魔と石川はベルトを持っていなければ組んでいる意味がない。彼らがタッグを組んだとき、みんな、強い者同士が組み合ってずるいとさえ思ったのである。海内無双のあばれっぷりを見せてくれなければ困るのだ。

三冠ヘビーは宮原が野村を下した。野村の急成長には目を瞠るが、スタミナもスピードもファンの声援も、宮原にはまだ及ばないと思っていたから、これは順当な結果である。野村はもう一皮むけなければならないが、どのような方向に彼が変化するのか、ネクストリームを抜けた彼の今後の活動が注目される。

また青柳がチャンピオン・カーニバルで野村を追い抜いてやると言ったそうだが、ようやくエンジンがかかってきたか。以前、「邪魔をしてやる」などとせこいことを言っていたが、実力で野村を越えるつもりでなければ全日のヘビーは活性化しない。

Tuesday, March 19, 2019

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著
應用英文解釋法
東京英文週報社發行

(p. 15-18)

範例
I
He answered in the affirmative.
He answered affirmatively.
            = that it was so.
            = "yes."
彼は肯定に答へたり。
彼は然りと答へたり。
彼は「然り」と答へたり。
II
He answered in the negative.
He answered negatively.
            = that it was not so.
            = "No."
彼は否定に答へたり。
彼は然らずと答へたり。
彼は「然らず」と答へたり。

解説
I
(To answer, reply, etc.) |in the affirmative
                        |affirmatively.
肯定に(答ふ)。
= (To answer, reply, etc.) |that it is (was, etc.) so.
                            |"yes."
然り  |
「然り」|(と答ふ)。
II
(To answer, reply, etc.) |in the negative.
                        |negatively.
否定に(答ふ)。
= (To answer, reply, etc.) |that it is (was, etc.) not so.
                            |"no."
然らず  |
「然らず」|(と答ふ)。
「否」  |

用例
1.  Fagin nodded in the affirmative.
    C. Dickens
    フエーギンは然りと頷いた。

2.  The Parsee made a sign in the affirmative, and put his fingers on the lips.
    Jules Verne
    パーシー人は然りと合圖をし指を唇の上に置いた。
    put his fingers on the lips「唇の上に指を置く」は「物を云ふな」と云ふ意の身振なり。

3.  The attendant stooped over the bed, to ascertain, and nodded in the affirmative.
    C. Dickens
    附添人は(死んだかどうかを)確める爲に寢臺の上に腰を屈め、さて、「もう死んで了つた」と頷いた。

4.  A cold wind swept across my face, and I interpreted that as a sign in the affirmative.
    Muddock
    冷い風が私の顔を掠めて吹いたが、私はそれを「然り」と云ふ印と解釋した。

5.  My father replied in the affirmative, and opened his tin box to put his book back in it.
    Souvestre
    父は然りと答へて本を入れる爲にブリキの箱を開けた。

6.  In answering the question "Are women sufficiently valued?" if the reply is in the affirmative, nothing more remains to be said.
    I. H. North
  「婦人は充分尊敬せられ居るか」と云ふ問に答へるに當つて若し其答が肯定で有らば此上云ふ可き事は無し。

7.  Being answered in the affirmative, he said he was sorry for me, because it was an expensive undertaking, and quite contrary to what was intended by them.
    B. Franklin
    然りと答へられたので彼はそれが費用のかかる仕事で有て彼等の計畫して居るものと全く反して居るからお氣の毒だと云つた。

8.  The Dodger nodded in the affirmative; and, shading the flame of the candle with his hand, gave Charley Bates a private information, in dumb show, that he had better not be funny just then.
    C. Dickens
    ドヂヤーは然りと頷き、手で蝋燭の火を蔽ひ乍ら「今はふざけぬが善い」と手眞似でチヤーリ・ベイツに知らせた。
  Dodger は掏摸の渾名、此少年の其筋の手を遁るゝこと巧なるが故に斯く名づけたり。in dumb show 「だんまり芝居にて」とは手眞似にて示したるが故なり。

9.  It was decided to ascertain whether there was need of a helper, and the doctor reporting in the affirmative, Luhia Hulapa went to Molokai, happy in having at last accomplished her desire.
    Max O'Rell
    附添人が要るかどうか確める事になつた、すると醫者が其必要が有ると報告したのでルヒヤ・フラパはやつと願が叶つて喜び勇んでモロカイへ行つた。

II

10. I asked first if Sir Percival was at the Park; and receiving a reply in the negative, inquired next when he left it.
    W. Collins
    私は先ず「サー・パーセヴルは公園に居るか」と問うた。すると「居ない」と云ふ返事を得たので、こんどは「いつ出掛けたか」、と聞いて見た。

11. As concerned her own idividual existence, she had long ago decided in the negative, and dismissed the point as settled.
    N. Hawthorne
    彼の女自身の存在に就ては彼の女は久しい以前に「否」ときめて了つた、而て此事は最早確定したものとして念頭から去て了つた。

12. She had then written to Mrs. Catherick at Welmingham, to know if she had seen or heard anything of her daughter, and received an answer in the negative.
    W. Collins
    彼女は娘の事に就いて何か見た事が有るか聞いた事が有るか、それを知ろうと思つて、エルミンガムに居るミセス・カサリツクに手紙を出した、すると見もしない聞きもしないと云ふ返事が來た。

13. Many persons, and many authorities on insanity, would answer the question thus baldly put, in the negative; but it would be so dangerous to allow the plea of drunkenness in excuse for crime, that such a rule is clearly impracticable.
    C. R. Mercier
    世間多數の人々及び發狂に関する多くの專門學者は斯く露骨に提出せられた問に對しては「否」と答へるで有らう、併し酩酊と云ふ事を犯罪の辯解として許す事は實に危險で有るから斯樣な規則は明かに實行不可能である。

===============
例文11は、一つ前の文章から訳すとこうなる。「もっとも幸せな女性にとっても人生は生きるに値するものか。自分の人生について、彼女はとうに「値しない」という答を出して、決着をつけていた」

Sunday, March 17, 2019

精神分析の今を知るために(4)

タンタルスの苦しみはリビドー的な構造を持っていて、注目に値する。それは「必要」「要求」「欲望」というラカンの区分を明確に表現している。つまり、われわれのある「必要」を充たすための日常的な物体は、「要求」の弁証法の中にからみとられるや、「欲望」を生み出すようになるのである。われわれは誰かになにかを「要求」するとき、そのなにかの「使用価値」(それがわれわれのある「必要」を充たすという事実)それ自体が「交換価値」の表現となる。そのなにかは間主観性のネットワークを指し示すようになるのだ。もしも他者がわれわれの望みに応じたなら、それによってその他者はわれわれにある態度を示したことになる。われわれがなにかを「要求」するその最終的な目的は、「必要」を充たすことではなく、われわれにたいする他者の態度を確認することにある。たとえば母が子供にミルクをやるとき、ミルクは彼女の愛をあらわすものとなる。タンタルスは気の毒にも貪欲(「交換価値を」求めたこと)の代償を払わなければならない。彼が手にした物は、「使用価値」を失い、「交換価値」の純粋でむなしい化身に変わる。彼が食べ物にかぶりつくや、それは金に変じてしまうのだ。

(スラヴォイ・ジジェク Looking Awry から)

Saturday, March 16, 2019

「おひとり荘」 Living Alone (1919)

ファンタジーとしてはかなり有名なステラ・ベンソンの作品。とくに筋があるわけではない。舞台は戦時中のイギリス。ロンドンのとある貯蓄委員会の席に、魔女の娘っこが飛びこんでくる。パンを買ったが金を払わなかったためにドイツ人のパン屋に追いかけられているのだという。それが魔女と目立たぬ委員の一人サラとの最初の出会いだった。

サラは魔女の娘が忘れていった箒(もちろん魔女が乗りまわす魔法の箒)を返しにいく。そして彼女を探しあてたのち、ひょんなことから、彼女が住んでいる「おひとり荘」という名前の下宿に住み込むことになる。そこで魔女やら、下宿人やらと交流し、人生とか慈善とか、いろいろなことについて考えを巡らす。戦時中のリアルなきびしい生活状況と、夢幻的な奇想とが奇妙に混淆した、変わった本である。しかし女流作家はときどきこんな不思議でチャーミングな本を書く。アンジェラ・カーターとか尾崎翠とか。

調べた限り、翻訳はまだ出ていないようだが、どうしたことだろう。

LibriVox にはこの本のすばらしいオーディオ・ブックがある。コリー・サミュエルさんによる朗読で、わたしは彼女のイギリス英語に惚れこんでしまった。是非一度聞いていただきたい。





Wednesday, March 13, 2019

アーサー・シック


アーサー・シック(1894-1951)は鮮やかな色彩を用い、細部まで描き込んだ、美しい、魅力的な絵を描いた人だ。わたしは今、クロード・ホートンを訳しているのだが、その表紙には彼の絵を使おうかと思っている。

彼はファシズムを憎み(彼はポーランド系のユダヤ人だから当然だろう)、反ナチスの絵を何枚も描いているが、日本を風刺する絵もかなり残しているようだ。わたしは下の絵を見て、こんなものも描いていたのかとびっくりした。

Arthur Szyk (1894-1951). Two Down and One to Go pamphlet (1945), Washington DC

1945年に米国陸軍省から出されたパンフレットの絵である。ヒトラーとムッソリーニはやっつけた、残るはヒロヒトだけだ、と書いてある。非常に細かいが、ヒロヒトの襟には「名誉アーリア人」という字が読み取れる。

わたしは戦争当時のポスターに関心があって Wikimedia などでよく調べたりする。すると日本に対して敵愾心をあおるポスターがわんさと出てくる。たぶん欧米が持つ日本の印象はあの当時からさほど変わっていないのではないだろうか。アメリカに行って、戦没者の慰霊塔のまわりに人が集まっているようなら、日本人は近づかない方がいい。彼らにとって日本人は今でも忌むべき存在なのである。中国の大部分を占める農民たちが日本に対して抱くイメージも相変わらず「日本鬼子」だ。日本は日本人が思っているほど海外で受けがよくない。

グレート小鹿とプロレスLOVE

青柳と野村がコンビを解消し、アジアタッグのベルトも返上という事態を受け、三月二十一日に新チャンピオンを決定するためのトーナメント戦が行われることになった。参戦チームは四つ。全日本からは大森とブラック・めんそーれ、ジェイク・リーと岩本の二チームが出場し、大日本からは橋本と神谷、高橋と植木の二チームが出る。

三月一日には出場三チームによる記者会見が行われた。(ジェイクと岩本はプロモーションの仕事のため会見を欠席した。)その様子が全日本プロレスから動画としてアップロードされているのだが、両団体の記者会見のスタイルの相違が際だった、面白いビデオになっている。

全日本は、丸山みたいな例外がないわけではないが、どちらかというと真面目な、一本調子な発言が多い。それはそれでかまわないが、ときどきべつの側面も見せてもらわないと、見ているほうは退屈する。今回の会見でも全日本の選手は精彩を欠いた。ブラック・めんそーれは例によって例の如く、つまらないギャグをおりまぜながら意気込みを述べたが、要は、ひたすら相手をやっつけるということを言ったにすぎない。大森は真面目な顔をして真面目なことを言おうとするのだが、中味がないため、言葉が空回りをしはじめ、収拾がつかなくなってしまった。征矢とコンビを組んでいるときは絶妙の話術(あるいはぼけっぷり)を見せるのに、この会見では無慙な姿をさらしてしまった。

一方、大日本の選手たちは、いい意味で力の抜けた、愉快な発言を繰り広げた。橋本は「アジアのベルトを取って、アジアをもっと面白くするために来ました、狼ですう」と、終始張り合い抜けのするようなゆるい口調で話しつづけた。話の内容は面白くないが、神谷がうまくつっこみを入れて、二人の仲のよさが感じられた。高橋と植木はいろいろな方向、奇想天外な方向に話を持っていき、けっして口達者とはいえないが、視聴者へのサービス精神がたっぷりで、わたしはひどく好感を持ってしまった。

しかしこの記者会見をひきしめていたのは小鹿会長である。大森は小鹿の「アジアのベルトは大日本でこそ花が咲く」という言葉に反論して「それは一瞬のことで、すぐに散るだろう」と言った。小鹿はそれに再反論して「一年間三百六十五日ずっと花が咲くわけがない。しかし花の手入れをし、毎年咲かせてやるのが愛というものだ」と言った。この言葉には小鹿の左右に居並ぶ選手たちからも「そうだ」という囁き声が出た。大日本という団体の、選手への愛がはからずも会長の口から飛び出し、わたしはなんとなく温かい気持ちになった。これは凡庸な言葉ではあるものの、七十を越えた会長が孫のような若い選手たちに抱いている本音であるような気がした。この記者会見の価値は、小鹿会長のこの一言を引き出したことにある。

Monday, March 11, 2019

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著
應用英文解釋法
東京英文週報社發行

(p. 12-15)

範例
(a) The best way to serve the dead is to live for the living.
(b) The beautiful is higher than the good; the beautiful includes in it the good.
(a) 死者に仕ふる最善の道は生者の爲に生くるに在り。
(b) 美は善よりも高尚なり、美は其中に善を含めば也。

解説
The + Adjective の形は
(a) Plural Common Noun.
(b) Abstract Noun.
の意に用ひらる。即ち
(a) The dead = the dead persons = 死せる人々。
    The living = the living persons = 生ける人々。
(b) The true = truth = 眞。
  The good = goodness = 善。
  The beautiful = beauty = 美。
等の如し。

用例
(a)
1.  The time which the afflicted, the sick, and the needy, left him he gave to work.
    V. Hugo
    彼は難義の人、病める人、貧しき人を助けてその上餘つた時間を仕事に捧げた。
    time は gave の object なり。
2.  From childhood, let us accustom ourselves to being useful to the sick and the infirm.
    C. Wagner
    幼少の時から、病める人や弱い人々の役に立つように、身を馴らすがよい。
3.  The young leading the young is like the blind leading the blind; they will both fall into the ditch.
    三五・東・高工
  年少の人が年少の人を導くのは瞽者が瞽者を導くが如く、兩人ながら溝に陷るものである。
4.  Opportunity is coy. The careless, the slow, the observant, the lazy fail to see it, or clutch at it when it has gone.
    O. S. Marden
    好機會は内氣である、故に迂濶な人、緩慢な人、不注意の人はそれを見る事が出來ない、或は去つて了つてからそれを攫まへようとする。
  fail to は do not 又は cannot の意となる。clutch at 捕へむとす(clutch は「捕ふ」なり)。
5.  We know how prone the strong are to suspect the weakness of the weak -- as the weak are to be disgusted by the strength of the strong.
    A. Trollope
    我々は強い人は弱い人の弱いのを疑ひ勝のものである事を知て居る、丁度、弱い人が強い人の強いのを見て厭がるやうに。
6.  Society will never be so organized that the lazy, the drunkard, the improvident, the dissolute, will have as much chance of success in life as the intelligent, the industrious, the frugal, the saving, and the generally well-behaved.
    Max O'Rell
    社會と云ふものは懶惰な人、飲酒に耽る人、不用意の人、放縦の人も、才智有る人、勤勉なる人、節儉なる人、貯蓄する人、萬事につけ品行の正しき人と同樣に立身出世の出來るやうに組織さるゝ事は決して無い。

(b)
7.  The sublime is in a grain of dust.
    Landor
    崇高は一點の塵にも存す。
8.  Resign yourself to the inevitable.
    Max O'Rell
    避け難い事には甘んじて從へ。
9.  The beautiful rests on the foundation of the necessary.
    R. W. Emerson
    美は必要の基礎の上に立つ。
10. From the awful there is a descent little by little to the contemptible.
    Longinus
    恐る可きものより次第に下ればやがて卑む可きものとなる。
  a descent little by little 次第に降ること。
11. The beautiful is like sunshine to the world; the beautiful lives forever.
    Hans Andersen
    美の世界に於けるは日光の如し、美は永久に存在す。
12. The comic and the tragic lie close together, inseparable, like light and shadow.
    滑稽と悲慘との相密接して離る可からざるは譬へば光明と陰影との如し。
13. The taste for the beautiful is one of the best and most useful endowments.
    S. Smiles
    美を味ふ事は最も善き最も有用なる天賜の一なり。
14. Through all the ways of our unintelligible world the trivial and the terrible walk hand in hand together.
    W. Collins
    我が不可解なる浮世の道途に於ては些々たるもの、恐る可きものは常に相携へて歩めり。
  hand in hand 「手に手を取りて」「相携へて」。
15. The beautiful is a manifestation of secret laws of nature, which, but for its appearance, had been for ever concealed from us.
    Goethe
    美は秘密なる自然の法則の表現なり、美無くんば自然の法則は永へに吾人より隱れたりしなり。
but for its appearance 「美が現はれずば」、but for は「無くば」なり。for ever 永久に。
16. This harangue, utterly contradictory throughout, he began and ended with a favourite phrase -- "Monsieur L'Ambassadour, from the sublime to the ridiculous there is but a step."
    Lockhart
    彼奈翁は此徹頭徹尾自家撞着とも云ふ可き演説の初にも終にも例の得意の句を用ひたり、曰く「大使閣下、崇高と滑稽とは其差一歩のみ」と。
throughout 「初より終まで」 a favourable phrase 得意の句
17. The sublime and the ridiculous are so often so nearly related that it is difficult to class them separately. One step above the sublime makes the ridiculous, and one step above the ridiculous makes the sublime again.
    T. Paine
    崇高と滑稽とは往々にして相近似し、之を分離する事難し、一歩崇高の上に出づれば滑稽となり、一歩滑稽の上に出づれば復た崇高となる。

Saturday, March 9, 2019

ドロシー・レヴィット

プロジェクト・グーテンバーグに The Woman and the Car という本がアップロードされていて、どんな本だろうとちらちらと読んで見た。女性作者が女性に向かって車の運転を手ほどきしている本で、内容的にはいわゆる実用本みたいなものである。ただ巻頭に掲げられた写真には深い印象を受けた。こんな写真である。



いい写真だ。どこかスタジオで撮ったのだろう。メタリックに輝くハンドルと、毛皮を着たゴージャスな女の、ほとんどエロチックといってもいい関係がよくあらわされている。

彼女はドロシー・レヴィット(Dorothy Levitt)、この本の作者であり、イギリス初の女性レーサーだ。1882年に生まれ、1922年に薬物の過剰摂取で亡くなっている。十九世紀末から二十世紀初頭にかけては女権論者が活躍した時代、いわゆる「新しい女」がもてはやされた頃である。それまで女性は家庭に閉じこもり、育児や家事にいそしんでいたが、労働力として社会進出するとともに、女性の権利を主張する尖鋭な人々があらわれ、メガネを掛けて男と対等に議論したり、馬や自転車を乗りまわしたりするようになったのだ。ドロシー・レヴィットはそんな新しい女性のひとりだった。

しかしこの写真には、あのころの時代性を越えたなにかがあるように思う。女だてらに車を運転して見せるというだけではない。彼女の目つきは、女権論者的な、男性への defiant な視線ではなく、メタル(金属)に対する親密な感情を示していはしないか。男性に対抗するのではなく、車と秘密の関係を築いた彼女はそのまま男性を取り残してどこかへ行ってしまいそうである。そんな印象にわたしははっとするのだ。「あたらしい女」にまじって、彼らとは違う感性の持ち主が活躍していた。その可能性に気づかされ、わたしは今、ちょこちょといろいろな参考書にあたっている。

Thursday, March 7, 2019

地獄のペーパーバック

グレイディ・ヘンドリックスという人が2017年に「地獄のペーパーバック」という本を書いた。これは七十年代と八十年代に出たホラー小説を類別化し論評したもので、ホラーファンのあいだではずいぶん人気となり、よくおぼえてないが、なにかの賞も取ったのではなかったろうか。ペーパーバックの表紙の写真がずらりと並び、当時、三省堂などで洋書をあさっていた人間をなつかしくてたまらない気持ちにさせる。買いはしなかったが、表紙の絵は記憶に残っているのだ。わたしはちょうど高校生の頃で、この本に紹介されている作品ではジェイムズ・ハーバートの「鼠」とか「霧」、F.ポール・ウィルソンの「要塞」、あとはパン・ブックのホラーの短編集を読んだ。

このほどヴァランコート・ブックスが、「地獄のペーパーバック」に紹介された本を再刊することになり、これまたホラー小説のファンのあいだではちょっとしたバズを生んでいる。今出版が予定されている本は

THE NEST  by Gregory A. Douglas
WHEN DARKNESS LOVES US by Elizabeth Engstrom
THE TRIBE by Bari Wood
THE SPIRIT by Thomas Page
THE REAPING by Bernard Taylor

の五冊のようだ。もっともヴァランコートはホラーを何冊も出版しており、ロバート・マラスコの「燔祭」のように、「地獄のペーパーバック」が紹介している本をとっくに再刊しているという場合も多々ある。

しかし七十年代、八十年代という時代に注目が行くのはよいことだ。ホラーというのは時代の感性と切り離せない。たとえば、うんと単純な例だが、昔のホラーに於いて悪は社会の外から侵入してきた。宇宙から、山の奥から、沼の中から、人里離れた森の古い邸の中から、などという具合だ。しかしある時期から、悪は人間そのもの、人間の内部から登場するようになった。映画でもよく見かけるが、人間の顔が割れ、中から悪魔が登場したり、腹の中から化け物が飛び出してきたりする。人間以外のものへの恐怖、他文化への恐怖、外部への恐怖が、人間そのものへの恐怖、自文化への恐怖、内部への恐怖に変化したのである。

何故こんなことが起きたのか。それはやはり時代の変化と密接につながっている。たとえば冷戦時代は悪の根源を鉄のカーテンの向こう側に求めればよかった。ところがベルリンの壁が崩壊し、自由主義なるものが世界を覆うと、悪は内部に求められるようになった、というように。

現代のホラーの感性を理解するには七十年代、八十年代のホラーを読み解く必要がある。今の社会の方向性がその時期に決定されているからである。資本主義が勝利を収め、世界を覆い尽くし、さらにおのれの運動を続けるために、搾取の対象をあらたに創り出し、人間を食いつぶしていく状況は、七十年代、八十年代から顕著に開始された。今生み出されているホラーは、映画も小説も、奇妙なくらい階級意識を見せているが、その萌芽はじつは七十年代・八十年代にあるのだ。たとえば先ほど挙げた「燔祭」などは商品フェティシズムの謎めいたありようをホラーとして表現したものと見ることができる。

Wednesday, March 6, 2019

「変貌の時」Transformation Scene (1946)

クロード・ホートンの作品。

「わが名はジョナサン・スクリブナー」を読んで一驚して以来、彼の作品をできるだけ読むようにしているが、なかなか手に入らないのが難である。

本作は「ジョナサン・スクリブナー」ほどの傑作ではないけれど、ホートンの筆が生き生きと走っているように思えた。書こうと思ったことを、すこしも屈折することなく、まっすぐに書ききったという感じなのだ。それゆえ読後感は爽快である。これで知的な興奮も残ったら文句なく明日から翻訳に取りかかるのだが。

本作はミステリのような形を取っている。マックスという才能豊かな画家が語り手だ。彼にはモデルであり、かつ情婦でもある女がいる。その女がある晩、殺害されるのである。マックスはその晩、自分の下宿で寝ていたのだが……彼は自分が部屋を出、通りを歩き、情婦の家に行く夢を見るのだ。そして彼は子供の頃、夢遊病で、夜中に外を出歩くことがあった。

そこで彼は自分に疑惑を抱くことになる。あの夢は夢ではなくて、自分があの晩に取った行動そのものじゃなかったのか。自分は情婦の女を憎んでいた。手を切ろうとしていた。だから彼女を殺したのではないか。

物語はスコットランドヤードの刑事による捜査、マックスのまわりの人間の事件に対する反応、マックスが知らなかった情婦の過去、そしてマックス自身の過去をめぐって展開し、非常に面白く読める。最後はもちろん刑事が真犯人を捕まえる。

内容の豊かな物語ではあるけれど、ホートンらしい狭さも感じさせた。登場人物が語り手マックスの分身のように見えてしまうからである。ここには決定的な外部性がない。ある夢の世界の内部の事件が描かれているのだ。

そういう閉塞感はあるものの、これは面白い物語である。ホートンを読むのがますます楽しくなった。

Sunday, March 3, 2019

COLLECTION OF ENGLISH IDIOMS

早稲田大學敎授 深澤裕次郎著
應用英文解釋法
東京英文週報社發行

(p. 9-11)

範例
(a) She shut the door of her own accord.
(b) The door shut of its own accord.
(a) 彼女は自ら戸を閉めた。
(b) 戸はひとりでに閉つた。

解説
Of one's own accord.
-- Of one's own free will.
(Accord -- will; volition; choice; assent; voluntary or spontaneous impulse or act)

(a) 己の心より。己の自由意志より。自ら進んで。
(b) 自然に。おのづから。ひとりでに。

 本來は (a) の如く有生物の有意的動作に用ひしものなれども轉じて (b) の如く無生物の無意的動作にも用ひらるゝに至れり。

 参考:--
1.  She acts of her own accord and free will, and is, I imagine, prepared to meet the consequences of her actions.
    Max O'Rell
  彼女は自分の發意、自由意志でやるので其行爲に對しては責任を負ふ覺悟だと私は思ふ。
2.  "I wear the chain I forged in life," replied the Ghost. "I made it link by link, and yard by yard; I girded it on of my own free will, and of my own free will I wore it. Is its pattern strange to you?
    C. Dickens
  幽靈は答へた「之はわしが娑婆に居る時に鍛へた鎖ぢや。一と環一と環、一ヤル一ヤルと造り上げ、自分で帶び、自分で着けて居るのじや。どうだ、この型はお前さん見た事は無いかな」。
3.  Were I worthy to be quit of it, it would fall away of its own nature, or be transformed into something that should speak a different purport.
    N. Hawthorne
  私がそれを着けないでもよいやうになればこの緋文字は獨りでに落ちて了ひませう、或はまた何か他の意味を語るものになりませう。

用例

(a)

1.  He is as proud as Lucifer, and would never have done it of his own accord.
    F. W. Farrarr
  彼はルシフアーのやうに傲慢で自らは決してさう云ふ事はしなかつたで有らう。
  as proud as Lucifer「甚だしく傲慢不遜なる」と云ふ成句なり、Lucifer は傲慢不遜なる Babylon 王 Nebuchadnezzar に與へられたる名也。
2.  She smiled, and a little while after she began talking to me of her own accord.
    Turgenev
  彼の女はにつこり笑つた。それから少し經つて自分から話をしはじめた。
3.  She went to him of her own accord, after saying No, over and over again, when he asked her.
    W. Collins
    彼女は彼が申込んだ時には再三いやだと云つたが今度は自ら進んで彼の所へ行つたのである。
  over and over again 再三再四
4.  It ended in my flatly declining to mention the subject to Laura, unless she first approached it of her own accord.
    W. Collins
    ローラが自分の方から其話をしなければ決して私の方から其事をローラに話さないと云ふ事になつた。
5.  If turned on its back, the frog would promptly and vigorously right itself -- but it would never move of its own accord.
    N. Y. Herald
    其蛙は仰向けにすると忽ち起きかへる、併し自分では決して動かない。
  on its back 仰向けに。right itself 起き直る。

(b)

6.  The wind blew it to, or it shut of its own accord; one or the other.
    C. Dickens
    風が吹いて其戸を閉めたのか、但しはまた、獨りでに閉つたのか、その中のどちらかだ。
  blew it to「風が其戸を吹いて閉めた」to の次には its place の如き語を補ひて解す可し。
7.  Will it [= the scarlet letter] come of its own accord when I am a woman grown?
    N. Hawthorne
    私が大人(おとな)になつたら、それ(緋文字)は獨りでに出來ませうか。
  It は Hester Prynne と云ふ女が犯罪の印として胸に縫ひ着け居る A と云ふ赤き文字なり。
8.  I knew that the road turned of its own accord a half-mile farther on, and so I determined to wait.
    C. B. Loomis
    もう半哩行くと道は獨りでに曲るから私はそれを待つことにした。
9.  Of their own accord, those dear arms clasped themselves round me; of ther own accord, the sweet lips came to meet mine.
    W. Collins
    其懐しい雙の腕は獨りでに私の體を抱き、その可愛いゝ唇は獨りでに私の唇に觸れた。
10. He pushes the door well open, and holds it so, and then tries whether it can fall to again of its own accord, and so make a prisoner of him.
    The Duchess
    彼は戸を充分に押開け、開いた儘にして置いて、それから獨りでに締つて自分を擒にするかどうかと試して見た。
  fall to の次には 6 の blew it to に於けるが如く its place を補ひ見よ。make a prisoner of を擒にす。
11. But, leaving this tide out of the question, it may be said that very few human bodies will sink at all, even in fresh water, of their own accord.
    E. A. Poe
    併し潮流の事は暫くおいて淡水に於ても人間の體が獨りでに沈むと云ふ事は極めて少ないと云へる。
  fresh water 淡水(海水は salt water なり)。

Friday, March 1, 2019

若き武将にハッパをかける

全日本プロレスはシリーズとシリーズのあいだの中休みの時期だが、盤外では活発な動きがあるようだ。まず暴走大巨人組が大日本に乗り込み、関本・岡林組に世界タッグへの挑戦をアピールした。諏訪魔は三冠戦で負けたばかりだが、すぐに切り替えて次なる目標に向かうところが素晴らしい。レスラーにはこういう「生臭さ」がなければならない。

また野村がネクストリームを抜けて、三冠の宮原に挑戦することになった。レスラーというのは基本的に個人事業主、一人一人が一国一城の主であって、戦略的に徒党を組むことはあっても、それはいつかは分裂することを前提としている。だから野村が青柳とのコンビを解消し、さらにアジアタッグのベルトも返上したことは、わたしはどうとも思わない。

ただ青柳は野村にいいようにあしらわれ、腹を立てているようだ。まあ、それはわかる。しかし記者会見の席で「野村の邪魔をしてやる」といったのは感心しない。そんなせこいことをして、どうするのだ。青柳が言うべき台詞は、「三冠に挑戦すると大きく出たが、お前はほんとうに挑戦できるくらいの強さなのか。宮原の前に俺の屍体を越えて行け」でなければならない。ついでにジェイク・リーも出てきて、三つどもえの戦いになれば、見る側の楽しみも二倍三倍になる。全日本の若き武将が、思い切り火花を散らせば、ファンの気持ちだって盛りあがらないわけがないのだ。

わたしは今回はちょっとだけ若手がしくじったな、と感じる。もっともっと面白い展開が工夫できたのに、それを逃してしまったのだから。チャンスは一瞬。今度は見逃さないで欲しい。

英語読解のヒント(145)

145. 付帯状況の with 基本表現と解説 He was sitting, book in hand, at an open window. 「彼は本を手にして開いた窓際に座っていた」 book in hand は with a book in his hand の...